子どもの頃にかかる水ぼうそう(水痘)のウイルスは、一度かかるとその後は一生感染することはありません。しかし、このウイルスは神経に潜伏します。
ストレスや病気などによる免疫低下によって、潜伏しているウイルスが再び活動し始めることで症状を発症します。これが帯状疱疹と呼ばれるものです。
帯状疱疹は高齢者がかかると思われがちですが、20〜40代の若い方でも発症率が上昇しています。治療が遅れると合併症や後遺症につながることも発表されており、知っておくべき疾患です。
帯状疱疹の予防方法としてワクチンがあります。しかし、免疫力の低下やアレルギー反応などの理由により、ワクチン接種を実施できないケースも少なくありません。その場合は日常生活のなかで予防する必要があります。
この記事では、帯状疱疹について原因や症状、診断・治療、ワクチンなどの予防方法について詳しく解説をしていきます。
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防衛医科大学校卒業 / 現在は自衛隊阪神病院勤務 / 専門は皮膚科
帯状疱疹の原因や初期症状
帯状疱疹とはどのような病気ですか?
帯状疱疹は、後根神経節(こうこんしんけいせつ)という部分に潜伏しているウイルスが、疲労・ストレス・免疫力低下で再度症状を引き起こすものです。多くの場合は、ピリピリする痛みを伴う皮疹が発生し、帯状疱疹後神経痛という強い痛みが続く場合もあります。また、帯状疱疹は心筋梗塞や脳卒中のリスクを増加させることもあります。
原因を教えてください。
帯状疱疹の原因は水痘・帯状疱疹ウイルスです。水痘・帯状疱疹ウイルスに初めて感染すると水ぼうそう(水痘)となります。この感染でウイルスが神経に潜伏し、疲労・ストレスが蓄積したり免疫力が低下したりしたときに、ウイルスが再度症状を引き起こすことがあります。これが帯状疱疹です。
どのような初期症状が出ますか?
初期症状として、左右どちらかの神経に沿ってピリピリチクチクとした痛みや違和感、かゆみなどが発生します。これは神経の炎症によって、皮膚に痛みが生じるという症状です。多くの場合は皮膚症状の数日前から1週間前に現れますが、皮膚症状と同時や遅れて出ることもあります。また、皮膚症状が出る前後に、発熱やリンパの腫れが伴うこともあります。初期症状の程度や、初期症状が出るタイミングには個人差があるため注意が必要です。
帯状疱疹の症状の経過を教えてください。
左右どちらかの神経に沿ってピリピリチクチクとした痛みや違和感、かゆみが発生するのが初期症状です。そして、徐々にその部分に僅かな盛り上がりがみられ、赤くなります。発疹はその後小さな水ぶくれになり、初めは数ミリくらいの小さなものが数個程みられるだけですが、その数は次第に増加していくケースがほとんどです。この発疹は背中や腹部などの上半身にあらわれるケースがほとんどですが、顔の周辺にあらわれるケースも少なくありません。それらの発疹が混在し、水ぶくれが帯状に徐々に分布することで帯状疱疹と呼ばれる状態になります。水ぶくれは、血液を含んだ黒い色や膿が溜まることがあります。発症場所は、肋間神経のある胸から背中にかけて発症しやすく、顔面の三叉神経にそって現れることで、失明や顔面神経麻痺を伴うケースもあります。痛みから水ぶくれが治癒するまでの期間は、約3週間〜1ヵ月です。
帯状疱疹の診断や治療方法
帯状疱疹は何科を受診すればよいですか?
帯状疱疹が疑われるときは、皮膚症状が現れるため、皮膚科を受診しましょう。また発疹や水ぶくれといった症状がない場合は、内科も受診先として検討しましょう。帯状疱疹の後遺症や強い痛みがあれば、ペインクリニックを選択する必要もあります。ご自身の状態に合わせて適切に判断することが重要です。
どのように診断されますか?
神経の走行に沿った痛みが続き、特徴的な発疹がみられて、水ぼうそう(水痘)の既往があるか、発症する理由(疲労・ストレス・免疫力低下)があれば帯状疱疹の診断がされます。
しかし、症状が神経の痛みだけで水ぶくれや発疹がない場合は、まだ見た目で判断できない状態です。そのような場合には、血液中に含まれる抗体の量を調べるため、血液検査を行うこともあります。
帯状疱疹の治療方法を教えてください。
抗ウイルス薬と消炎鎮痛剤を併用します。痛みがひどい場合は、神経ブロックを行って痛みを止める治療法が選択されることもあります。帯状疱疹後神経痛は、ウイルスによって神経が破壊されるのが原因と考えられているため、治療に時間がかかる可能性が高いでしょう。なるべく早期に治療を行うことで神経破壊を止めて、後遺症などを出さないようにしていくことが大切です。また、水ぼうそう(水痘)のウイルスが原因で引き起こされる症状のため、水ぼうそうにかかったことがない・予防接種をしていない子どもや乳児にはウイルスを移してしまう可能性があります。接触はなるべく控える必要があります。
帯状疱疹のワクチンや予防方法
帯状疱疹のワクチンについて教えてください。
帯状疱疹では、50歳以上の方や帯状疱疹にかかる可能性が高い18歳以上の方へのワクチン予防が勧められています。帯状疱疹のワクチンは2種類あり、小児で定期接種を行っている生ワクチン(ビケン)と、新しいワクチンでリコンビナントワクチン(シングリックス)です。生ワクチンは1回接種ですが、リコンビナントワクチンは2ヵ月間隔で2回接種が必要です。生ワクチンの効果は、60歳以上で61%・70歳以上で55%・帯状疱疹後の神経痛への効果は67%といわれています。リコンビナントワクチンの効果は、50歳以上で97%・70歳以上で91%・帯状疱疹後の神経痛は88%といわれ、高い効果を出しています。抗がん剤治療中やステロイド剤による治療中のように、免疫力が著しく低下する場合は、生ワクチンの使用ができません。その場合は、リコンビナントワクチンが選択されます。
ワクチンの接種ができない場合どのように予防すればよいですか?
生ワクチンの場合は、免疫力が著しく低下している方(抗がん剤などの治療中)や免疫異常が出てしまっている方は使用できません。リコンビナントワクチンは、使用したことでアレルギー反応が出た方以外は使用することが可能です。もし両ワクチンの接種が行えない場合は、日常生活のなかで対応していくことが重要になります。しかし、日常生活で対策していても完璧に予防できるわけではないので、ワクチンの接種を検討していきましょう。
予防のために日常生活で注意するべきことを教えてください。
帯状疱疹は、加齢や疲労・ストレスなどによって免疫力が低下すると、潜伏していたウイルスの活動が再度活性化することで起こります。日頃から十分な休息をとりながら、免疫機能の維持を行い、疲労やストレスを溜めないように規則正しい生活を送ることが重要です。食事は栄養に偏りが出ないようにバランスよくとり、暴飲暴食を避けましょう。また、免疫力維持のためには運動が有効となるので、散歩やウォーキングなどの日光を浴びつつ行える負荷の少ないものを選択しましょう。帯状疱疹を予防するために、日常生活において特別な対策が必要になるわけではありません。健康的な食習慣・運動習慣を心がけるように注意することが重要です。
編集部まとめ
帯状疱疹は、水ぼうそう(水痘)にかかった方であれば誰にでも起こる可能性がある疾患です。高齢者がかかりやすい疾患と思われていますが、現在では若年層の方にも発症が増えています。
帯状疱疹のサインを見つけた場合はすぐに病院の受診を行い、抗ウイルス薬と消炎鎮痛剤などの服薬処方や強い痛みがある場合はブロック注射など、適切な治療を受けていきましょう。
帯状疱疹を予防するためにはワクチンが有効です。しかしご自身でも日常生活で規則正しい生活を心がけ、ウイルスが活動しない状態を作っていくことが大切です。