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「滑膜肉腫」という四肢に発生する「がん」はご存じですか?医師が監修!

 公開日:2023/09/14
「滑膜肉腫」という四肢に発生する「がん」はご存じですか?医師が監修!

滑膜肉腫(かつまくにくしゅ)は四肢に発生する悪性腫瘍の1つです。転移の可能性も高い腫瘍であり、発症部位によって部位の切断が必要なことも珍しくありません。

現在はMRI・CTを始めとする画像技術の進歩により、切断をせず治療を行えるケースが増えています。しかし早期発見・治療が重要な病気であることは変わっていません。

今回は滑膜肉腫の症状や治療について解説していきます。参考になれば幸いです。

竹内 想

監修医師
竹内 想(名古屋大学医学部附属病院)

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名古屋大学医学部附属病院にて勤務。国立大学医学部を卒業後、市中病院にて内科・救急・在宅診療など含めた診療経験を積む。専門領域は専門は皮膚・美容皮膚、一般内科・形成外科・美容外科にも知見。

滑膜肉腫の症状や発症時期

カルテを持つ男性医師

滑膜肉腫とはどのような病気ですか?

滑膜肉腫は軟部腫瘍と呼ばれる腫瘍の1つであり、悪性軟部腫瘍に分類される病気です。腫瘍には良性・悪性が存在し、軟部腫瘍は全体の7割が良性・3割が悪性に分類されます。
滑膜肉腫は血管・脂肪・筋肉などの軟部組織から発症し、腫瘍は四肢に現れることが多いです。稀にですが、内臓に発症するケースも存在します。悪性腫瘍の滑膜肉腫は転移を伴う場合があるため、診断が確定したら速やかに治療を開始する必要があります。治療法として提案されるのは対象を切除する手術・投薬による化学療法・対象への放射線療法です。

原因を教えてください。

滑膜肉腫が発生する原因は通常のがんと同様で、遺伝子の異常で発生すると考えられています。滑膜肉腫の発症が確認された患者には特定の遺伝子が確認されており、腫瘍の発生に関わっていると考えられます。
現在、特定の遺伝子が何故発生するのかの原因は特定できていません。そのため病名の確定に遺伝子診断を行うケースが多いです。軟部腫瘍は原則として遺伝しませんが、がんを発症しやすい家系は発症リスクが高まると考えられています。そのため四肢に腫瘍が確認できた場合、痛みやしこりを感じなくても整形外科の受診を検討しましょう。少しでも早く治療を開始することは、滑膜肉腫の治療において重要です。

どのような症状が出るのですか?

症状として四肢に腫瘤(しゅりゅう)・腫脹(しゅちょう)が現れます。大きさはさまざまですが、5cm以上の大きさの滑膜肉腫は転移を伴う危険性があるため注意が必要です。滑膜肉腫自体に痛みが伴うことは少なく、痛みを感じないからと放置する人は珍しくありません。
滑膜肉腫だけでなく軟部腫瘍全体に共通しますが、良性・悪性腫瘍どちらも痛みを伴わないため注意が必要です。発生箇所や大きさによっては、神経が圧迫される圧痛や、腫瘍周辺に痛みを伴う場合もあります。また放置すると転移する可能性もあるため、切除手術を行うケースが多いです。

発症時期について教えてください。

滑膜肉腫の発症は小児から中年にかけて満遍なく発症が確認されています。悪性軟部腫瘍は滑膜肉腫の他に横紋筋肉腫・脂肪肉腫・粘液線維肉腫などがあり、この3種類は滑膜肉腫と比べると年齢分布が特徴的です。
横紋筋肉腫は幼児から青年が発症のピークとなっており、脂肪肉腫・粘液線維肉腫は中年から発症が増え、高齢者が発症のピークとなっています。
軟部腫瘍は発症頻度が低く、分類分けが多いことから診断が難しい病気です。専門機関を受診し、検査・生検などで病名を確定してから治療を開始しましょう。

滑膜肉腫の検査や治療方法

カルテを持つ女性医師

どのような検査が行われますか?

滑膜肉腫の検査は問診による症状の確認や検査の結果を見て絞り込みを行う臨床所見、MRI・CTなどの画像で絞り込みを行う画像所見、組織を採取し専門機関で検査を行う組織所見の3つの視点から行います
この組織所見は基本的に3日〜1週間程度かかるため、診断が確定するまでマイナス思考になってしまう人は少なくありません。精神的な落ち込みは身体に悪影響を与えるため、必要以上に気負いしないよう注意しましょう。
複数の検査が必要な理由は、軟部腫瘍は良性・悪性含めて100種類近く存在するためです。そのため診断にも高い技術力が求まられるため、大学病院のような実績・経験のある病院で検査を受けましょう。

どのように診断されますか?

ポイントとなるのは、発生した腫瘤・腫脹にどのような症状が現れているのかという点です。点状もしくは斑状の石灰化・壊死・出血など、さまざまな症状が滑膜肉腫では現れます。
もう1つ重要なポイントは遺伝子診断です。滑膜肉腫を発症した患者は特定の遺伝子を持っているケースが非常に多く、腫瘍に関連していると考えられています。
そのため生検と並行して遺伝子診断を行い、滑膜肉腫の可能性を絞り込むことが診断を確定するために有効です。診断を確定するために必要な生検・遺伝子診断は高度な技術が求められるため、専門的な設備を持っている病院で行うのが望ましいです。

治療方法を教えてください。

治療方法は手術による腫瘍の切除・投薬による化学療法・放射線療法の3つを組み合わせて行います。原則は腫瘍の切除ですが、大きさ・発生部位を考慮して最終決定を行います。
腫瘍切除が原則となっている理由は、再発のリスクを考慮した際切除が最も効果的なためです。5cm未満の腫瘍の場合、切除手術のみで予後が良好な症例が多いです。
そのため原則として切除手術を行いますが、発生個所や大きさによっては化学療法・放射線療法を行う場合があります。医師と相談し、治療方針を決定しましょう。

滑膜肉腫の予後や転移

男性医師

滑膜肉腫の予後について教えてください。

滑膜肉腫の5年生存率は50〜60%であり、転移が確認されなかった場合は60〜80%に上昇します。また転移以外にも予後に影響を与える要素がいくつか存在します。
そのうちの1つは大きさです。滑膜肉腫の大きさが5cm以上の場合、予後に影響を与えると考えられています。もう一つは腫瘍を形成している細胞が高悪性度の場合です。高悪性度は腫瘍が大きくなる速度の早さや、腫瘍を形成する細胞が通常の細胞との相違点を確認し判断します。大きくなる速度が速く相違点が多い腫瘍は高悪性度の可能性が高く、予後不良因子となります。

滑膜肉腫が転移しやすい部位を教えてください。

滑膜肉腫は肺に転移が認められやすいです。次いで骨に転移しやすいことが報告されていますが、リンパ節や臓器に転移するケースも少数ながら報告されています。
転移は発症後数年で起きるケースが多いですが、再発せず10年以上問題なく過ごしてから突然転移が認められるケースもあります。転移していないか確認するために、定期的な検査が必要不可欠です。
滑膜肉腫が転移する確率は50%以上と高く、血管・リンパ管を通した遠隔転移は予後不良因子となります。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

滑膜肉腫は少年期から壮年期にかけて多い悪性腫瘍です。発生個所によっては痛みを伴わないため、大きくなるまで受診を受けないケースは少なくありません。しかし滑膜肉腫は小さいうちに検査・診断・治療を行うことが、予後を良くするためには必要不可欠です。そのため痛くないからと放置せず、四肢に腫瘍ができたら速やかに専門機関を受診してください。
腫瘍が悪性である割合は全体の30%程度と少ないですが、軟部腫瘍は症例が少ない上に分類分けが多いため診断にも技術が求められる難しい病気です。そのため腫瘍を確認した場合はまずかかりつけ医に相談してから、必要に応じて大学病院・総合病院といった設備が充実した病院の受診を検討してみてください。かかりつけ医から紹介状を貰うことでスムーズに診断を受けられます。

編集部まとめ

男性医師と患者
滑膜肉腫は幅広い年代に発症が確認されている悪性腫瘍で、進行速度・大きさ・転移などで予後が大きく異なります。

MRIなど肉眼で確認できない部分を検査する治療法が発達していない時代は、確実に切除するために発症部位だけでなく発症した周辺部位の切断も珍しくありませんでした。

現在は切断を行う治療は1〜2割程度で、やむを得ず切断する場合でも人工物に置き換えることで日常生活を送ることが可能です。

痛みを感じなくても四肢に腫瘍を確認したら、まずは病院に相談しましょう。治療を少しでも早く行うことが、予後・今後の生活をよくするために重要です。

この記事の監修医師