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「急性ストレス障害」の原因や症状・予後はご存じですか?医師が監修!

 公開日:2023/08/17
「急性ストレス障害」の原因や症状・予後はご存じですか?医師が監修!

日本だけでなく、世界中に自然災害の恐怖を知らしめることとなった東日本大震災により、急性ストレス障害(ASD)のことを知った方も多いのではないでしょうか。

死に直面するほどの深刻な怪我を負ったり、トラウマ(心的外傷)になるほどの精神的衝撃を受ける体験に晒されたりすることで生じる特徴的なストレス症状群です。

平和だった日常が一変した地獄絵図かのような津波被害を目の当たりにした被災者以外でも、急性ストレス障害を発症した人が確認されています。

そもそも急性ストレス障害とは一体どういうものなのでしょうか。発症する原因・症状・予後について詳しくお伝えしていきます。

せひ、お目通しくださいね。

伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

急性ストレス障害の原因や症状

頭痛

ストレス反応とは?

まずは急性ストレス障害を引き起こすきっかけとなるストレス反応からみていきましょう。ストレスが病気の発症や病状の経過に大きく関連していることは、実験的・臨床的・疫学的などの多くの研究結果から広く知られています。
なおかつ、同じストレスを受ける環境において人によってストレス反応が異なることをご存知の人も多いのではないでしょうか。このストレス反応の違いは、ストレスを感じる元となる出来事を表すストレッサーと、無意識のうちに自らを防衛しつつストレスを管理する働きを表すコーピングの能力が異なるからです。
ストレッサーとコーピングの能力の間に大きな亀裂ができるため、ストレスが発生します。つまり、コーピングの資源となる経験値・コントロール力・パーソナリティ・行動力・サポート能力が弱い人ほどストレス反応が出やすくなるのです。ストレスを感じやすい人はコーピングの資源を増やしていく必要があります。

急性ストレス障害の原因を教えてください。

冒頭でもお伝えしていますが、急性ストレス障害を発症する原因は死に直面するほどの深刻な怪我を負ったり、トラウマ(心的外傷)になるほどの精神的衝撃を受ける体験に晒されたりすることで生じる特徴的なストレスによるものです。さらに、間接的な精神的衝撃でも急性ストレス障害を発症する場合があります。
他者に起こった深刻な出来事を目撃したり、近親者や友人に起こったトラウマな出来事を知ったりすることで、その精神的衝撃を心の中で繰り返し再体験して避けようとするために不安が増大するのです。また、この病気は、感情が麻痺したり、自分が自己から切り離されているように感じたりする解離症状がみられます。
自らの存在が実在していないように感じることが特徴です。強烈または反復的な要因であればあるほど、発症リスクが高くなります。急性ストレス障害は心的外傷的出来事を経験して発症してから1か月未満で消失します。しかし、症状が1か月以上も継続する場合は心的外傷後ストレス障害(PTSD)と病名が切り替わることを覚えておいてください。

どのような症状が出ますか?

主な症状は大きく5つに分類されます。ご自身がどのような症状が出ているのか把握することが大切です。症状は以下の通りになります。

  • 過去の出来事をリアルタイムで追体験している感覚になる(フラッシュバック)
  • 自らに罪があり、生き残ってしまったと負い目を感じる(サバイバーズギルト)
  • 感情が麻痺し、現実から切り離されているように感じる(解離症状)
  • 外傷的出来事を思い出させる全てのものを避けようとする(回避症状)
  • 物音や刺激に過剰反応して不安や怒りで落ち着かず、眠れなくなる(覚醒症状)

心に深いダメージを負って発症する一過性の精神障害である急性ストレス障害は、解離症状が最も多くみられます。被災者であれば誰もが経験する一過性の正常なストレス反応です。
誰もが経験するほどの衝撃を受けて1ヶ月以上症状が続く場合は、精神科でカウンセリングを受けてみましょう。

急性ストレス障害の診断や治療

カウンセリング

急性ストレス障害はどのように診断されますか?

衝撃的な外傷的出来事を体験または目撃して、フラッシュバック(侵入症状)・サバイバーズギルト(陰性気分)・解離症状・回避症状・覚醒症状のどれか1つでも症状があることが前提です。さらに、以下の症状のうち9つ以上が3日間以上1か月頃までみられるのであれば急性ストレス障害の診断となります。

  • 反復的・不随意的・侵入的で苦痛をもたらす外傷的出来事に関する記憶
  • 外傷的出来事に関する悪夢を繰り返し見る
  • 外傷的出来事に似た場所や似た音により強い心理的・生理学的苦痛がある
  • 外傷的出来事の重要な部分が思い出せない
  • 外傷的出来事に関する全てのものから避けようとする
  • 幸福感・満足感・愛情を感じられない
  • 睡眠障害
  • すぐにイライラして怒りが爆発する
  • 過度の警戒心
  • 集中困難
  • 過剰な驚愕反応

診断に関しては専門医とのカウンセリングもありますので、不安な人は受けてみてください。

診断基準を教えてください。

診断基準は、衝撃的な外傷的出来事を体験または目撃しているかになります。壮絶な体験や目撃の後から精神的な異常が出ているかが重要です。
また、急性ストレス障害は1ヶ月ほどの一過性のものではありますが、1ヶ月以上長引けば心的外傷後ストレス障害(PTSD)へとつながってしまいます。どちらのストレス障害も精神医療においてはありふれた病気のひとつで、PTSDも同様に一定の期間で自然治癒が見込まれる障害です。
発症しても約半数は3か月以内に完治するとされています。ですが、1~3か月もの長い期間にトラウマを抱えて生活することは容易ではありません。自然治癒する障害であっても、早期治療することが大切です。

急性ストレス障害の治療方法は?

治療で最も重要となるのが、セルフケアです。もちろん、専門医によるカウンセリングや睡眠障害を発症している人には睡眠薬などの薬物療法も行われます。
しかし、ストレスを軽減するためには個々のストレッサーとコーピング能力の差を小さくすることが大切です。そのため、以下の3つの要素に分けてセルフケアを重視できるように治療します。

  • 場所だけでなく人間関係においても個人の安全を確保する
  • 身体的健康を維持するための生活習慣を確保する
  • マインドフルネスでストレス・落胆・怒り・悲しみ・孤立を軽減する

カウンセリングにおいても、まずは自身を見つめなおすためにヒアリングを行います。ただし、無理に出来事を思い出したり話したりすることは、ストレス障害を悪化させる原因です。
慣れ親しんだ趣味や映画を見るなどの気分転換になる活動を定期的に行うことで、セルフケアにつなげていきましょう。

心理療法ではどのようなことが行われますか?

心理療法は、心の健康の回復・維持・予防を目的とした治療方法です。カウンセリングやコミュニティーを通して教示・対話・訓練を行い、衝撃的な外傷的出来事に対しての認知・情緒・行動を改善していきます。心理療法では以下のようなことを心がけています。

  • 無意識の衝動や欲求を探求して心の成長を促す精神分析
  • 人間関係のパターンや役割を分析しコミュニケーション能力を高める交流分析
  • 不適切な思考や行動を修正し問題解決能力やストレス耐性を向上させる認知行動
  • 恐怖や不安に対して慣れさせることで恐怖心や回避行動を減らす暴露行動
  • 感情や考えを受け入れ共感的に寄り添い自己受容や自己実現を促す自己理解行動

衝撃的な外傷的出来事を通して、患者が自分自身と向き合えることを目的としています。ここで注意してほしいのは、あくまでも自身を見つめなおすことです。無理にトラウマと向き合えば症状は悪化するので、無理せずあなたのペースを掴んでいきましょう。

急性ストレス障害の経過や予後

喜ぶ女性

急性ストレス障害はどのような経過をたどりますか?

一般的には1ヶ月ほどで急性ストレス障害は自然治癒されます。このストレスから回復する力はレジリエンスと呼ばれていて、人が内に秘めている強さで状況に適応するものです。
また、レジリエンスは人が保持している行動・思考・行為を引き起こして発展させます。発展させるための4つの要素は以下の通りです。

  • 現実的な計画を立て成し遂げる力
  • 肯定的に自身を捉えて能力を信頼できる力
  • コミュニケーション能力と問題を解決する力
  • 感情や衝動をマネージメントする力

このレジリエンスこそ、ストレッサーとコーピング能力の差を小さくするための工程になります。非常に重要な役割を持つため、焦らず行うことを意識しましょう。

急性ストレス障害の予後について教えてください。

急性ストレス障害の予後は、時間の経過とともに自然治癒されることが多いため良好といえるでしょう。 しかし、急性ストレス障害が1ヶ月以上経っても自然治癒されない場合は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)へと発展することがあります。
うまく自然治癒させるためにも、慎重な経過観察が重要であるといえるでしょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

死に直面するほどの深刻な怪我を負ったり、トラウマ(心的外傷)になるほどの精神的衝撃を受ける体験に晒されたりすることで生じる特徴的なストレス症状群である急性ストレス障害。誰にでも発症する可能性があるものであり、精神医療においてはありふれた病気のひとつです。
発症してしまうと客観的になることは難しいかもしれませんが、心を強くして一緒に乗り越えていけるコミュニティーを築き上げていきましょう。

編集部まとめ

笑顔の女性
自然災害の恐怖と共に認知度が上がった急性ストレス障害(ASD)について解説していきました。

誰もが言葉を失う体験をした人にとって、忘れることはできない衝撃的な外傷的出来事は大きなストレスをもたらします。

しかし、ありふれた病気といわれるほど誰にでも発症するリスクはあります。精神的にダメージを受けている状態では落ち着いて物事を見られなくなるかもしれません。

カウンセリングや甘えられるコミュニティーを見つけて、1ヶ月で自然治癒できるように心がけていきましょう。

この記事の監修医師

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