目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 医科TOP
  3. 病気Q&A(医科)
  4. 「胚細胞腫瘍」というがんはご存じですか?原因や症状・生存率について解説!

「胚細胞腫瘍」というがんはご存じですか?原因や症状・生存率について解説!

 公開日:2023/07/28
「胚細胞腫瘍」というがんはご存じですか?原因や症状・生存率について解説!

胚細胞腫瘍は10万人あたり年間で1人から3人ほどしか発症しない稀な悪性腫瘍(ガン)です。

ガンだといわれると死を連想して心配になる人もいるかもしれませんが安心してください。

胚細胞腫瘍は場合によっては90%以上が完治する悪性腫瘍として知られており、適切な治療を受ければ治すことができる病気です。

では、胚細胞腫瘍とはいったいどのような病気なのでしょうか。

この記事ではそうした胚細胞腫瘍の疑問に答えるべく、胚細胞腫瘍の症状や原因・治療方法・治療後の生存率・予後について詳しく解説をしていきます。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

プロフィールをもっと見る
大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

胚細胞腫瘍 (はいさいぼうしゅよう)の原因や症状

レントゲン写真

胚細胞腫瘍とはどのような病気ですか?

胚細胞腫瘍は生殖器や体の正中線上にできる悪性腫瘍(ガン)の1つです。この胚細胞腫瘍は比較的稀な悪性腫瘍で、毎年10万人あたりたったの1人から3人しか発症しないことが報告されています。また、胚細胞腫瘍は決して治らない病気ではありません。
仮に他の部位に転移した場合であっても、適切な治療を受ければ根治する可能性がある珍しいガンでもあります。
そのため、早期に発見し、適切な治療を開始することが非常に大事な病気です。

原因を教えてください。

胚細胞腫瘍が発症する原因は原始生殖細胞に異常が生じることだと考えられていますが、原始生殖細胞になぜ異常が生じるのかについては正確にはわかっていません。ただし、母親の母体の中にいる胎生期(妊娠期間)の「原始生殖細胞」といわれる精子や卵子になる前の未成熟な細胞に何らかの問題が起きて、発症すると考えられています。
原始生殖細胞とは、人が母親の母体内の中にいる胎生期に形成される精子や卵子になる前の未成熟な細胞のことを指します。この原始生殖細胞が私達の発育とともに成熟した生殖細胞へと通常は変化していきます。
しかしながら、何らかの原因でこの原始生殖細胞が正常な発育を経ない場合に生じるのが胚細胞腫瘍です。例えば、細胞の成長や文化に関する遺伝的なメカニズムが適切に働かない場合・環境的なストレス・母体の健康状態に対する問題が生じた場合などによって原始生殖細胞が異常な状態になると考えられています。
しかしながら、どのような要因が具体的に問題を引き起こすのかや、なぜ特定の人々がこの種の腫瘍を発症するのかなどは明らかになっておらず、さらなる研究が必要とされています。

どのような症状が出るのですか?

胚細胞腫瘍は生殖器や体の正中線上の様々な部位で発生し、それぞれ異なる症状がでます。

  • 精巣:精巣の腫れ(精巣のねじれ・出血・炎症時には痛みを感じることも)
  • 卵巣:腹痛や下腹部にしこりができる
  • 胸部:胸の痛みやせき、息切れなど
  • 仙骨:排尿障害やお尻にしこりができる
  • 脳:頭痛・嘔吐・視野の変化・頻尿・食欲の減退・身体の成長の問題

これらの症状に心当たりがある場合には、胚細胞腫瘍の可能性があります。その場合はすぐに医療機関に相談することが重要です。

胚細胞腫瘍はどこにできやすいのですか?

胚細胞腫瘍は生殖器や体の正中線上の部位に発生することが知られています。より具体的には下記の部位に発生します。

  • 精巣・卵巣
  • 仙骨
  • 後腹膜(お腹の背骨側)
  • 腸管
  • 腹膜
  • 肝臓
  • 脳(松果体・神経下垂体部)

何歳くらいで発症することが多いですか?

10歳〜30歳で発症することが多い病気です。
特に20歳未満での発症が多く、全体の9割が20歳未満の男性の精巣に発症したもので占められていることが報告されています。

胚細胞腫瘍 (はいさいぼうしゅよう)の検査や治療法

MRI室

胚細胞腫瘍が疑われる場合どのような検査を行いますか?

胚細胞腫瘍が疑われる場合には、腫瘍マーカー検査や、超音波検査・MRI・CTなどの画像検査、生検の3つの検査が行われます。
腫瘍マーカー検査とは、それぞれのガンに特徴的なタンパク質(腫瘍マーカー)の数値を確認する検査のことを指します。胚細胞腫瘍に特徴的な腫瘍マーカーの値が上昇している場合には胚細胞腫瘍に罹っている可能性があります。
ただ、全ての胚細胞腫瘍が腫瘍マーカーの値を高めるわけではありません。そのため、腫瘍マーカー検査だけでは診断を確定させることができないため、MRIなどの画像検査によって腫瘍の大きさや位置、拡がりを確認することが必要となります。
また、その他にも診断をより確定させるために、病変の一部を取り出して検査をする生検を行って最適な治療法を決定します。

治療法を教えてください。

精巣から発生したと思われる胚細胞腫瘍の場合、最初に診断と治療の目的で精巣の除去手術を行います。その後、病気の進行度合い・腫瘍の種類に応じて追加の治療が決定され、進行度が高い場合には薬を使った化学療法を行うことが一般的です。
精巣以外の身体の部位に発生した胚細胞腫瘍の場合も、基本的には化学療法が主な治療方法です。進行期の胚細胞腫瘍に対しては、シスプラチン・エトポシド・ブレオマイシンを組み合わせたBEP療法という化学療法がよく行われます。
ただし、腫瘍の細胞の種類が奇形腫だった場合や、腫瘍が頭の中に発生した場合には手術が主な治療方法となるとともに、化学療法の後に放射線治療を行うこともあります。

胚細胞腫瘍 (はいさいぼうしゅよう)の早期発見や予後

聴診器

胚細胞腫瘍の生存率について教えてください。

胚細胞腫瘍の生存率は大きく分けて3種類の状況に分けられます。
1つ目はジャーミノーマの場合です。ジャーミノーマは放射線治療などが有効な腫瘍を指します。ジャーミノーマに分類される胚細胞腫瘍の場合は10年生存割合が90%、20年では80%となっており、高い生存率となっています。
2つ目が中等度悪性群です。中等度悪性群に分類される胚細胞腫瘍の場合は放射線治療のみを行った場合の5年生存率は50%前後とされています。
最後の分類が高度悪性群です。この高度悪性群に分類される場合、3年生存率は30%以下となっています。

早期発見のために注意すべきことはありますか?

気になる症状が出現してもすぐに改善しない場合には医師に相談することが早期発見のカギとなります。
胚細胞腫瘍は初期段階では無症状の場合が多く、進行すると不快な感覚や腫瘤、痛みなどの症状が現れます。これらの症状を覚えた場合には専門家の意見を求めることが重要です。
また、胚細胞腫瘍についての知識を持つことは病状の理解を深めるだけでなく、自分自身の健康状態を把握する上でも役立ちます。そのため、先述した胚細胞腫瘍に当てはまるような症状をしっかりと理解しておくことをお勧めします。
このように胚細胞腫瘍の早期発見のためには自分自身の体調に敏感になっておき、胚細胞腫瘍に当てはまるような症状が現れたと感じた場合にすぐに医師に相談することが重要です。

胚細胞腫瘍の予後について教えてください。

胚細胞腫瘍の予後は、ジャーミノーマ・中等度悪性群・高度悪性群の3つに分けられます。ジャーミノーマは放射線や抗がん剤が効きやすい腫瘍のことを指します。
このジャーミノーマに分類される胚細胞腫瘍の予後は比較的良好です。化学的療法や放射線治療を組み合わせることによって、5年生存率が90%以上と報告されています。
また、中等度悪性群に分類される胚細胞腫瘍はより強い治療が必要で予後もジャーミノーマよりも悪い場合が多いです。中等度悪性群に分類される胚細胞腫瘍の5年生存率は適切な治療を行った場合で60〜90%程度になると報告されています。
高度悪性群に分類される胚細胞腫瘍の予後は特に悪いとされています。集中的な治療が必要となり、5年生存率は50%以下です。
ただし、予後は一般的な傾向であって個々の状況によって大きく変わります。そのため、具体的な予後については医師に相談するのが良いでしょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

胚細胞腫瘍は決して治らないガンではありません。一部の予後が不良な胚細胞腫瘍もありますが、胚細胞腫瘍の全体の7割程度は予後が良好なジャーミノーマです。
そのため、胚細胞腫瘍にかかったからといって諦めるのではなく、医師と相談し適切な治療を行うようにしましょう。

編集部まとめ

家族
この記事では胚細胞腫瘍の原因・症状・治療方法・予後・生存率などについて詳しく解説をしてきました。

胚細胞腫瘍の多くは完治する病気であるため、早期発見と適切な治療を受けることが重要となります。

そのため、この記事に書かれている症状などに心当たりがあればすぐにでも医師の診察を受けることをお勧めします。

この記事の監修医師