「肘内障」という幼児に見られる脱臼のような病気はご存知ですか?医師が監修!
幼児の腕を引っ張ったときに、急に痛がって泣き出し腕が動かなくなってしまうことがあります。
骨折でもしたのかと心配になりますが、もしかするとそれは、肘内障(ちゅうないしょう)かもしれません。
普段聞き慣れない名前かもしれませんが、実は決して珍しくない疾患なのです。
この記事では、幼児に多くみられる肘内障について解説しています。小さなお子様がいるご家族は特に、肘内障について知っておいてください。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
目次 -INDEX-
肘内障の原因や確認方法
肘内障とはどのような状態ですか?
俗にいう「腕が抜けた」状態と捉えて頂いて良いでしょう。
原因を教えてください。
具体的には親が転んだ子供を起こそうと腕を引っ張ったり、遊んでいるときにお友達に引っ張られたりして発生することが多いようです。
その他にも遊んでいて転んだ際に不自然に手をついたら突然動かせなくなってしまったケースも発生しています。また1歳未満の赤ちゃんの場合には、寝返りが原因となる場合もあります。
多くの場合は腕を引っ張ったりねじったりしたときに発生していますが、原因がはっきりしない場合も少なくありません。子供のうちは橈骨頭が小さいため、腕に引っ張りとねじりの力が加わると骨の回転を支えている輪状靭帯から抜け出てしまい、肘内障を引き起こしてしまうのです。
肘内障の症状は?
痛い方の手首をもう片方の手で支えるように抑えて動かさなくなることもあり、手首を痛めているように見える場合もあるため注意してください。激しい痛みはあるものの、関節腫脹・熱感・発赤などの症状はみられません。
肘内障の確認方法を教えてください。
ただし痛みが治まっているだけで治っているわけではありません。肘内障を確認するためには、バンザイのポーズができるかどうかを見ると分かりやすいです。
肘内障であれば、痛みのために腕を上げられません。ただし骨折などの可能性が残っている場合は、更なる検証が必要です。
痛む場所・腫れがないか・指の変色がないか・触られている感触があるかなどの確認を行い、痛みの原因を明らかにしていくのです。
受診時には骨折や脱臼と見分けるため、レントゲンを撮影して骨や関節に異常がないかを確認する場合もあります。ただし実際には問診と診察を経て、患部に腫れなどがなく骨折や脱臼の可能性が完全に否定されれば、レントゲンによる検査を行わないケースも存在します。
何歳くらいの子供に起こりやすいですか?
これは骨格や靭帯が発達するにつれて亜脱臼が起きなくなるためです。
また、肘内障になりやすい子となりにくい子がいることも分かっており、男児より女児に、右手より左手に起きやすい特徴があります。
肘内障の治療方法や整復方法
病院を受診したほうがよいのはどのようなケースですか?
- 痛い部分が腫れてきた
- 手の指が変色してきた
- 腕を動かしていないときでも常に痛みがある
上記のような症状を訴えている場合は骨折が疑われるため、早急に整形外科を受診しましょう。ただし肘内障であった場合でも、長時間にわたり肘内障の症状が続くと筋肉が出血を起こしてしまう可能性があるため、早めに治してあげたいものです。
肘内障を疑う症状が出た場合には、早めに小児科や整形外科を受診しましょう。
病院ではどのように治療を行いますか?
1つは撓骨頭の部分に片手を置いて圧をかけ、もう一方の手を使って腕を内側方向へ倒すように圧をかける「回内法」です。
もう1つは回内法と同じく撓骨頭の部分に片手を置いて圧をかけた状態で腕を外側方向へと倒し、更に肘を曲げる「回外・屈曲法」です。どちらの整復法でも成功すると「コクッ」という音がして肘が元の位置に収まります。
整復が成功するとほどなくして痛みも解消されるため、大泣きしていた子供も泣き止むことでしょう。スムーズに腕が動き、バンザイのポーズも難なくできるようになります。
自宅で整復しても大丈夫ですか?
また整復が難しいケースや、肘内障だと思ったけれど実は骨折していたといったケースもあるため、肘内障を疑う場合は医療機関を受診してください。
肘内障の過ごし方や予防方法
治った後の過ごし方を教えてください。
気になる症状が残っている場合は、整形外科を受診してください。また治療後しばらくの間は再発しやすいため、腕を強く引っ張らないように注意が必要です。
肘内障の予防方法は?
とはいえ危険回避のため、つい子供の手を引っ張ってしまうこともあるかと思います。お子様と手を繋ぐ際は、肘内障を起こしていない方の手を繋ぐなどの配慮をすると良いでしょう。
どうしても手を引っ張らなくてはならないシーンに遭遇したときは、肘より上の腕を持つようにしてください。また普段から大人と手を繋ぐときは、子供が大人の指を握るように繋ぐ癖を付けておくと、肘内障を引き起こすリスクが減らせます。
肘内障は一度起こると繰り返しますか?
元気なお子様の動きを制限することは難しいとは思いますが、できるだけ肘に無理な力が加わらないような生活を心がけましょう
また、肘内障は輪状靭帯の成長とともに発生率が低下します。何度も繰り返している子でも、7歳以上になると発生頻度の減少がみられます。
逆に10歳を過ぎても繰り返すようなら、骨や腱にトラブルが起きているかもしれません。整形外科を受診し、原因を明らかにして適切な治療を受けましょう。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
腕を引っ張ったときや腕を下にして転んだときに起こりやすく、急に痛がり始めたり腕をやや曲げた状態で下げたまま動かさなくなったりしたときには肘内障が疑われます。しかし腕を痛がる中には骨折しているケースなどもあるため、安易な自己判断は危険です。
また、ネットで検索すると自宅でできる整復法の動画も出てきますが、リスクを伴うためやめておきましょう。肘内障が疑われた場合には、早めに整形外科を受診してください。
編集部まとめ
「肘内障」という疾患名は、普段あまり耳にする機会がない人もいるのではないかと思います。
しかし実は、幼児が遭遇する可能性が最も高い外傷の1つだといわれており、小さなお子様のいるご家族にとっては身近な存在なのです。
寝返りを打ったり転んだりした拍子に発生することもあるため、完全に防ぐことが難しい疾患でもあります。
手を引っ張らない・肘内障を起こしにくい方の手を繋ぐ習慣を付ける・危険回避の際は上腕部を引っ張るなど、大人ができる予防法は普段から実践しておきたいものです。
もし肘内障を疑うような症状が現れた場合には、速やかに整形外科を受診しましょう。