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「コルサコフ症候群」という認知症はご存知ですか?原因や症状を解説!

 更新日:2023/07/25
「コルサコフ症候群」という認知症はご存知ですか?原因や症状を解説!

コルサコフ症候群とは、ビタミンB1(チアミン)不足により脳が萎縮することで発症するウェルニッケ脳症の後遺症です。

発症すると、長期の記憶障害・見当識障害・作話などの症状が現れるため、認知症のひとつに数えられています。

ウェルニッケ脳症の段階では治療できますが、コルサコフ症候群になると適切な治療法はありません。

そこでこの記事では、コルサコフ症候群の概要・原因・症状・治療法を解説します。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

プロフィールをもっと見る
大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

コルサコフ症候群の原因や症状

手を差し伸べる看護師

コルサコフ症候群とはどのような病気ですか?

コルサコフ症候群は、ウェルニッケ脳症の後遺症として発症する認知症のひとつです。ロシアの精神科医「セルゲイ・コルサコフ」がはじめて報告したため、この名前が付けられました。
ウェルニッケ脳症とまとめて「ウェルニッケ・コルサコフ症候群」と呼ばれています。ウェルニッケ脳症とは、アルコールの過剰摂取などによりチアミン不足になり、脳幹部に出血がみられる病気です。
例えば、眼球運動障害・精神状態の変化・ふらつきなどの症状があります。そのほかにも、悪性腫瘍・消化管手術・重症のつわりなど、チアミン不足になるすべての病気で発症する可能性があるため注意しましょう。

コルサコフ症候群の原因は何ですか?

コルサコフ症候群の原因は、チアミン不足による脳の萎縮です。特に、アルコール依存症の人やアルコールを過剰摂取すると起こりやすくなります。高齢者の場合は、定年退職で時間ができて昼間からお酒を飲むようになったり、配偶者との死別により寂しさを紛らわせたりするために飲酒量が増えるでしょう。
このような理由により、アルコールの摂取量が増えてチアミン不足に陥り、脳が萎縮する可能性が高いです。脳は糖質をエネルギー源としており、チアミンは糖質の代謝に必要な栄養素のため、不足すると脳が糖質不足になります。糖質不足になった脳は正常に活動できなくなり、やがて記憶障害や作話などの症状が現れるでしょう。アルコール依存症以外にも、チアミン不足になる病気の場合は発症する可能性があります。
例えば、頭部の外傷(外傷性脳損傷)・低栄養・消化管の切除・透析などです。また、妊娠中のつわりやがんの治療により、経口摂取が難しい場合にチアミン不足を起こす可能性があります。

症状について教えてください。

コルサコフ症候群の主な症状は、記憶障害・見当識障害・作話です。記憶障害は、最近の出来事が記憶できなくなります。反対に、遠い過去の記憶は損なわれずにある程度覚えていることが多いです。
見当識障害は、自分の名前や年齢・日時・曜日・自分と周囲との関係・自分が置かれている状況などがわからなくなります。また、作話とは自分が覚えていない記憶を補ったり間違った記憶をつなぎ合わせたりして、無意識に話を作ってしまうことです。記憶障害の一種で、本人は嘘をついている感覚はありません。
特に初対面の場合は、作話を見分けるのが難しいです。ウェルニッケ脳症の段階では、精神の錯乱状態・平衡感覚の消失・眠気・よろめき・眼球運動障害

コルサコフ症候群の受診や診断

笑顔の医師

病院を受診する目安を教えてください。

コルサコフ症候群を疑って病院を受診する目安は、ウェルニッケ脳症の症状はないかで判断しましょう。例えば、精神の錯乱状態・平衡感覚の消失・眼球運動障害などがある場合は、早急に受診してください。
ウェルニッケ脳症は、早期発見・治療により回復する可能性があります。また、高齢者の場合は、アルコールの摂取量にも注意しましょう。すでにアルツハイマー型認知症や前頭側頭型認知症を発症している場合は、飲酒量のコントロールが難しくなります。
アルコール依存症になると、ウェルニッケ・コルサコフ症候群を発症するリスクが高くなるため注意が必要です。アルコールの過剰摂取が原因の場合は、震え・ふらつき・しびれなどの慢性アルコール中毒の症状が現れます。加えて、長期の記憶障害・作話・慢性アルコール中毒の症状がある場合は、早急に受診しましょう。

何科を受診すればよいですか?

コルサコフ症候群の疑いがある場合は、脳神経内科を受診しましょう。ウェルニッケ・コルサコフ症候群は、脳の萎縮により発症するリスクがあります。そのため「脳」に特化した診療科目がおすすめです。
脳神経内科は脳や脊髄・神経・筋肉の病気を診察する内科で、しびれ・めまい・ふらつき・うまく力が入らない・歩きにくさなどの症状があるときに受診します。脳神経内科は全身を診られるため、どこの病気か見極めることが可能です。
例えば、しびれや麻痺は整形外科・手術が必要なときは脳神経外科・精神的なことは精神科など、症状に合わせて最適な診療科目を紹介できます。ウェルニッケ・コルサコフ症候群の疑いがある場合は、脳神経内科で詳しく調べてもらいましょう。

コルサコフ症候群はどのように診断されますか?

コルサコフ症候群は、記憶障害・見当識障害・作話などの特徴的な症状がある場合に強く疑われます。さらに、低栄養・チアミン不足の症状があり、アルコールの過剰摂取がある場合も疑われるでしょう。
まずは血液検査を行い、血糖値・電解質・チアミン濃度を測定します。また、全血球計算・肝機能検査・画像検査などを行い「コルサコフ症候群以外の病気が潜んでいないか」を調べることが特徴です。
その後、チアミン不足があり、記憶障害・見当識障害・作話などの症状がある場合はコルサコフ症候群と診断されます。

治療法はあるのですか?

コルサコフ症候群は、有効な治療法がありません。そのため、コルサコフ症候群になる前のウェルニッケ脳症の段階で、早めに適切な治療を行います。
ウェルニッケ脳症の主な治療法は、チアミンと水分を静脈に投与する方法です。この場合、チアミンは3〜5日間連続で投与し、加えてチアミンの代謝を助けるマグネシウムを注射で投与します。
コルサコフ症候群の症状が現れている場合は完治が難しいため、チアミンの投与を継続するしかありません。低栄養の場合は総合ビタミン剤の投与、アルコールが原因の場合は飲酒を絶ちます。

コルサコフ症候群の予防や注意点

医師 指差し

コルサコフ症候群の早期発見のポイントを教えてください。

コルサコフ症候群は治療ができない認知症です。そのため、症状が現れる前に気づくことが重要です。例えば「アルコールの摂取量が増えた」・「食事が偏っている」・「食事量が減少している」などがみられる場合は注意しましょう。
また、眼球運動障害・精神状態の変化・ふらつきなどの症状がみられる場合は、ウェルニッケ脳症の可能性があります。ウェルニッケ脳症はコルサコフ症候群の前段階にあたり、早期発見できれば治療が可能です。
発見が早いほど治療の効果が期待できるため、疑わしい症状がある場合は早急に受診してください。

コルサコフ症候群を予防する方法はありますか?

コルサコフ症候群は、チアミン不足による脳の萎縮が原因です。チアミン不足にならないように、日常からビタミンB1のサプリメントを摂取するとよいでしょう。

普段の生活での注意点を教えてください。

コルサコフ症候群は、アルコール依存症や偏食の人がかかりやすい病気です。食生活を改めて、規則正しい生活をしなければなりません。すでに認知症を患っている場合は、アルコール摂取や食事を自分でコントロールすることが難しくなります。規則正しい生活を送れるように、サポートすることが大切です。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

ルサコフ症候群は、アルコール依存症によるチアミン不足で発症する認知症です。発症した場合は、完治できる治療法はありません。
しかし、コルサコフ症候群になる前のウェルニッケ脳症は、早期発見・治療により改善が期待できます。ウェルニッケ脳症が疑われる段階で、早急に脳神経内科を受診してください。
また、アルコールの過剰摂取や偏った食生活は、ウェルニッケ脳症・コルサコフ症候群の発症を促進する恐れがあります。日頃から、規則正しい生活習慣を心がけることが大切です。

編集部まとめ

老夫婦
コルサコフ症候群の概要・原因・症状・治療法を解説しました。

コルサコフ症候群はアルコール依存症などによるチアミン不足により、脳が萎縮することで起こるウェルニッケ脳症の後遺症として発症する認知症です。
記憶障害・見当識障害・作話などの症状があり、コルサコフ症候群に至った場合の治療法はありません。

ただし、ウェルニッケ脳症の段階で早期発見・治療をすることで、改善が期待できます。

ウェルニッケ脳症やコルサコフ症候群の疑いがある場合は、早急に脳神経内科を受診してください。

また、日頃からアルコールの過剰摂取や偏った食生活に注意して、規則正しい生活習慣を心がけましょう。

この記事の監修医師