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「減圧症」の症状や原因を医師が監修!ダイビングをする方は要注意!

 公開日:2023/07/26
「減圧症」の症状や原因を医師が監修!ダイビングをする方は要注意!

減圧症とは主にスキューバダイビングをきっかけとする疾患です。普段ダイビングをしない方にはあまり馴染みのない病名かもしれません。

しかし、スクーバダイバーにとって、減圧症はちょっとした体調変化や潜水計画の変化で生じる身近な疾患です。

年間発症率は1.5〜3%ほどの間を推移しており、さほど高くないように感じられます。一方で、40代以上では重症化するケースもみられるため注意が必要です。

そこで今回は、スクーバダイバーにとって身近な病気である減圧症について詳しく解説します。

減圧症の原因や症状といった基本的な内容だけでなく、予防方法や治療法についても併せてご紹介いたします。

現在スキューバダイビングに打ち込んでいる方はもちろん、これから始めようと考えている方も、ぜひ参考になさってください。

正しい知識を持ってスキューバダイビングを行うことで、減圧症の予防や早期発見に努めましょう。

中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

プロフィールをもっと見る
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

減圧症の原因や症状

横になっている人

減圧症とはどのような病気ですか?

減圧症とはスキューバダイビング中に体内に溶け込んだ窒素が気化し、気泡となることで生じます。
気泡は体内のどこに発生するか予測できません。呼吸循環器や中枢神経に発生すると重症化する可能性が高くなります。重症の場合は意識障害・四肢の麻痺・呼吸困難などに陥ることもあるため注意しましょう。
症状は治療によって軽快することが多いですが、後遺症が残る場合もあります。

減圧症の原因を教えてください。

スキューバダイビングでの呼吸には窒素と酸素の混合圧縮空気が入ったタンクを用います。
スキューバダイビングを行うと、気圧の影響でタンク内の窒素が体液や血液中に多く溶け込みます。水面への急浮上による急減圧などでこの窒素が過飽和状態となると、気泡に変化し、身体中に様々な症状を引き起こすのです。
窒素が過飽和状態となる原因には急浮上の他に以下のようなものがあります。

  • 潜水時間が長い
  • 最大深度が深い
  • 1日の潜水回数が多い(水面休息時間が充分でない)
  • 浮上速度が速い

以上のような行動によって、窒素が充分に体外へ排出されないと減圧症のリスクが高まります。
スキューバダイビングを安全に行うためには、安全停止をしっかりと実施し、無理のない潜水計画を立てましょう。

どのような症状がありますか?

減圧症は窒素の気泡が生じた部位によって症状が異なり、重症度によってI型減圧症とII型減圧症に分けられています。
I型減圧症の方が軽症で、皮膚型と筋肉関節型(ベンズ)が含まれます。主な症状は皮膚・筋肉・関節のかゆみや痛みなどです。
II型はより重症で、呼吸循環器型(チョークス)・中枢神経型・内耳前庭型が含まれます。呼吸循環器型では胸部の痛みや呼吸困難、中枢神経型では四肢の麻痺や感覚障害などの症状が発生します。めまいや吐き気などの症状を呈する内耳前庭型はレジャーダイビングでの発生はまれです。II型の中で発生頻度が高いのが中枢神経型で、特に脊椎に気泡が発生する症例が多くなっています。
およそ30%〜60%の確率で後遺症が残るとの報告もあり、一刻も早い治療開始が不可欠です。症状はほとんどが水面に浮上してから6時間以内に発症します。ダイビング終了直後は症状が現れないことが多いので、体調に異変がないかを継続的に意識するようにしましょう。

減圧症になりやすい人の特徴を教えてください。

減圧症の一次的な要因として、体内に窒素が蓄積されてしまうことがあります。一方で窒素の過飽和とは直接の関係はないものの、減圧症リスクを高める要因がいくつかあります。以下のような要因に当てはまる場合は注意しましょう。

  • 疲労
  • 肥満
  • 潜水前後の飲酒
  • 脱水
  • 激しい運動
  • 月経

これら以外にも、ダイビング後に登山をしたり飛行機に搭乗したりして気圧の低い場所に行くと減圧症リスクが高まります。減圧症は疲労や脱水などの体調の変化によって引き起こされる場合もあるのです。スキューバダイビングを行う際は体調管理を怠らないようにしましょう。

減圧症の診断や治療法

問診する医師

減圧症はどのように診断されますか?

減圧症の診断基準は明確化されていません。症状・原因と思われる状況・既往歴・理学的所見(視診・触診・聴診など)を総合的に考慮して診断されます。
検査としては超音波検査やCT検査が一般的です。画像診断で体内の気泡が確認でき、減圧症を疑う症状や所見がある場合、診断確定となります。しかし、画像診断では気泡が確認できない場合も多いので注意が必要です。
減圧症は早期発見・治療開始が非常に重要となります。上述の各所見から減圧症が疑われる場合は、画像診断で気泡が確認できない場合や診断確定前でも治療が開始されることがあります。

どのような治療が行われますか?

減圧症の主な治療は「高気圧酸素療法」です。高気圧酸素治療装置(チャンバー)の中で高濃度の酸素を吸入する治療です。気泡化してしまった窒素を再溶解させ体内から排出させると同時に、血流が滞った部分に酸素を送る作用があります。1度の治療時間は約5時間程度で、重症度に応じて回数や継続期間が変わります。
減圧症では早期の治療開始が重要です。そのため、減圧症が疑われる場合は救急車での搬送中にも高濃度酸素の吸入が行われます。また、高気圧酸素治療装置がない医療機関ではフェイスマスクを用いて100%の酸素吸入を実施する治療法もあります。症状の拡大・重症化を防ぐため、一刻も早い治療開始が重要なのです。

減圧症の早期発見と予防方法

チェックポイントを示す人

減圧症を早期発見する方法は?

減圧症の早期発見には潜水中から体調に異変がないかをチェックしておくことが重要です。以下のような症状が現れた場合は直ちに救急車を呼ぶか専門医を受診しましょう。

  • 身体の痛みや痒み(皮膚・筋肉・関節)
  • 息苦しさや呼吸困難
  • 四肢の麻痺
  • めまいや吐き気
  • 意識障害

これらの症状以外にも、皮下に空気が溜まる・排尿ができなくなる・聴力に異常が生じるなどあらゆる症状が現れる可能性があります。特に聴力障害・めまいや吐き気・意識障害などは重篤な症状です。
減圧症は重症化すると命の危険もあります。ダイビング後に体調に異変を感じたらすぐに医療機関を受診しましょう。

減圧症の予防方法を教えてください。

減圧症の予防には、窒素の蓄積を抑えることに加え、減圧症リスクを高める要因を避けることが重要です。窒素の蓄積を抑えるためには次の事項を徹底しましょう。

  • 適切な潜水計画の下でダイビングを行う
  • 安全停止を適切に行う
  • 浮上速度が18メートル/分を超えないようにする

特に浮上速度については認知度が低く、体験ダイビングや初心者のダイバーが知らずに減圧症になってしまうことも考えられます。自分の身を守るためにも、正しい知識を身につけることが大切です。
また、減圧症リスク軽減のために、疲労が溜まっていたり体調が優れない時の潜水は避けましょう。ダイビング前には欠かさず水分補給をし、飲酒は避けます。水面休息を長くとり、充分に身体を休めるようにすると安心です。

何メートル以上潜ると発症の危険がありますか?

浮上速度やリスク要因などの条件によって、水深6メートルほどで発症する可能性もあります。レジャーダイビングでは20〜30メートルほどの水深まで潜ることができるため、常に減圧症のリスクを伴うともいえます。
体内で窒素が気泡化するプロセスは完全には解明されていません。そのため、どれほど気をつけていても減圧症を完全に防ぐことは難しいのが現状です。レジャーダイビングではつい夢中になって水深が深くなりがちですが、深度を常に意識して無理のない潜水を心がけましょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

レジャーダイビング人口は30万人を超えるといわれており、減圧症全体の20%がレジャーダイビングによるものです。重症化すると命の危険も伴うため、注意しましょう。
減圧症を完全に防ぐのは難しいですが、体調管理・ダイビングスキルの向上・正しい知識の習得でリスクを抑えられます。ご自身の身を守るためにも、今回ご紹介した予防方法の実践をおすすめします。
また、ダイビング後に少しでも体調に違和感がある場合は医師に相談しましょう。受診の際はログブックなど、ダイビング中の水深や潜水時間を記録したものを用意しておくとスムーズです。
レジャーダイバーの中には減圧症の知識が乏しいままダイビングを行っている方も多く見られ、非常に危険です。正しい知識を身につけ、減圧症から身を守りましょう。

編集部まとめ

海辺でリラックスする女性
スキューバダイビングは、水中世界を自由に楽しめる人気のレジャースポーツです。一方で、未熟な知識や技術は減圧症などの事故のリスクを高めます。

減圧症リスクを抑えるために、無理のない潜水と事前の体調管理を徹底しましょう。また、減圧症は気泡が発生する部位によって全身に様々な症状が現れます。

ご紹介した症状以外にも、体調に異変を感じたら速やかに医療機関を受診しましょう。急に体調が悪化することもあるので、ダイビング後は周囲の人ともお互いの体調に気を配っておけば安心です。

正しい知識を身につけて、より安全にスキューバダイビングを楽しみましょう。

この記事の監修医師