「TORCH症候群」を発症する原因や胎児への影響はご存知ですか?医師が監修!
TORCH症候群と聞いても、どのような病気なのか想像がつかない方も多いのではないでしょうか。
TORCH症候群とは妊娠中に母親がかかると母子感染を引き起こす恐れのある感染症の総称です。
感染した場合、母親が軽症でも子どもに障害が残ったり、流産につながったりする可能性もあるので注意が必要です。
一方で、事前の予防接種や些細な注意で防げる病気でもあります。ここではTORCH症候群について、症状や原因といった基本的なことから予防方法まで詳しくご紹介します。
TORCH症候群について正しい知識を身につけ、母子感染のリスクを減らしましょう。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
目次 -INDEX-
TORCH症候群とは?
TORCH症候群はどのような病気ですか?
- トキソプラズマ原虫
- 他の感染症(梅毒トレポネーマ・B型肝炎ウイルスなど)
- 風疹ウイルス
- サイトメガロウイルス
- 単純性ヘルペスウイルス
これらの病原体が母子感染を起こすことで、胎児の発達不良や流産の可能性が高まるだけでなく、後遺症につながることもあります。
どのような症状がみられますか?
ヘルペスウイルスは母体の皮膚・唇・性器などに痛みを伴う水ぶくれが発生します。無症状や症状が軽微で無自覚の場合も多い感染症です。
その他の感染症として、梅毒やB型肝炎が挙げられます。梅毒では性器や口内にしこりができる、手のひらや体中に発疹が発生するなどの初期症状がみられます。重症化すると複数の臓器に病変が生じるため、早期治療が重要です。
近年、梅毒は感染者数が増加傾向にあるため特に注意しましょう。B型肝炎は倦怠感・疲労感・食欲不振などの初期症状の後、悪化に伴って嘔吐や黄疸などが起こります。
TORCH症候群の原因となる病原体に感染した場合でも、ご紹介したように母体は軽症か無症状のことが多いです。体調の些細な変化を見逃さないようにしましょう。
TORCH症候群の胎児への影響を教えてください。
サイトメガロウイルスは低出生体重・小頭症などを引き起こし、年間1,000人ほどが発達遅延や難聴などの後遺症を残しています。母子感染を起こした場合に症状が現れる確率は25%前後ですが、数年経過してから難聴などを発症する例もあるので注意しましょう。
また、風疹の胎児への感染は3大症状といわれる心疾患・白内障・難聴に加えて、糖尿病・発育遅延などの症状を引き起こす場合があります。特に妊娠初期では発症率が高い傾向にあるため、注意が必要です。
単純性ヘルペスウイルスは妊娠中でなく、分娩時に産道で母子感染する可能性が高いのが特徴です。多くは皮膚疾患にとどまりますが、まれに脳障害などを引き起こします。
梅毒の母子感染は死産や早産を引き起こすことがあります。また、出生後数ヶ月から数年後に皮膚症状・難聴・歯や骨の病変などを生じることがあるため注意しましょう。
B型肝炎については、出生後の対策により90%以上の確率で感染を防げます。万が一感染防止がうまくいかなかった場合、将来的に慢性肝炎などの発症率が高まります。定期的な通院で体調の変化を見逃さないようにしましょう。
発症する原因を教えてください。
特にトキソプラズマやサイトメガロウイルスは妊娠中に初めて感染した場合に胎児への影響が大きいです。また、風疹は妊娠初期、ヘルペスウイルスは妊娠後期での感染に注意しましょう。
TORCH症候群の発症頻度はどのくらいですか?
また、サイトメガロウイルスは妊娠前に感染したことがあっても、妊娠中に再感染や再活性化を起こす場合があるため注意しましょう。その他の感染症の発生頻度は、いずれも10万出生あたり1症例未満となっています。
一方で、サイトメガロウイルスやトキソプラズマに関しては、実際はより多くの先天性感染児がいるとみられています。
これらの感染症は妊婦健診での感染症検査の実施率が低く、無症状や軽症の感染児を見逃してしまう可能性があるためです。妊娠中の体調や出産後のお子様の様子で気になる点があったら、早めに医師に相談しましょう。
TORCH症候群の検査と治療
どのような検査を行いますか?
胎児に先天性感染症の疑いがある場合、多くは出生後に臍帯血や尿などの検査が行われ、診断が確定されます。
また、胎児の症状や病原体の種類によってCTや眼の検査などが行われる場合もあります。
治療方法を教えてください。
なお、ヘルペスウイルスは出産直前に性器での症状がみられた場合、帝王切開での出産が選択される可能性があります。B型肝炎では母子感染予防のため、出生直後の新生児にB型肝炎免疫グロブリンという注射とB型肝炎ワクチンが同時に接種されます。
一方で先天性風疹症候群やサイトメガロウイルスには確立された治療法はありません。しかし、サイトメガロウイルスに対して抗ウイルス薬での治療を行っている医療機関もあります。ご心配の際は、母子感染についてより専門的な治療を受けられる医療機関を受診しましょう。
TORCH症候群の予防
TORCH症候群を予防する方法を教えてください。
サイトメガロウイルスは人の体液から感染します。特に小さな子どもの尿や唾液には多くのウイルスが含まれているため、家庭内での感染に注意しましょう。手洗いを徹底し、小さな子どもとの食事や食器の共有を避けるなどの対策でリスクを抑えられます。
単純性ヘルペスウイルスは妊娠後期の感染に注意が必要です。症状が現れている人との接触やタオルなどの共有は避けましょう。また、妊娠中の性交渉ではコンドームを使用し、感染リスクを抑えましょう。自覚症状がある場合はすぐに医師に相談し治療を行うことで、母子感染を防げます。
このように、手洗いや食事など生活の中での少しの注意でTORCH症候群のリスクを下げられるのです。
TORCH症候群はワクチンで予防できますか?
風疹ワクチンは1歳・小学校就学前の計2回の接種が基本です。しかし、2000年より前に生まれた方は2回の定期接種を受けていない可能性があります。心配な場合は抗体検査で抗体値を調べてみましょう。妊娠を望む女性やその家族は特に注意が必要です。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
また、TORCH症候群を引き起こす感染症では、多くの場合母体は軽症か無症状です。少しでも体調に違和感を持ったら受診することをおすすめします。
編集部まとめ
TORCH症候群の予防には事前の予防接種や感染対策が重要です。
特に風疹やサイトメガロウイルスは家族からの感染例も多く、予防には家族や周囲の理解も欠かせません。
妊娠中は、体にも心にも大きな変化が起こります。妊婦1人が不安を抱えすぎることの無いよう、周囲も一丸となって予防に努めましょう。