遺伝しやすい「アルポート症候群」の症状・発生率はご存知ですか?医師が監修!
アルポート症候群は遺伝しやすい病気です。発症者の90パーセントの方の家族が、腎臓に何らかの病歴があります。残りの10パーセントの方は、突発性の遺伝子異常と考えられてます。
アルポート症候群では血尿や蛋白尿といった症状が出るため、ご家族に腎疾患歴がある方は定期的な尿の検査が大切です。
難病に指定されているアルポート症候群はどのような病気なのか、遺伝性・症状・発生率・治療方法・経過などについて詳しく解説します。
監修医師:
竹内 想(名古屋大学医学部附属病院)
目次 -INDEX-
アルポート症候群の症状や発生率
アルポート症候群は遺伝するのですか?
- X染色体連鎖型:原因遺伝子はCOL4A5です。同症候群の患者全体に占める割合は全体の80パーセントを占めます。
- 常染色体潜性(劣性)型:原因遺伝子はCOL4A3、またはCOL4A4です。同症候群の患者全体に占める割合は15パーセントになります。
- 常染色体顕性(優性)型:原因遺伝子はCOL4A3、またはCOL4A4です。同症候群の患者全体に占める割合は5パーセントになります。
本症候群患者の90パーセントが家族に腎炎の病歴があり、遺伝したものと考えられます。残りの10パーセントの患者は家族に腎炎の病歴がなく、遺伝子の突然変異による発症です。
代表的な症状を教えてください。
- 慢性腎炎:多くの場合、幼少期から血尿が見られ、年齢が上がると蛋白尿も見られます。ゆっくりと腎機能が低下し、最終的に末期腎不全になります。
- 難聴:幼少期には見られませんが、男性のX染色体連鎖型の本症候群患者の80パーセントが10歳以降に発症します。女性の発症率は20パーセント程度です。
- 白内障・円錐水晶体:本症候群の合併症として発症し、男性のX染色体連鎖型の本症候群患者の30パーセント程度が発症します。女性はほとんど発症しません。
これら以外の合併症として「びまん性平滑筋腫」がありますが、発症は非常に稀です。
アルポート症候群の発生率はどのくらいですか?
しかし、「腎・泌尿器系の希少・難治性疾患群に関する診断基準・診療ガイドラインの確立」の研究班による調査で、日本に約1,200人の患者がいることが分かっています。この数字は全国の病床が200床以上ある病院、並びに必要と考えられる施設に勤務する小児科医・内科医にアンケートを実施した結果から導き出されたものです。
アンケートの回答率は約47パーセントで、患者数は515名でした。これらの数字から本症候群の疑いを含めた患者数は、1,200人程度と推計されています。
男性の方が重症化しやすいと聞いたのですが…
このため、男性はCOL4A5遺伝子の異常に強い影響を受け、重症化しやすい傾向があります。重症化を防ぐためには、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の服用が大切です。
アルポート症候群の診断や治療方法
何科を受診したらよいですか?
アルポート症候群はどのように診断されますか?
- 尿検査の異常
- 家族の腎臓病歴
- 腎生検での基底膜の特徴的な異変
- 4型コラーゲン遺伝子(COL4A5・COL4A3・COL4A4)の異変
- 進行性の難聴
- 円錐水晶体・水晶体脱臼・皮質部白内障の有無
これらの基準から本症候群と診断され、蛋白尿が見られる場合は可及的速やかに治療を受けてください。
治療する方法はありますか?
治療ではアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬を服用し、腎機能の低下を妨げます。末期腎不全まで進行してしまった場合は、血液透析・腹膜透析・腎移植といった代替療法を行います。
腎移植には生体腎移植と献腎移植があり、多くの場合に実施するのは親から子への生体腎移植です。献腎移植は移植を希望する患者数に対しドナー(腎臓提供者)数が少なく、移植を希望してから平均15年程度の待機期間が発生します。
このため家族からの提供が望める生体腎移植が、全腎移植の85パーセントを占めています。
アルポート症候群の経過や制限
アルポート症候群の経過について教えてください。
- X染色体連鎖型アルポート症候群:男性35歳、女性60歳
- 常染色体潜性(劣性)型アルポート症候群:男女共に21歳
- 常染色体顕性(優性)型アルポート症候群:男女共に60歳
難聴は10歳を過ぎてから発症し、徐々に進行します。重度の難聴になると、補聴器が必要になります。
日常生活を送るうえで制限などはありますか?
ただし、定期的な検査は必要です。また蛋白尿が発症している場合は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬を内服し、腎機能の低下を防いでください。
難聴が重症化すると、日常生活に不自由や危険が発生します。難聴が進んだ場合は、補聴器で聞こえる領域を確保しましょう。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
末期腎不全まで進行すると、血液透析・腹膜透析・腎移植といった腎代替療法が必要です。腎代替療法での生存率は非常に高く、多くの患者さんが腎代替療法を行いながら日常生活を送っています。
尿検査が本症候群の発見につながるケースが多いため、ご家族に腎疾患歴のある方は定期的な健康診断を受けてください。
編集部まとめ
アルポート症候群は遺伝性が高い疾患で、ご家族に腎疾患歴がある患者さんが全体の90パーセントを占めています。
X染色体連鎖型では、末期腎不全を発症する年齢の中央値は男性が35歳、女性は60歳と大きな開きがあります。
本症候群の原因となる遺伝子は、X染色体のCOL4A5・COL4A3・COL4A4です。女性にはX染色体が2本ありますが、男性は1本です。
このため男性は重症化しやすく、女性はあまり重症化しない傾向があります。
本症候群は根治的な治療方法がないため、発症すると一生付き合わなければなりません。根本的な治療方法の確立が今後の課題です。