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遺伝しやすい「アルポート症候群」の症状・発生率はご存知ですか?医師が監修!

 公開日:2023/06/18
遺伝しやすい「アルポート症候群」の症状・発生率はご存知ですか?医師が監修!

アルポート症候群は遺伝しやすい病気です。発症者の90パーセントの方の家族が、腎臓に何らかの病歴があります。残りの10パーセントの方は、突発性の遺伝子異常と考えられてます。

アルポート症候群では血尿や蛋白尿といった症状が出るため、ご家族に腎疾患歴がある方は定期的な尿の検査が大切です。

難病に指定されているアルポート症候群はどのような病気なのか、遺伝性・症状・発生率・治療方法・経過などについて詳しく解説します。

竹内 想

監修医師
竹内 想(名古屋大学医学部附属病院)

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名古屋大学医学部附属病院にて勤務。国立大学医学部を卒業後、市中病院にて内科・救急・在宅診療など含めた診療経験を積む。専門領域は専門は皮膚・美容皮膚、一般内科・形成外科・美容外科にも知見。

アルポート症候群の症状や発生率

医師 薬剤師 歯科医 白衣を着た男性

アルポート症候群は遺伝するのですか?

アルポート症候群(以降、本症候群と略します)は遺伝します。本症候群を発症させる遺伝子は、COL4A5・COL4A3・COL4A4の3つです。これらの遺伝子は、腎臓の糸球体を構成する重要な蛋白である4型コラーゲンの「α3鎖」「α4鎖」「α5鎖」をコードしています。本症候群は、遺伝形式により以下のように分類されます。

  • X染色体連鎖型:原因遺伝子はCOL4A5です。同症候群の患者全体に占める割合は全体の80パーセントを占めます。
  • 常染色体潜性(劣性)型:原因遺伝子はCOL4A3、またはCOL4A4です。同症候群の患者全体に占める割合は15パーセントになります。
  • 常染色体顕性(優性)型:原因遺伝子はCOL4A3、またはCOL4A4です。同症候群の患者全体に占める割合は5パーセントになります。

本症候群患者の90パーセントが家族に腎炎の病歴があり、遺伝したものと考えられます。残りの10パーセントの患者は家族に腎炎の病歴がなく、遺伝子の突然変異による発症です。

代表的な症状を教えてください。

本症候群の代表的な症状に、慢性腎炎・難聴・白内障・円錐水晶体があります。それぞれの症状を以下に解説します。

  • 慢性腎炎:多くの場合、幼少期から血尿が見られ、年齢が上がると蛋白尿も見られます。ゆっくりと腎機能が低下し、最終的に末期腎不全になります。
  • 難聴:幼少期には見られませんが、男性のX染色体連鎖型の本症候群患者の80パーセントが10歳以降に発症します。女性の発症率は20パーセント程度です。
  • 白内障・円錐水晶体:本症候群の合併症として発症し、男性のX染色体連鎖型の本症候群患者の30パーセント程度が発症します。女性はほとんど発症しません。

これら以外の合併症として「びまん性平滑筋腫」がありますが、発症は非常に稀です。

アルポート症候群の発生率はどのくらいですか?

本症候群の発生率は、海外での調査では約5万人に1人とされています。本症候群は希少疾患であるため、日本での正確な発症率は調査できていません。
しかし、「腎・泌尿器系の希少・難治性疾患群に関する診断基準・診療ガイドラインの確立」の研究班による調査で、日本に約1,200人の患者がいることが分かっています。この数字は全国の病床が200床以上ある病院、並びに必要と考えられる施設に勤務する小児科医・内科医にアンケートを実施した結果から導き出されたものです。
アンケートの回答率は約47パーセントで、患者数は515名でした。これらの数字から本症候群の疑いを含めた患者数は、1,200人程度と推計されています。

男性の方が重症化しやすいと聞いたのですが…

本症候群の80パーセントは、X染色体連鎖型でCOL4A5遺伝子の異常で発症します。女性のX染色体は2本です。1本のX染色体のCOL4A5遺伝子に異常があっても、もう1本のX染色体のCOL4A5遺伝子が正常である場合が多く、正常な遺伝子が症状の悪化を妨げます。男性のX染色体は1本です。
このため、男性はCOL4A5遺伝子の異常に強い影響を受け、重症化しやすい傾向があります。重症化を防ぐためには、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の服用が大切です。

アルポート症候群の診断や治療方法

様々な薬37

何科を受診したらよいですか?

本症候群は、内科または腎臓内科を受診してください。腎臓の障害が進行すると末期腎不全になり、血液透析・腹膜透析や腎臓移植が必要です。できれば一般の内科より、より専門的な腎臓内科の受診をおすすめします。

アルポート症候群はどのように診断されますか?

本症候群は、家族の病歴や腎生検の結果などにより診断されます。本症候群の診断基準は以下の通りです。

  • 尿検査の異常
  • 家族の腎臓病歴
  • 腎生検での基底膜の特徴的な異変
  • 4型コラーゲン遺伝子(COL4A5・COL4A3・COL4A4)の異変
  • 進行性の難聴
  • 円錐水晶体・水晶体脱臼・皮質部白内障の有無

これらの基準から本症候群と診断され、蛋白尿が見られる場合は可及的速やかに治療を受けてください。

治療する方法はありますか?

本症候群は、根治的治療法が確立されていません。治療目標は症状の進行を妨げ、末期腎不全を防ぐことになります。治療開始の時期は、血尿に加えて蛋白尿が検出され始める頃が一般的です。
治療ではアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬を服用し、腎機能の低下を妨げます。末期腎不全まで進行してしまった場合は、血液透析・腹膜透析・腎移植といった代替療法を行います。
腎移植には生体腎移植と献腎移植があり、多くの場合に実施するのは親から子への生体腎移植です。献腎移植は移植を希望する患者数に対しドナー(腎臓提供者)数が少なく、移植を希望してから平均15年程度の待機期間が発生します。
このため家族からの提供が望める生体腎移植が、全腎移植の85パーセントを占めています。

アルポート症候群の経過や制限

医師 薬剤師 歯科医 白衣とビックリ

アルポート症候群の経過について教えてください。

本症候群の経過は、始めは慢性腎不全になり、最終的には末期腎不全になります。末期腎不全になる年齢の中央値は、以下の通りです。

  • X染色体連鎖型アルポート症候群:男性35歳、女性60歳
  • 常染色体潜性(劣性)型アルポート症候群:男女共に21歳
  • 常染色体顕性(優性)型アルポート症候群:男女共に60歳

難聴は10歳を過ぎてから発症し、徐々に進行します。重度の難聴になると、補聴器が必要になります。

日常生活を送るうえで制限などはありますか?

腎機能に問題がなければ、特に日常生活の制限はありません。バランスのよい食事を摂り、十分な睡眠を心がけながら普通の生活を送ってください。
ただし、定期的な検査は必要です。また蛋白尿が発症している場合は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬を内服し、腎機能の低下を防いでください。
難聴が重症化すると、日常生活に不自由や危険が発生します。難聴が進んだ場合は、補聴器で聞こえる領域を確保しましょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

アルポート症候群は、指定難病218の希少疾患です。全国的に症例が少なく、根本的な治療方法がありません。治療は保存期管理と腎代替療法に分かれ、保存期管理では末期腎不全への進行を防ぐのが治療目標になります。
末期腎不全まで進行すると、血液透析・腹膜透析・腎移植といった腎代替療法が必要です。腎代替療法での生存率は非常に高く、多くの患者さんが腎代替療法を行いながら日常生活を送っています。
尿検査が本症候群の発見につながるケースが多いため、ご家族に腎疾患歴のある方は定期的な健康診断を受けてください。

編集部まとめ

医療イメージ
アルポート症候群は遺伝性が高い疾患で、ご家族に腎疾患歴がある患者さんが全体の90パーセントを占めています。

X染色体連鎖型では、末期腎不全を発症する年齢の中央値は男性が35歳、女性は60歳と大きな開きがあります。

本症候群の原因となる遺伝子は、X染色体のCOL4A5・COL4A3・COL4A4です。女性にはX染色体が2本ありますが、男性は1本です。

このため男性は重症化しやすく、女性はあまり重症化しない傾向があります。

本症候群は根治的な治療方法がないため、発症すると一生付き合わなければなりません。根本的な治療方法の確立が今後の課題です。

この記事の監修医師