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「子宮下垂」の原因・予防法・日常生活で注意することはご存知ですか?

 公開日:2023/06/12
「子宮下垂」の原因・予防法・日常生活で注意することはご存知ですか?

子宮下垂とは、子宮が本来あるべき位置から下に下がっている状態のことをいいます。

子宮は本来は骨盤の中に収まっている状態が正常な状態ですが、これが下降し腟に近い位置に下がったりしていることです。

一般的には、閉経を迎えた頃からこのような状態が起こることが多くなります。

ここでは、子宮下垂についてその原因・症状・検査・治療・予防方法などを、ご紹介していきましょう。

馬場 敦志

監修医師
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)

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筑波大学医学群医学類卒業 。その後、北海道内の病院に勤務。 2021年、北海道札幌市に「宮の沢スマイルレディースクリニック」を開院。 日本産科婦人科学会専門医。日本内視鏡外科学会、日本産科婦人科内視鏡学会の各会員。

子宮下垂の原因や症状

お腹に手を当てる若い女性

子宮下垂とはどのような状態ですか?

子宮下垂とは、子宮が正常な位置から下に下がってしまっている状態のことを指します。しかし、子宮の下降具合がごく軽い程度であれば、「無症状」つまり「自覚症状」がなく、産婦人科でなんらかの検診を受けた際に、「子宮下垂の症状が診られる」と指摘されて初めて気付くケースが多いです。
痛みもないことから、症状が軽い程度のときは産婦人科検診を受けない限り気付きにくいでしょう。稀に「外陰部に違和感」を感じたり、「圧迫感」を感じたりすることがあります。少しでもこのような状態を感じる場合は、産婦人科を受診しましょう。
子宮の下降のみでごく症状が軽い場合には、骨盤底筋を鍛える運動療法が効果的です。

子宮脱とは違うのですか?

子宮脱というのは、分かりやすくいうと「子宮下垂より症状が進んだ状態」のことを指します。具体的に、子宮下垂と子宮脱の違いを見てみましょう。

  • 子宮下垂:子宮が正常な位置より下降した状態
  • 子宮脱:外陰部より子宮の一部または全部が脱出した状態

つまり、子宮が腟より中にあるか外に出たかの違いでしょう。子宮脱になると、子宮の入口である「子宮腟部」という部分が顔を出した状態となります。
こうなってくると、子宮が外に出るだけでなく膀胱直腸の腟壁の部分も一緒に下がってくることがあり、腫瘤のようにみえ、「膀胱瘤」・「直腸瘤」といいます。

子宮下垂の原因は?

子宮下垂の原因は、子宮や膀胱・直腸などの骨盤臓器を支えている「骨盤底筋」の筋力低下や、支えている組織の脆弱化が原因です。
つまり、子宮を支える組織が弱くなり、弛緩してしまった状態のことをいいます。これは主に年齢的なことが関係しており、エストロゲンという女性ホルモンの一種が「減少」・「消失」するためです。
さらに、分娩時に胎児が骨盤を通るときに骨盤底が損傷したことによる性器脱(子宮脱)、その他には「肥満」・「手術」などが助長していることが原因と考えられます。分娩時の骨盤底の損傷による子宮脱は、分娩後すぐに起こるものではなく、多くは閉経を迎えた60歳頃に起こることが多く、その60代がピークです。

子宮下垂を放置するリスクを教えてください。

子宮下垂を放置するリスクとしては、子宮下垂の状態が酷くなると子宮脱へ移行してしまうことです。つまり、子宮下垂であるうちは骨盤底筋を鍛える運動療法が効果的です。(根本的器質的な改善は残念ながら見込めず。子宮下垂の進行を抑えたり、症状を改善する効果はあります。)
しかし状態が酷くなると子宮が腟から脱してしまう他に、膀胱や直腸までも一緒に下降して腟から脱してしまうなどのリスクが伴います。場合によっては、その脱出した部分が下着などにこすれ赤くなったり、おりものが増えたり、出血や化膿を起こす要因にもなっていくのです。
これは程度によりさまざまですが、排尿障害・排便障害の原因にもなるなど大きなリスクになります。こうしたリスクを防ぐためには、少しでもお腹や陰部に違和感があれば(子宮脱出感や卵がでてきた感じなどの主訴が多いです。)、産婦人科の検査を受けましょう。早めの受診で治療や手術などのリスクを防げることにもつながりますので、ぜひ定期的な検診を受けてみましょう。

子宮下垂の検査や治療

エコー検査

子宮下垂の検査について教えてください。

子宮下垂の検査はまず問診し、どのような症状があるのかなどを伺います。以降、検査の流れを見ていきましょう。

  • 問診:妊娠・出産歴・内服薬・既往歴・生活習慣など
  • 内診:診察台で腟鏡を使い、腟内のどの部位の下垂が起こっているか重症度の判定
  • 検査①:尿検査・尿流測定・残尿測定
  • 検査②:超音波検査・膀胱造影・MRIで、各臓器の下垂の評価
  • 治療①:骨盤底筋体操「子宮下垂の軽度(ステージⅠ~Ⅱ)の場合」
  • 治療②:ペッサリーリングと呼ばれる器具を腟内に入れ、子宮下垂を防ぐ(3~6ヶ月ごとに外来で交換が必要)
  • 手術:ステージⅡ以降の場合、手術が適用「臓器脱出の程度により、手術方式が異なる」

手術に関しては、術者の得意分野などから5つの術式から選ばれることが多いです。

  • 従来型メッシュ不使用(NTR)の手術
  • 経腟メッシュ(TVM)手術
  • 腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)手術
  • 子宮全摘
  • 腟壁形成手術
  • 腟閉鎖手術

この他に薬物療法として「漢方薬」・「女性ホルモン」などがありますが、効果は明らかになっていません。

子宮下垂はどのように診断されますか?

子宮下垂と診断するまでには、上記でご紹介したように問診から診察をし内診を行います。この内診は出産のときと同じ体位になり、クスコ(腟鏡)と呼ばれる器機を腟内に挿入し、どの臓器が下がっているのかを確認するのです。
このとき軽く力んでもらったり、咳をしてもらったりしてそのときの膀胱や尿道のゆるみがどれくらいかを確認することがあります。子宮下垂の診断は内診の段階でほぼ判明するので、子宮下垂の程度とその後の治療法が決定される流れになるでしょう。
内診では腟内を確認するだけですので、痛みなどはありません。

子宮下垂の治療方法は?

子宮下垂の治療の場合、ほとんどは自覚症状があってから受診されるため、そこから治療が行われるケースが多いようです。どのような治療になるかは、子宮下垂の程度によって治療内容も異なります。
もっとも子宮下垂の場合は、子宮が下に下がっているだけで特に他の臓器に下降傾向が診られないことや、特に自覚症状がないなどの場合があります。その場合、投薬や手術などの治療は要せず、「骨盤底運動」を定期的に行っていただく程度のものになることもあります。
本格的に治療が必要になってくるのは子宮下垂ではなく、もう少し症状が進んだ「子宮脱」に移行している場合に、その症状に合わせた治療法が行われるのです。とはいえ、子宮下垂でも運動だけでは改善しないなどの場合は再度内診を行い、今の症状がどの程度なのかを確認する必要が出てくるでしょう。
軽度の場合には、「骨盤底」を鍛える運動療法が効果的です。といっても、部屋の中で飛び跳ねたりするような運動ではありません。一例を紹介しましょう。

  • 仰向けに寝て脚は膝を曲げ、肩幅に開く
  • そのままの姿勢で、肛門と腟を締めたままゆっくり5つ数える
  • 5つ数えたら、力を抜く

これを繰り返すことで筋力が強くなり、閉め続けられるようになってきます。お風呂上がりのリラックスしているときに行うなど、生活の中に運動を取り入れるようにしてみましょう。

子宮下垂の予防や注意点

予防対策

子宮下垂を予防する方法はありますか?

これまで子宮下垂の軽度の場合は、「骨盤底運動」を定期的に行うことで筋力を鍛えられる効果が期待できると紹介しました。
これは改善が期待できるのでおすすめですが、一番の予防としては普段からあまり腹圧をかけるような動作をしないようにすることです。腹圧をかける動作の一例を挙げてみましょう。

  • 腹筋運動をする
  • トイレで強く力んで排便しようとする
  • 力仕事や重い物を持つ

これらの動作は日常生活で行いがちですが、軽度でも子宮下垂の診断をされた場合は、なるべくお腹に圧力をかけるような動作はしないように心がけることが重要です。

日常生活で注意するべきことは?

日常生活で注意すべきことは、前述したことも踏まえてもう1つ、肥満の方は要注意です。体重があまり増えすぎると、「子宮下垂」・「子宮脱」などの原因になります。それらの症状を和らげる治療(対症療法)によって、腹圧がかかるのを抑えられ、子宮脱や骨盤臓器脱を予防することにつながります。
肥満は、腰や膝にも大きな負担をかけますし、手術が必要になったときに手術の難易度が上がってしまいます。その上に下垂や臓器脱が起こると手術が非常に困難です。体重が増えすぎると健康面でも大きな問題になりますので、「子宮脱」の方で子宮だけでなく膀胱や直腸の下垂がある方には、なるべく脂肪量を減らすように指導されることがあります。
その他、慢性的に便秘であったり、咳・くしゃみが頻繁に出るなどの場合は、薬剤治療などで子宮脱・骨盤臓器脱などを予防することは可能です。子宮下垂で、ごく軽度のため「骨盤底運動」をする場合も決して自己流ではしないことです。医師の指導の下、運動を行うようにしてください。
自己流でやってしまうと、間違った運動法になってしまうことがあります。予防のためにやっているはずが、逆に悪化させることにもつながりますので、必ず医師の指導の下で行いましょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

子宮下垂になる女性の年齢層は、主に閉経を迎えた頃の60代がピークです。そして、妊娠・分娩の経験がある方によく診られる病気の1つになります。これは、それらの経験と年齢的にも筋力低下があるため、それと共に子宮下垂が起こりやすくなるのです。
分娩時でも、胎児が通るときに骨盤底を損傷して起こることもあります。しかし分娩後すぐではなく、閉経を迎えた頃に子宮下垂が起こるので、少しでも違和感を感じたら産婦人科を受診してみましょう。

編集部まとめ

女性の骨盤周り
女性の身体は高いリスクを負いながら妊娠・分娩などの大役を果たしています。

子宮下垂には、妊娠・分娩だけでなく、肥満・便秘・日常生活での動作なども関係してくることがお分かりいただけたかと思います。

なお、子宮下垂の改善策として「骨盤底運動」がおすすめであると解説しました。
まったく子宮下垂の心配がない方でも骨盤底筋を鍛えておくことは、将来的にも子宮下垂になるリスクを下げることにはなりますので、ぜひやってみてください。

この記事の監修医師