生命維持に欠かせない臓器の1つである肝臓の機能が失われることを「肝不全」といいます。
肝不全は、ウイルス感染・自己免疫疾患・アルコール摂取などが原因で引き起こされることが多いです。
急激に進行すれば、命に関わる恐れもある病気ですので、定期的な健康診断を受けることも重要です。
今回は、肝不全の特徴・肝硬変との違いや症状・原因・治療・食事療法・末期症状・余命について詳しく解説していきます。
プロフィールをもっと見る
名古屋大学医学部附属病院にて勤務。国立大学医学部を卒業後、市中病院にて内科・救急・在宅診療など含めた診療経験を積む。専門領域は専門は皮膚・美容皮膚、一般内科・形成外科・美容外科にも知見。
肝不全とは
肝不全はどのような病気でしょうか?
肝不全とは様々な原因によって肝臓の機能が失われた状態のことです。まず、肝臓は代謝や解毒など、人間の生命維持に欠かせない機能を担っている臓器です。肝不全では、肝臓がウイルス感染・自己免疫疾患・薬剤などによってダメージを受け、機能が阻害されてしまいます。また、肝不全には急性肝不全(劇症肝炎)と慢性肝不全(肝硬変)の2つに分類されます。劇症肝炎は急激に発症し、多臓器不全を起こすことが多いです。一方、肝硬変に伴う慢性肝不全では、自覚症状が現れない状態で病気が進行してしまいます。いずれにしても、病気が進行すれば黄疸・腹水・意識障害などが引き起こされることがあるため、適切な治療を受けることが重要です。
肝硬変と肝不全の違いを教えてください。
肝硬変とは、ウイルス感染やアルコールの摂取などによって慢性的に肝臓がダメージを受けることで肝臓全体が線維化し、硬くなってしまった状態のことです。肝硬変の合併症としては、食道静脈瘤や肝性脳症が挙げられます。一方、肝不全は何らかの原因によって肝臓の機能が失われた状態のことです。つまり、肝硬変が進行し、機能の低下が進むことで「肝不全」が引き起こされます。
肝不全の初期症状を教えてください。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるほど、自覚症状が現れにくい臓器といわれています。慢性腎不全の場合には、何十年もかけて徐々に肝硬変が進行していくケースが多いです。これは、肝細胞の
代替機能によるもので、一部がダメージを受けたとしても残っている正常な細胞が機能を維持します。そのため、症状が現れるのは代替機能が果たせないほど病気が進行してからです。慢性肝不全の症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 黄疸(眼球結膜や皮膚が黄色くなる)
- 腹水(お腹に水が溜まって大きく膨らむ)
- 肝性脳症(睡眠障害や意識障害が現れる)
- 食道静脈瘤(食道の静脈が腫脹し、破裂することで吐血などがみられる)
急性肝不全の場合には、発症から8週間以内のうちに見当識障害・異常行動・羽ばたき振戦などの特徴的な症状がみられるのが特徴です。羽ばたき振戦とは、腕や手を動かした際に手や指が震える症状を指します。急性肝不全の場合、発症から数週間以内に重篤な状態に陥ることが多いです。
発症の原因を教えてください。
肝不全を引き起こす主な原因は以下の通りです。
- ウイルス性肝炎
- 自己免疫異常
- アルコール性肝硬変
- 慢性心不全
- NASH(非アルコール性脂肪肝炎)
肝硬変の状態になると、肝不全のリスクだけでなく、肝がんを発症することも多いです。肝硬変になる前の段階で早めに発見し、治療を行うことが重要です。
肝不全の治療
肝不全の診断方法を教えてください。
急性肝不全の場合、風邪のような症状・倦怠感・食欲不振などの症状が現れ、8週間以内に肝機能が著しく低下します。特に、見当識障害・異常行動・羽ばたき振戦に加え、血液凝固因子が一定の値を下回った場合に確定診断となります。診断に加えて、原因を特定するための検査も重要です。一方、慢性肝不全の診断には、血液検査・腹部エコー検査・肝臓の繊維を確認するための肝生検・肝臓の硬さを確認するためのファイブロスキャンなどを行います。その他、腹水貯留の有無や肝性脳症の有無などを確認し、総合的に診断します。
どのような治療を行いますか?
肝不全の治療では、原因に合わせた治療を行うことが必要です。ウイルス肝炎が原因となっている場合には抗ウイルス薬を投与したり、自己免疫疾患が原因の場合にはステロイドを投与したりすることが一般的です。いずれにしても、肝臓への血流を良くするために安静を保つことが重要です。血圧の低下や呼吸状態の悪化などがみられる場合には、集中治療室で注意深く全身状態を管理することになるでしょう。一方、慢性肝不全では原因の治療とともに症状に応じた治療も行われます。例えば、腹水や浮腫がみられる場合には低アルブミン血症の治療が行われます。肝機能の低下によって不足したビタミンやミネラルなどを補うことが必要です。肝不全の改善が見込めない場合には、肝移植の適用となるケースもあります。
肝不全の食事療法について教えてください。
肝臓の機能が低下している場合には、バランスの良い食事を心がけるようにしましょう。また、食物繊維や消化しやすい食べ物を取り入れることも大切です。また、肝臓に負担をかける恐れがあるため禁酒することをおすすめします。その他、浮腫が強い場合には塩分を控え、水分を制限することもあります。食道静脈瘤がある場合には、刺激に強い食べ物や硬い食べ物を避けるようにしてください。肝不全では、患者さんの症状に合った食事療法を行う必要があります。かかりつけ医の指示に従いましょう。
肝不全の末期症状
肝不全は治りますか?
肝不全の原因を明らかにし、治療することで進行を防ぐことは可能です。先にもお伝えしましたが、ウイルスによる肝不全であれば抗ウイルス療法を行います。また、アルコールが原因で肝硬変となり肝不全の状態が引き起こされた場合には、禁酒する必要があるでしょう。しかし、慢性肝不全の状態でも感染症などによって、急性増悪が引き起こされる可能性も考えられます。急激に悪化すれば、命の危険に関わることもあるため注意が必要です。
肝不全の末期症状を教えてください。
末期になると、黄疸・腹水・食道静脈瘤・腹壁静脈怒張・浮腫・消化管出血・肝性昏睡など、全身に症状が現れるようになります。このような状況になってしまえば、肝移植を行う必要があるでしょう。急性増悪により多臓器不全のリスクが高まりますので、早急な治療が大切です。
肝不全と診断された場合の余命を教えてください。
肝硬変により肝移植の適用となった患者さんの移植後の生存率は、5年生存率が75%程度、10年生存率は66%程度です。移植が受けられれば、数年後も余命を維持できるでしょう。しかし、ドナーの不足により肝移植が受けられないケースもあります。また、慢性肝不全が何らかの原因によって急激に進行してしまう可能性もあるため注意が必要です。早期に適切な治療を受けることが大切です。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれていることからも分かるように、病気による症状が分かりにくい臓器です。気付かないうちに肝硬変が進み、肝不全が引き起こされることもあります。黄疸や腹水など、自覚できる症状が現れてから受診するのでは、治療が遅れてしまうことも多いです。体調に変わりはないと感じる場合でも定期的な健康診断を受け、早期発見に努めることを心がけましょう。
編集部まとめ
今回は、肝臓の機能が低下し、黄疸や腹水といった症状が現れる「肝不全」について解説しました。
肝不全は、自覚症状が現れた頃には病気がかなり進行していることが多いです。また、原因も様々ですので、ご自身で発症初期に気付くことは困難といえるでしょう。
病気が進行してしまえば、肝性脳症や食道静脈瘤などの合併症が引き起こされることもあります。
急性肝不全は、風邪のような症状・倦怠感・食欲不振などから始まることもあります。
体調に少しでも違和感を覚えるようであれば、無理をせずに様子をみることが大切です。
また、定期的に検査を受け、健康を維持していくことも重要です。肝不全に限った話ではありませんが、日頃からバランスの良い食事や規則正しい生活を心がけるようにしましょう。