「手根管症候群」ってどんな症状?発症した際にやってはいけないことも解説!
手首にまつわる疾患は、携帯電話を使うのが当たり前になってから慢性病になりつつあります。手根管症候群はそんな手首にまつわる疾患の1つです。
手根管症候群はキーボードをよく使ったり、手首を酷使したりといった仕事の方が多い疾患です。よく腱鞘炎と混同されますが、何が違うのでしょうか?
ここでは、手根管症候群の症状・原因・治療方法について解説します。放置した時のリスクや予防方法についてもご紹介しますので、参考にしてみてください。
監修理学療法士:
中原 義人(理学療法士)
肩腱板再建術に用いられる吸収性生体材料に関する生体力学的研究 臨床雑誌整形外科 54巻7号 (2003年7月)
手根管症候群の症状と原因
手根管症候群とはどのような症状なのでしょうか?
- 手根管症候群とは、手首の手のひら側にある正中神経がなんらかの要因で圧迫されることで発症する正中神経障害です。
- 手首には手のひらの感覚を伝える神経が通っています。その神経が圧迫されることにより起こるのは、手のひらの知覚障害・就寝中の疼痛・手のひら部分の痺れといった症状です。
- この症状に関わるのは正中神経のため、小指の周囲にはあまり症状がみられないのも大きな特徴です。他にも手首の放散痛・親指の付け根の筋萎縮(=母指球筋萎縮)も起こります。
- 初期状態では手首を最大まで曲げた状態で保持した際、手のひらに痺れ・疼痛が起こる場合に診断されます。
出産前後や更年期の女性に多いのですね…。
- 手根管症候群はほとんどが原因が特定できない特発性のものが多いですが、患者さんの割合は出産前後や更年期の女性が多いです。そのため、女性ホルモンが原因だといわれていましたが、女性しかならないというわけではありません。
- 骨折などのケガ・スポーツや仕事での手首の酷使でも発症します。手根管部分を絞めてしまう、または圧迫してしまうことでも起こるため、仕事中の事故で発症するケースもみられます。
- また、透析をしている患者さんが発症するケースもあるため、幅広い原因を考慮すべき疾患です。
手根管症候群の原因が知りたいです。
- 手根管とは、手首の骨と手根靭帯という手の靭帯に囲まれた部分のことをいいます。ここには指を曲げるために使われる腱と正中神経が通っています。
- 正中神経は親指から薬指までの手のひら側の感覚を支配する神経です。そのため、この神経が圧迫されると手のひらの親指から薬指までの間の感覚障害に陥ってしまいます。
- ケガ・骨折もしくは同じ作業を続けることによる手首圧迫によって引き起こされ、仕事でキーボードをよく使う方は、この部分を特に圧迫しやすいです。
- 透析をしている患者さんの場合は、横手根靭帯もしくは腱鞘滑膜にアミロイド沈着が起こることで発生します。
- この2つの靭帯・膜は手首にあるため、アミロイド沈着が起きて厚くなると正中神経を圧迫してしまいます。女性の場合は女性ホルモンが滑膜を厚くしてしまい、正中神経を圧迫することで発症しやすいです。
手根管症候群の検査内容や治療方法は?
手根管症候群の診断・検査はどのように行われますか?
- 手根管症候群の診断では実際に手首を曲げて痺れを確認する感覚検査で、どの部分が痺れるのか・どの部分の痺れが弱いのかを確認します。
- 丁寧に行うと、痺れの感覚は小指以外で起こることがわかります。
- 正中神経は親指から薬指までの感覚を司っています。そのため、丁寧に感覚検査を行うことによって手根管症候群かどうかがわかるのです。
- 客観的な神経障害の程度を確認するために、電気生理学的検査も行われます。
- もし手首に腫瘍ができており、それが神経を圧迫していると考えられる場合は、腫瘍に対してのエコー・MRIが行われることがあります。
治療方法を知りたいです。
- 主な治療方法は保存療法もしくは内視鏡手術です。保存療法では消炎鎮痛剤・ビタミン薬をはじめとした薬が処方されます。
- また、酷使した手首を休ませることも大事な治療の1つです。サポーターなどの装具で固定し手首の可動範囲を減らす場合もあります。
- 仕事・スポーツが原因と考えられる場合は、手根管を圧迫したとみられる動きを軽減することが必要です。滑膜や靭帯のむくみ・内出血が原因の場合には注射で液体を吸い出します。
- ステロイドの1種「ケナコルト」を注射する場合もあります。ただし、保存療法では不十分な場合もあり、必ず手術を回避できるわけではありません。
- 注射や投薬だけでは不十分である・筋萎縮が始まっている・腫瘍が原因の場合は手根管開放手術を行います。
手術になることもあるのですね…。
- 手根管症候群の手術では、手のひら側の手首から内視鏡を用いる鏡視下手根管開放術を行います。
- 手根靭帯や腫瘍など正中神経を圧迫している部分を切り離し、圧迫原因そのものを取り除くのが目的です。
- 以前までは手のひら下部から前腕を切り開く手術が主流でした。しかし現在で用いられるのは内視鏡手術なので、傷口も小さく日帰りで手術が行えることが特徴です。
- 固定を行う必要もないため、手術当日から手を動かすこともできます。
手根管症候群と分かったらやってはいけない事はありますか?
- まずは手首を酷使しないことが大切です。手首を酷使する仕事・動きを減らすことも治療になります。
- あまりにも症状がひどい場合は、装具をつけて固定することで強制的に手首を安静にするという治療法もあります。
- いずれにしても、手根管症候群の一番の治療法は手首を安静にすることですので、手首を動かしすぎないことを念頭に置きましょう。
完治までの期間を教えてください。
- 保存療法がとられる場合は、約3ヶ月程度様子をみます。それまでに回復しない場合は手術を行います。
- 安静にしていればすぐ治るのは、比較的軽症の方のみです。それ以外は3ヶ月以上はかかると考えたほうが良いでしょう。
手根管症候群のリスクと予防方法
手根管症候群によって後遺症などが残る場合はありますか?
- 保存療法で症状が改善されるほど軽症であれば後遺症は特に残りません。ただしすでに圧迫が重度になり、正中神経が傷つけられたり、母指球部分が筋萎縮を起こしていたりすると後遺症が残るリスクが高いです。
- 具体的には事故・ケガによる手根管症候群の場合です。これによりすでに正中神経の一部が切断やすり減りを起こしていると、手のひらの知覚障害・痺れ・疼痛が後遺症として残ります。
- また、親指を立てる動作(サムズアップ・OKサインなど)が難しくなることがあります。
手根管症候群を放置するリスクを教えてください。
- 手根管症候群の症状を自覚した場合は、手首を酷使する作業をやめて安静にすれば症状の進行は和らぐでしょう。それでも続くようなら受診をする必要がありますが、急激に症状が進行することはありません。
- しかし症状を放置したまま手首を酷使し続けると、さらに正中神経を圧迫し、より深刻なダメージに発展する場合があります。
- 手術が必要になったり、後遺症が残ったりする場合があるため、手のひらの痺れを感じたら手首を安静にするようにしてください。
手根管症候群の予防方法があれば知りたいです。
- 特発性の場合、予防方法はありません。ただし、作業などが原因による手根管症候群の予防は可能です。
- 仕事柄手首をよく使ったり、スポーツで手首を酷使したりといった発症リスクが高い方は、意識的に手首を休ませることが大切です。
- 重いものを持つ場合の手首への負担も避けましょう。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
- 普段仕事で手首を使う方や手のひら側の手首を圧迫してしまいがちの方には、手根管症候群がとても身近な疾患になります。
- 手首を酷使してしまったなと思ったらまず手首を休ませましょう。
- またリストパッドや姿勢の改善でも予防は十分にできます。ただし、特発性の場合手根管症候群は予防ができません。
- もし手首を酷使するなどの原因がないのに手のひらの痺れが起きる場合は、必ず医師の診察を受けるようにしてください。
編集部まとめ
手根管症候群は、特発性のものと手首を酷使するもしくは外傷性のものがあります。手首を酷使することが原因の手根管症候群は、手首を適度に休ませることで予防できます。
特発性のものは、女性ホルモンや透析療法が原因の場合が多いです。そのため、特に仕事で手首を酷使していないのに手のひらの痺れがある場合は様子を見て受診してください。
いずれの場合も軽症であれば保存療法で症状が改善されます。もし手術を行う場合でも、内視鏡手術になるため日帰りになることが多いです。
だからといってあまり放置せず、手首は酷使しすぎないようにしましょう。たまには手首を休ませることが大切です。
参考文献