「舟状骨骨折(しゅうじょうこつこっせつ)」はどれくらいの期間で治るかご存知ですか?
更新日:2023/03/27
転んで手をついてしまったとき、比較的骨折しやすくしかも骨折の判断がしにくいのが舟状骨(しゅうじょうこつ)骨折です。
舟状骨骨折は捻挫だと考えて放置してしまうことで、偽関節(骨がつかず関節のようになる)になることも少なくありません。
今回はこの舟状骨骨折について解説していきましょう。治療期間や後遺症についてもお答えしています。
スポーツなどでの転倒や衝撃で起こりやすい骨折なので受診の参考にしてください。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。
目次 -INDEX-
舟状骨骨折の症状と原因
舟状骨骨折の症状を教えてください。
- 転倒し手を背屈してついたときに舟状骨が折れてしまうもので、急性期には親指側の手首に腫れや痛みを感じます。急性期を過ぎるとひどい痛みはなくなるので、捻挫だろうと自己判断しがちです。
- 放置してしまうと偽関節になってしまう可能性もあり、手首に痛みが出て力が入りにくいなどの支障をきたす場合も多いのです。
- 初期段階では強い痛みや腫れが感じられないことが、放置してしまう原因でもあります。
舟状骨骨折を引き起こす原因は何ですか?
- スポーツや事故などで、強く手のひらをついた形で転倒したときに舟状骨骨折を起こしやすいです。特にサッカー選手などに多い骨折ともいわれます。
- 試合中に激しく転倒したときに有頭骨と橈骨茎状突起(とうこつけいじょうとっき)に圧迫されて舟状骨を骨折しやすいことが原因です。
- 通常、転倒して手のひらをついた場合は橈骨遠位端骨折が起きやすいのですが、スポーツ中に勢いよく転倒したときには舟状骨骨折が発生しやすいのです。
舟状骨骨折は10代・20代がなりやすいと聞いたのですが…。
- スポーツ中の骨折の約半数がこの舟状骨骨折ということから、10代後半から20代の若い年代がなりやすい骨折といえるでしょう。この年代に激しい転倒によって有頭骨と橈骨茎状突起が衝突して舟状骨が骨折する可能性が高いからです。
- その場合、特に多い骨折部位は腰部といわれるくびれの部分です。舟状骨には指先からの血行があり、くびれの部分が骨折することで血行不全が起きやすくなります。
- そのために偽関節になりやすい骨折でもあるのです。10代・20代の若い年代では、痛みや腫れを我慢したり捻挫だと思い放置したりして偽関節になってしまうことが多いので特に注意が必要です。
舟状骨骨折の検査方法・治療方法
舟状骨骨折の検査内容を知りたいです。
- 検査としては、まずX線検査が行われますが、それだけでは舟状骨骨折を見逃す場合があります。そのためにCT検査・MRI検査を併せて行うことが多いです。
- また舟状骨骨折の目安となる、母指を伸展させたときに手首にできるくぼみ「解剖学的嗅ぎタバコ入れ」部分の痛みや腫れにも注意が必要です。
- 舟状骨骨折は急性期には痛みや腫れがありますが、さほどひどくないことや一時的に痛みが軽減することなどから捻挫と自己判断してしまいがちです。
- そのため発見が遅れて治癒するのが遅くなり、偽関節になってしまうことが多い骨折です。
- 転倒して手のひらを強くついて痛みや腫れが少しでもあるときは、できるだけ早く受診してください。
舟状骨骨折の治療方法を教えてください。
- 治療方法には手術と保存療法があります。特にずれのない骨折で早期の場合にはギプス固定を行うこともありますが、その際の固定は長期間にわたります。舟状骨は骨折ではつきにくい骨といわれるため長期間かけても骨の癒合がみられないこともあるのです。
- そこで最近では特殊なネジ(スクリュー)で固定する方法が取り入れられています。固定用のスクリューの開発も行われており、日常生活も比較的早く通常に戻れるようになるため、若い方には有効的な治療方法です。
- また若い方だけでなく、高齢の方にも長いギプスによる手首の拘縮を防ぐためにも勧められる治療方法でもあります。必要に応じてボルタレン・ロキソニンなど鎮痛薬が処方されます。
治療にはどのくらいの期間がかかりますか?
- 通常、ギプス固定での保存療法の場合は6週間〜12週間ほどかかりますが、特殊なスクリューを利用し固定した場合には期間を短縮することが可能です。
- できるだけ日常生活に支障をきたす期間を短くすることは若い方にも高齢の方にも必要なので、スクリュー固定での治療も多くなりました。ただその場合でも完治までにはリハビリを含めてかなりの期間がかかると考えてください。
- 早い時期から無理に動かすことは再び骨折のリスクがあるので決して焦らず、しっかりと治すことが大切です。もしも偽関節になってしまった場合は手術が必要となります。
手術は必要でしょうか?
- ギプス固定の場合は特に手術の必要はありませんが、スクリュー固定の場合は1cmほど切開しスクリューで固定する手術を行います。比較的簡単な手術で早めに日常生活を送ることが可能になるため、さまざまなスクリューが開発され利用されています。
- またギプス固定で骨の融合が長期間かけても認められない場合は手術でスクリュー固定を行うことも多いです。
- 骨の欠損がある場合・偽関節になってしまった場合は、骨移植の手術が必要なこともあります。
舟状骨骨折の予後
舟状骨骨折を放置するとどうなりますか?
- 舟状骨骨折は骨折が見つけにくいことに加えて、初期症状としての痛みや腫れがそれほどひどくないため捻挫だろうと放置しがちです。舟状骨骨折を放置してしまうと偽関節になってしまいます。
- 偽関節とは骨がつかずに関節のように動くことをいいますが、偽関節になると手首の痛みや運動機能の低下などが起ります。
- 偽関節になった場合は手術が必要になるので初期段階でレントゲン検査だけでなく、CT検査・MRI検査を行い骨折の有無をはっきりとさせることが大切です。
後遺症が残ることもあると聞いたのですが…。
- 舟状骨骨折の後遺症として、偽関節となることが挙げられます。また骨折部分が変形したまま治癒してしまうこともあるので注意が必要です。この場合も偽関節同様痛みが長く続き、手首を動かすことが難しくなります。
- 舟状骨の血流は不安定になりやすく、虚血性壊死を引き起こすこともあります。いずれの場合も手術が必要となることが多いです。
- ギプスで固定し骨折は治癒したものの、手関節部が拘縮して固まってしまい動かしにくくなったというケースもあります。
手術とギプス固定で治療後の経過に違いはありますか?
- ギプス固定では6週間〜12週間というほど固定する期間が長くかかります。ギプスが取れた後もリハビリで筋力の強化や可動域を広げる必要があるのです。そのためギプス固定ではやはり完全治癒までかなり長い期間を要します。
- 特に若い方は1日でも早く仕事に復帰したいと希望することが多いので、その場合には手術でスクリュー固定を行います。
- 手術を行った場合は4週間ほどの固定で日常生活が可能になり、4ヶ月〜5ヶ月でスポーツにも復帰できるでしょう。通常の生活・パソコン作業・車の運転などは手術を行うことで比較的早く可能となります。
- このような臨床経過の違いが主なものですが、合併症や後遺症が起こりやすい骨折なのでどちらにしてもしっかりと医師に相談して決めることが大切です。
家族が舟状骨骨折になった場合、どのようにサポートしたら良いでしょう?
- 家族がスポーツの試合中などに転倒して舟状骨の骨折が疑われる場合は、まず受診して骨折の有無をしっかりと確認しましょう。ギプス固定になったときは早いうちに固定を外さないように見守ってください。
- 若い方の場合は手術でスクリュー固定をして早めの復帰を希望することも多いので、無理なく復帰できるようにサポートが必要になります。
- また高齢の方の転倒でも舟状骨骨折となる可能性があります。痛みが少なくても受診して骨折していないかを確認してください。
- また高齢の方の場合は長くギプス固定をすることで手首が固まってしまい動かしにくくなる場合もあるので、スクリュー固定を希望される方がよいでしょう。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
- 舟状骨骨折は10代〜20代後半の若い方に多い骨折です。舟状骨はその場所や角度から骨折線がレントゲンに写りにくいのです。そのため骨折を見逃してしまうことも少なくありません。
- 転倒したときに手のひらを強くつき、腫れや痛みがある場合には舟状骨骨折の可能性が高いです。捻挫だと自己判断せず、必要ならCTやMRIの検査をして骨折所見があるかどうかの診断をあおぎましょう。
- 放置すると手首の痛みが続き、動かしにくくなる偽関節になることも多いです。舟状骨骨折は治りにくい骨折ではありますが、最近ではスクリューの開発も進んでいます。
- スクリュー固定で比較的早い時期に日常生活が行えるようになっています。骨折を疑う場合は早めに受診してください。
編集部まとめ
骨折の中でも骨がつきにくい舟状骨骨折は、スポーツなどの転倒で起こる確率の高い骨折です。
レントゲンで確認しにくい骨折でもあるため見逃してしまうこともあり、治癒が遅れたり骨の壊死や偽関節になったりと合併症も多いです。
強く手をついた転倒では、痛みや腫れがそれほどひどくなくても舟状骨骨折している可能性があるのでしっかりと確認することが大切になります。
くれぐれも自己判断で骨折を見逃してしまうことのないように、早めの受診をおすすめします。
参考文献