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「合併症」の可能性もある「掌蹠角化症(しょうせきかくかしょう)」はご存知ですか?

 更新日:2023/03/27
「合併症」の可能性もある「掌蹠角化症(しょうせきかくかしょう)」はご存知ですか?

皮膚の病気の中には、手のひらや足の裏の皮膚が厚くなり硬くなる掌蹠角化症という疾患があります。

掌蹠角化症は症例数が少なく珍しい疾患であるため、病名を初めて耳にする方も少なくないかもしれません。

遺伝性の皮膚疾患である掌蹠角化症は様々な種類があり、疾患によっては命に関わる合併症を伴うケースもあります。

また、手足の多汗や悪臭など生活においてストレスを伴う症状があらわれるケースも多く、注意すべき疾患の1つです。

掌蹠角化症がどんな病気なのか、原因・症状・治療方法など詳しく解説いたします。

松澤 宗範

監修医師
松澤 宗範(青山メディカルクリニック)

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2014年3月 近畿大学医学部医学科卒業
2014年4月 慶應義塾大学病院初期臨床研修医
2016年4月 慶應義塾大学病院形成外科入局
2016年10月 佐野厚生総合病院形成外科
2017年4月 横浜市立市民病院形成外科
2018年4月 埼玉医科総合医療センター形成外科・美容外科
2018年10月 慶應義塾大学病院形成外科助教休職
2019年2月 銀座美容外科クリニック 分院長
2020年5月 青山メディカルクリニック 開業
所属学会:日本形成外科学会・日本抗加齢医学会・日本アンチエイジング外科学会・日本医学脱毛学会

掌蹠角化症はどんな病気?

眠っているこどもの手

掌蹠角化症はどんな病気ですか?

手のひら・足の裏の皮膚の角質が分厚く硬くなる疾患です。生まれた時から症状があったり幼少期から症状が生じたりする先天性のものから、成人してから生じる後天性のものまで、掌蹠角化症にはたくさんの種類があります。
先天性は、難聴・免疫異常などを伴う症候性と非症候性に分類されます。幼少期に発症する遺伝性の先天性タイプが割合として多いです。また、過角化の性状と分布からびまん性・局所性・線状・点状・transgrediens を示すもの・指趾の絞扼輪を伴うものなどに分類されます。
日本では、びまん性の長島型掌蹠角化症が圧倒的に多いです。長島型掌蹠角化症の原因となる遺伝子変異を持った人はアジア人に多く、日本では約1万人の長島型掌蹠角化症患者がいるといわれています。

原因を知りたいです。

先天性の掌蹠角化症の原因は、遺伝子の異常と考えられており、原因遺伝子が判明しているものは以下の通りです。

  • Vörner型(Unna-Thost型を含む):KRT1・KRT9の変異
  • 長島型:SERPINB7変異
  • 限局性:KRT6C変異・DSG1変異
  • 点状:AAGAB変異
  • Mal de Meleda:SLURP1変異
  • Bothnian型:AQP5変異
  • Clouston症候群:GJB6変異
  • Cowden病:PTEN変異
  • Papillon-Lèfevre 症候群:CTSC変異
  • ミトコンドリア DNA変異による難聴を合併する掌蹠角化症:遺伝性を示す場合は、母親からのみ遺伝する母系遺伝
    • 生後~3歳までのうちに症状が現れてくる先天性の長島型掌蹠角化症では、SERPINB7の変異が原因遺伝子であることが明らかとなりました。SERPINB7は、たんぱく分解酵素を阻害する働きがある分子です。
      つまり長島型掌蹠角化症患者の皮膚では、本来あるべきたんぱく分解酵素の働きを抑えるブレーキが壊れていると考えられます。しかし、たんぱく分解酵素の働きを止める遺伝子変異によって、なぜ症状が発生するのかはまだ明らかになっていません。現在も研究が進められています。
      このほかにも、Unna-Thost型掌蹠角化症ではKRT1・KRT9遺伝子の変異、先天性爪甲厚硬症ではKRT6A・6B・6C・16・17遺伝子の変異が原因です。掌蹠角化症は、ケラチンと呼ばれるタンパク質が皮膚の角化に関連しているとも考えられています。遺伝子変異によってケラチンの異常が生じたことが、手のひら・足の裏の皮膚が角化するこの疾患の原因の1つと考えられます。

先天性と後天性ではどんな違いがありますか?

先天性と後天性の大きな違いは、原因が遺伝性のものかそうではないかです。症状だけで先天性・後天性を判断することは難しく、先天性・後天性の違いで症状が大きく異なるというわけではありません。
遺伝性の先天性掌蹠角化症は皮膚症状のみの場合が大半ですが、稀に他臓器症状を伴う場合があります。
後天性掌蹠角化症は、更年期女性に生じる更年期角化症薬剤性悪性腫瘍(がん)甲状腺機能低下症に伴い症状が発生する場合があります。

合併症について教えてください。

掌蹠角化症の中には、皮膚症状に加えてがんなど臓器の異常を伴う遺伝性疾患があります。合併症の内容は、掌蹠角化症の種類によって様々です。

  • パピヨン・ルフェーブル症候群:歯周病・易感染性
  • 点状掌蹠角化症:悪性腫瘍
  • 指端断節性掌蹠角化症・線条掌蹠角化症:難聴
  • ナクソス病:心筋症・心肥大
    • このほかにも疾患によっては、皮膚がん食道がん拡張型心筋症肢端骨溶解症好酸球性食道炎などの合併症を稀に起こす場合もあります。
      掌蹠角化症そのものは、生命に関わらない疾患です。しかし、悪性腫瘍・心筋症などの合併症が重篤になると生命に関わるため注意が必要な皮膚の病気といえます。

掌蹠角化症の症状と治療

クリームをつけた指先

掌蹠角化症の症状を教えてください。

主な症状は、手のひら・足の裏の皮膚の角質が厚くなり硬くなることです。皮膚が硬くなるパターンは、大きく分けてびまん性・限局性・点状の3つに分類されます。手のひら・足の裏の皮膚の角質が厚くなるという点は共通していますが、掌蹠角化症の種類によって症状に違いがある点が特徴です。
ウンナ・トスト型では、指趾の拘縮爪甲の変化多汗水虫などの症状がみられる場合もあり、悪臭を放つケースもあります。長島型掌蹠角化症は、手のひら・足の裏の多汗を伴うことが多く手足の悪臭足白癬が症状としてみられるケースが多いです。
また、水に浸けると短時間で患部が白く変化する点も特徴です。
手足の角質が硬くなるだけではなく爪甲の肥厚がみられる先天性爪甲厚硬症は、痛みを伴う特徴があります。

何科を受診すれば良いのでしょうか?

掌蹠角化症は、皮膚の病気です。手のひら・足の裏の角質が著しく厚くなったり硬くなったりする症状がみられる場合は、まずは皮膚科を受診しましょう。

治療方法を知りたいです。

掌蹠角化症は症例数が少ない疾患です。そのため、エビデンスレベルの高い治療方法はまだ確立されていません。現在有効とされている治療方法には、外用療法皮膚切削術内服療法が挙げられます。
外用療法は、治療方法の中で最も一般的な治療方法です。サリチル酸ワセリン・尿素軟膏などの角質をやわらかくする性質を持つ薬を患部に塗ります。症状が重い場合は、レチノイドを内服する場合もあります。皮膚の角化が著しく手足の角質の厚み・硬さが強い場合は、コーンカッター・カミソリなどで肥厚した角質を除去する外科的な治療を行う場合もあります。
また、多汗・手足の匂いを気にされる患者さんも多いです。そのため、匂いの原因となる細菌の繁殖を抑えるために抗菌クリームを塗る場合もあります。ほかの治療法として研究・ 開発段階ですがsiRNA やスタチン製剤も注目されています。

掌蹠角化症のリスクと注意点

【切抜PSD】指差す男性医師

掌蹠角化症は治るのでしょうか?

先天性の場合、根治的な治療法はまだ確立しておらず、一概に治る疾患とはいえません。対処療法にて症状を和らげながら、根気強くケアしていく必要があります。
一方で、後天性の場合は原因の除去や原因疾患の治療により、症状の改善や根治が期待できます。

放置するリスクはありますか?

先天性掌蹠角化症は、加齢に伴って症状が少しずつ悪化する可能性が高いです。そのため、症状があるにもかかわらず放置することは症状が重症化していくリスクにつながります。
また、掌蹠角化症は合併症を引き起こす場合もあります。合併症の内容によっては命に関わるものもあるため、放置しておくことは避けるべきです。
命に関わらなくても、症状の進行によって手足の変化・多汗による悪臭などで不便さストレスを感じる可能性も高いです。「単なる皮膚の異常だから」「命に関わらないから」と放置するのは避け、症状がみられる場合は早めに専門医に相談しましょう。

掌蹠角化症で注意すべきことを知りたいです。

掌蹠角化症は、稀に重篤な合併症が伴う疾患です。そのため、がん・心筋症などの命に関わる合併症を見落とさないことが重要です。発症が疑われる場合は、手足の病変だけではなく全身疾患の1つの症状として捉えていくことが必要になります。
また、日本では先天性掌蹠角化症が多く、大半の場合が生後間もない頃から2~3歳の間に症状がみられます。幼い子どもが、自分で手足の変化に気付き申告することはあまり考えにくいことです。そのため、保護者が子どもの手足をしっかり観察し、病変に気付くことも大切です。

最後に、読者へメッセージがあればお願いします。

掌蹠角化症は幼い頃に発症することが多く、長い間付き合っていかなければいけない疾患ともいえます。そのため、「どうせ治らないから」と通院や治療を諦めてしまったり放置したりする患者さんもいます。
しかし、掌蹠角化症の中にはリスクの高い合併症を引き起こすものもあるため、根気強く適切な治療を続けていくことが大切です。早期の診断・治療が、合併症予防につながる場合もあります。掌蹠の肥厚など掌蹠角化症が疑わしい場合は、早めに皮膚科・専門医に相談しましょう。

編集部まとめ

手をつなぐ親子
掌蹠角化症は珍しい疾患です。しかし、遺伝子の変異によって起こるため、掌蹠角化症になる可能性は誰にでもあります。

また、まだ解明されていない部分も少なくなく、根治的な治療方法がまだ確立されていない疾患でもあります。

だからこそ、放置せず異変を感じたら早めに対応することが大切です。適切な処置を続けていくことがリスクの高い合併症予防にもつながります。

また、乳児・幼児の間に発症することが多い疾患です。子を持つ親御さんはお子さんの手足の変化に注意していきましょう。

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