「オスラー病」とは?症状・原因・何科を受診するべきか解説!【医師監修】
オスラー病は指定難病227番に指定されていながら、医師や病院関係者の知名度が著しく低いとされる難病です。
欧米では1万人に1人、日本では7,000〜8,000人に1人程度が発病すると報告されています。現代ではもう少し少ないとされ、日本には約1万人の患者がいるともいわれています。
オスラー病は血管奇形を発症することで、様々な臓器から出血するのが特徴です。けがなどによる通常出血と区別するためにも、きちんと知識をつけておくといいでしょう。
今回の記事では、オスラー病の概要や原因・検査法・治療法などの基本的な情報をまとめて解説していきます。
またオスラー病を発症した場合に気を付けるべきことなどもご紹介しますので、万一の時にはぜひ参考にしてください。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
オスラー病の特徴
オスラー病とはどのような病気か教えてください。
- オスラー病とは、遺伝子異常により血管の奇形が発生する病気です。別名「遺伝性出血性末梢血管拡張症」とも呼ばれます。通常、血管は動脈→毛細血管→静脈という流れを作ります。勢いのある動脈血は毛細血管を通る間に減速し、静脈では比較的ゆったりと流れているのが正常な状態です。
- ところがオスラー病ではこの毛細血管が欠損・拡張していたり、重度の場合では動脈が直接静脈につながる「動静脈瘻」という奇形が発生したりします。これにより血液の勢いが強いまま静脈に流れ込み、血管破裂や血流異常を起こす病気です。
オスラー病の代表的な症状が知りたいです。
- オスラー病では、患者の8〜9割が鼻出血を頻発するといわれます。毛細血管の集まる部位である鼻粘膜は、もともと出血しやすいためです。オスラー病による鼻出血は10歳までに4割ほど、20歳までに8割ほどの確率で出現する比較的若いうちの症状といえます。
- また鼻・指先・口腔内などに点状・網状・蜘蛛の巣状の毛細血管拡張(赤色のうっ血)を生じるのも特徴です。こちらは40歳ごろまでに発症するといわれます。消化器官・肺・肝臓・脳・脊髄などの血流が多い部分や神経系に大きくかかわる部分で血管奇形が発生すると、最悪の場合は脳梗塞や心疾患などにつながる恐れもあります。
原因について教えてください。
- オスラー病は遺伝性疾患です。原因遺伝子としてはENG(エンドクリン)、ACVRL1(ALK1)、SMAD4が知られています。この原因となる遺伝子が親から子へ受け継がれると、発症の可能性があるということです。前述のように、オスラー病が発症すると血管奇形が起こります。直接的に悪性の物質が発生するわけではなく、この血管奇形による血流異常が様々な症状の原因です。
- 現代では遺伝子そのものに対する治療や対処は確立されていませんが、各症状の原因となる血管奇形に関しては様々な治療法が検討・実施されています。
遺伝子が関係するのですね・・・。
- オスラー病の遺伝形式は常染色体優性遺伝と呼ばれ、通常であれば親から子へ50%の確率で遺伝します。今のところ、男女差については特にみとめられません。実際の患者数は報告によりばらつきがあるため正確にはわかりませんが、遺伝子を持つからといって全員が発症するわけではありません。前述のようにおよそ8,000~1万人に1人の確率で現れるともいわれますが、治療の必要な患者はそれよりも少ないとされます。
- 親や近い親戚にオスラー病の方がいる場合、もしもの場合の選択肢として覚えておくことは必要ですが、過剰に恐れる心配はないといえるでしょう。
オスラー病は何歳から発症しますか?
- オスラー病の発症時期や症状にはばらつきがありますが、特に鼻出血の頻発などは10歳に満たないうちから発生します。反対に、多くの症状は40歳までには発症すると考えられています。
- 遺伝的な因子を持っていた場合、比較的若い時期に発症する病気と考えていてよいでしょう。
オスラー病の検査や治療
オスラー病が疑われる場合、何科を受診すれば良いですか?
- オスラー病では、遺伝子的な観点から根治的治療をすることはできず、また悪性の病原体が存在するわけでもありません。あくまで血管異常の弊害として様々な症状が起こります。そのため、鼻出血であれば耳鼻咽喉科、消化器官等の出血であれば消化器内科、肺出血なら呼吸器内科など、症状に合わせて受診先を選ぶ必要があります。
- まれに「オスラー病外来」を備えているような大病院も(例:北海道大学病院)ありますが、さほど数は多くありません。知識のある医師であれば、病状やMRIの結果などから判断・対処ができるのがオスラー病です。
- 基本的には、出血を伴うような症状をみとめた場合は、病変部位に合わせて速やかに最寄りの医院やかかりつけ医を受診するようにしましょう。
検査方法を教えてください。
- オスラー病には、症状や検査結果に基づき自己チェックを行える項目が存在します。
- 鼻出血(自然かつ反復性であること)
- 皮膚粘膜の毛細血管拡張症 (口唇、口腔、手指、鼻など)
- 内臓の血管病変 (胃腸の毛細血管拡張、肺・脳・肝臓・脊髄などの動静脈奇形)
- 家族歴 (親子兄弟にオスラー病と診断された人がいる)
- 上記4項目のうち、3つ以上当てはまれば確実・2つならば疑いの余地あり・1つならば可能性は低いと判断します。成人患者に関しては、病院での検査と上記の項目チェックにより、ほぼ確実に診断をすることが可能です。
- ただし子どもの場合は病状や身体構造が安定化していないこともあり、上記だけでは判断できない場合もあります。また各部位(臓器など)の出血に関しては、レントゲンやMRI検査でほぼ確実に患部を特定・治療開始ができるといわれます。
治療方法が知りたいです。
- オスラー病は遺伝的な観点から根治的治療を行うことはできず、異常性の発現した血管に対して治療を行うことで病状に対処していきます。鼻出血では通常通りの止血処理を行う場合も多いです。重篤な場合では止血が間に合わず貧血などを起こす可能性があるため、特殊な薬剤を使った凝固療法・レーザー治療・粘膜置換法・鼻腔閉鎖術などが行われることもあります。
- 肺の場合などでは異常部位の大きさに合わせた血管塞栓術が一般的です。特に肺の動静脈瘻では細菌感染などによる合併症の危険があるため、抗生物質などを合わせて処方します。脳の異常血管では外科的治療・血管内治療・放射線治療などを組み合わせて、状況に応じた処置がとられます。消化管の異常血管も多く見られる症状のひとつですが、内視鏡とレーザーを組み合わせて体に負担の少ない手段を取ることが一般的です。
オスラー病の注意点
オスラー病の平均寿命を教えてください。
- オスラー病は、発症したからといって即座に命にかかわるような病気ではありません。もちろん出血などの症状を放置すれば重篤な合併症を引き起こしますが、発見次第適切な治療を行うことで、普通の人と変わらない生活を送ることができます。
- 今のところ血管奇形以外の発現パターンは無いとされるため、身体機能に著しい障害を起こすことも多くはありません。難病という言葉に惑わされず、適切な治療を行い生き生きと生活を送ることが大切です。まずはきちんと病院を受診し、早期発見・治療に努めましょう。
オスラー病を発症する確率が知りたいです。
- オスラー病は前述の通り常染色体優性遺伝と呼ばれる遺伝方式で、両親のいずれかが発症している場合は理論上50%の確率で発症します。とはいえ親族関係の遺伝を正確に把握することは難しく、潜在的な遺伝子保有者や患者数を考えれば、全く上記の通りとも言い切れません。
- 日本人のおよそ8,000人に1人程度が因子を持っているともいわれますが、こちらも未だ調査の続いている分野です。数字や親族関係の遺伝要素にとらわれず、もしもの場合の知識を付けておく程度が適切な向き合い方ではないでしょうか。
家族が注意することを教えてください。
- オスラー病では、早期発見・治療を行い肺血管や心臓血管に関する重篤な症状を併発しなければ、予後は比較的良好であるといわれます。体内の出血を伴ううえに難病指定のため重篤な病気だと思われがちですが、きちんと治療すれば普通の人と同じ生活が送れるはずです。
- ただし未治療の肺動静脈奇形などがある状態では、スキューバダイビングは脳梗塞発症のリスクがあるため禁止されるので注意しておきましょう。過剰に気を使ったり恐れたりする必要はありませんので、普段通りに接し、もしもの時にきちんとした対応ができるようにだけ心がけておけば大丈夫です。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
- オスラー病は未だに不明確な部分も多く、医療関係者の中でも知名度の低い難病です。特に若いうちの鼻出血などでは異常性を発見できず、不適切な治療で症状を長期化・悪化させてしまう事例も報告されています。
- 自分の体の異常は、まず第一に自分で気付くことが大切です。何かおかしい・普段と違うと感じることがあれば、些細なことでも最寄りの医院やかかりつけ医に相談するようにしておきましょう。きちんとした研究報告・実績数の積み重ねにより、いつの日か難病指定が解除されることがあるかもしれません。自分のためにも、未来の患者さんのためにも、ぜひ今の自分の体を大切にするところから始めてみてください。
編集部まとめ
今回は難病に指定されているオスラー病について、症状や注意点など様々な視点からまとめて解説してきました。
「出血を頻発する難病」と聞くとなかなか恐ろしいものですが、早期の発見と適切な治療で通常通りの生活が送れる病気ということで、安心された方もいるのではないでしょうか。
遺伝性の疾患は根本治療や撲滅が難しく、難病と呼ばれて多くの医療関係者を悩ませています。しかし正しく対応することで症状が治まるため、過剰に恐れる必要はありません。
ぜひ病気に関する正しい知識を身につけ、今後の生活に生かしていってください。
参考文献