「フォルクマン拘縮」になると現れる症状はご存知ですか?医師が監修!
「フォルクマン拘縮」は、おもに腕の骨折などの外傷が原因で発症する合併症です。
発症してから早々に適切な処置を行わないと、屈筋群などの重要な筋肉が変性してしまいます。フォルクマン拘縮によって変性してしまうと治すことができません。
では、フォルクマン拘縮を起こさないようにするためにはどうすれば良いのでしょうか?また、フォルクマン拘縮が疑わしい場合はどのように検査するのでしょうか?
今回は恐ろしい合併症であるフォルクマン拘縮について治療方法や予防方法を紹介します。
監修医師:
田中 栄(医師)
目次 -INDEX-
フォルクマン拘縮の原因と症状
フォルクマン拘縮とはどのような合併症でしょうか?
- フォルクマン拘縮は、おもに前腕部に起こる合併症のことを指します。「阻血性拘縮」と呼ばれることもあります。拘縮とは、外傷などが原因で関節が固くなることで動きが制限された状態のことです。つまりフォルクマン拘縮は、外傷によって前腕部(肘など)の関節の位置がずれてしまうことによって起こるさまざまな合併症のことなのです。ちなみにフォルクマン拘縮の「フォルクマン」は、この種類の筋拘縮を見つけた「リヒャルト・フォン・フォルクマン(1830-1889)」が由来です。
症状を教えてください。
- フォルクマン拘縮の代表的な症状は、骨折時からは考えられないほどの激しい痛みを伴う腫れです。また、フォルクマン拘縮には医師が診断するにあたり、絶対に見逃してはならない診断基準となる「5P」と呼ばれる初期症状があります。
- Pain(疼痛)
- Pallor(蒼白)
- Peresthesia(知覚障害)
- Paralysis(運動麻痺)
- Pulselessness(脈拍消失)
- これらを見逃してしまうと症状が進行します。指が曲がったまま伸びなくなったり、腕の痺れなどといった知覚障害が残ってしまうのです。この状態をさらに放置すると最悪の場合、血行不良が原因による筋肉や神経の壊死が起こります。筋肉や神経の壊死まで進んでしまうと、もう根本的な治療をすることはできません。手指の障害が残り続けてしまいます。そのため、初期症状の時点で必ず治療を始めなければいけない合併症です。
原因を教えてください。
- フォルクマン拘縮の原因は、成人と子供で異なります。子供の場合は上腕骨顆上骨折が主な原因です。上腕骨顆上骨折とは肘を突いたりぶつけたりすることによる肘周囲の骨折のことです。この時の骨折片やずれた肘の骨が筋肉や血管を圧迫することにより、循環不全を起こす原因となります。
- 成人の場合は前腕部圧挫傷(強い圧迫による肉離れ)や前腕部骨折が原因となることが多いです。いずれも肘周囲の骨や筋肉がずれることによって生じ、発症することが多くなっています。
成人と子供で原因が異なるのですね・・・。
- 成人の場合は肘をぶつけても重大な事故でない場合はフォルクマン拘縮を起こすほどの外傷にはなりません。しかし、子供の場合はまだ発育途上であることから、肘周囲への衝撃によって骨のずれが生じることが多いです。ほとんどは通常の治療によってもとに戻るはずですが、まれにずれた骨や骨折片、腫れた筋肉が動脈を圧迫してしまう場合があります。これにより血行不良が起こり、フォルクマン拘縮を発症する引き金となるのです。
フォルクマン拘縮の検査と治療方法
フォルクマン拘縮の検査方法が知りたいです。
- フォルクマン拘縮の急性期症状(強い痛みや激しい腫れ)が起こっている場合は、筋肉や神経組織のコンパートメント内圧を測定することで診断材料とします。すでに激しい腫れや前述の「5P」にあたる症状が出ている場合は先に処置が行われることもあります。
- フォルクマン拘縮が起こっている場合は、すでに患部の内圧が上がっていることが確定的です。そのため、内圧上昇がみられる部位を切開して圧力を下げる減張切開を行います。
- その後でX線やCTスキャンなどの画像検査を行い、改めて治療を行うことがあります。
治療方法を教えてください。
- フォルクマン拘縮の初期症状は血流が何らかの原因(骨のずれや筋肉の腫れ)によって妨げられてしまうことが原因です。そのことから、初期症状が出ている場合は牽引整復などで骨を引っ張りずれを戻すことを試みます。
- それでも戻らない場合は減張切開を行いますが、本来ならばこの処置は発症12時間以内が望ましいです。
- すでに症状が進行し、手指が伸びなくなったり筋肉の壊死が見られる場合は根本的な治療が困難になります。そのため、初期症状のうちの治療が非常に重要です。フォルクマン拘縮が起こりうる部位に外傷を負った場合は、それを見越した経過観察が必要になります。
慢性期になると治療は難しいのですね・・・。
- フォルクマン拘縮は早期の処置・治療が必要不可欠な合併症です。慢性期になるとほぼ根本的な治療は不可能になります。外傷の処置が終わっても、疑わしい痛みや激しい腫れが出た場合は必ずもう一度診察を受けるようにしてください。
フォルクマン拘縮の予防方法と注意点
フォルクマン拘縮の予防方法を教えてください。
- もし前腕にケガをしてしまった際に激しい痛み・腫れがある場合は、早急に診察を受けてください。この時点ですでに血流が妨げられている場合、6時間から8時間が治療のリミットと言われています。
- また、予防には外傷の処置後も重要です。治療処置が終わった後にも激しい痛み・腫れがある場合はフォルクマン拘縮を疑わなければいけません。その際には躊躇せずもう一度医師の診察を受けるようにしてください。
- また、治療後腫れがなくとも前腕の圧迫によって症状が出ることがあります。ギブスや包帯で強く前腕を圧迫し続けることによっても引き起こされるため、たとえ固定が必要でも過度の圧迫はしないようにしましょう。
後遺症について教えてください。
- フォルクマン拘縮の後遺症は、主に神経障害や手指の関節の硬化です。手指の関節の硬化は、筋肉の壊死によって起こります。手指につながる筋肉が変性・硬化し、曲がったまま伸ばせなくなり可動域制限がかかってしまいます。
- 一度筋肉や神経が壊死して変性が始まると元には戻りません。手術を行うことで多少の改善がみられる場合はありますが、完全に機能を取り戻すことは難しいです。
- 神経障害はおもに痺れ・感覚麻痺などの症状です。手指の感覚がなくなることもあります。これも血流がなくなることによって神経が壊死し起こる症状です。
家族や周りが注意すべきポイントを教えてください。
- まず前腕部の外傷を負った場合にはできるだけ経過を見て、見た目から激しい腫れがある場合には必ず診察を受けさせるようにしてください。また、前腕部の外傷の治療後にも予後を見て、明らかに腫れがある場合は同じく診察を促すようにしましょう。
- 療養中は包帯を巻き直す場合や就寝時の腕の位置にも気を使うようにしてください。外傷を負った部位をきつく圧迫しすぎてしまうと、フォルクマン拘縮のリスクが高まります。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
- フォルクマン拘縮は重篤な障害を残す可能性のあるかなり重い合併症です。急性期を過ぎて慢性期になると、治療が不可能になります。症状が進行してしまうと手指の機能は元に戻りません。そのため、特に子供の前腕部や肘の骨折の際には気を配る必要があります。成人であっても前腕の圧迫には注意が必要です。前腕部に腫れを伴う外傷を負った場合には必ず医師の診察を受けてください。
編集部まとめ
フォルクマン拘縮は前腕部や肘の骨折などの外傷によって引き起こされる重篤な合併症です。ただし、初期症状のうちに処置できれば重篤な障害は残りません。
主な原因は骨や筋肉のずれによる血流阻害です。症状が進行してしまうと筋肉や神経が壊死してしまいます。手指の機能障害が残り、根本的な治療が困難となります。
そのため、外傷を負った後に患部の腫れや痛みを伴う場合は、必ず医師の診察や処置を受けなければいけません。初期症状のうちに処置ができれば、重い障害は残りません。
フォルクマン拘縮は引き起こされても症状を進行させないことが可能です。外傷の治療中も医師の指導のもと安静にするようにしましょう。
参考文献