「過食症」とは?治療法・薬・何科を受診するべきかについても解説!【医師監修】
食べ過ぎてしまったとき、体重増加が心配という人も多いのではないでしょうか?
たまに食べ過ぎたことで体重が増えたとしても、バランスのよい食生活に戻して数日で元の体重に戻るのであれば問題はありません。しかし、体重増加を懸念するあまりに欠食や厳しい食事制限を行った結果、その反動でまた食べ過ぎてしまうといった悪循環に陥った状態が過食症です。
今回は過食症の症状や原因、治療法について解説します。
監修医師:
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
過食症とは
過食症とはどのような病気ですか?
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過食症は、無茶な食べ方を繰り返す摂食障害の一種です。神経性過食症とも呼ばれています。
神経性過食症では、過食後に嘔吐したり、下剤を使用したりといった代償行為で体重増加を防ごうとするのが特徴です。
体型や体重と自分自身の評価が連動するため、過食で体重が増えると自己評価が極端に下がるといった心理的な症状を伴います。
過食症の症状
過食症の症状を教えてください。
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自分自身をコントロールできず、一度に大量に食べる過食行動を繰り返すのが、過食症の主な症状です。
「痩せていない自分は醜い」という思い込みにより、体重を元に戻そうと故意に嘔吐したり、下剤を使用したりといった代償行動がみられます。
過食や代償行為をしてしまった自分に対する罪悪感が生まれ、それが新たなストレスとなって過食に至るという悪循環に陥っていきます。
神経性過食症では、さまざまな合併症を認める場合もあります。
神経性過食症の合併症について詳しく教えてください。
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神経性過食症の人では、以下に挙げるような精神的な合併症がみられる場合があります。
- 気分障害
- 不安障害
- アルコール依存症
- パーソナリティー障害
また、窃盗などの問題行動を認める場合もあります。
神経性過食症はどのような経過をたどるのですか?
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約50%の人は完全に回復し、約30%の人はある程度の回復を認め、残り約10〜20%の人は同様の症状が続くという研究結果が出ています。
代償行為によって過剰なエネルギー摂取は起こらないため、肥満とならないケースが多く、一般的には食物依存症よりも予後が良いとされています。
単なる「大食い」や「やけ食い」と過食症の違いは何ですか?
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過食症では、いったん過食が始まると自分では食欲をコントロールできなくなります。好きでたくさん食べたいわけでは無いのにもかかわらず過食を止めることができず、強い苦痛を味わいます。これが単なる大食いとの大きな違いです。
また、たまにやけ食いをしてしまうという人でも、やけ食い自体が気分転換になっていることが多く、罪悪感を感じることは稀です。また、やけ食い後の体型や体重を気にして絶食したり、嘔吐したりすることもないでしょう。しかし過食症では、過食後に自己嫌悪に陥ったり、体重を減らすために代償行動を伴うという違いがあります。
過食症の原因
過食症の原因を教えてください。
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文化社会的な要因、心理的な要因、生物学的な要因の3つが複雑に絡み合った結果として発症すると考えられています。
生物学的要因としては、遺伝や脳内の神経回路の異常などが指摘されています。
過食症は遺伝するのですか?
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過食症を発症しやすい素質は遺伝するとされているものの、発症に関係する特定の遺伝子は未だみつかっていません。
過食症の発生頻度・性差・年齢差
過食症は珍しい病気ですか?
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有病率は約1〜3%(思春期・青年期女性)との報告があり、決して珍しい病気ではありません。
過食症の発症は、年代や性別と関連性があるのでしょうか?
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20〜29才に多く発症し、患者の約90%が女性とされています。過度なダイエットにより拒食症と呼ばれる神経性食欲不振症を発症し、そこから神経性過食症へと移行するケースが多くみられます。
過食症の受診科目
過食症を疑ったときは何科を受診すればいいですか?
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過食症をはじめとする摂食障害の治療を担当する診療科は、主に精神科や心療内科です。小児の場合は小児科や児童精神科が担当します。
精神科・心療内科・小児科・児童精神科であればどの医療機関でも治療できるのでしょうか?
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精神科・心療内科・小児科・児童精神科でも、過食症に満足な対応をできない医療機関が少なくありません。病院のホームページなどで診療内容の詳細を確認するか、電話で問い合わせてから受診するのがおすすめです。
大学病院などの地域の大病院や精神保健福祉センターが過食症を相談できる病院の情報を持っていることもありますので、そちらに問い合わせてみるのもよいでしょう。
自分が過食症なのか、判断に自信がない場合はどうしたらよいでしょうか?
過食症に該当するか否かを判断するのは医師の仕事です。
過食症かどうか自分では判断しにくい場合は、まずはかかりつけの内科や小児科で相談してみましょう。もしも過食症の可能性がある場合は、治療が可能な医療機関の紹介を受けることができます。
過食症の検査
過食症の診察ではどのような検査を行いますか?
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摂食障害の診断にあたっては、体重や過食行動の変化だけでなく、その背景にある心の問題を把握する必要があります。そのため、生まれてから現在までのことを詳しく問診します。
嘔吐や下剤の乱用などで身体的な異常が生じている可能性もあるため、問診だけでなく血液検査や心電図検査などの検査も併せて実施します。
検査結果にはどのような異常が出るのでしょうか?
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病気を患う期間が長ければ長いほど、検査結果は悪化していきます。
- 肝機能障害(ASTやALTが上昇する)
- 膵機能障害(血清アミラーゼが上昇する)
- 電解質異常(低カリウム血症など)
例えば血液検査では、以下の異常所見がみられることがあります。
ほかには、消化器系や心臓の検査で異常がみられることもあります。
過食症の治療方法
過食症はどのような治療を行いますか?
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過食症が原因で入院することは少なく、外来での治療が中心です。
過食症の人は自己評価が低く完璧主義の傾向があり、自立や家族との関係、対人関係、社会生活についてさまざまな課題を持っています。そのため、過食症の治療には心と体の両面からの働きかけが重要です。
心理教育・認知行動療法・対人関係療法・家族療法・社会的技術訓練などをケースバイケースで組み合わせた統合的な治療が推奨されています。
薬を使った治療は行われますか?
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現在、日本では摂食障害に対して保険適応で使用可能な薬剤はありません。
過食症の治療で入院することはありますか?
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基本的には外来で治療を行いますが、以下のような場合は入院して治療する必要があります。
- 血液検査などの検査結果に大きな異常が見られる場合
- 日常生活の中で自分自身のコントロールが難しく、行動制限が必要な場合
- 家族の協力が得られないなど、家庭からしばらく離れて治療した方がよいと判断された場合
- 自殺の危険、自傷行為、抑うつ、問題行動などが目立つ場合
編集部まとめ
過食症とは、食べる量がコントロールできなくなる摂食障害の一種です。
過食症の治療は、心と体の両面からの働きかけが重要です。さまざまな治療法を組み合わせた専門的な治療が必要なため、精神科・心療内科・小児科・児童精神科を標榜していても十分な対応ができない医療機関もあります。
気になる症状がある場合は、医療機関へ診療内容の詳細を比較してから受診することをおすすめします。
参考文献