「チョコレート嚢胞(のうほう)」とは?症状・原因・治療法についても解説!
チョコレート嚢胞(のうほう)は子宮内膜症の一種です。子宮内膜が卵巣に発生することで、月経のたびに経血が卵巣内に溜まり、袋状の嚢胞になります。溜まった血液は古くなり、チョコレートの様な液体になることでチョコレート嚢胞と呼ばれます。
今回はチョコレート嚢胞の症状や原因、検査や治療方法、再発予防などについて詳しく解説します。
監修医師:
前田 裕斗(医師)
チョコレート嚢胞とは?
チョコレート嚢胞とはどのような疾患ですか?
-
まず、子宮内膜症について簡単に解説します。子宮内膜症は性成熟期の女性の3〜10%に起こる疾患です。
子宮内膜症の患者の90%は月経痛を訴え、日常生活に影響が出るほどの痛みを起こすこともあります。ほかにも排便痛、腰痛や腹痛を多くの人が訴えます。
また、不妊症の原因にもなるなど、子宮内膜症は女性の生活に大きな影響を与えます。そんな子宮内膜症の中でも重症な疾患が、チョコレート囊胞です。
本来、子宮の内側にある子宮内膜が、卵巣に発生してしまうことがあります。内膜は月経時に経血として排出されますが、卵巣にできた内膜はうまく排出されずに、卵巣内に溜まってしまうのです。
卵巣内に溜まった血液は古くなって、チョコレートのような液体になります。このように、卵巣内にチョコレートのような液体が溜まって大きくなった疾患が、チョコレート囊胞です。
チョコレート囊胞は悪性腫瘍化のリスクが高まったり、破裂して急性腹症を発症したり、不妊症の原因になったりなど、さまざまな症状や障害のリスクを高めます。
急性腹症が発症すれば緊急手術が必要です。さらに、内膜症の軽傷患者の3年間の累積妊娠率が約50%に対して、チョコレート囊胞の重症例では約5%まで低下します。
なお、チョコレート囊胞は卵巣以外にも、骨盤腹膜や卵管、膀胱や外陰部などにも見られることがあります。
チョコレート嚢胞の症状
チョコレート嚢胞の症状を教えてください。
-
チョコレート嚢胞の症状は、基本的に子宮内膜症の症状と似ています。しかし、ほかの部位に発症する子宮内膜症と比べて、痛みが強いといわれています。さらに、チョコレート嚢胞が大きくなると骨盤内のほかの臓器と癒着して、かなり強い痛みをもたらす場合もあるのです。
また、炎症によって内膜が卵管に癒着することで卵管が閉塞して排卵しにくくなり、不妊の原因になります。
先ほど解説したように子宮内膜症になると、軽症患者で累積妊娠率が約50%まで低下します。チョコレート囊胞の重症例ではさらに低下して、累積妊娠率は約5%です。
チョコレート嚢胞の原因
チョコレート嚢胞はどのようなことが原因で患いますか?
-
チョコレート嚢胞は子宮内膜症の1種ですが、子宮内膜症の原因ははっきりとわかっていません。しかし、女性ホルモンであり卵胞ホルモンと呼ばれるエストロゲンの影響で、子宮内膜が増殖することが原因の1つであると考えられています。
エストロゲンの分泌量は性成熟期の20〜30代が多いため、子宮内膜症は20〜30代が発症しやすいのです。性成熟期の10%が発症するといわれています。
チョコレート嚢胞の受診科目
チョコレート嚢胞が疑われる場合、何科を受診すればいいでしょうか?
-
婦人科を受診しましょう。強い月経痛や排便痛、腰痛や腹痛、月経時の下血などの症状があれば早めに受診してください。
チョコレート嚢胞の検査
チョコレート嚢胞が疑われる場合、どのような検査を行いますか?
-
最初に問診が行われ、続いて内診で子宮や卵巣の痛みや可動性を診ます。また、超音波検査で子宮や卵巣が大きくなっていないかを診ます。
大きくなっている場合は、MRIで悪性腫瘍の可能性や手術の必要性の確認が必要です。さらに血液検査を行って、腫瘍マーカーの値を診ます。子宮内膜症とチョコレート嚢胞では、腫瘍マーカーによって、CA19-9やCA125の値が高く出る場合があります。
チョコレート嚢胞の治療法
チョコレート嚢胞の治療法を教えてください。
-
行われる治療法は薬物療法と手術です。
チョコレート嚢胞がある場合は基本的に腹腔鏡下嚢胞摘出術でチョコレート嚢胞を摘出します。また、内膜症の治療のために、薬物療法が行われます。
薬物療法
まず薬物療法について教えてください。
-
薬物療法はチョコレート嚢胞に限らず、内幕症全般で行われます。主に子宮内膜の増殖を抑える黄体ホルモン剤や、排卵を休ませて子宮内膜の増殖を抑えて月経痛を軽減するなどの作用がある、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤を用います。
薬物療法は、子宮内膜の増殖を抑えて子宮内膜症の進行を防いだり、痛みを抑えたりすることが主な目的です。
手術
続いて、どのような手術が行われますか?
-
チョコレート嚢胞のほとんどは良性腫瘍です。基本的に腹腔鏡下嚢胞摘出術を行うことで、チョコレート嚢胞のみを摘出して卵巣を残します。術後、約70%の方に自然妊娠が成立しますが、1〜2年で妊娠しない場合は排卵誘発剤をおすすめすることもあります。
また、妊娠を希望しているものの、卵管の癒着が大きい場合や35歳以上の場合は、体外受精をおすすめすることもあります。そのため、チョコレート嚢胞になったからといって、必ずしも妊娠を諦める必要はありません。
一方でチョコレート嚢胞が大きい場合や高齢の場合、悪性腫瘍や卵管の癒着が疑われる場合は、開腹をして子宮や卵管と卵巣を摘出する場合があります。
そして、チョコレート嚢胞は再発する場合が多い疾患です。妊娠を希望されない患者さんはチョコレート嚢胞が発生した側の卵管と卵巣を摘出することで、再発を防げます。
治療法は、病状の進行具合や妊娠を希望するかどうかなどを含めて、相談の上で決定します。
チョコレート嚢胞の再発予防
チョコレート嚢胞の再発予防について教えてください。
-
チョコレート嚢胞は再発しやすい疾患です。腹腔鏡下嚢胞摘出術にて、卵巣を残してチョコレート嚢胞を摘出した場合、その後の治療を行わないと3年で約30%の方が再発すると報告されています。
そのため、術後は再発予防のためにホルモン剤の服用を行います。しっかりと治療を行った場合、再発率は10%以下です。
術後は症状が改善されるため、自己判断で治療を中断してしまう方が多くいます。そうすると生理痛が再発したり、チョコレート嚢胞が再発したりする可能性が高まってしまうのです。
チョコレート嚢胞を再発しても手術は可能です。しかし、卵巣を残すことが難しくなる上に、卵巣を残したとしても卵巣の機能が低下して不妊や月経不順が起こるなど、さまざまなデメリットがあります。
術後に症状がなくなっても、医師の指示どおりに治療を続けてください。
また、可能性は低いもののチョコレート嚢胞は悪性腫瘍化する場合があります。嚢胞摘出やホルモン治療を行っても、完全な再発予防にはなりません。
編集部まとめ
チョコレート嚢胞は子宮内膜症の1種です。本来、子宮の内側にある子宮内膜が卵巣に発生することがありますが、そうすると卵巣内に血液が溜まります。
卵巣内に溜まった血液は古くなって、チョコレートのような液体になります。このように、卵巣内にチョコレートのような液体が溜まって大きくなったものが、チョコレート囊胞です。
チョコレート嚢胞は子宮内膜症の1種ですが、子宮内膜症の原因はまだはっきりとわかっていません。症状は子宮内膜症と同様に、月経痛や排便痛、腰痛や腹痛などです。特にチョコレート嚢胞は、ほかの子宮内膜症より痛みが強いといわれています。
治療は手術と薬物療法が行われます。卵巣を残してチョコレート嚢胞のみを摘出する場合は、自然妊娠も可能です。
疑われる症状がある場合は、すぐに婦人科を受診しましょう。