「排尿障害」とは?治療法・原因・検査についても解説!【医師監修】
排尿障害は尿をためる機能や排出する機能に障害がみられる状態です。尿が漏れる、尿が出にくいなどの症状がみられます。原因は病気や感染、心因性などさまざまです。それぞれの原因に応じて薬物療法や保存的療法を行い、改善しない場合は手術も検討されます。
今回は排尿障害の症状や原因、代表的な病気や治療法も詳しく解説します。
監修医師:
竹内 尚史(新松戸中央総合病院)
排尿障害とは
排尿障害とはどのような病気でしょうか?
機能別に蓄尿症状、排出症状、排尿後症状に分けられます。
蓄尿障害と蓄尿症状はほぼ同義です。
蓄尿障害
蓄尿障害とはどのような状態でしょうか?
膀胱排尿筋の過活動、膀胱出口の抵抗の低下、尿道を締める圧の低下などが原因となって起こる障害です。
排出障害
排出障害とはどのような状態でしょうか?
排尿障害の症状
排尿障害ではどのような症状がみられますか?
蓄尿症状
蓄尿症状ではどのような症状がみられますか?
-
蓄尿症状では次の症状がみられます。
- 日中でも夜間睡眠中でも意思と関係なく尿が出てしまう
- 強い尿意で我慢ができない
- 日中、8回以上の排尿がある(頻尿)
- 夜間睡眠中、1回以上の排尿がある(夜間頻尿)
- 咳やくしゃみ、重いものを持つなど、腹圧がかかる動作で尿が漏れる(腹圧性尿失禁)
- 強い尿意とともに尿が漏れてしまう(切迫性尿失禁)
排出症状
排出症状ではどのような症状がみられますか?
-
排出症状では次の症状がみられます。
- 尿の勢いが弱い(尿勢低下)
- 尿が2本に分かれて出たり、飛び散ったりする
- 排尿の途中で尿が途切れてしまう
- 尿が出はじめるまでに時間がかかる
- お腹に力を入れていきまないと排尿できない
- 排尿の終わりに尿がぽたぽたと垂れる
排尿後症状
排尿後症状ではどのような症状がみられますか?
-
排尿後症状では次の症状がみられます。
- 排尿後、まだ尿が残っている感じがする(残尿感)
- 排尿後、下着に尿が少し漏れてしまう
排尿障害の原因
排尿障害の原因は何ですか?
排尿をコントロールしている神経が障害される脳や神経の病気や、膀胱・尿道の病気、加齢に伴う膀胱や尿道の機能低下、服薬中の薬の影響、心因性
などが原因となって排尿障害は起こります。
排尿障害をきたす代表的な病気
排尿障害をきたす代表的な病気は何ですか?
代表的な病気として、前立腺肥大症、過活動膀胱、神経因性膀胱の3つについて説明します。
前立腺肥大症
前立腺肥大症はどのような病気ですか?
進行すると、頻尿、尿の勢いが弱くなる、残尿感、夜間頻尿などの症状がみられます。尿道がかなり狭くなると尿が出なくなることもあります。
過活動膀胱
過活動膀胱はどのような病気ですか?
神経因性膀胱
神経因性膀胱はどのような病気ですか?
神経因性膀胱をきたす病気には、脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、二分脊椎症、小脳変性症、脊椎管狭窄症、椎間板ヘルニア、直腸がん・子宮がん手術後の膀胱の末梢神経障害などがあります。
排尿障害の受診科目
排尿障害が疑われたら、何科を受診すればよいでしょうか?
排尿障害は、内科領域の心不全・高血圧・糖尿病などの生活習慣病などでも起こるので、はじめに泌尿器科を受診していても、泌尿器科以外での診療が必要になることもあります。
排尿障害の検査
排尿障害ではどのような検査を行いますか?
尿検査
尿検査はどのような検査ですか?
採血
採血はどのような検査ですか?
超音波検査
超音波検査はどのような検査ですか?
そのほか、腎臓の腫れの有無、腎臓や膀胱などの悪性腫瘍の有無、前立腺肥大の程度などを調べます。
尿流動態検査
尿流動態検査はどのような検査ですか?
検査用のトイレで排尿し、排尿量や排尿の勢いを測定します。
圧を測定するカテーテルを膀胱内、直腸内に入れた状態で、下部尿路機能の閉塞の有無や程度、膀胱収縮機能も調べます。蓄尿期の膀胱内圧の測定も行います。
その他の検査
尿検査、採血、超音波検査、尿流動態検査のほかにはどのような検査がありますか?
排尿障害の治療
排尿障害ではどのような治療を行いますか?
保存的療法
保存的療法ではどのような治療を行いますか?
-
保存的療法では、生活指導や骨盤底筋訓練、膀胱訓練などを行います。
- 生活指導
前立腺肥大症や尿失禁、過活動膀胱などの原因とされる肥満や糖尿病を改善する生活習慣の指導を行います。具体的には食事制限、運動、減量、過剰な水分・塩分摂取の制限、禁煙、便秘の解消などです。 - 骨盤底筋訓練
骨盤臓器脱に対して、骨盤底筋群の収縮を促すトレーニングです。腟や尿道を体の中にひっこめるように締める練習を坐位、立位、仰臥位などのさまざまな姿勢で行います。 - 膀胱訓練
頻尿に対して、強い尿意を感じたときに排尿を我慢する訓練です。我慢する時間を5分、10分と少しずつ伸ばしていきます。
薬物療法
薬物療法ではどのような治療を行いますか?
-
蓄尿障害改善薬、排出障害改善薬、そのほかの薬剤を用います。
- 蓄尿障害改善薬
異常な膀胱収縮を抑える抗コリン薬や、膀胱を拡げてためられる尿の量を増やすβ3受容体刺激薬を用います。 - 排出障害改善薬
膀胱、前立腺、尿道の緊張を緩和するα1受容体遮断薬や、血流と酸素供給の改善を図るPDE5阻害薬、肥大した前立腺を小さくする作用のある5α還元酵素阻害薬などを用います。 - そのほかの薬剤
腹圧性尿失禁に対しては、尿道を締める作用のあるβ2受容体刺激薬や、自覚症状の改善を目的とした植物由来の成分を使った薬、漢方薬などを用います。
手術療法
手術療法はどのような治療を行いますか?
-
薬物療法でも改善しない場合は手術を行うケースもあります。
- 前立腺肥大症
肥大した前立腺を一部削る経尿道的前立腺切除術(TURP)や、前立腺をくりぬく経尿道的前立腺核出術(TUEB)などを行います。 - 腹圧性尿失禁
医療用のメッシュのテープを尿道の裏を支えるように通して尿漏れの軽減を図る尿道スリング手術(TOT手術、TVT手術)を行います。 - 骨盤臓器脱
下垂した臓器を医療用メッシュで下から支える手術(TVM手術)や、医療用メッシュで下垂した臓器を上から引き上げる腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)を行います。 - 過活動膀胱
過活動膀胱による尿失禁の改善として、排泄に関与する神経に電気刺激を与え続けられる装置を体の中に植え込む仙骨神経刺激療法があります。
排尿障害の性差・年齢差
排尿障害に性差・年齢差はありますか?
男性と女性の解剖学的な差により、男性は尿が漏れにくいけれども尿排出障害は起こりやすく、女性は尿排出障害が起こりにくいけれども尿は漏れやすいという特徴があります。
前立腺肥大症は男性のみにみられます。腹圧性尿失禁は女性に多い排尿障害です。
編集部まとめ
排尿障害は尿をためる機能と尿を排出する機能で成り立つ排尿サイクルに異常をきたした状態です。時期によって尿をためる症状、尿を排出する症状、尿を排出した後の症状に分けられ、代表的な病気は前立腺肥大、過活動膀胱、神経因性膀胱が挙げられます。
原因は蓄尿、排尿に障害をきたす病気や、加齢による機能低下、飲んでいる薬の影響、心因性など多岐にわたります。原因に応じた薬物療法や保存的療法を行い、改善しない場合は手術療法も検討されます。
排尿障害は生活の質にも大きくかかわるため、気になる症状があれば医療機関を受診して適切な治療を受けましょう。
参考文献
- 大橋病院泌尿器科 排尿障害
- 日本女性心身医学会 排尿トラブル
- 松前内科医院 排尿障害
- 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科泌尿器科学 長崎大学病院 泌尿器科・腎移植外科泌尿器科 排尿障害(前立腺肥大症、過活動膀胱、神経因性膀胱、尿失禁、骨盤臓器脱)
- 埼玉医科大学 男性の排尿障害 総合医療センター 泌尿器科
- 日本泌尿器科学会 尿が近い、尿の回数が多い ~頻尿~
- 名古屋大学大学院医学系研究科 泌尿器科学教室 神経因性膀胱
- 日本新薬 中高年のおしっこの悩み
- いわさ泌尿器科クリニック
- 善利クリニック 膀胱炎は泌尿器科だけでなく内科でも診察してもらえるの?
- 東京女子医科大学病院 泌尿器科 腎臓病総合医療センター 排尿障害の検査
- 亀井病院 尿流動態検査
- たに泌尿器科クリニック 尿検査でわかること
- 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科泌尿器科学 長崎大学病院 泌尿器科・腎移植外科 泌尿器科 排尿障害:経尿道的前立腺切除術(TURP)・経尿道的前立腺核出術(TUEB)
- 上尾中央総合病院 TVT手術、TOT手術
- 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科泌尿器科学 長崎大学病院 泌尿器科・腎移植外科 泌尿器科 排尿障害:TVM手術
- 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科泌尿器科学 長崎大学病院 泌尿器科・腎移植外科 泌尿器科 排尿障害:腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)
- 東戸塚記念病院 仙骨神経刺激療法
- 名古屋大学排泄情報センター 尿路の解剖 男性と女性の解剖学的な差
- 排尿障害の病態と新しい治療 193P Table1 下部尿路機能障害と具体的疾患名
- 夜間頻尿の患者数(日本排尿機能学会) PPT P4
- 東京高輪病院 頻尿の原因 P13 過活動膀胱の有症状率
- 日本泌尿器科学会 尿が近い、尿の回数が多い ~頻尿~
- 日本泌尿器科学会 夜間、何度も排尿で起きる
- 東京慈恵会医科大学付属柏病院 泌尿器科
- 名古屋大学大学院医学系研究科 泌尿器科学教室 過活動膀胱