「カンピロバクター腸炎」とは?症状・原因・治療についても解説
更新日:2023/04/03
中心まで十分に火の通っていないものを食べてしばらくしてから、発熱や頭痛、腹痛、吐き気、下痢といった症状がみられるときは、カンピロバクター腸炎という食中毒かもしれません。
カンピロバクター腸炎は、細菌の一種であるカンピロバクターに汚染された食べ物や飲み物の摂取が原因で起こります。なかでも生や加熱が不十分な鶏肉からの感染が特に多く報告されています。
今回は、カンピロバクター腸炎とはどのような病気なのか、感染の原因や治療法も含めて解説します。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
プロフィールをもっと見る
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
目次 -INDEX-
カンピロバクター腸炎とは
カンピロバクター腸炎とはどのような病気ですか?
カンピロバクター腸炎は、食中毒の一種です。カンピロバクターという細菌に汚染された食べ物や飲み物を摂取したり、カンピロバクターを有する動物と接触したりすることで発症します。
特に鶏肉からの感染が多く報告されていて、生や十分な加熱がされていない鶏肉を食べたことにより発生した事例が大半を占めています。
特に鶏肉からの感染が多く報告されていて、生や十分な加熱がされていない鶏肉を食べたことにより発生した事例が大半を占めています。
カンピロバクターとはどのような細菌ですか?
家畜や野生動物、ペット等の動物の腸に生息している細菌です。高熱や乾燥に弱いため、これらの環境では短時間で死滅します。しかし、低温には比較的強いため、冷蔵庫で保存していた食品だからといって安心はできません。
一般的に、細菌が原因で起こる食中毒は10万~100万個程度の菌を摂取しないと感染しません。しかしカンピロバクターでは、100個程度と比較的少ない量の菌を摂取するだけで感染してしまうのが特徴です。
一般的に、細菌が原因で起こる食中毒は10万~100万個程度の菌を摂取しないと感染しません。しかしカンピロバクターでは、100個程度と比較的少ない量の菌を摂取するだけで感染してしまうのが特徴です。
カンピロバクター腸炎の症状
カンピロバクター腸炎の症状を教えてください。
カンピロバクター腸炎の代表的な症状は以下の通りです。
- 発熱
- 頭痛
- 寒気
- 倦怠感
- 下痢
- 腹痛
- 吐き気
- 嘔吐
カンピロバクター腸炎の症状は他の食中毒とよく似ています。ただし、潜伏期間については1~7日間が一般的で、他の食中毒と比較してやや長めなのが特徴です。
ほとんどの人は1週間ほどで治癒し、重篤化する例や死亡例は稀とされています。
ほとんどの人は1週間ほどで治癒し、重篤化する例や死亡例は稀とされています。
大きな心配は要らない病気ということでしょうか?
乳幼児や高齢者、そのほかにも抵抗力の弱い人については、重症化する危険性があります。
また、カンピロバクターに感染した後に、反応性の関節炎や数週間で重篤な麻痺性疾患であるギラン・バレー症候群を発症するケースが報告されているために、注意が必要です。
また、カンピロバクターに感染した後に、反応性の関節炎や数週間で重篤な麻痺性疾患であるギラン・バレー症候群を発症するケースが報告されているために、注意が必要です。
ギラン・バレー症候群
ギラン・バレー症候群について詳しく教えてください。
ギラン・バレー症候群は、ウイルスや細菌による感染症をきっかけに免疫機能が活発になった結果、自分自身の神経を攻撃してしまう病気です。
カンピロバクター腸炎による下痢等の症状が出始めた後1~3週間してから、ギラン・バレー症候群を発症するケースがあります。国内では、ギラン・バレー症候群のうち約30〜40%が、カンピロバクターの感染によるものと考えられています。
カンピロバクター腸炎による下痢等の症状が出始めた後1~3週間してから、ギラン・バレー症候群を発症するケースがあります。国内では、ギラン・バレー症候群のうち約30〜40%が、カンピロバクターの感染によるものと考えられています。
ギラン・バレー症候群はどのような症状が出るのでしょうか?
症状は手足の力が入りにくくなることから始まり、数日かけて悪化していくのが典型的で、以下のような症状が見られます。
- 手足の感覚異常
- 痛み
- 顔面の筋肉麻痺
- 目を動かす筋肉の麻痺
- 飲み込みに関係する筋肉の麻痺
さらに重症の場合は、呼吸に関係する筋肉が麻痺したり、自律神経に障害が出たりといった症状がみられることもあります。
カンピロバクター腸炎の原因
カンピロバクター腸炎の原因を教えてください。
主な感染源は鶏肉です。生で食べる鶏肉のたたきや、加熱が不十分なバーベキューや鍋、焼き鳥などでの感染例が多くみられます。また、鶏肉そのものではなく、調理過程の不備で生の鶏肉に汚染された食品等が感染源となることもあります。
食品以外では、カンピロバクターを有する動物の糞に汚染された井戸水や湧水、簡易水道水といった飲用水が感染源となることも知られています。また、抵抗力の弱い子どもについては、ペットから直接感染する事例もあります。
食品以外では、カンピロバクターを有する動物の糞に汚染された井戸水や湧水、簡易水道水といった飲用水が感染源となることも知られています。また、抵抗力の弱い子どもについては、ペットから直接感染する事例もあります。
カンピロバクター腸炎の発生頻度
カンピロバクター腸炎は珍しい病気ですか?
カンピロバクター腸炎は、国内で発生している細菌性食中毒のなかで発生件数が最も多い病気です。近年は、年間約300件、患者数約2,000人で推移しています。
注意が必要な季節はいつですか?
年間を通じて食中毒の発生が増加する季節は夏です。しかし、カンピロバクター腸炎については真夏ではなく、5月~6月と10月に多いという特徴があります。
カンピロバクター腸炎の受診科目
カンピロバクター腸炎を疑ったときは何科を受診すればいいですか?
症状の程度によって、消化器内科を受診した方が良い場合と救急外来を受診した方が良い場合に分かれます。
症状が軽く自宅で様子を見るときも、症状がなかなか改善しない場合や、症状が激しくなってくる場合には早めの受診を検討しましょう。
症状が軽く自宅で様子を見るときも、症状がなかなか改善しない場合や、症状が激しくなってくる場合には早めの受診を検討しましょう。
消化器内科を受診
消化器内科を受診するべきなのはどういったケースでしょうか?
以下の症状が見られるときには、自宅で様子を見るのではなく、消化器内科等の医療機関を受診してください。
- 血便など、排せつ物に血液が混ざっている
- 腹痛や下痢が長期間続いている
救急外来を受診
救急外来を受診するべきなのはどういったケースでしょうか?
以下の症状が見られるときには、緊急の処置を必要とする場合があります。一般の医療機関ではなく、救急外来を受診してください。
- 水分の補給ができない
- 1日10~20回ほどの激しい下痢や嘔吐がある
- 激しい腹痛が続く
- 呼吸が不安定
- 意識が朦朧としている
- ぐったりしている
- 高熱がある
カンピロバクター腸炎の検査
カンピロバクター腸炎の診察ではどのような検査を行いますか?
問診、血液検査、便培養検査、尿検査、画像検査等を実施し、食中毒の原因を特定します。
また、腹部CTや内視鏡検査などの画像検査を行う場合もあります。
食中毒の診察では、症状だけで原因を特定するのは難しいため、前日から1週間程度前までの食事の内容を把握することが重要となります。受診前にあらかじめ思い出し、メモしておくなどしていただけると、スムーズな診断につながります。
また、腹部CTや内視鏡検査などの画像検査を行う場合もあります。
食中毒の診察では、症状だけで原因を特定するのは難しいため、前日から1週間程度前までの食事の内容を把握することが重要となります。受診前にあらかじめ思い出し、メモしておくなどしていただけると、スムーズな診断につながります。
カンピロバクター腸炎の治療方法
カンピロバクター腸炎はどのような治療を行いますか?
一般的に自然治癒していくことが多いため、水分補給や食事療法といった対症療法が基本となります。
症状が強く重症化が懸念される場合については、抗生物質等による薬物治療を検討します。
症状が強く重症化が懸念される場合については、抗生物質等による薬物治療を検討します。
対症療法
カンピロバクター腸炎の対症療法について詳しく教えてください。
カンピロバクター腸炎の治療では、下痢や発熱、嘔吐に伴う脱水症状に最も注意が必要です。スポーツドリンクや経口補水液等で水分補給をこまめに行い、口から十分に摂取できない場合や、脱水の程度によっては点滴治療を行います。
症状が安定するまで食事はなるべく控え目にして、消化の良いものを中心に食べるとよいでしょう。
症状が安定するまで食事はなるべく控え目にして、消化の良いものを中心に食べるとよいでしょう。
薬物治療
カンピロバクター腸炎の薬物治療について詳しく教えてください。
消化機能と腸内環境を回復させるために、消化剤や整腸剤を使用することがあります。症状が強く重症化が懸念される場合については、抗生物質による治療を検討します。
下痢止めについては、経過を悪化させてしまう可能性があるため使用しないのが一般的です。自己判断で市販の下痢止めを使用するのは避けましょう。
下痢止めについては、経過を悪化させてしまう可能性があるため使用しないのが一般的です。自己判断で市販の下痢止めを使用するのは避けましょう。
カンピロバクター腸炎の薬物治療中に注意すべきことはありますか?
抗生物質のなかには、他の薬やサプリメント、食品等との組み合わせによって、副作用を引き起こしたり、効果を弱めたりするものがあります。また、消化剤や整腸剤の中には、市販の胃薬や整腸剤と成分が重複するものがあります。
普段から使用している薬やサプリメントがある人は、治療で使用する薬との併用について担当医に確認しましょう。また、市販品薬を購入する際には、薬局やドラッグストアで薬剤師や登録販売者に相談し、併用しても問題ない商品を選んでもらうようにしましょう。
普段から使用している薬やサプリメントがある人は、治療で使用する薬との併用について担当医に確認しましょう。また、市販品薬を購入する際には、薬局やドラッグストアで薬剤師や登録販売者に相談し、併用しても問題ない商品を選んでもらうようにしましょう。
編集部まとめ
カンピロバクター腸炎は食中毒の一種で、発熱や頭痛、腹痛、吐き気、下痢といったさまざまな症状が出ます。
カンピロバクターという細菌に汚染された食べ物や飲み物を摂取することで発症します。特に生や加熱が不十分な鶏肉からの感染が多く報告されているため、手洗いや保存方法、調理方法などに注意し、予防対策を行うことが大切です。
重篤化する例や死亡例は稀とされていますが、麻痺性疾患との関連も指摘されています。症状がなかなか改善しない場合や症状が激しくなってくる場合には、早めの受診を検討しましょう。
参考文献