「半陰陽」ってどんな病気かご存知ですか?男女別の特徴についても解説!
半陰陽は性に関わるデリケートな疾患のため、当事者やご家族でないと一般的には馴染みの薄い言葉かもしれません。
別名インターセックスや第3の性・アンドロジニーなどとよばれ、性染色体に異常があるため生まれつき性別における身体上の区別があいまいな性分化疾患の1種です。
先天的なものであるものの、思春期を迎えても初潮が来ないなどのきっかけでご自身が成長されるまで半陰陽であると気付かないケースもあります。
今回は半陰陽がどのような疾患で何が原因となり診断はいつ・どのようにされるのか、治療法も含めて詳しく解説していきます。
監修医師:
武井 智昭(高座渋谷つばさクリニック)
平成14年慶應義塾大学医学部を卒業。同年4月より慶應義塾大学病院 にて小児科研修。平成16年に立川共済病院、平成17年平塚共済病院(小児科医長)で勤務のかたわら、平成22年北里大学北里研究所病原微生物分子疫学教室にて研究員を兼任。新生児医療・救急医療・障害者医療などの研鑽を積む。平成24年から横浜市内のクリニックの副院長として日々臨床にあたり、内科領域の診療・訪問診療を行う。平成29年2月より横浜市社会事業協会が開設する「なごみクリニック」の院長に就任。令和2年4月より「高座渋谷つばさクリニック」の院長に就任。
日本小児科学会専門医・指導医、日本小児感染症学会認定 インフェクションコントロールドクター(ICD)、臨床研修指導医(日本小児科学会)、抗菌化学療法認定医
医師+(いしぷらす)所属
目次 -INDEX-
半陰陽の特徴
半陰陽とはどのような病気ですか?
- 生まれつき性染色体・性腺・内外性器に異常がみられる状態の総称を指す性分化疾患の1つで思春期発来障害や性同一性障害などもこれに該当します。
- 性腺は生殖腺ともよばれ性ホルモンを分泌する機能をもち、男性の場合は精子を作り出す精巣、また女性の場合は卵子を作り出す卵巣がこれに該当します。日本における半陰陽の発生率は年に600人程度です。
- ただしこれはあくまで新生児検診などで外性器に異常が認められた数字です。思春期を迎えて初めて異常に気付き診断されるケースもあるため、潜在的な患者数はこれより多いといわれています。
具体的な症状について教えてください。
- 染色体における観点からは男性・女性各々の性別が認められるものの外性器や性腺などに性別独自の見た目や機能が備わっていない状態がおもな症状です。
- 男女に関わらず卵巣と精巣の両方所有しているものを「真性半陰陽」とよびます。男女別に見られる症状として卵巣があり内性器は女性型であるものの、外性器が男性化している状態が「女性半陰陽」です。また精巣があるものの内外性器が女性化している状態を「男性半陰陽」といいます。出生時に外陰部など外性器の異常や黒ずみなどで発覚するケースがほとんどです。
- しかし思春期を迎える際に女性なら乳房のふくらみや初潮、男性なら声変わりやひげの発毛など第二次性徴が出現しないことで異常に気付き受診した結果半陰陽と判明することもあります。とくに女性の場合は症状が軽度だとそのまま成人して、結婚を機に妊娠しづらいことで不妊検査を受けた際に判明するケースも珍しくありません。
原因は何ですか?
- まず男女の性別の決定には下記の3つの要素が関連しています。
- 1.染色体による性別
- 2.性腺による性別
- 3.身体的な性別
- 例えば染色体と性腺により診断される性別と、身体的な性別から診断される性別が食い違う場合は仮性半陰陽となります。また精巣と卵巣の両方を所有し、外性器に男女どちらの特徴もみられる場合は真性半陰陽となります。仮性・真性いずれも性の分化過程において細胞分裂がうまくいかなかったり性別を決定する遺伝子に異常が起こったりしたことが原因です。
生まれる前に分かりますか?
- 胎児エコーの技術や性能が進化した近年は、妊娠期間において胎児が胎内にいるうちに発見できるケースもあります。
- しかし大半は出生時に外性器の何らかの異常がみられることで発覚します。
- また症状が極めて軽度な場合には、半陰陽と診断できる状態であったとしても気がつかないまま一生過ごされる方もいるため、必ずしも出生前に事実を知る必要性はないかもしれません。
男性仮性半陰陽の特徴について教えてください。
- 染色体がXYと男性にも関わらず外性器が女性化しているのが大きな特徴です。胎児期に男性ホルモンや遺伝子が作用せず、男性ホルモンを活性化させるのに必要な酵素が欠損していることが原因といわれています。
- 陰茎が極端に小さく鼠径ヘルニアを併発していることがほとんどです。ただし膣の存在は認められるものの、内性器である子宮が無いため女性のように月経は起こりません。
- 診断の目安としてはまず外性器の確認と、染色体検査を行って性別の識別をします。そのうえで戸籍上の性別を決定し、状況に応じて性腺の摘出・外性器の形成手術を実施するのが一般的です。
女性仮性半陰陽の特徴について教えてください。
- 発症する原因のほとんどが妊娠中流産防止のために使用したホルモン剤によるものといわれています。染色体がXXと女性として認められるものの外性器に異常がみられ男性化するのが特徴です。
- 例えば性腺が卵巣にあるのにも関わらず陰核が肥大して男性の陰茎のようになったり、大陰唇が陰嚢状に変性したりするケースもみられます。しかし子宮や卵管・腟などは女性本来の機能を保ちつつ発育する場合がほとんどです。この女性仮性半陰陽においては副腎の異常の有無によって2つに大きく分けられます。
- まず副腎に異常がある場合はエストロゲンが過剰に分泌されるため男性化をきたします。こちらは早期に適切な治療をしなければ出生後に男性化が進行していくため副腎皮質ホルモンを処方し進行を止める治療法が必要です。副腎に異常がない場合は出生後に男性化は進行しないため、症状の度合により形成術を行って改善します。
半陰陽の診断方法
診断方法について教えてください。
- まず出生時の外性器の見た目による判断で、例えば本来男児であるにも関わらず陰茎が極端に小さい場合は医師などの意見に従い検査が行われる場合もあります。一般的に仮性・真性のケースが疑わしい際は下記のような検査を行い診断していきます。
- 1.血液・尿検査
- 2.男性ホルモンや女性ホルモンを作る力を調べるホルモン負荷試験などの内分泌検査
- 3.精巣や卵巣の特徴判断のためのMRI・CT・X線造影検査
- 4.腹腔内の内視鏡検査
- 5.染色体検査
- 6.遺伝子検査
- 男児の場合内性器の診断は困難なものの、女児の場合はエコーや内視鏡・造影検査で内性器の状態の診断が可能です。
どのような検査を行いますか?
- 検査方法には下記の3つがあり、過程に沿って実施していきます。
- 1.染色体型の分析調査
- 2.性腺型の検査
- 3.外性器・内性器の検査
- 染色体型の検査は簡易な場合は頬の粘膜を、また精密検査の場合は血液を採取して白血球数を調べる必要があります。これはY染色体の有無について調べるためです。性腺型は血液中の性ホルモンの測定数値をもとに判断されます。男性に関しては胎内にいる際に腎臓から精巣が陰嚢に下降すべきところ途中で止まった状態である停留精巣が疑われる場合はさらにCTでの検査も行います。外性器・内性器に関しては産婦人科や婦人科での検診および X線造影検査・エコーやCT・MRIでの検査を行わなければなりません。これは男性性器・女性性器の存在確認をするためです。
半陰陽の治療法
何科を受診すれば良いですか?
- まず出生時にあきらかな外性器の異常が認められた場合は、出産した産婦人科または婦人科の受診をおすすめします。
- また出生時に受診しておらず男児女児ともにある程度成長している際は小児科での受診が適切です。
どのような治療を行いますか?
- 形成手術による治療が主体になります。
- 半陰陽は陰茎や膣が未熟な場合が多く、男性は陰茎形成術、女性は膣形成術を行います。
- 術後は性ホルモン投与による補充療法をすることがほとんどです。
治療法はどのように決まりますか?
- おもな症状が外性器の未形成であるため、自分の性別を決めなければなりません。そのうえで然るべき形成術を行います。
- 男性として生きていく場合には陰茎を形成し、女性として生きていく場合には腟を形成します。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
- 半陰陽をはじめとする性分化疾患は難病として扱われることも多く、社会的な性別を必要とする際にさまざまな障害を体験しなければなりません。
- 症状の度合に関わらず生まれつき身体にダメージを負っていることは計り知れない苦悩を抱えることになるからです。また身体はもちろんのこと、心にも大きな負担がかかる場合があります。とくに深刻なのはある程度成長するまで半陰陽であることに気付かなかったケースです。それまで男性または女性として日々を過ごし、ある日突然自分の性別が違うと診断されたときのショックはたやすく想像ができるものではありません。
- さらには社会的な性別を決めて変更しなければならないという法律上の問題も出てきます。遺伝子によるものとはいえ、身近な方や自分のお子さんが半陰陽ではない可能性はゼロではありません。まずはこの疾患への認識を深め、偏見をもたないことが何より大切です。
編集部まとめ
ジェンダーに関する認識が広く浸透した昨今でも、半陰陽という生まれながらの症状をもっている方は身体の問題だけでなく心にも暗く重い影をもたらします。
また社会的に「どちらの性別として生きるか」という問題にも直面するため、ご自身のアイデンティティの在り方に深く悩まれる方も多くいらっしゃるのが現状です。
性分化疾患はあまりにデリケートな問題のため、周囲の人々にオープンに打ち明けられないケースがどうしても多くなります。
もし身近な方からこのような悩みを打ち明けられたら、どのように対応したらよいか考えている方もいらっしゃるはずです。
まず大切なのはこの疾患を抱える方に同情するのではなく、深く理解したうえでできる範囲でサポートしていきましょう。
男性・女性といった性別にとらわれ過ぎず、身体的・精神的な面であらゆる性を自認する方でも生きやすい世の中にするためにも、各々の行動や意識が大切になっていきます。
参考文献