「すべり症」とは?症状・原因・予防法についても解説!
腰痛や下肢のしびれなどを感じても、単なる加齢や生活スタイルによるものと放置したままでいるとときに重篤な状態に陥るケースがあります。
その代表的なものがすべり症といわれ、一般的には脊椎の下部にある腰椎に起こる疾患を指し、腰椎分離症ともよばれます。
腰椎は第1~5腰椎まであり各々椎間板をクッションにしてアーチに沿って並んでいますが、この椎間板が何らかの異常をきたすことで骨が前方や後方にずれる症状がすべり症です。
今回はその原因や発症することで起こる症状、治療法・対処法について詳しく解説していきます。
原因不明の腰痛や脚のしびれなどで悩まれている方はぜひ参考にしてみてください。
監修医師:
田中 栄(医師)
目次 -INDEX-
すべり症とは何のこと?
すべり症とはどんな病気ですか?
- すべり症は背骨を形成し通常はきれいに並んでいる椎骨が前方や後方にずれてしまうことで脊柱管が狭くなり、神経が圧迫されて痛みやしびれを伴う状態を指します。基本的には腰椎にみられる疾患です。
- 椎骨が前方にずれているものは「前方すべり症」、後方にずれているものは「後方すべり症」です。
- 原因として激しいスポーツや加齢によっても椎骨はずれてしまうため比較的身近な存在の病気といえます。
すべり症にもいくつかタイプがあると聞いたのですが…
- 発症の原因には先天的なものと後天的なものがあります。その中で「形成不全すべり症」・「分離すべり症」・「変性すべり症」の3つのタイプに分けられます。
- 生まれつき背骨の発達に異常がみられるものが形成不全すべり症で発症率は低いのが特徴です。
- 後天性の分離すべり症は「分離症」に伴うもので、加齢が原因の変性すべり症はこの3種類において最も多い症状になります。
すべり症の主な症状とは何ですか?
- 腰椎すべり症の場合は強い腰の痛みが特徴です。
- 腰をひねったり曲げたりした際に痛みを感じるため、加齢や激しいスポーツなど肉体を酷使した場合の腰痛と見過ごされることも珍しくありません。
- また脚のしびれや歩行時の痛み・排尿障害は変性すべり症に多くみられる症状です。
- 重症化すると物を持ち上げることができなくなったり、歩行困難になったりします。
すべり症は何が原因で発症しますか?
- 激しい運動や加齢によって腰椎が前方や後方にずれたり、椎間板が変形したりすることで脊柱管が狭くなり、神経根が圧迫されて発症します。
- また性別によっても発症しやすい症例があり、例えば変性すべり症は老化による椎間板の変形に伴い第4頸椎に異常が起こり、その患者のほとんどが中年女性です。
すべり症の受診目安や検査方法
すべり症の受診目安を教えてください。
- 受診すべき目安としては、下記のような症状が出た場合病院へ行くべきです。
- 腰痛・下肢のしびれがある
- 脚力の低下・脚に力が入りづらい
- 歩行時に足腰の痛みやしびれが増加するが休むと治まる(間欠性跛行)
- 排尿の勢いが低下する
- これらの症状のいずれかでもみられたら、日常生活に支障が出ないうちに早めの整形外科での受診をおすすめします。
すべり症を放置することで考えられるリスクは何ですか?
- 主な症状が腰痛のため軽視されがちで、放置することが少なくありません。この状態のまま何のケアもしない場合加齢とともに骨と骨の間にずれが生じます。
- 重症化すると腰痛だけでなく下肢の痛み・しびれが出て歩行困難な状態に陥り、日常生活に支障が出るレベルになってしまうので注意しましょう。
すべり症の検査はどのようなことをするのでしょうか?
- すべり症の検査はまずレントゲンを撮って腰椎のずれの有無を確認します。同時に前屈や反った状態ですべり症がみられるかどうか、また筋力や反射神経などに異常をきたしてないかを検査することも必要です。
- レントゲン画像でずれがみられた場合は腰椎MRIで撮影し、神経が通っている脊柱管および椎間孔が狭窄している状態であればすべり症と診断されます。
すべり症の治療
すべり症の治療法を教えてください。
- 保存療法といって薬物療法や腰椎の牽引や温熱療法などの理学療法に運動療法を組み合わせた治療を行いますが、これらで改善が認められない場合は手術が検討されます。
- 薬物療法に関してはすべり症を発症すると神経障害性疼痛を伴うため各種消炎鎮痛剤などを用いて痛みを抑えることがほとんどです。
- 痛みがとくに強い場合は「神経ブロック」とよばれる局所麻酔薬を注射する方法で痛みを軽減させます。
手術はどのようなときに適応されますか?
- 神経ブロック注射を含む薬物療法や理学・運動療法を行っても症状が改善しない場合は下記のような症状がみられ、脊椎狭窄症による神経障害が進行しているケースが多いため手術が適応されます。
- 脚が痛み100mの連続歩行が不可能である
- 歩行時に脚全体の脱力感がある
- 筋力低下によりつま先立ちがしづらい
- 手術は腰椎のずれの程度により異なりますが、大きく分けて除圧術と固定術の2つの施術法から選択されます。
- 脊椎の動きがさほど強くない場合は除圧術で神経の圧迫箇所を削り圧力を取りのぞきます。
- ずれや動きが重度の場合は脊椎を動かさないようにする必要があるため、脊椎の後方から椎間板を取って脊椎を固定させる固定術が適応されるケースがほとんどです。
すべり症での手術は合併症が発症することがあると耳にしたのですが…
- 感染症はその発生率が約1%と低いものの重症化して手術時間が長くなると感染率がUPするというデータがあります。
- また下肢の血流が悪くなることで起こる血栓性静脈炎は4~500人に1人の割合と決して低くはありません。
- そして元々神経にダメージがある場合は手術によって神経損傷が起こるリスクが高まります。また骨粗しょう症や変形側弯症を併発している方は術後の腰椎コルセットなどの固定器具が患部を圧迫し、ずれたり外れたりしやすくなることで症状が悪化する可能性もあります。
そうなんですね。合併症を発症しないための予防はありますか?
- 術後3ヶ月ほどは腰椎コルセットで固定し安静にする必要があるため無理はできません。しかしその間に背中や腹部の筋力は衰えてしまいます。そこで腰椎コルセットが外れたら合併症予防のために外来リハビリに通院されることをおすすめします。
- 外来リハビリのほかにも、自宅や近隣の施設などでセルフエクササイズやウォーキング・スイミングを行い筋力強化を図ることも再発防止に有効です。
- とくにスイミングは身体に余計な負荷をかけることなくインナーマッスルが鍛えられるため、少しずつでも続けましょう。
- また、肥満など体重の増加がある場合は腰への負担も大きくなるため、適度な運動の習慣化のほかに適正な体重にするべく食事制限なども実施して生活習慣を改善する必要があります。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
- すべり症を発症してしまうと痛みだけでなく、重症化すれば通院だけでなく手術や入院・術後のリハビリなどご自身のQOL(Quality of life=生活の質)を著しく損ないます。
- 手軽に始められるウォーキングやセルフエクササイズなど日々適度な運動習慣を取り入れて筋力を高め、すべり症を予防することも重要です。それでも痛みやしびれなどを感じたら早めに整形外科を受診しましょう。
- 軽度の状態なら薬物療法や理学療法・運動療法など最低限の治療で症状をコントロールできます。
- また身体や費用においてさまざまな面で負担も軽く済むため少々の痛みやしびれも侮らず、まずは専門医の診断を仰いでください。
編集部まとめ
我慢できる程度の痛みやしびれだと多くの人は大事にとらえず放置してしまうかもしれませんが、一旦重症化してしまうと例え手術を受けても再発しやすい傾向にあるのがすべり症です。
まずはすぐ始められるウォーキングやセルフエクササイズ・スイミングなど適度な運動を日々の生活に取り入れ習慣化させましょう。
そして適性体重を保つために、食生活の見直しなどウエイトコントロールを実践することで身体への負担も軽くなり、何よりすべり症の予防につながります。
たかが腰痛と軽視せず、下肢のしびれや歩行時の間欠性跛行など違和感を少しでも覚えたら注意が必要です。
手遅れにならないうちに整形外科を受診し脊椎専門医による診断のもと適切なケアをしていきましょう。
参考文献