「漏斗胸」とはどのような病気かご存じですか?症状や原因など医師が解説!
漏斗胸とは、胸のあたりの一部が陥没してしまう病気のことです。乳幼児期に陥没がみられることもあり、見た目の問題で精神的負担となることもあります。
また、陥没がひどい場合には、心肺機能に異常が見られることもあるため、注意が必要です。
そこで本記事は、漏斗胸がどのような病気なのかをご紹介します。原因・発症率・手術方法なども併せてご紹介するので参考にしてください。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
目次 -INDEX-
漏斗胸(ろうときょう)の原因や症状
漏斗胸(ろうときょう)とはどのような病気ですか?
また、陥没の形も全く同じではありません。左右対称のケースもあれば、左右非対称のケースもあります。陥没の症状は、主に幼児期に発見されるケースが多いです。この病気を発症した方の約7割が幼児期に見つかるといわれています。
しかし、必ずしも幼児期に発見できるほど陥没が進んでいるわけではありません。小学校や中学校に入学してからなど、背が伸びた頃に陥没が目立つことで発見に至ることもあります。
また、幼児期にこの病気と診断されなかったからといって、すぐに安心はできません。3歳を超える頃まではこの病気を診断される可能性があるためです。3歳を超えて胸の陥没がみられる場合には、漏斗胸の可能性があります。この病気は男の子に多い病気です。現在では200人~300人に1人の割合で発症しているといわれています。
漏斗胸(ろうときょう)の原因は?
- 肋軟骨・肋骨過成長説
- 肋軟骨脆弱説
- 胸筋機能不全説
通常、人の胸部は肋骨に包まれるような形をしています。そして、肋骨は胸部では胸骨につながっており、背部では背骨につながっているつくりです。また、胸部側の肋骨は軟骨で形成されており、この部分を肋軟骨と呼びます。
肋軟骨・肋骨過成長説は、この肋骨と肋軟骨が内向きに成長しすぎた結果、この病気を発症するという仮説です。以前は、この仮説が発症する主たる原因と考えられていましたが、近年ではこの仮説は疑問視されています。肋軟骨脆弱説とは、胸部が胸の中の圧力に引き込まれてしまってこの病気を発症すると考えられている仮説です。
人の体の構造上、肺を膨らませておく必要があるため、胸の中は陰圧がかかっています。そのため、漏斗胸でなくても肋軟骨を内側へ引き込む力は常に働いているのです。
小児期であれば誰しも肋軟骨は柔らかいですが、ごくまれに過度に柔らかい肋軟骨の方がいるのではないかと考えられています。柔らかすぎる肋軟骨は、陰圧に引き込まれてしまって陥没を起こし、この病気を発症するといわれているのです。
この仮説が唱えられたのは、マルファン症候群と漏斗胸の関係性があるためでした。マルファン症候群とは、全身の結合組織が脆弱であるために、心臓・骨格・大動脈などでさまざまな症状を引き起こす病気です。この病気の症状のひとつに漏斗胸があり、発症例も多かったことからこの仮説が考えられるようになりました。
胸筋機能不全説は、大胸筋の発育が不完全であるため、胸部を引き込む力に逆らえず発症するという仮説です。先述したように、胸の中は陰圧状態となっています。通常の人は、大胸筋が発達しているため、陰圧による胸を引き込もうとする力に逆らえています。しかし、大胸筋が未発達の場合、胸の中に引き込もうとする力に逆らうことができません。そのため、次第に胸が陥没して発症してしまうと考えられています。
漏斗胸(ろうときょう)の症状はどのようなものですか?
- 胸の陥没
- 風邪症状が長引く
- 喘息のような症状が出る
- 胸の痛み
- 心肺機能の低下
- 精神的な負担
胸の陥没は程度によっても異なりますが、ひどい場合には大きな陥没が見られる場合があります。そして、幼児期では、陥没の程度によって風邪を引いたときの症状が長引くことがあります。また、さらに悪化すると気管支炎や肺炎を起こす可能性もあるでしょう。
胸の陥没具合によりますが、喘息のような症状も、風邪による咳が長引くことで発症する可能性があります。胸の痛みは思春期以降の方に現れる症状です。これは、心臓が胸壁に圧迫されているためです。
特に、高齢になると痛みを感じるケースは増えます。さらに、心肺機能の低下を引き起こします。陥没の程度にもよりますが、肺活量が約10%~20%程度低下するのです。これにより、疲れやすかったりすぐに息が上がったりといった症状を訴える方も多いです。
さらに、上記のような症状は全くない場合でも、胸が陥没している見た目の問題から精神的な悩みを抱えて負担を感じる方もいます。
漏斗胸(ろうときょう)は遺伝するのですか?
漏斗胸は、マルファン症候群と密接に関係があるため、遺伝の可能性が考えられています。また、実際に家族内で発生しているケースも報告されています。中には、親子だけでなく兄妹で発症する場合もあるため、遺伝の可能性は十分考えられるでしょう。
漏斗胸(ろうときょうの)の治療や手術方法
どのような治療が行われますか?
- 陰圧吸引療法(バキュームベル・ペクタスエッグ)
- 呼吸・姿勢療法
- 運動
陰圧吸引療法とは、胸に大きな吸盤を取り付けて、胸を持ち上げる方法です。毎日長時間にわたって装置を着ける必要があります。呼吸・姿勢療法では、胸を張って大きく息を吸い込むことで、陥没を目立たなくする治療法です。
この病気の方は猫背であることが多いため、姿勢を正すことでも陥没を目立たせなくできます。運動による治療とは、水泳などの運動を行い、肺活量を増やして胸の形の改善を図る方法です。
しかし、陥没した胸が大きく改善するわけではありません。陥没の程度が軽ければ、これらの方法で改善が見込めるでしょう。しかし、陥没がひどい場合は、どの治療法も大きく陥没を改善するには至りません。しっかりと陥没の治療を行うためには、手術が必要です。
漏斗胸(ろうときょう)の手術方法を教えてください。
肋骨や肋軟骨を削るなどはしないため、短時間の手術が可能で、出血量も少なく傷も目立ちにくい点が特徴です。金属のバーは年齢によっても異なりますが、おおよそ1年半~3年後に抜き取ります。
手術費用の相場を教えてください。
ただし、この金額も必ずしも全額負担というわけではありません。利用できる公的な制度もあるため、実際の負担額はもう少し抑えられる可能性があります。詳細な手術費用の控除額について知りたい場合には、自治体に問い合わせてみましょう。
手術によって後遺症が残る可能性はありますか??
これは、Nuss手術があくまでも矯正治療の一種のためです。もちろん、後戻りが起きないケースもあります。しかし、成人では後戻りがしやすいことも分かっています。とはいえ、手術後の状態と比較すると陥没が再発するというだけで、手術前の状態に完全に戻ってしまうわけではありません。
漏斗胸(ろうときょう)の予後と術後経過
漏斗胸(ろうときょう)は普段の生活に何か支障はありますか?
特に中学生や高校生以上の方が手術を行った場合には学校生活や仕事の部分で支障が出やすいです。さらに、成人の場合のNuss手術では、肋軟骨が硬くなっていることから金属のバーを2本入れるケースもあります。その場合、入院期間が延長することもあるため、生活に支障が出る可能性があるでしょう。
手術後に運動制限はありますか?
最後に、読者へメッセージをお願いします。
しかし、陥没した胸を大きく改善する治療法は、現状手術しかありません。そのため、手術による後遺症や運動制限などのこともしっかりと把握しておきましょう。万が一、お子様に胸の陥没といった違和感を覚えた場合には、専門の医療機関を受診しましょう。
編集部まとめ
漏斗胸は、決して珍しい病気ではありません。
しかし、はっきりとした原因は未だ分かっておらず、陥没した胸を治す方法も手術が最も有効とされています。
胸の陥没の度合いが軽度であれば必ずしも手術が必要なわけではありませんが、重症となると心肺機能の低下などを起こすため、手術も視野に入ってくるでしょう。
症状・生活への支障・手術後の後遺症などをあらかじめしっかりと把握しておき、万が一お子様などに違和感を覚えた場合には、専門の医療機関を受診しましょう。