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「乳がんステージ4の生存率」はご存知ですか?治療法も解説!【医師監修】

 更新日:2025/09/19
「乳がんステージ4の生存率」はご存知ですか?治療法も解説!【医師監修】
乳がんステージ4と診断されたとき、多くの方はまず「後どれくらい生きられるのか?」と不安になるでしょう。 ステージ4とは、乳がんが原発の乳房を越えて肺・骨・肝臓・脳などほかの臓器へ遠隔転移した状態を指します。たしかに完治は難しい段階ですが、治らない=何もできない、というわけではありません。現代の医療では、ステージ4乳がんでも治療によって長期生存や生活の質(QOL)を保つことが可能になってきています。この記事ではステージ4乳がんの生存率や余命の考え方、治療法、向き合い方を解説します。
武田 美貴

監修医師
武田 美貴(医師)

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平成6年札幌医科大学を卒業し、札幌医科大学放射線科に入局。画像診断専門医となり、読影業務に従事。その後、新たな進路を模索するため、老年医療や訪問医療、リハビリテーションなどを学ぶ。現在は、一周回って画像診断で母校に恩返しをする傍ら、医療事故の裁判では、患者に寄り添う代理人を、画像診断と医学知識の両面でサポートすることをライフワークとしている。

乳がんにおける生存率、余命とは

乳がんにおける生存率、余命とは 乳がんの診断を受けると、生存率余命予後といった言葉を耳にすることが多くなります。それぞれ意味が異なるため、まずは基本的な用語の違いを整理してみましょう。

生存率とは

生存率とは、がんと診断されてから一定期間経過した時点で生存している方の割合を指す指標です。通常は5年生存率がよく使われ、%(パーセンテージ)で表されます。この数値は患者さん集団の統計データであり、個々の患者さんが必ずその年数だけ生きられることを示すものではありません。また、生存率には死亡原因を問わず全死亡を含めたもの(実測生存率)とがん以外の死因を除外し、がんによる死亡リスクに絞ったもの(相対生存率)の2種類があります。医学統計では主に相対生存率が用いられ、がんそのものの影響をより正確に示す指標となります。

余命とは

余命とは、ある時点からその後どのくらい生存できるかを示す推計的な期間のことです。医師が伝える余命○ヶ月や余命○年という数字は、過去の統計に基づく平均値・中央値であり、あくまで目安に過ぎません。余命は宣告された方の寿命そのものではなく、統計上の数字だという点を理解しておきましょう。

予後とは

予後とは、病気や治療についての医学的な今後の見通しを意味します。一般的には予後がよいとは、これから病状がよくなる、あるいは安定する可能性が高い、予後が悪いとは将来的に病状が悪化する可能性が高いという意味で使われます。予後には生存率だけでなく、再発の可能性や治療後の生活の質なども含まれます。

乳がんの場合、ステージやサブタイプ、治療への反応によって予後が大きく左右されます。同じステージ4でも、ホルモン受容体の有無やHER2状態、転移の部位・数などによって経過はさまざまです。生存率や余命は予後を考えるうえでの一つの指標ですが、患者さん一人ひとりの予後はそれらの統計値だけで決まるものではないことを念頭に置きましょう。

乳がんステージ4の生存率

乳がんステージ4の生存率 ステージ4乳がんでは、生存率はほかのステージに比べて低くなります。しかし、近年の治療進歩により徐々に改善傾向が見られています。ここでは、代表的な指標である5年生存率10年生存率について解説します。

5年生存率

ステージIV乳がんの5年相対生存率は40%を下回ります。これは、診断から5年後に60%以上の方が亡くなっていることを意味します。一昔前までステージ4乳がんの5年生存率は今よりも低かったのですが、現在では40%前後まで改善してきています。この背景には、新しい薬物療法の登場や治療体系の進歩によって、遠隔転移病変を長期間コントロールできる患者さんが増えたことがあります。

10年生存率

ステージ4乳がんでは10年生存率も確認されています。国内のデータでは、ステージIV乳がんの10年相対生存率は16.1%と報告されています。5年生存率と比べると低下しますが、10年という長期にわたって生存できる患者さんがいらっしゃることを示しています。ただし、生存率は集団データであり個人の余命を決定付けるものではありません。5年や10年という数字に過度にとらわれず、希望を持って治療を続けることが重要です。

ステージ4乳がんの治療法

ステージ4乳がんの治療法 ステージ4では乳がんが乳房から他臓器へ広がっているため、治療の目的は、がんを根治することよりも、がんと共存しながら症状をコントロールすることに変わります。以下にステージ4乳がんで行う主な治療法を解説します。

手術

ステージ4では基本的に手術による根治は難しいため、手術療法は一般的ではありません。乳房や転移巣を手術で切除しても、血流やリンパ流に乗った微小ながん細胞までは取り切れない可能性が高いためです。ただし、場合によっては、症状緩和や局所コントロールを目的に手術が検討されることもあります。

薬物療法

薬物療法はステージ4乳がん治療の中心です。全身に作用して微小ながんも攻撃できるため、遠隔転移の制御に不可欠となります。薬物療法にはいくつか種類があります。

  • 抗がん剤(化学療法)
  • 分子標的薬
  • 免疫チェックポイント阻害薬

以上のような薬物療法を患者さんのがんのタイプに合わせて組み合わせ、全身のがんを抑える治療を行います。治療中は定期的に画像検査や血液検査で効果判定を行い、薬が効いていれば継続し、効かなくなればほかの薬剤へ切り替えていきます。

放射線療法

放射線療法は、転移による症状を和らげる目的で使用されます。例えば、骨転移による痛みや、脳転移による神経症状に対して、患部に放射線を照射することで痛みや症状を軽減できます。また、病変を小さくする目的で放射線を当てることもあります。

ホルモン療法

ホルモン療法は、腫瘍のホルモン受容体(エストロゲン受容体やプロゲステロン受容体)が陽性の場合に有効な治療法です。具体的には、エストロゲンの作用を抑える薬(タモキシフェンやアロマターゼ阻害剤、LH-RHアゴニストなど)を使い、ホルモン依存性の乳がん細胞の増殖を抑えます。

ステージ4乳がんとの向き合い方

ステージ4乳がんとの向き合い方 ステージ4と聞くと末期のような印象を受け、絶望的な気持ちになるかもしれません。しかし、末期は死を意味するわけではありません。治療は続きますし、生活も続いていきます。本章では、ステージ4乳がんと診断された患者さんが前向きに病気と向き合うためのポイントを解説します。

  • 治療の目的を再確認する 初期の乳がん治療が治すことを目的とするのに対し、ステージ4ではがんと共存しコントロールすることが治療の目的になります。
  • 緩和ケアの活用 緩和ケアとは痛みや不安などを和らげ、患者さんの生活の質を支える医療です。決して最期の治療ではなく、治療と並行して受けられるサポートです。
  • 情報や支援を積極的に求める 主治医や看護師、医療ソーシャルワーカーなどに不安や疑問を伝え、納得できるまで相談しましょう。がん相談支援センターや患者会といった相談窓口も大いに活用してください。
  • 自分らしい日常を大切に 治療は長期戦になる場合があります。病気だけにとらわれず、仕事や趣味、家族との時間など自分にとって大事な日常をできる範囲で続けることも心の支えになります。

つらい時期もあるかもしれませんが、周囲の支えと新たな治療の希望を力に、自分らしく病気と向き合っていきましょう。

ステージ4乳がんについてよくある質問

ここまでステージ4乳がんを紹介しました。ここでは「ステージ4乳がん」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

ステージ4乳がんはほかのがんと比べると生存率は高いですか?

はい、乳がんのステージ4はほかの主要ながんと比べると生存率が高いです。乳がんは進行が緩やかで、ホルモン療法など有効な治療手段が多いことがこの理由と考えられます。もちろん個人差はありますが、ステージ4乳がんは同じステージ4でも他臓器のがんより予後が良好なケースが多いといえるでしょう。

ステージ4乳がんでも完治が目指せるケースを教えてください。

一般的にステージ4乳がんは完治は難しいとされますが、まれに完治に近い状態が得られることもあります。転移の部位が1つの臓器に限られ、その数もごく少ない場合、積極的に局所療法(手術や定位放射線)を併用することで長期無再発生存が得られる可能性があります。ただ、こうしたケースはごく一部であり、大多数のステージ4乳がんは体内のどこかにがん細胞が潜んでいると考えて治療を継続する必要があります。

ステージ4乳がんの治療中に仕事はできますか?

はい、治療と仕事の両立は可能な場合が多いです。 乳がんの治療は外来通院で行うことが主流になってきており、治療を続けながら働くこともできるようになっています。ただし、治療内容や副作用の程度によって働き方の工夫は必要です。例えば、ホルモン療法のみの場合は副作用が軽いため通常勤務を続けやすいですが、抗がん剤治療中は体調の波があるので時短勤務や休職制度の利用を検討するとよいでしょう。大切なのは一人で抱え込まず、職場と主治医に相談することです。産業医や上司、人事担当者に治療計画を共有し、柔軟な勤務形態を相談してください。

まとめ

まとめ ステージ4乳がんは遠隔転移を伴う進行がんですが、生存率や余命の数字はあくまで参考値であり、それだけで未来が決まるわけではありません。治療の目的は完治ではなく病気と付き合いながら人生を延ばし充実させることにあります。幸い乳がんは治療の選択肢が多く、生存率もほかの進行がんに比べて高い水準です。大切なのは、希望を捨てず前向きに治療を続けることです。医療チームや周囲の支援を積極的に活用しながら、自分らしく生きる選択を重ねていきましょう。

関連する病気

乳がんと似た症状を示す、または同時に発生する可能性のある病気には以下のようなものがあります。

  • 乳腺線維腺腫
  • 乳腺症
  • 乳腺炎
  • 乳腺嚢胞
  • 脂肪腫

関連する症状

乳がんに関連する症状は以下のような症状が挙げられます。これらの変化を正しく把握することが鑑別に役立ちます。

  • 乳房のしこり
  • 乳頭からの異常な分泌物
  • 乳房の形状や大きさの変化
  • 乳房の痛みや違和感
  • 腋窩や鎖骨上のリンパ節の腫脹

この記事の監修医師