「乳がんのしこり」に痛みはあるの?受診の目安となる症状も解説!【医師監修】


監修医師:
林 良典(医師)
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)
目次 -INDEX-
痛みはある?乳がんのしこりの特徴
乳がんの代表的な症状である乳房のしこりには、いくつかの特徴があります。乳がんのしこりは一般に硬くゴツゴツしており、触っても周囲組織に癒着してあまり動かないという特徴があります。乳がんによるしこり自体は通常痛みを伴いません。そのほかには、乳房にくぼみができる、乳頭や乳輪がただれる、左右の乳房の形が非対称になる、乳頭から分泌物が出るなどの症状があります。
乳がんで乳房やその周辺に痛みが生じるケース
初期の乳がんのしこりは痛みを伴わないことも多いですが、乳がんが進行した場合や広がった場合には、乳房やその周辺に痛みが出ることがあります。ここでは、乳がんによって痛みが生じる代表的な例を見ていきましょう。
リンパ節に転移している場合
乳がんが進行し、腋の下のリンパ節へ転移すると、その部分にしこりが触れるようになります。乳がん細胞が脇のリンパ節に転移して周囲の神経を圧迫すると、脇の下にチクチクと刺すような痛みやかゆみを感じることがあります。ただし、これはがんがかなり進行した段階で現れる症状であり、初期段階で感じることはほとんどありません。リンパ節転移による腫れ自体は硬くしこり状になりますが、痛みを伴わない場合も多い点に注意が必要です。骨転移がみられる場合
乳がんは骨に転移することがあり、骨への転移(骨転移)が起こると骨の痛みを生じる場合があります。乳がんの遠隔転移のなかでも骨転移は多く、乳がん転移全体の約30%は最初に骨に転移するとされています。骨転移があると、がん細胞が骨を破壊したり骨膜を刺激したりするため、腰や背中、肋骨、肩など転移した部位の骨に慢性的な痛みが続くことがあります。乳がん以外で痛みを伴うしこりが生じる病気
乳房にしこりがある場合、その原因は乳がんだけではありません。痛みを伴うしこりは良性の病気でみられることもあります。ここでは、乳がん以外で乳房にしこりと痛みを引き起こす代表的な病気について解説します。
乳腺症
乳腺症は、月経周期に伴う女性ホルモンの変動が原因で乳房にむくみや小さなのう胞ができ、両側の乳房が張ってゴロゴロしたしこりや軽い痛みを感じる状態です。月経前に強くなり、月経が始まると症状が和らぐのが特徴で、閉経後は自然に落ち着くことが多いといわれています。検査ではマンモグラフィやエコーで乳がんとの区別を行い、通常は経過観察で問題ありませんが、痛みが強い場合は鎮痛薬やホルモン調整薬で症状を抑えることがあります。乳腺炎
乳腺炎は主に授乳期に見られる病気で、乳首の小さな傷などから細菌が乳腺内に入り、乳房の一部が赤く腫れて熱っぽくなり、強い痛みや発熱を伴うのが典型です。母乳の通り道である乳管が十分に開いていない、赤ちゃんが母乳を飲む力が弱いなどにより乳汁がうっ滞していると細菌が繁殖しやすく、症状が悪化すると膿がたまることもあります。治療は抗菌薬と鎮痛薬が中心で、乳房を温めながら搾乳して乳汁をしっかり出すことが大切です。膿がたまった場合は切開して排膿する処置が必要になることもあります。良性腫瘍
乳腺には良性の腫瘍ができることもあり、そのなかにはしこりを形成して痛みや違和感をもたらす場合もあります。代表的な乳腺の良性腫瘍には以下のようなものがあります。- 線維腺腫
- 葉状腫瘍
- 乳腺のう胞
- 乳管内乳頭腫
乳房の痛みで受診すべきケース
乳房の痛み自体は、月経周期に伴うホルモン変動でも生じるため珍しい症状ではありません。しかし、次のような場合には乳腺外科などを受診して専門的な評価を受けることをおすすめします。
乳房や乳頭の形状に変化がある場合
鏡の前で両方の乳房を観察したとき、片側の乳房だけ大きさや形に変化が出ている場合は要注意です。具体的には、最近になって乳房全体が腫れぼったく張った感じになったり、左右で明らかに大きさが異なるようになったりした場合です。また、乳頭(乳首)の形状にも注目しましょう。乳頭が以前より陥没したり偏った方向を向いたりしているなど、形状や向きに変化が現れた場合は、乳房内部の病変が乳頭を引っ張っている可能性があります。乳腺症などでも一時的に張りが出ることはありますが、張り感や形の変化が持続する場合は受診の目安となります。乳房にくぼみや引き連れなどがみられる場合
乳房の皮膚にくぼみが生じたり、一部が引き連れるように凹んだりする場合は、皮下にある腫瘍が周囲組織を巻き込んで縮む、えくぼ徴候と呼ばれる現象かもしれません。これは乳がんが皮膚や靭帯に浸潤して引っ張ることで生じる典型的な所見です。乳房を上げたり腕を上げたりした際に皮膚表面がえくぼ状にへこんで見える場合、早めに乳腺専門の医師に診てもらいましょう。また、乳房全体の皮膚がオレンジの皮のように硬く厚ぼったくなったり赤く腫れたりする場合も要注意です。乳頭から分泌物が生じている場合
授乳期でないのに乳頭から液体が出る場合も、乳腺の病気が隠れている可能性があります。乳頭分泌物にはさまざまな色や性状がありますが、透明~白っぽいさらさらした液であれば乳腺症など良性の場合が多いです。一方、血液が混じる分泌や茶褐色の分泌がある場合は注意が必要です。乳管内乳頭腫など良性のこともありますが、乳がんでも血性の乳頭分泌が見られることがあります。いずれの場合も、片側の乳房だけから持続的に分泌があるときは受診しましょう。片方の乳房に持続的な痛みがある場合
両側の乳房が周期的に張ったり痛んだりするのは月経前症候群による一般的な症状と考えられます。しかし、片側の乳房だけが常に痛む、あるいは痛みが次第に強くなってきているという場合は、何らかの病変がある可能性があります。良性の乳腺症でも片側優位に痛むことはありますが、片側の痛みが何週間も続く場合には念のため診察を受けてください。 上記のほかにも、乳房に明らかなしこりを自覚した場合は痛みの有無に関係なく受診すべきです。また、乳頭や乳輪の皮膚に治りにくい湿疹やただれがある場合も医師の診察を受けることをおすすめします。乳がんでなくとも適切な治療が必要な病気は多いため、不安な症状は放置しないようにしましょう。乳がんのしこりについてよくある質問
さいごに、乳がんの検査や症状に関して患者さんから寄せられるよくある質問にMedical DOC監修医がお答えします。
乳がんの検査方法を教えてください
乳がんが疑われる場合、まずは視診・触診で乳房とリンパ節の状態を確認します。その後、画像検査としてマンモグラフィや乳房超音波検査を行います。画像検査で乳がんの疑いがある場合は、しこりに細い針を刺して細胞を採取する細胞診や、組織の一部を採取する針生検(組織診)を行い、顕微鏡でがん細胞の有無を確認して確定診断をします。確定診断後は、がんの広がりを調べるためMRI検査やCT検査、必要に応じて骨シンチグラフィやPET検査なども行われます。
乳がんの検査は痛みを感じますか?
基本的な検査の多くは大きな痛みを伴いませんので過度に心配する必要はありません。例えば、触診や視診で痛みはありませんし、超音波検査もプローブを当てるだけなので痛みはありません。マンモグラフィ検査では乳房を板で挟んで圧迫するため、人によっては一時的な痛みや不快感をもちます。しかし、圧迫時間はごく短時間であり、「痛くて耐えられない」というものではありません。また、細胞診や組織診の際に細い針や太めの針を刺すときにチクッとした痛みがあります。細胞診は麻酔無しで行うこともありますが痛みは一瞬で、組織診では局所麻酔を行うため針を刺している最中の痛みはほとんどありません。
乳がんになりやすい年齢を教えてください。
乳がんは30代から増加し、40代後半にピークがあり、60代前半で再度ピークを迎えます。ただし、乳がんは若年層や高齢者でも発症しうる病気です。全乳がん患者さんのなかで35歳未満で発症する若年性乳がんは少ないものの、20~30代でも毎年一定数の患者さんがいます。
まとめ
乳房のしこりと痛みについて、その原因や考えられる病気、受診の目安を解説しました。乳がんのしこりは硬く、動きにくく、痛みを伴わないことが多いものの、進行すれば痛みが出るケースもあります。痛みの有無に関わらず、乳房に異常を感じたら早めに専門医を受診しましょう。乳房の健康を守るためにも、正しい知識に基づいた冷静な対応が大切です。
関連する病気
- 乳腺線維腺腫
- 乳腺症
- 乳腺炎
- 乳腺嚢胞
- 脂肪腫
関連する症状
- 乳房のしこり
- 乳頭からの異常な分泌物
- 乳房の形状や大きさの変化
- 乳房の痛みや違和感
- 腋窩や鎖骨上のリンパ節の腫脹




