「GISTのステージ分類」を決める4つの指標はご存じですか?医師が徹底解説!

消化管間質腫瘍(GIST)は、胃や小腸など消化管の壁から発生するまれな悪性腫瘍です。一般的な胃がんや大腸がんとは異なり、GISTは消化管の粘膜下にある間葉系細胞由来の肉腫に分類されます。そのためリンパ節への転移は少ないなど性質が異なり、治療方針の判断にはステージ分類だけでなく、再発リスク分類も重要になります。本記事では、GISTのステージ分類を決める要素や胃とそのほかの部位の違い、検査方法、リスク分類との違い、さらに治療や予後に関する疑問などを解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)
目次 -INDEX-
GISTのステージ分類を決める要素

GISTのステージ(病期)は、腫瘍がどれくらい進行しているかを示す指標で、治療方針を決めるうえで重要な情報です。ステージ分類は主に次の4つの要素によって決まります。
以下の要素によってTNM分類を決定し、総合してステージI~IVに病期が振り分けられます。GISTの場合、腫瘍の発生部位(胃かそれ以外か)によって同じTNMと有糸分裂率でもステージの付き方が異なる点が特徴です。
腫瘍の大きさ
腫瘍の大きさは腫瘍の最大径で評価します。早期に発見され腫瘍が小さいほどステージは低く、治療もしやすくなります。具体的には、TNM分類ではおおむね2cm以下をT1、2~5cmをT2、5~10cmをT3、10cm超をT4と区分します。大きな腫瘍ほど進行度が高く、ステージも上がります。
リンパ節転移
リンパ節転移とは、腫瘍近くの所属リンパ節への転移の有無です。GISTではリンパ節転移はまれですが、リンパ節転移が認められた場合はステージIVとなり、外科手術より薬物治療(分子標的薬など)の適応となります。
遠隔転移
遠隔転移とは、肝臓や腹膜、肺など離れた臓器への転移の有無です。ほかの臓器に遠隔転移がある場合もステージIVとなり、薬物療法が主体の治療になります。
有糸分裂率
顕微鏡下で観察したときに、腫瘍細胞がどれくらい活発に分裂増殖しているかを示す指標です。一定の視野内で確認できる細胞の分裂像の数で評価し、この数が多いほど腫瘍の悪性度が高く進行も速いため、ステージも高く分類されます。
胃GISTのステージ分類

胃に発生したGIST(胃GIST)は、おとなしい振る舞いをすることが多く、ほかの部位のGISTに比べて転移・再発の可能性が低いことがわかっています。そのため、胃GISTには胃以外よりも緩やかなステージ分類基準が適用されています。
胃以外のGISTのステージ分類

小腸、結腸、直腸、腹膜など胃以外に発生するGISTでは、胃GISTに比べて転移・再発のリスクが高く、悪性度がやや高いとされています。そのため、同じ条件の腫瘍でも、胃以外のGISTの方が高いステージに分類されます。
GISTのステージ分類を知るための検査方法

ステージ分類を決めるには、腫瘍の広がり(大きさと転移の有無)や細胞の増殖度合いを正確に把握する必要があります。そのためにさまざまな検査が組み合わされます。
内視鏡検査
胃や大腸内の粘膜面を直接観察する検査です。GISTは粘膜下にできる腫瘍のため、普通の内視鏡では表面の一部を採取しても診断が難しいことがあります。しかし、超音波内視鏡(EUS)を併用すると腫瘍の内部構造を調べたり、針を刺して組織を採取(生検)したりすることが可能です。胃の粘膜下腫瘍として指摘された場合、EUS下生検やCTガイド下生検によって組織を取り、病理診断でGISTかどうか確定します。
画像検査
身体の断面画像を撮影することで、腫瘍の位置・大きさや他臓器への転移の有無を詳しく調べます。CT検査では造影剤を使って血流や臓器の様子を映し出し、MRIでは軟部組織の描出に優れます。これらにより腹腔内の肝転移や腹膜播種、小腸など他部位の病変を見落とさないようにします。PET検査が行われることもありますが、まずはCTやMRI検査を行うのが一般的です。
病理検査
生検や手術で採取した腫瘍組織を顕微鏡で調べ、GISTであることを確認します。KITタンパクやDOG1タンパクなどの免疫染色によってGISTと診断されます。さらに、病理検査では腫瘍細胞の分裂像の数(有糸分裂率)を数えて悪性度を評価します。この分裂像数は再発リスクの評価にも用いられ、後述のリスク分類に欠かせません。また、近年では遺伝子検査でKITやPDGFRA遺伝子変異を調べ、薬物療法の効果予測や予後予測に役立てることもあります。
GISTのステージ分類とリスク分類の違いとは

ステージ分類は上述のとおり、腫瘍の進行度合いそのものを示す指標で、治療の方針決定や予後の見通しに用いられます。一方で、GISTにはこれと別にリスク分類と呼ばれる指標があります。リスク分類とは、手術で腫瘍を完全に切除した後に再発がどれくらい起こりやすいかを評価するための分類で、追加の薬物療法(補助療法)を行うべきか判断する材料になります。ステージ分類と似ていますが、扱う目的が異なる点に注意が必要です。
リスク分類は次の3つの要素の組み合わせで決まります。
- 腫瘍の大きさ
- 有糸分裂率(核分裂指数)
- 原発部位
これらの要素をもとに、リスク分類が行われます。リスク分類の結果、再発高リスクと判定された場合には、術後に再発予防目的でイマチニブ(グリべック)などの分子標的薬による補助療法を追加で行うことが推奨されています。逆に、リスクが低ければ手術後は経過観察のみで追加治療の必要はない場合もあります。
このようにステージ分類は「今どれだけ病気が進んでいるか」の評価、リスク分類は「将来再発しそうか」の評価と考えるとわかりやすいでしょう。
GISTについてよくある質問
ここまでGISTを紹介しました。ここでは「GIST」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
GISTはステージによって治療法が変わりますか?
はい、ステージによって治療法は大きく異なります。基本的にステージI~IIIでは外科手術による腫瘍の完全切除が第一選択です。GISTと診断されたら腫瘍の大きさに関わらず手術での切除がすすめられており、胃や小腸の一部を切除しても生活に支障が少ない範囲で摘出する方針となります。一方、ステージIVでは、手術では病気を治しきれないため原則として薬物療法が主体となります。
GISTのステージ別生存率を教えてください。
米国のデータによると、GISTが一部に留まっている場合の5年生存率は96%、GISTと診断されたときにほかの臓器に転移があった場合の5年生存率は57%とされています。もちろん、個人の予後は年齢や健康状態、腫瘍の遺伝子変異の型などさまざまな要因で左右されるため、ステージ=何%の生存率ととらえるのは避けましょう。
GISTを早く発見できれば完治しますか?
早期に見つかったGISTは、多くの場合手術で完全に摘出することで完治が望めます。ただし、GISTは症状が乏しく早期発見が難しい腫瘍でもあります。健康診断の内視鏡検査などで偶然小さな粘膜下腫瘍として発見されることがありますが、自覚症状が出る頃にはある程度の大きさになっていることが少なくありません。早い段階で見つけて適切な治療を受ければGISTは完治も十分可能な病気ですので、不調を感じたら我慢せず検査を受けるようにしましょう。
まとめ

消化管間質腫瘍(GIST)は、発生頻度は高くないものの、特有の性質を持ち、治療や予後に関してはほかの消化管がんとは異なる対応が求められる病気です。しかし、GISTもほかのがんと同様、早期に発見できれば手術による完治も期待できる疾患です。GISTと診断された際は、不安も多いと思いますが、正確な情報に基づき、適切な診断と治療を受けることで、良好な経過が得られるケースも多くあります。主治医とよく相談し、自分に合った治療方針を見つけていきましょう。
関連する病気
GISTと似た症状を示す、または同時に発生する可能性のある病気には以下のようなものがあります。
- 胃がん
- 小腸がん
- 消化管平滑筋腫
- 消化管粘膜下腫瘍(SMT)
- 消化性潰瘍
- 胃腺腫
- 腺腫性ポリープ
関連する症状
GISTに関連する症状は以下のような症状が挙げられます。これらの変化を正しく把握することが鑑別に役立ちます。
- 腹部膨満感や不快感
- 腹部のしこり
- 胃もたれ・食欲不振
- 黒色便(タール便)
- 吐き気・嘔吐
- 貧血
- 全身倦怠感
参考文献

