希少がん「小腸がんのステージ別生存率」はご存じですか?症状についても医師が解説!

小腸がんは消化管に発生する希少ながんの一つです。全悪性腫瘍のうち0.5%未満、消化管腫瘍のうち5%未満という大変まれながんであり、症状が出にくいため発見が遅れがちです。そのため、進行してから見つかるケースも多いとされています。本記事では、小腸がんのステージ別の生存率や、治療法ごとの生存率、ステージごとに現れやすい症状を解説します。小腸がんの予後や症状への理解を深め、早期発見・治療の重要性を確認しましょう。

監修医師:
林 良典(医師)
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)
目次 -INDEX-
がんにおける生存率とは

生存率とは、診断から一定期間後に生存している患者さんの割合を示す指標です。がんの予後や治療効果を評価するためによく用いられ、一般的に5年生存率が治療成績の目安とされています。例えば5年生存率が80%であれば、診断から5年後までに患者さんの80%が生存している、という意味です。ただし、生存率はあくまで集団統計上の値であり、個々の患者さんに当てはめた余命の予測ではありません。また年齢・体力など患者さん個人の要因や治療内容によっても生存率は変動しえます。
ステージ別|小腸がんの生存率

小腸がんはステージ0~IVに分類されます。ステージが上がるほど腫瘍の拡がりや転移の程度が大きく、治療後の生存率は低下します。本章では、それぞれのステージの5年生存率の目安と、その解説を示します。
小腸がんステージⅠの生存率
ステージⅠは腫瘍が小腸壁の粘膜下層や固有筋層までに留まり、リンパ節転移(N0)や遠隔転移(M0)がない初期の段階です。国内多施設研究では、ステージⅠの5年生存率は83.3%と報告されています。適切に治療すれば大部分の患者さんが5年以上生存できる状態です。
小腸がんステージⅡの生存率
ステージⅡは腫瘍が小腸の壁をさらに深く浸潤していますが、それでもリンパ節転移はなく(N0)、遠隔転移もない(M0)段階です。腫瘍の深達度によりⅡA(漿膜下層まで浸潤)とⅡB(漿膜を越えて他臓器に浸潤)に細分類されます。ステージⅡ全体の5年生存率は82.1%と、ステージⅠに近い良好な成績です。ステージⅠと比べ少し低下するものの、大半の患者さんは5年後も生存しています。
小腸がんステージⅢaの生存率
ステージⅢは腫瘍が所属リンパ節に転移した状態で、遠隔転移はない段階です(M0)。リンパ節転移の個数によりⅢa(1~2個のリンパ節転移)とⅢb(3個以上のリンパ節転移)に分類されます。まずステージⅢaの場合、5年生存率は72.1%と報告されています。ステージⅢに入ると生存率はステージI・IIに比べ低下します。
小腸がんステージⅢbの生存率
ステージⅢb(リンパ節転移が3個以上)の場合、5年生存率は52.7%まで低下します。リンパ節への転移個数が多いほど見えない微小転移の可能性が高く、再発率も上昇するため、生存率に大きく影響します。
小腸がんステージⅣの生存率
ステージⅣは遠隔転移(M1)がある段階で、ほかの臓器(肝臓や腹膜など)にがんが転移した状態です。この段階になると5年生存率は大きく低下し、34.1%とされています。統計的にはステージIVは予後不良であり、生存率はほかのステージと比べ大幅に低い値となります。
小腸がんの治療法と生存率

小腸がんの治療はステージによって選択肢が異なり、生存率にも影響を与えます。基本的にはステージI~IIIでは外科的切除による根治を目指し、ステージIVでは化学療法による全身治療が行われます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
内視鏡切除
内視鏡切除は、内視鏡を用いて腫瘍を体外から切除する方法です。小腸がんの場合、十二指腸など内視鏡が届きやすい部位で腫瘍が浅い層に留まっている早期がんに対して行われます。具体的にはステージ0や一部のステージIでリンパ節転移の可能性が極めて低い場合に適応となり、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や粘膜下層剥離術(ESD)などが選択されます。内視鏡切除が可能な小腸がんはごく早期のため良好な成績が期待できます。
外科的切除
外科的切除は、小腸がん治療の基本となる方法です。ステージI~IIIのリンパ節転移のない段階~局所リンパ節転移の段階では、腫瘍を含む小腸の一部と周囲のリンパ節をまとめて切除する根治手術が有効です。小腸がんは希少がんで標準治療のエビデンスが限られますが、切除できれば治癒が期待できます。
化学療法
化学療法は、ステージIVや手術不能例、再発例に対して主に行われます。残念ながら根治を期待できるケースは少ないものの、腫瘍の縮小や進行抑制によって生存期間の延長や症状緩和を図ることが目的となります。
ステージ別の症状

小腸がんは初期には自覚症状が乏しいことで知られています。症状が出現したときにはすでに病状が進行していたということも少なくありません。症状の現れ方にもステージによって傾向があります。
ステージⅠの症状
ステージⅠ(早期)の小腸がんではほとんど症状がありません。 多くの場合、自覚症状はまったくなく、健康診断や他疾患の検査中に偶然発見されるケースもあります。ごく一部では、腫瘍からの微少な出血により便潜血検査が陽性になったり、軽度の貧血が見られたりする場合があります。しかし、日常生活で気付くような明確な症状(痛みや体調不良)は通常ありません。
ステージⅡの症状
ステージⅡになると、腫瘍が小腸の壁を深くまで侵潤しており、サイズもある程度大きくなっている可能性があります。この段階でも症状が出ない場合も少なくありませんが、腫瘍の位置や大きさによっては徐々に症状が現れ始めることもあります。代表的なものは腹部不快感や軽い腹痛、腹部の張りなどです。ただし、ステージIIの症状はまだ断続的で、軽度であることが多く、患者さん自身が「年齢による体力低下かな」程度に見過ごしてしまう場合もあります。
ステージⅢの症状
ステージⅢでは、腫瘍がさらに大きくなり周囲組織への浸潤も進んでいるため、症状が明確に現れる段階です。腹痛や腹部膨満感、嘔吐などの症状が現れます。加えて、腫瘍からの出血が増えることで黒色便(タール便)や血便がみられることがあります。慢性的な失血により顕著な貧血となり、顔色不良や疲労感が強く出ることもあります。
ステージⅣの症状
ステージⅣでは、上記の局所症状に加えて全身的な症状や転移臓器に対応した症状が現れます。例えば、肝臓に転移した場合には肝機能の低下や胆道の圧迫によって黄疸が出たり、お腹に腹水が溜まって腹囲が増大したりすることがあります。腹膜播種(腹膜への転移)があると腹水貯留や腸閉塞をきたしやすく、腹痛・膨満感がより強くなる可能性があります。遠隔転移による全身状態の悪化に伴い、食欲不振や著しい体重減少が生じることもあります。
小腸がんについてよくある質問
ここまで小腸がんを紹介しました。ここでは「小腸がん」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
小腸がんの生存率は同じステージでも年齢によって変わりますか?
はい、ある程度変わる可能性があります。 生存率の数値は主にステージによって決まりますが、患者さんの年齢や全身状態も予後に影響を及ぼす重要な要素です。一般的に高齢の患者さんほど体力や免疫力が低下していたり、ほかの病気を持っていたりすることが多く、これが治療耐性や回復力に影響します。
小腸がんの種類によって生存率に変化があるかどうかを教えてください。
はい、小腸に発生するがんの種類によって生存率・予後は大きく異なります。 小腸がんといっても、実はさまざまなタイプの腫瘍が含まれます。代表的なものとして腺がん(小腸腺がん)のほか、神経内分泌腫瘍、悪性リンパ腫、肉腫があります。これらはそれぞれ性質が異なるため、治療方針や生存率も異なります。
小腸がんは再発しやすいがんですか?
小腸がんはほかの消化器がんと比べて再発しやすい傾向があるとされています。 実際、一度根治手術で治療しても再発することが少なくありません。これは小腸がんの特性や発見の遅れ、リンパ節転移を伴う率の高さなどが影響していると考えられます。また前述のように、小腸がんには確立した術後補助療法(再発予防策)がないことも一因です。
まとめ

小腸がんは発生頻度の低い希少ながんですが、ステージ(進行度)により生存率が大きく異なることがわかっています。小腸がんは症状が出にくく早期発見が難しいものの、症状がなくても定期健診や検査を受けることでたまたま早期に見つかることもあります。近年はカプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡など検査技術の進歩で診断精度も向上しています。不調を見逃さず検査につなげることで、早期発見・治療のチャンスを逃さないようにしましょう。
関連する病気
小腸がんと似た症状を示す、または同時に発生する可能性のある病気には以下のようなものがあります。
- クローン病
- 小腸ポリープ
- メッケル憩室炎
- 小腸悪性リンパ腫
- 潰瘍性大腸炎
関連する症状
小腸がんに関連する症状は以下のような症状が挙げられます。これらの変化を正しく把握することが鑑別に役立ちます。
- 持続的な腹痛・不快感
- 悪心・嘔吐
- 体重減少・食欲不振
- 腹部膨満感
- 便通異常
参考文献


