「小腸がん」を見つけるには何種類の「検査」が必要か?医師が徹底解説!


監修医師:
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)
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小腸がんとは
小腸は胃から大腸へ内容物を送りながら、栄養素の消化・吸収を行う消化管の一部です。小腸がんとはその小腸内部の粘膜から発生する悪性腫瘍の総称で、発生箇所は約45%が十二指腸、35%が空腸、20%が回腸と報告されています。組織型(がん細胞の種類)にはいくつかありますが、なかでも神経内分泌腫瘍(ホルモン産生細胞由来のがん)と腺がん(粘膜の腺細胞由来のがん)が多くみられます。
小腸がんの検査方法
小腸がんの診断には、内視鏡による検査から、各種画像検査、血液検査まで複数の検査が組み合わされます。一つの検査だけですべてを診断するのは難しく、症状や腫瘍の位置に応じて適切な検査が実施されます。それぞれの検査には目的や特徴があり、必要に応じて併用されます。
内視鏡検査
内視鏡検査では、先端にカメラとライトが付いた細長い管(内視鏡)を体内に挿入し、消化管の内側を直接観察します。内視鏡には鉗子(生検鉗子)を通すことのできる場所があり、異常箇所が見つかればその一部をつまんで採取し、組織検査(生検)に回すことが可能です。一方で、小腸は全長が長く、通常の上部消化管内視鏡(胃カメラ)や下部消化管内視鏡(大腸カメラ)では届かない領域が多く存在します。そのため、小腸を詳しく調べる際にはカプセル内視鏡やバルーン内視鏡といった特殊な内視鏡検査が活用されます。上部消化管内視鏡
上部消化管内視鏡検査は、口から内視鏡を挿入して食道、胃、十二指腸までの上部消化管内を観察する方法です。特に十二指腸の中を直接観察できるため、十二指腸に発生した腫瘍の発見に役立ちます。検査中に異常な部分が見つかれば、その場で生検を行い、病理検査でがん細胞の有無を確認します。下部消化管内視鏡
下部消化管内視鏡検査は、肛門から内視鏡を挿入して大腸(結腸・直腸)の内側を観察する検査です。主に大腸がんや大腸ポリープを調べる目的で行われますが、回腸(小腸の末端部)まで挿入できれば回盲部付近の小腸を一部観察することも可能です。検査で検出できる範囲は結腸と直腸までであり、小腸内部の腫瘍を直接見るには適していないのです。 そのため、小腸がんの精査では、カプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡を用います。 カプセル内視鏡は、カメラが内蔵された小さなカプセル型の装置を患者さんが飲み込むことで、消化管の中の画像を撮影する検査法です。従来の内視鏡では届きにくかった小腸の内部を、体内を移動しながら詳細に観察できます。 一方、ダブルバルーン内視鏡は、2つのバルーンを使って小腸内を段階的にたぐり寄せながら進む内視鏡です。上部(口)または下部(肛門)から挿入し、従来の内視鏡では到達困難だった小腸の深部まで観察および治療が可能となります。画像検査
画像検査では、腫瘍の位置や大きさ、広がりを評価します。小腸がんが疑われる際によく用いられる画像検査として、CT検査やMRI検査、PET検査があります。適切な治療方針を立てるために、画像検査で病変のステージ(進行度)を把握することが重要です。CT検査
CT検査ではエックス線を使って身体の断面画像を撮影します。腹部のCTでは、小腸そのものだけでなく肝臓など周囲臓器も含めて広範囲に写し出せるため、腫瘍による腸閉塞の有無や、リンパ節転移・肝転移の有無を一度に評価できます。造影剤を用いたCT(造影CT)を行えば腫瘍と正常組織のコントラストが付き、より発見しやすくなります。MRI検査
MRI検査は強力な磁石と電波を用いて体内の断面画像を撮影する方法で、放射線被曝がないのが特徴です。小腸の壁の厚みや周囲組織との境界、肝臓や腹膜への転移巣の描出などに優れています。PET検査
PET検査は、がん細胞がぶどう糖を多く消費する性質を利用して腫瘍を画像化する検査です。ぶどう糖が集中的に取り込まれた部位が映し出され、がんの存在を示唆します。PET検査は全身の転移検索に有用で、CTやMRIでは見つけにくい小さな転移巣を検出できる場合があります。血液検査
血液検査は小腸がんそのものを直接発見することはできませんが、全身状態や臓器機能の把握、がんによる間接的な異常の有無を確認する目的で行われます。また、消化器がんで測定される腫瘍マーカーも小腸がんの診断補助に用いられます。小腸の腺がんではCEAやCA19-9といった腫瘍マーカーが上昇することが知られています。注腸検査
注腸検査は、肛門から腸に造影剤を注入し、X線撮影することで腸管の形態異常を調べる検査です。本検査では、狭窄(腸管の細い部分)やポリープ状の突出、粘膜の欠損(潰瘍)などが描出され、腫瘍による変化を間接的にとらえることができます。病理検査
病理検査は、採取した細胞・組織を顕微鏡で観察し、がんの有無や種類を判定する検査です。小腸がんの確定診断には病理検査が不可欠であり、通常は内視鏡検査中の生検で得られた組織や、場合によっては手術で切除された病変組織を用いて行います。小腸がんと診断されるまでの流れ
診断の流れとしては、まず簡便な検査である血液検査や腹部超音波検査を行い、異常所見を確認します。次に、腸の通過障害や大きな腫瘤を調べるために画像検査が行われます。その後、内視鏡検査が計画され、直接腫瘍を確認・生検して確定診断を行います。
小腸がんの検査を受ける前の注意点
小腸がんの検査を受ける際には、検査ごとにいくつか注意すべき点があります。特に内視鏡検査や注腸検査では事前の準備が結果の精度に大きく影響します。ここでは主な注意点を検査別に解説します。
内視鏡検査前に注意すること
内視鏡検査を受ける前日は、消化管をきれいな状態に整えるための準備が必要です。上部消化管内視鏡検査の場合、検査当日の6~8時間前から絶食(水やお茶以外の飲食禁止)が指示されます。胃の中に食べ物が残っていると視野が悪くなったり、嘔吐のリスクが高まったりするためです。 下部消化管内視鏡検査の場合、検査前日から繊維質の少ない食事(お粥や白身魚など)にするといった食事内容の制限があります。また、検査前日に下剤を服用し、当日は腸管洗浄液を用いて腸内を完全に空にします。便が残っていると小さな病変の見落としにつながるため、指示どおりしっかり腸をきれいにすることが重要です。注腸検査前に注意すること
注腸検査を受ける際にも、前日からの食事制限と腸管洗浄が必要です。検査前日は大腸内視鏡と同様に繊維質の少ない食事にし、夜は早めに軽めの食事を済ませます。検査当日の朝は絶食とし、下剤の服用や浣腸で腸内を空っぽにします。腸に便が残っていると造影剤が行き渡らず正確な撮影ができません。小腸がんについてよくある質問
ここまで小腸がんを紹介しました。ここでは「小腸がん」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
内視鏡検査は痛みがありますか?
内視鏡検査に対する痛みの感じ方は、検査の種類や個人差によります。上部消化管内視鏡の場合、経口で行うと喉の違和感や嘔吐反射による不快感がありますが、麻酔薬の喉スプレーや静脈麻酔(鎮静剤)を使用することで多くの患者さんは痛みをほとんど感じずに検査を受けています。ほかの内視鏡検査でも同様に、鎮静剤など麻酔を利用して痛みを軽減しています。
検査終了後、検査の結果が出るまでの期間を教えてください。
検査結果が出るまでの期間は、実施した検査の種類によって異なります。主治医からは早ければ即日~数日以内に説明を受けることができるでしょう。内視鏡検査で肉眼的に明らかな腫瘍が確認できた場合は、その場で医師から所見の概要が伝えられることもあります。ただし、確定診断には生検組織の病理検査結果を待つ必要があります。
小腸がんの検査でがんと診断された場合はどのような流れになりますか?
小腸がんと診断された場合、治療方針の決定となります。検査で得られた情報を総合し、適切と思われる治療法が行われます。小腸がんの治療の中心は外科的な手術で、可能であれば腫瘍を含む小腸の患部切除を行います。切除が難しい場合や再発リスクが高い場合には、抗がん剤(化学療法)や放射線治療、分子標的薬や免疫療法などが検討されます。
まとめ
小腸がんはさまざまな検査を行い、診断を確定します。小腸がんと診断された場合でも、治療法は進歩しており、手術を中心に薬物療法や放射線療法を組み合わせて対応できます。希少がんゆえ情報が少なく不安も大きいかもしれませんが、医師の指導のもと適切な検査・治療を受けることで十分対処可能ながんです。症状に心当たりがある方や検査をすすめられた方は、本記事の内容を参考に医師とよく相談し、早めの対応を心がけてください。
関連する病気
小腸がんと似た症状を示す、または同時に発生する可能性のある病気には以下のようなものがあります。- クローン病
- 小腸ポリープ
- メッケル憩室炎
- 小腸悪性リンパ腫
- 潰瘍性大腸炎
関連する症状
小腸がんに関連する症状は以下のような症状が挙げられます。これらの変化を正しく把握することが鑑別に役立ちます。- 持続的な腹痛・不快感
- 悪心・嘔吐
- 体重減少・食欲不振
- 腹部膨満感
- 便通異常



