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「頸部食道がん」になると喉にどんな症状が現れるかご存じですか?医師が解説!

 公開日:2025/10/07
「頸部食道がん」になると喉にどんな症状が現れるかご存じですか?医師が解説!

頸部食道がんは、食道のうち首に位置する部分(頸部食道)に発生するがんです。頸部食道がんは食道がん全体の約5%と発生頻度は低いですが、のどや声帯に近い場所にできるため飲み込みや発声に影響しやすい特徴があります。本記事では、頸部食道がんの基礎知識から治療による声や嚥下機能への影響や術後のケアをわかりやすく解説します。

和田 蔵人

監修医師
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)

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佐賀大学医学部卒業。南海医療センター消化器内科部長、大分市医師会立アルメイダ病院内視鏡センター長兼消化器内科部長などを歴任後の2023年、大分県大分市に「わだ内科・胃と腸クリニック」開業。地域医療に従事しながら、医療関連の記事の執筆や監修などを行なっている。医学博士。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本医師会認定産業医の資格を有する。

頸部食道がんとは

頸部食道がんとはどのような病気でしょうか。本章では頸部食道がんという病気について解説します。

頸部食道とは

頸部食道とは、食道のうち首に位置する部分を指します。食道は咽頭と胃をつなぐ管です。頸部食道はちょうど喉の下端から食道へ移行する部分で、気管や声帯と近接しています。このため頸部食道のがんは、場所によっては声帯や気管に浸潤する可能性があります。

頸部食道がんの概要

頸部食道がんは、その名のとおり頸部食道に発生する食道がんです。多量の飲酒や喫煙は重要な危険因子です。こうした生活習慣に起因するため、患者さんは中高年の男性が多い傾向があります。

頸部食道がんの発生頻度

日本において食道がんは年間約2~3万人が診断されていますが、そのなかで頸部食道がんは全体の約5%です。このように頸部食道がんはまれですが、治療の難しさや機能への影響の大きさから専門的な対応が必要な疾患です。

頸部食道がんの症状

頸部食道がんの主な症状には、食べ物や飲み物が飲み込みにくい(嚥下障害)、声がかすれる・声の出しづらさ、首のしこりや痛み、違和感などがあります。初期の食道がんでは症状がほとんど現れないことも多いですが、がんが大きくなるにつれてこれらの症状が目立ってきます。以下に症状ごとに詳しく説明します。

飲み込みづらさ

飲食物が飲み込みにくい、喉や胸につかえる感じがするといった嚥下障害は、食道がん一般にみられる代表的な症状です。頸部食道がんでも、がんが食道の内側に隆起したり狭くしたりすることで、固形物が飲み込みにくくなります。初めはご飯や肉など固いものが喉に引っかかる感じがし、進行するとお茶や水さえ通りにくくなることもあります。

声のかすれや発声の変化

声がかすれる(嗄声)、声質が変わる、声が出にくいといった症状も頸部食道がんで現れることがあります。これは、食道のすぐそばを走行する反回神経という声帯を動かす神経に、がんや転移したリンパ節が浸潤・圧迫するためです。食道がんでは反回神経周囲のリンパ節転移が起きやすく、初発症状として嗄声が現れることがあります。

首のしこりや痛み、違和感

首のしこりや違和感、痛みも頸部食道がんの症状として現れることがあります。頸部食道がんは近くのリンパ節へ転移しやすいため、首のリンパ節が腫れて硬いしこりとして触れることがあります。また、がんが咽頭や喉頭に広がった場合には喉の痛みを感じたり、常に喉に異物があるような違和感が生じることもあります。

頸部食道がんの検査と診断

頸部食道がんが疑われる症状がある場合、正確な診断のために上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)やCTなどの画像検査が行われます。食道がんの診断では、まず内視鏡で直接食道粘膜を観察し、必要に応じて組織を採取して調べることが不可欠です。そのうえで、CTやMRI、超音波検査、PETなどの画像検査によってがんの広がり(進行度)を詳しく評価します。

内視鏡検査と組織生検

頸部食道がんの確定診断には上部消化管内視鏡検査が欠かせません。内視鏡を鼻や口から挿入し、食道の粘膜を直接観察します。内視鏡ではわずかな粘膜の色調変化や隆起をとらえることができ、早期がんの発見に有用です。がんが疑われる部位があれば、生検鉗子で組織の一部を採取して病理組織検査(生検)を行います。

画像検査

食道がんと診断された場合、画像検査による病期(ステージ)診断が重要です。特に頸部食道がんでは喉頭や気管への浸潤の有無やリンパ節転移や遠隔転移の有無を調べるため、CTやMRI画像で詳細に検討します。また、PET-CTも行われることがあります。

頸部食道がんの治療法

頸部食道がんの治療は、放射線治療・化学療法(抗がん剤治療)手術療法が二本柱です。がんの進行度や患者さんの体力・希望に応じて、これらを組み合わせた治療計画が立てられます。以下に主な治療法について詳しく説明します。

放射線治療と化学療法

放射線治療は、高エネルギーのX線などを腫瘍に照射してがん細胞を死滅させる治療です。頸部食道がんでは、放射線治療を抗がん剤(化学療法)と併用する化学放射線療法が行われることが一般的です。

手術療法

手術では、がんのある食道部分を切除して取り除きます。頸部食道がんの標準的な手術は、頸部食道切除術と消化管再建術の組み合わせになります。また、頸部食道がんの手術では、がんが声帯や咽頭に及んでいるかどうかが重要なポイントです。がんが広がって喉頭や咽頭を巻き込んでいる場合、食道と一緒にそれらを摘出せざるを得ないことがあり、術後は声を失う可能性もあります。さらに、リンパ節に対しては、頸部の左右両側のリンパ節郭清(リンパ節の一括切除)を行います。

再発や転移に対する治療

頸部食道がん治療後に同じ部位で再発が起きた(局所再発)場合や、診断時に遠隔転移が認められる場合には、状況に応じた追加治療が検討されます。局所再発に対しては、以前に手術を受けていれば放射線治療や化学療法で対応し、逆に化学放射線療法後の再発であれば手術で腫瘍を切除します。一方、遠隔転移がある場合やリンパ節転移が広範囲な場合には、薬物療法が主体となります。

治療に伴う機能への影響と術後ケア

頸部食道がんの治療は、生命を救うために必要不可欠ですが、その過程で声や飲み込む機能(嚥下)に影響が及ぶことがあります。特に手術で喉頭を摘出した場合や、放射線治療で組織にダメージが及んだ場合、声を出す機能や食べ物を飲み込む機能の低下が避けられません。そこで、治療後のリハビリテーションや代替手段の活用によって、できるだけ日常生活の質を維持・向上させることが大切です。本章では、声と嚥下機能への影響と対策を解説します。

声を失う可能性と代替手段

頸部食道がんの治療では、場合によっては声を失う可能性があります。特に声帯も含めた摘出を行った場合、手術後は自分の声で話すことができなくなります。喉頭を失った患者さんは、気管と食道が分離された状態で首の前面に永久気管孔と呼ばれる呼吸孔が造られます。この状況では通常の発声機能が失われるため、別の方法で声を作り出す訓練が必要になります。

代表的な代替音声の手段として、以下の方法があります。

  • 食道発声(訓練によって空気を食道に入れて発声)
  • 電気式人工喉頭(機械的に音声を発生)
  • シャント発声(気管食道シャント法):気管と食道の間に細い管(シャント)を設置

これらの方法に加え、筆談や音声アプリなどで補助することもあります。

嚥下リハビリ

嚥下機能(飲み込む力)のリハビリテーションは、頸部食道がん治療後の生活の質を左右する重要なポイントです。手術で食道や周囲組織を切除・再建すると嚥下の動きが変化しますし、放射線治療でも筋肉の硬化や唾液の減少により飲み込みが悪くなることがあります。適切なリハビリによって嚥下に関わる筋を鍛え、誤嚥を防止しつつ経口摂取の回復を目指します。摂食・嚥下リハビリの専門職(言語聴覚士)との連携がとても重要です。

頸部食道がんについてよくある質問

本章では頸部食道がんの患者さんからいただく、よくある質問についてメディカルドック監修医がお答えします。

頸部食道がんの治療で声を残すことはできますか?

声を残せる可能性はあります。がんの広がり具合によりますが、喉頭まで浸潤していない症例では化学放射線療法によって喉頭を温存し、声帯を残したまま治療することが試みられます。ただし、がんが声帯や咽頭にまで達している場合は喉頭ごと摘出せざるをえず、声は失われてしまいます。

頸部食道がんの治療後は、また普通に食事ができますか?

多くの患者さんは治療後に再び口から食事をとれるようになりますが、治療直後の段階では注意が必要です。手術を受けた場合、食道と胃のつながり方が変わるため術後しばらくは食事量が減り、体重が減少しがちです。また再建した消化管や放射線治療を行った部位が瘢痕化して狭くなることで、食べ物がつかえやすくなることもあります。最初はおかゆやゼリー食から始め、ゆっくりよく噛んで飲み込む習慣をつけましょう。


まとめ


頸部食道がんは首に位置する食道に発生するまれながんですが、飲み込みづらさや声のかすれなど日常生活に支障をきたす症状が現れます。その治療は進行度や患者さんの希望に応じて適切な治療法が選択されます。今までに近い生活を行うための手段はいくつかありますが、それらを知って利用することが重要です。本記事がその手段を見つける一助になれば幸いです。

関連する病気

  • 咽頭がん
  • 喉頭がん
  • Zenker食道憩室
  • 逆流性食道炎
  • バレット食道

関連する症状

  • 嚥下困難
  • 嚥下時痛
  • 体重減少
  • 嗄声や声のかすれ
  • 胸部または頸部の痛み
  • 首のしこり

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