「中皮腫」が進むと胸や背中に「何の症状」が現れるかご存知ですか?医師が徹底解説!
公開日:2025/09/28


監修医師:
福田 滉仁(医師)
プロフィールをもっと見る
京都府立医科大学医学部医学科卒業。初期研修修了後、総合病院で呼吸器領域を中心に内科診療に従事し、呼吸器専門医および総合内科専門医を取得。さらに、胸部悪性腫瘍をはじめとする多様ながんの診療経験を積み、がん薬物療法専門医資格も取得している。日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医、臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、日本呼吸器気管支鏡学会気管支鏡専門医。
目次 -INDEX-
中皮腫とは
中皮腫という病気を聞いたことがない方もいると思います。そこで本章では、まず中皮腫の概要とその種類、発生部位を解説します。
中皮腫の概要
中皮腫とは、中皮細胞から発生する悪性腫瘍です。胸の内側や肺表面を覆う胸膜、心臓を包む心膜、腹部臓器を覆う腹膜、精巣を包む精巣鞘膜といった膜の表面にある中皮細胞ががん化することで発症します。発症の原因としてアスベスト(石綿)曝露が大きく関与しており、初めてアスベストに触れてから25~50年の潜伏期間を経て発病することが知られています。アスベストを吸い込んだからといって必ず中皮腫を発症するわけではありません。また、中皮腫と喫煙との因果関係はないとされています。中皮腫の種類と発生部位
中皮腫は発生する部位によって以下の4種類に分類されます。 胸膜中皮腫 肺や胸壁の内側を覆う胸膜から発生します。 腹膜中皮腫 腹腔内の臓器を覆う腹膜から発生します。 心膜中皮腫 心臓および大血管周囲を覆う心膜から発生します。 精巣鞘膜中皮腫 精巣を包む膜(精巣鞘膜)から発生します。 なお、中皮腫患者さんの約8~9割は胸膜中皮腫であり、腹膜中皮腫が約1割、心膜および精巣鞘膜からの発症はごく少数と報告されています。発生部位別の症状
中皮腫は発生する場所によって、現れる症状も異なります。本章では、それぞれの中皮腫で現れる症状を解説します。
胸膜中皮腫の症状
胸膜中皮腫では、腫瘍が胸膜に広がることで胸水が生じやすく、それによる症状が現れます。代表的な症状は咳、そして胸水が大量に溜まることによる呼吸困難や胸部圧迫感です。また、胸膜には痛覚があるため、腫瘍が広がると胸や背中の痛みを感じることがあります。まれに原因不明の発熱や体重減少など全身の症状がみられることもありますが、これらは中皮腫に特有の症状ではなくほかの病気でも起こりうるため注意が必要です。そして、初期の胸膜中皮腫は自覚症状に乏しいことがあるため、健康診断の胸部X線検査で偶然に胸水貯留や胸膜肥厚が見つかり発覚することもあります。腹膜中皮腫の症状
腹膜中皮腫では、初期には症状がほとんどありません。進行すると腹水が大量に溜まり、お腹のハリ(腹部膨満感)を感じます。その他、腹痛や腰痛、食欲低下、便通異常など腹部症状が現れ、腹部にしこりを触れることもあります。腹膜中皮腫も胸膜中皮腫と同様に、早期には自覚症状がないことが多いため発見が遅れがちな病気です。心膜・精巣鞘膜中皮腫の症状
心膜中皮腫および精巣鞘膜中皮腫は発症頻度が極めて低く、症例数が少ないため典型的な症状もあまり知られていません。一般的には、心膜中皮腫では心膜に液体が溜まることで呼吸困難や浮腫といった心不全症状に加え、胸痛などを引き起こす場合があります。また、不整脈による動悸が現れることもあります。一方、精巣鞘膜中皮腫では陰嚢の腫れとして症状が現れることが多く、精巣がんやヘルニアと間違われることがあります。ステージ別|中皮腫の症状
中皮腫は胸膜中皮腫の場合、進行度合いに応じてステージI~IVの4段階に分類されます。腹膜中皮腫には明確なステージ分類はありませんが、進行度合いは胸膜中皮腫と同様に考えられます。一般にステージ(病期)が進むほど症状が顕著になる傾向があります。ここでは胸膜中皮腫を念頭に、ステージ別の症状の進行を説明します。
ステージⅠ
ステージIはがんが片側の胸膜に限局している早期の段階です。リンパ節転移や他臓器への転移はなく、腫瘍も胸膜の限られた範囲に留まっています。この段階では自覚症状がないことも多く、健康診断の胸部X線やCT検査で偶然見つかる場合もあります。呼吸困難や咳を自覚する場合もありますが、胸水がわずかに溜まっていても少量であれば症状を感じないため、ステージIでの発見はとても難しいのが現状です。ステージⅡ
ステージIIでも、がんは片側の胸腔内にありますが、周囲の肺実質や横隔膜の筋層にまで広がっており、片側のリンパ節転移も伴います。ただし、遠隔転移はありません。腫瘍が大きくなり胸水の量が増えることもあるため、呼吸困難や咳などの症状を自覚することがあります。例えば階段を上ったときに息切れを感じる、胸が重苦しいといった症状が現れることがあります。ただし、症状の程度は人によってさまざまで、ステージIIでも無症状のことも少なくありません。そのため、アスベスト曝露歴がある方は定期的に検診を受け、小さな症状でも見逃さないことが大切です。ステージⅢ
ステージⅢになると、がんは隣接する臓器(反対側の胸膜や食道、気管、脊椎、心膜)におよびます。反対側の胸にあるリンパ節への転移も見られますが、遠隔臓器へは転移していない状態です。この段階まで進行すると、労作時の呼吸困難や胸痛、胸部圧迫感といった症状を自覚することが多いです。また、胸水が胸腔内に大量に溜まると、肺を圧迫するため、安静にしていても呼吸が浅くなったり咳が出たりします。また、身体を横に倒すとさらに息苦しく感じることがあります。がんはすでに片側の胸腔いっぱいに広がっていることが多く、日常生活にも支障をきたすようになります。ステージⅣ
ステージIVは、がんが遠隔の臓器(肺、肝臓、腎臓など)に転移した最も進行した段階です。この頃になると症状は全身におよび、胸の痛みや呼吸困難はさらに悪化するだけでなく、全身の強い倦怠感(だるさ)や発熱が見られることもあります。食欲低下や極度の疲労感により日常生活動作が大きく制限され、ベッドで過ごす時間が長くなる方もいます。中皮腫についてよくある質問
ここまで中皮腫を紹介しました。ここでは「中皮腫」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
中皮腫の主な原因は何ですか?アスベストを吸うと必ず発症するのでしょうか?
中皮腫の主な原因はアスベスト(石綿)への曝露です。以前にアスベストを扱う仕事をしていた方や、工場周辺に住んでいた方に多く発症がみられます。ただし、アスベストを吸い込んだからといって必ず中皮腫になるわけではありません。発症までに25~50年もの長い潜伏期間を経ることが多いとされています。そのため、アスベスト曝露歴がある方は定期的に健康診断を受け、症状の有無に関わらず医師に相談すると安心です。
アスベストに曝露した過去があります。中皮腫を早期発見する方法はありますか?
残念ながら中皮腫の早期発見は難しいのが現状です。特に、初期には自覚症状がほとんどないとされているため、アスベスト曝露歴がある方でも自分で気付くことは困難です。早期発見のためには定期的な検診(胸部X線や胸部CT検査)を受けることが重要です。また、息苦しさや胸の痛み、原因不明の咳など少しでも気になる症状があれば放置せず速やかに医療機関で相談してください。中皮腫は石綿曝露から数十年経って発症するため、過去に曝露歴のある方は中高年以降も引き続き健康チェックを続けることが大切です。
まとめ
中皮腫は、肺や心臓、腹部臓器などを包む膜ががん化する希少ながんで、大半はアスベスト曝露が原因です。発生部位によって胸膜中皮腫・腹膜中皮腫などに分類され、特に胸膜中皮腫が多くみられます。初期には症状が出にくく、進行すると胸痛や呼吸困難、腹部膨満感など部位特有の症状が現れます。ステージが上がるにつれ症状は重くなり、全身状態にも影響がおよびます。中皮腫は治療の難しい病気ですが、新たな治療法の開発も進んでいます。過去にアスベスト曝露歴がある方は定期検診を行い、胸の痛みや息苦しさなど気になる症状があれば早めに受診するようにしましょう。
関連する病気
- 肺がん
- 肺結核
- 非結核性抗酸菌症
- 胸膜炎
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
関連する症状
- 胸痛
- 呼吸困難
- 慢性的な咳
- 胸水
- 倦怠感
- 発熱
