悪性腫瘍の一種「GISTの末期症状」はご存知ですか?治療法や緩和ケアについても解説!


監修医師:
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)
目次 -INDEX-
GISTの末期とは?
末期とは一般に病気がとても進行した最終段階を指し、がんの場合はステージIV(遠隔転移がある状態)や治療に反応せず余命が限られてきた状態を指します。GISTで末期とは、腫瘍がほかの臓器へ転移したり再発を繰り返して外科手術で取りきれない状況をいいます。主に肝臓や腹膜などへの転移が多くみられ、この段階になると病気を完全に治すことは難しくなります。しかし、GISTの場合は分子標的薬の登場により末期であっても長期間病状をコントロールしながら生活できるケースが増えており、治療とケアの両立によって生活の質(QOL)を保つ努力が重要です。
GISTの末期症状
末期のGISTでは、全身状態の悪化や腫瘍の影響によるさまざまな症状が現れます。ほかの末期がんと共通する症状として、持続する腹痛や身体のだるさ(倦怠感)、食欲不振、体重減少、吐き気などがあります。消化管の腫瘍のため消化管出血もあり、腫瘍からの出血によって吐血や下血が起こり、慢性的な出血により貧血になることも少なくありません。また、腫瘍は肝臓や腹膜に転移しやすく、転移によって肝臓の働きが低下したり、お腹に水が溜まる(腹水)ことがあります。お腹の中の腫瘤が腸を圧迫して腸閉塞(腸がふさがる)症状を引き起こす場合もあります。症状の現れ方は人それぞれですが、これらに対して適切な対症療法を行い苦痛を和らげることが末期には特に重要です。
末期GISTの治療法
進行・末期のGISTに対する治療の目的は、症状を和らげながら病状の進行をできるだけ長く抑えることにあります。現状の治療では残念ながら根治は難しいものの、有効な治療を継続することで延命が可能となっています。
末期の治療法の中心は薬物治療です。腫瘍がすでに広範囲に転移して手術できない場合は、まず薬物療法による全身治療が行われます。薬によって腫瘍が縮小・制御できれば、その後にあらためて手術で一部の腫瘍を切除することが検討される場合もあります。また症状緩和や合併症予防のため、薬物療法以外の治療(外科的処置や放射線治療など)を組み合わせることもあります。
薬物治療
GISTの治療では、従来の抗がん剤より分子標的薬が有効です。分子標的薬とはがん細胞の特定の分子を狙って攻撃する新しいタイプの薬で、これによりGISTの治療成績は飛躍的に向上しました。 2000年代に登場したイマチニブ(グリベック)はGISTに劇的な効果を示し、現在はスニチニブ(スーテント)、レゴラフェニブ(スチバーガ)、ピミテスピブ(ジェセリ)と合計4種類の薬剤が順次使用可能です。これらの薬により半数以上の患者さんが5年以上生存できるようになりました。一方で時間とともに薬が効かなくなることもあるため、効果が落ちれば別の薬に切り替えるか、新薬の治験への参加を検討します。副作用はさまざまありますが、医師と相談しながら対処して治療を継続することが重要です。その他の治療法
末期のGISTでは薬物療法が主ですが、状況に応じて外科的処置や放射線治療などが行われることもあります。例えば、腫瘍が大きく出血が続く場合には緊急手術で出血源の腫瘍を切除したり、内視鏡や血管塞栓術で止血を図ることがあります。 また、放射線治療はGISTには根治目的ではあまり行われませんが、再発や転移が少数の場合にピンポイント照射で腫瘍を縮小させることも検討されます。転移が多い場合には、緩和的放射線治療によって腫瘍からの出血や痛みを和らげることができます。これら外科的・放射線的治療は根治目的ではなく症状緩和や合併症防止が主な目的ですが、薬物療法と組み合わせることで患者さんの負担を減らしつつ病状コントロールを図ります。GISTの緩和ケア
緩和ケアとは、がんに伴う痛みや吐き気などの身体症状、および不安や落ち込みなど心理的な苦痛を和らげ、患者さんと家族の生活の質(QOL)をできるだけ高く保つことを目的とした医療です。緩和ケアはがんと診断されたときから治療と並行して受けることができるもので、病気の初期から適切に取り入れることが推奨されています。特にGISTのように、たとえ進行・末期であっても治療を続けながら長く付き合っていける可能性がある病気では、早い段階から緩和ケアチームのサポートを受けておくことが望ましいでしょう。
緩和ケアでは、医師・看護師に加え必要に応じて痛みの専門医や心理士など多職種のチームが患者さんを支えます。症状にあわせて鎮痛薬・制吐薬の使用、栄養サポート、輸血などを行い、痛みや吐き気、倦怠感などの緩和に努めます。また精神面のケアや在宅医療・ホスピスとの連携も含まれます。
GISTについてよくある質問
ここまでGISTを紹介しました。ここでは「GIST」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
末期のGISTに治療法はありますか?
和田 蔵人 医師
はい、あります。GISTは進行・末期であっても、分子標的薬による薬物治療で病気の進行を抑えることが可能です。実際、これらの治療薬の登場により末期の患者さんでも5年以上生存できるケースが増えています。イマチニブやスニチニブなど効果のある薬が次々と開発されており、一つの薬が効かなくなってもほかの薬に切り替えることで治療を継続できます。また、新しい薬の臨床試験への参加など治療の選択肢も広がっています。ただし、病気を完全に治すことは難しいため、治療の目的は症状を和らげつつできるだけ長く病状をコントロールすることにあります。
末期のGISTと診断された場合、余命はどのくらいでしょうか?
和田 蔵人 医師
余命(生存期間)は病状や治療経過によって異なりますが、分子標的薬が登場する以前と比べ、現在では中央値で数年程度とされ、半数以上の患者さんが5年以上生存できるようになっています。ただし病状や治療への反応には個人差が大きく、余命を正確に予測することは難しいのが現状です。
緩和ケアはいつから受けるべきでしょうか?
和田 蔵人 医師
緩和ケアはがんと診断されたときから受けることができます。末期になってから開始するものではなく、つらさを感じた段階で早めに利用するのが理想です。特にGISTのように長期間にわたり治療を続ける可能性がある病気では、治療初期から緩和ケアチームに関与してもらうことで、痛みや不安を適切にコントロールしながら治療を受けることができます。緩和ケアを早期に取り入れることで生活の質の維持向上につながり、結果的に治療に前向きに取り組む助けにもなります。緩和ケアをお願いすることは決して特別なことではありませんので、つらさがあるときは主治医に相談してみてください。
まとめ
消化管間質腫瘍(GIST)は消化管にできる希少ながんで、末期には肝臓や腹膜への転移により腹痛・出血・体重減少など多彩な症状が現れます。治療は分子標的薬を中心に病状コントロールと生活の質の維持を目指します。新しい薬剤により生存期間は延長し、末期でも治療の手立てがあります。必要に応じて手術や放射線治療も併用し、緩和ケアと併せて患者さんを支援します。希少ながんのため経験豊富な専門医に相談し、自分に合った治療とケアを受けることが大切です。
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- 腺腫性ポリープ
関連する症状
- 腹部膨満感や不快感
- 腹部のしこり
- 胃もたれ・食欲不振
- 黒色便(タール便)
- 吐き気・嘔吐
- 貧血
- 全身倦怠感
参考文献


