「食道がんの術後」はどんな症状が現れるかご存知ですか?生活で気をつけたいことも解説!


監修医師:
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)
目次 -INDEX-
食道がん手術の合併症
大がかりな食道がんの手術では、いくつかの合併症が生じることがあります。代表的な合併症として、縫合不全、肺炎、嗄声が知られています。以下で主な合併症を詳しく解説します。
縫合不全
縫合不全とは、手術で食道と胃などをつなぎ合わせた縫合部分がうまくつながらず、そこにすき間や穴ができてしまう状態です。縫合不全が起こると、つなぎ目から飲食物や消化液が漏れ出し、周囲に炎症を起こして発熱や痛みを生じます。肺炎
肺炎も食道がん手術後によく注意すべき合併症の一つです。手術後はベッド上で過ごす時間が長くなり、傷の痛みもあって深呼吸や咳で痰を十分に出せなくなることがあります。その結果、肺に痰がたまって術後肺炎を起こすことがあります。さらに、食道の手術の際には声帯を動かす反回神経という神経に触れるため、一時的に声帯の動きが悪くなり誤嚥しやすくなることも肺炎の一因です。嗄声
嗄声とは声がかすれる症状のことです。食道がんの手術では、声帯の動きを司る反回神経の近くにあるリンパ節も切除する必要があるため、この神経が手術で一時的にダメージを受けることがあります。その結果、術後に片方の声帯がうまく動かなくなり、声がかすれてしまうことがあります。多くの場合、この声のかすれは手術後3〜6ヶ月ほどで自然に回復します。食道がんの術後に生じる可能性がある症状
食道がんの手術後、身体の構造や機能が変化することでいくつかの症状が現れることがあります。ここでは代表的な術後症状として体重減少、逆流性食道炎、ダンピング症候群、誤嚥について説明します。これらの症状は適切な対策をとることで軽減・予防できますので、心配な方は対処法も併せて知っておきましょう。
体重減少
手術後によく見られるのが体重の減少です。食道がんの手術では食べ物の通り道が大きく変わるため、一度に食べられる量が減ったり、消化の具合が以前と変わったりします。その結果、食事量が減って体重が減少することがあります。逆流性食道炎
逆流性食道炎とは、胃酸や消化液が食道に逆流して食道の粘膜が荒れてしまう状態です。食道がんの手術では食道と胃の境目(食道胃接合部)を切除することが多く、その結果、胃酸や胆汁などが食道に逆流しやすくなります。そのため、術後に逆流性食道炎が起こり、胸やけや胸につかえる感じといった症状が現れることがあります。ダンピング症候群
ダンピング症候群とは、胃を切除した後などに見られる一連の症状のことで、食べ物が消化されないまま小腸に流れ込むことで起こります。食道がん手術では胃を細くしたり一部切除したりする影響で、このダンピング症候群が起こりやすくなります。誤嚥
誤嚥は先述のように、飲食物が誤って気管に入ってしまうことです。食道がん手術の後は、手術の影響で飲み込む力が一時的に低下する場合があります。さらに、縫合部が腫れたり狭くなったりすることで、食べ物がスムーズに通りにくくなることもあります。その結果、食べ物を飲み込み損ねてむせやすくなります。食道がん手術後の飲酒と喫煙
食道がんの大きな原因の一つに長年の喫煙や多量の飲酒が挙げられます。同じように、手術後の喫煙や飲酒は身体に悪影響を及ぼし、がんの再発リスクを高めることがわかっています。そのため、術後は禁煙・禁酒を強くおすすめします。特に喫煙は、術後の肺炎や傷の治りの遅れにも直結します。タバコに含まれる有害物質が肺を傷つけることで肺炎のリスクが高まりますし、末梢の血流を悪くして傷の治癒を遅らせる可能性もあります。一方、アルコールは適量であっても食道や胃の粘膜を刺激し、せっかくつないだ消化管に炎症を起こしやすくします。
食道がん手術後の生活で気をつけるべきこと
手術を乗り越えて退院した後の生活では、いくつか気をつけるべきポイントがあります。日常生活のなかで工夫をすることで、体力の回復を助け合併症や症状の悪化を防ぐことができます。
術後の食生活で気をつけること
術後の食生活では、何を・どう食べるかが重要です。前述した体重減少や逆流・誤嚥・ダンピング症候群を防ぐためにも、以下の点に注意しましょう。- 一度にたくさん食べようとせず、1日5~6回に小分けにして食べる。
- よく噛んでゆっくり食べる。
- 水分補給は食事と少し時間をずらし、飲むときは少しずつ飲む。
- 甘い物や濃厚な物は控えめにする
- 消化によい食事を食べる
術後の生活習慣で気をつけること
食生活以外にも、術後の生活習慣で留意すべきことがあります。身体の回復を促し、再発予防や合併症予防のために、次の点に注意しましょう。- 規則正しい生活
- 適度な運動
- 禁煙・禁酒の継続
- 感染予防
- 定期検診
食道がん手術後の予後
食道がんは進行度によって予後が大きく異なりますが、近年は治療成績も少しずつ向上しています。一般的に、早期の食道がんであれば手術後の5年生存率(5年後に生存している人の割合)は75〜80%以上と良好です。一方、進行した食道がん(遠隔転移があるような状態)になると5年生存率は20%程度まで下がると報告されています。ステージIII(リンパ節転移が多数ある段階)では約35%、ステージIV(遠くまで転移がある段階)では約18%という数字が示されています。このように病期が早いほど予後は良く、進行するほど厳しくなる傾向があります。
食道がんについてよくある質問
ここまで食道がんを紹介しました。ここでは「食道がん」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
食道がん手術後の定期検査の頻度を教えてください。
食道がん手術後は、再発の有無や体調のチェックのために定期的な通院検査が必要です。一般的には、術後1〜2年目までが最も再発しやすい時期であり、この期間はおおむね2〜3ヶ月に1回のペースで診察を受けることが推奨されています。その後は状態に合わせて定期検査の頻度を減らしていきます。
食道がん手術後のリハビリや回復プログラムにはどのようなものがありますか?
- 呼吸リハビリ
- 嚥下リハビリ
- 音声リハビリ
- 理学療法
食道がんの手術後はどの程度で日常生活に戻れますか?
日常生活への復帰時期は個人差があります。まず入院期間ですが、食道がんの手術は身体への負担が大きいため、合併症など特に問題がなければ術後およそ2〜4週間程度で退院となります。入院中に歩行練習や食事のリハビリが進み、退院時には身の回りのことが自分ででき、院内をゆっくり歩けるくらいまで回復しているのが一般的です。個人差はありますが、術後3ヶ月も経つ頃には多くの患者さんがかなり日常に近い生活を送れるようになります。
仕事復帰については、その方のお仕事の内容によります。事務職など体力を使わない職種であれば、術後2〜3ヶ月で短時間勤務から復帰を検討できる場合があります。一方、肉体労働や不規則勤務(夜勤など)の場合は、少なくとも術後6ヶ月程度は十分なリハビリと体力回復期間を設け、その後主治医と相談のうえで復職というケースが多いです。
まとめ
食道がんの手術後には、縫合不全や肺炎、嗄声といった合併症が起こる可能性がありますが、食事の仕方や生活習慣を工夫することでこれらの症状は軽減・予防できます。また、定期的な検診を欠かさず受けることで、再発や新たながんの早期発見が可能となり、万一問題が見つかっても早めに対処できます。これらのことを事前に知っておくことで、心に余裕をもって対応することができます。本記事が皆さんの安心材料になれば幸いです。
関連する病気
食道がんと似た症状を示す、または同時に発生する可能性のある病気には以下のようなものがあります。- 咽頭がん
- 喉頭がん
- Zenker食道憩室
- 逆流性食道炎
- バレット食道
関連する症状
食道がんに関連する症状は以下のような症状が挙げられます。これらの変化を正しく把握することが鑑別に役立ちます。- 嚥下困難
- 嚥下時痛
- 体重減少
- 嗄声や声のかすれ
- 胸部または頸部の痛み
- 逆流感・嘔吐




