目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 医科TOP
  3. 三大疾病
  4. がん
  5. 「胆管がんで腹水がたまる」とどんな自覚症状が現れる?治療法を医師が解説!

「胆管がんで腹水がたまる」とどんな自覚症状が現れる?治療法を医師が解説!

 公開日:2025/09/27
「胆管がんで腹水がたまる」とどんな自覚症状が現れる?治療法を医師が解説!

胆管がんは、肝臓から腸に胆汁を運ぶ胆管という細い管にできるがんです。初期には自覚症状が少ないものの、進行すると腹水がたまることがあります。お腹に水がたまるとお腹が張って苦しくなり、患者さんやご家族にとって大きな不安材料になります。
本記事では、胆管がんによる腹水の症状や原因、進行度や余命、そして腹水に対する治療法を解説します。

和田 蔵人

監修医師
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)

プロフィールをもっと見る
佐賀大学医学部卒業。南海医療センター消化器内科部長、大分市医師会立アルメイダ病院内視鏡センター長兼消化器内科部長などを歴任後の2023年、大分県大分市に「わだ内科・胃と腸クリニック」開業。地域医療に従事しながら、医療関連の記事の執筆や監修などを行なっている。医学博士。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本医師会認定産業医の資格を有する。

胆管がん腹水の自覚症状


胆管がんが進行して腹水がたまると、お腹が膨れて張る感じ(腹部膨満感)や圧迫感が現れます。ズボンやスカートがきつくなったり、体重が急に増えることで気付く場合もあります。また、お腹の内部が水で圧迫されるため、食欲不振や少量食べただけで満腹になる感じが出たり、横隔膜が押し上げられることで息苦しさを感じることもあります。

胆管がんで腹水がたまる原因

胆管がんで腹水が生じる主な原因は、がんの腹膜播種(腹膜転移)です。
腹膜とは胃腸などお腹の臓器を覆う膜のことで、胆管がんが末期になるとがん細胞がお腹の膜(腹膜)に散らばり、そこで炎症が起こって腹膜の表面から体液が染み出しやすくなります。その結果、腹腔内に液体がどんどん漏れ出て蓄積し、腹水となります。
また、胆管がんが進行すると肝臓の働きが低下することも腹水の一因です。肝臓で作られるアルブミンという蛋白質が不足すると血管内に水分を引き留めておけず、水分が漏れ出して腹水がたまりやすくなります。さらに、がんが肝臓に広がって門脈圧が上昇すると、血液中の水分が血管から漏れて腹水につながります。
まとめると、胆管がんによる腹膜へのがん細胞が転移し、肝機能低下や門脈圧亢進などが組み合わさって腹水が生じるのです。

胆管がんで腹水がたまる場合のステージと余命

胆管がんにおいて腹水が認められる場合、多くは病状がかなり進行した段階に相当します。腹膜への転移を伴う腹水は遠隔転移とみなされ、病期では最も進んだステージIVに該当します。一般的に腹水が出現した胆管がんは末期的な状態であり、残念ながら余命は短くなってしまいます。

腹水の治療法

胆管がんによる腹水そのものを完治させることは難しいですが、腹水を減らしたり症状を和らげるための治療法がいくつかあります。ここでは代表的な腹水の治療法について解説します。

利尿剤

利尿剤は、腎臓の働きを促して尿量を増やし、体内の余分な水分を排出させる薬です。腹水が軽度であれば、内服の利尿剤によって腹水コントロールを試みることがあります。
ただし、がんによる悪性腹水では利尿剤が劇的に効くことは少なく、効果は限定的です。そのため、利尿剤だけで腹水が十分改善しない場合は別の処置を検討します。

腹水ドレナージ

利尿剤で十分な効果が得られない大量の腹水に対しては、腹腔穿刺ドレナージといって、お腹に針を刺して直接腹水を抜く処置が行われます。局所麻酔をしたうえで下腹部に太めの針を刺し、腹水を体外に排出します。腹水によるお腹の張りや呼吸苦などの症状を即座に軽減できる即効性の高い方法です。1度に抜く腹水の量は患者さんの血圧や状態を見ながら調節しますが、数リットル以上抜くことも可能です。
ただし、腹水を抜く治療は対症療法であり、原因であるがんそのものを治療しているわけではないため、一度抜いてもまたすぐに腹水がたまってくることが多い点には留意が必要です。腹水がたまり続ける場合は定期的に繰り返し腹水を抜く必要があります。繰り返し大量に排液すると血中の蛋白が失われて栄養状態が悪化したり、電解質バランスが乱れて体力が低下する悪循環に陥ることがあります。

KM-CART

腹水を抜く際の欠点を補う方法として開発されたのが、腹水濾過濃縮再静注法と呼ばれる治療法です。Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapyの頭文字をとってCART(カート)とも略称されます。CARTは1970年代に日本で開発され、1981年に保険適用となった治療法で、肝硬変やがんによる難治性腹水に対して用いることが認められています。
具体的な手順は、まず腹腔穿刺で腹水をある程度まで体外に排出する点は通常のドレナージと同じですが、その排出した腹水を捨てずに特殊なフィルターに通して細菌やがん細胞などの有害物質を除去し、濃縮して患者さんの静脈に戻します。これにより腹水中のアルブミンなど大事なタンパク質を体内に戻すことができるため、栄養低下を防ぎつつ腹水による腹部膨満などの症状を和らげることができます。

このように有用なCARTですが、従来法ではがん性腹水だとフィルターが詰まりやすいという技術的課題がありました。悪性腫瘍由来の腹水には腫瘍細胞や白血球など細胞成分が多量に含まれるため、従来型CARTではフィルターがすぐ目詰まりし、無理にろ過しようとすると細胞が破壊され炎症物質が放出されて発熱などの副作用が起きる問題があったのです。
そこで近年、一部の医療機関ではこの問題を解決した改良型CARTが導入されています。特に、国内ではKM-CARTと呼ばれる新しいシステムが開発され、従来より大容量の腹水を安全かつ迅速に処理できるようになりました。KM-CARTではフィルター膜の構造や洗浄方法を改良し、ローラーポンプを使わない工夫によって細胞の破壊や発熱を起こしにくくしているのが特徴です。ただし、専門の装置と技術を要するため、実施できる医療施設は限られています。

腹腔静脈シャント(デンバーシャント)

腹腔静脈シャントは、腹水を体内に戻すもう一つの方法です。こちらは体外で処理するCARTとは異なり、体内にカテーテルを埋め込んで腹水を静脈へ流す仕組みになっています。
しかし、体内に異物(カテーテル)を留置する処置ですので合併症のリスクもあります。具体的にはシャントが閉塞して再手術が必要になったり、心不全や肺水腫を引き起こしたり、細菌感染による敗血症などを起こすことがあります。
適応となるのは余命が見込まれるものの腹水がどうしても制御困難なケースで、患者さんの体力や意思を踏まえて慎重に検討されます。

胆管がんの腹水についてよくある質問

ここまで胆管がんの腹水について紹介しました。ここでは「胆管がんの腹水」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

胆管がんの腹水は何度も繰り返しますか?

はい。前述のとおり、腹水はがんそのものが原因で生じているため、抜いたとしても原因が取り除かれない限りまた蓄積してしまいます。腹膜播種による腹水は自然に吸収されなければ、腹水ドレナージで一時的に減らせても再びお腹が張ってくることがあります。

胆管がんの腹水の症状を緩和する治療法を教えてください。

腹水によるお腹の苦しさを和らげる治療法としては、大きく4つの方法が挙げられます。

  • 利尿剤による内科的治療
  • 腹水ドレナージ
  • CART(腹水濾過濃縮再静注法)
  • 腹腔静脈シャント

これらの方法は組み合わせて用いられることもあります。それぞれ利点と欠点がありますので、主治医と相談して患者さんの状態に合った方法を選択することが大切です。

腹水がたまっている場合に生活上注意することはありますか?

はい、腹水と付き合いながら生活するうえでいくつか工夫や注意点があります。
まず、腹水が多く溜まっているときは無理をせず安静を心がけることが基本です。動くとお腹が揺れて不快なため、適度に休みながら生活しましょう。
また、腹部や腰周りを締め付けないゆったりとした衣類を着用し、締め付けの強いベルトやガードルは避けてください。皮膚が引っ張られてかゆみが出ることもあるので、お腹の皮膚は保湿剤でケアし、爪は短く切って皮膚を傷つけないよう注意しましょう。
食事面では、腹水があると胃が圧迫されて一度にたくさん食べられません。そのため少量ずつ頻回に食べる工夫が有効です。一回の食事量を減らし、1日に4~5回に分けて食事や間食をとると胃の膨満感が軽減します。
また塩分の摂りすぎは腹水悪化につながるため、減塩を意識しましょう。


まとめ


胆管がんで腹水がたまるのは、病状がかなり進行したサインではありますが、適切な対処を行うことで症状を和らげ、生活の質(QOL)を維持することは可能です。利尿剤や腹水ドレナージ、CARTなど複数の治療法を組み合わせて症状緩和を図ります。主治医や緩和ケアチームと十分に話し合い、今後の治療方針や生活のことなど納得いくまで相談しましょう。本記事がその材料になれば幸いです。

関連する病気

胆管がんと似た症状を示す、または同時に発生する可能性のある病気には以下のようなものがあります。

  • 胆石症
  • 胆石性胆管炎
  • 原発性硬化性胆管炎
  • 膵頭部がん
  • 肝細胞がん
  • 胆嚢がん

関連する症状

胆管がんに関連する症状は以下のような症状が挙げられます。これらの変化を正しく把握することが鑑別に役立ちます。

  • 黄疸
  • 皮膚のかゆみ
  • 右上腹部痛
  • 体重減少
  • 濃い尿と白色便
  • 発熱・悪寒

この記事の監修医師