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「遺伝が要因の卵巣がん」はどのくらい?卵巣がんについて医師が徹底解説!

 更新日:2025/07/25
「遺伝が要因の卵巣がん」はどのくらい?卵巣がんについて医師が徹底解説!
卵巣がんは、約10%が遺伝的な要因によるものであることがわかっています。今回の記事では、卵巣がんの特徴や遺伝との関係、さらに検査と治療法を解説します。
井林雄太

監修医師
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。また、後進の育成事業として、専門医の知見が、医療を変えるヒントになると信じており、総合内科専門医(内科専門医含む)としては1200名、日本最大の専門医コミュニティを運営。各サブスぺ専門医、マイナー科専門医育成のコミュニティも仲間と運営しており、総勢2000名以上在籍。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

卵巣がんとは

卵巣がんは、卵巣にできる悪性腫瘍のことです。50代での発症例が多いとされています。漿液性がん明細胞がんなどの複数の種類に分類されています。

卵巣がんの特徴

卵巣がんは、初期の段階ではほとんど症状がなく、進行してから見つかることが多いことが特徴です。しかし、進行した卵巣がんの予後は厳しく、く5年生存率は約30〜50%とされています。

卵巣がんの原因

卵巣がんは、10%程度は遺伝的な要因が関連していると考えられています。また、卵巣がんのなかでも類内膜がんや明細胞がん、一部の漿液性(しょうえきせい)がんなどは、子宮内膜症が発がんに関連していると言われています。

卵巣がんと遺伝子の関係

国内で行われた研究では、卵巣がんを患っている方の17.8%に卵巣がんに関係する病的な遺伝子変異があることがわかっています。 詳しく見ていきましょう。

がんの発症と遺伝子

がんは、遺伝子の傷が原因で発症します。本来、DNA修復や細胞分裂を制御する遺伝子が働いていますが、生まれつきの変化や後天的な要因でその機能が損なわれると、細胞が無秩序に増殖し、がんが生じます。

卵巣がんに関係する遺伝子変異

卵巣がんに関係する遺伝子変異は、主に以下のものが知られています。 

BRCA1

BRCA(breast cancer susceptibility gene)は、乳がん感受性遺伝子のことです。このBRCAは、損傷を受けたDNAを修復する機能を持っており、細胞ががん化することを抑える働きを持っています。BRCAにはBRCA1BRCA2があります。これらの遺伝子に遺伝的な異常があると、乳がんや卵巣がんの発症リスクが高まることが知られています。

BRCA1変異がある方の卵巣がんの累積罹患リスク(ある年齢までにある病気と診断される確率)は、70歳時点で40%とされています。また、卵巣がん以外にも、胆道がんや女性乳がん、男性乳がんにおいてBRCA1遺伝子の変異が1%以上の患者さんでみられているという報告もあります。

BRCA2

BRCA2変異がある方の卵巣がんの累積罹患リスク(ある年齢までにある病気と診断される確率)は、70歳時点で18%とされています。また、卵巣がん以外にも、男性乳がん、胆道がん、女性乳がん、膵がん、前立腺がんにおいてBRCA2遺伝子の変異が1%以上の患者さんでみられているという報告もあります。

その他

BRCA1/2以外にも、リンチ症候群でみられるMLH1、MSH2、MLH6、PMS2(EPCAM)という遺伝子が卵巣がんの発症に関連しているとされています。なお、リンチ症候群とは大腸がんや子宮体がん、胃がん、尿路系の上皮がんなどを発症しやすい遺伝性疾患のことです。

遺伝子に病的な変異がない卵巣がん

卵巣がんの約10%は遺伝子的な要因によるものと考えられています。しかし、その他の卵巣がんは特に遺伝子に病的な変異がない、あるいは同定できないものです。

遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)

ここでは、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)について詳しくみていきましょう。

遺伝性乳がん卵巣がんとは

遺伝性卵巣がんは、遺伝的な要因によって発症する卵巣がんのことです。なかでも、特に知られているものが遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)です。 HBOCとは、BRCA1またはBRCA2遺伝子の変異が原因で、若い年齢(しばしば50歳以前)の乳がんや卵巣がんのリスクが高まる疾患です。常染色体優性遺伝であり、親から子へ50%の確率で遺伝し、トリプルネガティブ(エストロゲン・プロゲステロン・HER2受容体陰性)乳がんや腹膜がんのリスクも上昇します。 日本ではHBOCの推定患者数は年間4000〜5000人ほどと考えられています。

HBOCでは、以下のようなリスクもみられます。
  • 乳がんは40〜85%に発症し、若年発症の傾向がある
  • 反対側の乳がんのリスクは40〜60%あり、がんが最初にできた側に新たな乳がんができるリスクも増加する
  • 男性乳がんのリスクが増加する
  • 男性では、前立腺がん(5〜7倍)、膵臓がん(3倍)が増加する
  • 一般の集団と比較し、乳がんを発症するリスクが6〜12倍、卵巣がんを発症するリスクは8〜60倍になる
一方で、BRCA1/2遺伝子に変異があっても、必ずしも乳がんを発症するわけではありません。

遺伝性卵巣がんの検査と診断

卵巣がんの方において、もしも遺伝性乳がん卵巣がん(HOBC)が疑われる場合には、患者さんに十分に説明を行ったうえ、採血検査を行い、BRCA1/2の遺伝学的検査を行います。 BRCA遺伝学的検査で病的バリアントが認められれば、治療法としてポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)阻害薬であるオラパリブという薬が使用されます。このオラパリブの適応を判断する目的の場合、BRCA1/2の遺伝学的検査は保険適用になります。

HBOCと診断されたら、定期的な検診を受けていきます。また、リスク低減のための乳房切除術や卵管・卵巣の摘出術を受けるかどうかについても、主治医と相談して決定していきます。 なお、卵巣がんを調べる一般的な検査は、以下のようになります。

触診・内診

産婦人科医が、子宮や卵巣の状態を、腹部触診や腟から指を入れて内部を調べる内診によって確認します。直腸診を行うこともあります。

画像検査

超音波検査やCT検査、MRI検査も卵巣や子宮、その周りのリンパ節などの状態を把握するために有用です。

卵巣がんの治療法

卵巣がんに対しては、以下のような治療を行います。

手術

卵巣がんが疑われる場合には、まずは手術を行い、できるだけがんを切除し取り除きます。 手術の目的は、卵巣がんの病理組織学的診断の確定、つまりどのような種類のがんなのかを確定すること、進行期(ステージ)決定、そして最大限に腫瘍を減らすことです。 なお、手術がどのくらい行えたかどうかはその後の治療を決定するうえでもとても重要であり、その後の生命予後に影響します。

手術が難しい場合には、試験開腹術などが選択されることもあります。また、最初の手術が試験開腹術だった場合、または手術後に身体の中に残ったがんが直径1cm以上だった場合には、薬物治療を行いながらがんの量を減らすための手術が行われることがあります。これを中間腫瘍減量手術といいます。

薬物療法

卵巣がんの薬物療法は、手術の効果を高めることを目的とした術後薬物療法が行われることがほとんどです。微小管阻害薬と白金製剤というタイプの薬が基本となります。卵巣がんの種類によって、薬物療法がどれくらい有効かは異なります。その他にも、初回手術でがんを取り切ることが難しいと考えられる場合には、術前薬物療法が行われます。 また、卵巣がんが再発した際にも、薬物療法が行われます。

放射線治療

放射線治療は、卵巣がんの初回治療で行われることはありません。再発や転移した病変によって痛みや圧迫症状などが出ている場合、症状の緩和などを目的に行われます。

まとめ

卵巣がんは、初期症状がほぼなく、進行してから発見されやすい病気です。約10%が遺伝的な要因によるとされ、特にBRCA1/2変異が関連しています。遺伝子検査は保険適用のケースもあり、遺伝性の卵巣がんの早期発見や予防のために役立つ可能性があります。しかし、遺伝子検査を行う際には、そのメリットやデメリットなどを理解する必要があります。今回の記事が卵巣がんと遺伝子の知識を深めるのに役立てば幸いです。

関連する病気

  • 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)
  • リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん:HNPCC)
  • COWDEN症候群(PTEN関連腫瘍症候群)
  • PEUTZ-JEGHERS(ポイツ・ジャガース)症候群
  • Li-Fraumeni(リー・フラウメニ)症候群
  • 子宮内膜症
  • 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

関連する症状

  • 服のウエストがきつくなる
  • 下腹部にしこりを触れる
  • 食欲がなくなる
  • 頻尿になる
  • 便秘になる
  • 足がむくむ
  • お腹が大きく膨らむ

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