「声帯ポリープを放置」するとどうなるかご存知ですか?【医師監修】

声帯ポリープとは、声帯(喉頭にある声を出すためのヒダ状の組織)に生じる良性のこぶ状の腫瘤です。主な原因は声の酷使や喫煙、喉の炎症などで、これらによって声帯に炎症と出血が生じ、修復過程でポリープが形成されます。声帯ポリープそれ自体は腫瘍(がん)ではなく命に関わるものではありませんが、声がかれる(嗄声、させい)などの症状を引き起こし、放置すれば日常生活に支障をきたす恐れがあります。本記事では、声帯ポリープの症状と、放置した場合に起こりうる経過、そして治療法を詳しく解説します。

監修医師:
小島 敬史(国立病院機構 栃木医療センター)
目次 -INDEX-
声帯ポリープとは?こんな症状は要注意
声帯ポリープは、無理な発声や喫煙などによる声帯の粘膜の炎症がきっかけで、声帯の表面にこぶ状隆起ができる病気です。多くは片方の声帯に生じ、ポリープができると声帯の振動が乱れるため、さまざまな発声異常が現れます。特に以下のような症状がある場合は声帯ポリープの可能性があり、注意が必要です。
嗄声
声がかすれる、声がかれる
発声しづらい
声を出そうとしても出にくい、話している途中で声が途切れる、声が裏返るなどの症状
のどの違和感
のどにイガイガとした異物感がある、何かが喉に詰まっている感じがする
ただし、これらの症状はほかの喉の病気(声帯結節や喉頭炎、喉頭がんなど)でも起こりうるため、症状だけで自己判断することは困難です。これら症状が2週間以上続く場合や、声の違和感が長引く場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診して検査を受けることが大切です。
声帯ポリープを放置するとどうなる?進行度別の症状を解説
声帯ポリープは良性とはいえ、放置して声を酷使し続けると症状が悪化する可能性があります。進行度に応じた変化をみてみましょう。
初期
ポリープが小さいうちは、自覚症状は軽く喉に違和感がある、何か詰まった感じがする程度かもしれません。この段階では嗄声もわずかで、普段どおり話せてしまうため見過ごされがちです。しかし声帯にはすでにダメージはあるため、この時点で声を休め対処すれば自然治癒する可能性もあります。
中期
ポリープを持ったまま無理に声を出し続けると、ポリープが次第に大きくなり、嗄声などの症状が徐々に強くなります。最初は特定の音域(高音や低音)のみ出しづらかった声が、次第にどの音域でもかすれた声しか出なくなるなど、声の出しにくさが顕著になります。また、声帯にポリープがあることで声帯がしっかり閉じなくなり、空気漏れのために長く話すことが困難になったり、会話中に声が途切れる症状も強まります。
重度
中期の症状をさらに放置していると、声は常に枯れたしわがれ声になり、ささやき声しか出なくなることもあります。大きなポリープでは呼吸時に気道を部分的にふさぐこともあり、息苦しさを感じる場合もあります。ここまで進行すると会話そのものが困難となり、仕事や社会生活に大きな支障をきたします。本人の喉への負担も大きく、喉の痛みや慢性的な炎症を伴うこともあります。
また、声帯ポリープ自体の大きさがそこまで大きくなくても、無理に声を出し続けることによってポリープがない、対側の声帯粘膜が炎症・固く変性を起こすことがあります。対側の粘膜が固く変性してしまった場合、ポリープ自体を手術で摘出できても声がれが残ってしまう場合があります。
声帯ポリープの治療法
声帯ポリープの治療は大きく保存療法と手術療法に分けられます。ポリープの大きさ・状態や患者さんの職業、症状の程度によって治療方針は異なります。初期の小さい声帯ポリープであれば、保存的治療のみで消失することもありますが、保存療法で改善しない場合やポリープが大きい場合には外科的切除(手術)が検討されます。以下にそれぞれの治療法の詳細を解説します。
保存療法
ポリープが小さい場合や症状が軽い場合、まずは手術をせずに経過を見る保存的治療が試みられます。第一に声帯の安静(沈黙療法)が重要です。可能な限り声を出さずに喉を休ませることで、ポリープが小さくなったり消失することが期待できます。
また、保存療法では薬物療法を行うこともあります。声帯の炎症を抑えるためにステロイド薬(副腎皮質ステロイド)を短期間用いることで、ポリープ周囲の腫れがひき、創傷治癒を促進することがあります。
さらに、言語聴覚士などによる発声訓練や声の衛生指導も保存療法も行われます。声帯に負担をかけない発声法として、腹式呼吸の活用、適切な声の高さ・大きさで話すなどを習得し、声の出し方の癖を改善すれば症状が軽快することもあります。
手術療法
手術療法は、声帯ポリープを外科的に切除してしまう治療法です。現在の標準的な方法は、全身麻酔下で行う喉頭顕微鏡下手術です。ポリープが大きかったり、保存療法では改善が見込めない場合などに行います。麻酔下で口から喉頭鏡を挿入し、顕微鏡下でポリープを切除します。ただし、ポリープを除去した後も声帯を酷使し続けると新たなポリープが再発する可能性があるため、手術後も適切な声のケアが必要です。
声帯ポリープについてよくある質問
ここまで声帯ポリープを紹介しました。ここでは「声帯ポリープ」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
声帯ポリープを放置したらほかの病気になることはある?
小島 敬史 医師
声帯ポリープ自体が別の病気に変化することは基本的にありません。胃や大腸のポリープのように腫瘍性ではなく、あくまで炎症が原因の良性病変なので、放置したからといって命に関わる状態になることはありません。
しかし、だからといって放置してよいわけではありません。前述のとおり、放置すればポリープが大きくなって声の状態は悪化します。長期間にわたり声帯ポリープを放置し無理な発声を続けると、声帯全体が分厚く腫れてしまうポリープ様声帯になる恐れもあり、そうなると声質の著しい低下や治療が困難になる場合もあります。
声帯ポリープはどのような人がなりやすい?
小島 敬史 医師
声帯ポリープは声の酷使による障害です。そのため、以下のような喉に負担をかけやすい方に多くみられます。
長時間話す職業の方
教師、保育士、営業職、アナウンサー、歌手など、人前で長時間声を出す職業の方はリスクが高まります。
大声を出す機会が多い方
普段あまり声を使わない方でも、スポーツ観戦で大声を出す、カラオケで無理な高音を張り上げるなど急に激しく喉を使った後にポリープができる場合があります。
咳が続く方
持病の喘息や喫煙による慢性気管支炎で慢性的に咳込む方も、声帯に強い圧力が繰り返しかかるためポリープができてしまうことがあります。
喫煙者
タバコの有害物質は声帯に慢性的な炎症を引き起こし、ポリープ形成の原因となります。
声帯ポリープはどれくらいで治癒する?
小島 敬史 医師
声帯ポリープの治癒までの期間は、治療法やポリープの大きさ・性質によって大きく異なります。小さくてやわらかいポリープであれば、適切な保存療法により数週間~数ヶ月で消失・縮小することもあります。特に急性に発生したポリープは、声帯を休める、薬で炎症を抑えることで早期に治癒する場合があります。
一方、長年かけて形成された慢性的なポリープは、保存的に治すには時間がかかることが多いです。一般的にはまず1~2ヶ月程度、声の安静や薬物療法・発声訓練を続けて様子を見ます。それでもポリープがあまり縮小せず、嗄声が強く残る場合には手術による切除を検討します。
まとめ
声帯ポリープは、声の酷使や喫煙などで声帯に炎症・出血が起こり、声帯の縁に生じる良性のポリープです。主な症状は声がれや声の出しにくさで、風邪をひいていないのに2週間以上嗄声が続く場合は声帯ポリープなど声帯の病変が疑われます。ポリープ自体はがんではなく命に別状はありませんが、放置するとポリープが大きくなり声の症状は悪化します。さらに、長期間放置すると反対側の声帯への障害やポリープ様声帯につながる恐れもあります。「声が枯れただけ」と放置せず、早めに耳鼻咽喉科を受診することが大切です。
関連する病気
- 喉頭がん
- 胃食道逆流症
- ポリープ様声帯
- 喘息
- 咳喘息
- 喉頭炎
関連する症状
- 嗄声
- 長引く咳
- 喉の異物感
参考文献