「悪性リンパ腫の予後」はご存知ですか?腫瘍の種類や治療法についても解説!
血液のがんと聞いてまず思い浮かぶのは白血病ではないでしょうか。
悪性リンパ腫は、白血病と同じ白血球のなかのリンパ球に遺伝子異常が起こり発症する血液の悪性腫瘍で、3大血液がんの1つです。
がんが広がるとしこりや腫れなどが確認できるようになりますが、痛みの症状はありません。
痛みがないことや進行速度が遅い種類の悪性リンパ腫もあるため、がんの発症がわかりづらいものがあります。
悪性リンパ腫は化学療法や放射線治療が有効な治療法となるため治癒する可能性が高いのが特徴ですが、種類が豊富で病型や進行速度で治療方針は異なります。
本記事は、悪性リンパ腫の種類や治療法・生存率を詳しく解説するので参考にしていただければ幸いです。
監修永井 恒志
平成15年金沢医科大学医学部卒。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て東京大学大学
院医学系研究科教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器
病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。
特に免疫細胞であるM1マクロファージの画期的な機能の一端を解明した。現在は腫瘍免疫学の
理論に基づきがんの根絶を目指してがん免疫療法の開発と臨床応用を手掛けている。
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悪性リンパ腫とは?
悪性リンパ腫は、血液中にできる悪性のがんです。血液細胞は白血球・赤血球・血小板で形成され、白血球は細菌から身体を守る働きをしています。
白血球のなかのリンパ球は免疫を担当しているため、リンパ系にがんが発生すると全身の免疫反応が低下し、細菌やウイルスに感染するリスクが高くなります。下記の項目は、リンパ節が集まって悪性リンパ腫が発生するリスクが高い箇所です。
- 頚部
- わきの下
- 気管支の周囲
- 腹部(血管や腸の周囲)
- 足の付け根
- 骨盤部分
悪性リンパ腫を発症するとリンパ節に腫れやしこりができる場合がありますが、ほとんどの場合痛みを伴うことはありません。悪性リンパ腫が好発する年齢は60歳前後で、半数近くが高齢者です。
悪性リンパ腫の種類
悪性リンパ腫の病型は100種類を超えますが、大きく分類するとホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分かれます。検体を採取し、組織内の蛋白質を免疫染色(特殊な抗体で染色)して細かく分類できます。
ホジキンリンパ腫
ホジキンリンパ腫の日本の発症率は5~10%程で、ホジキン博士が最初に発見した悪性リンパ腫です。
ホジキンリンパ腫は、主にリンパ節経由で発生するので、中枢神経系での発生や転移はほとんどないといわれているのが特徴です。
非ホジキンリンパ腫
ホジキンリンパ腫以外の悪性リンパ腫を非ホジキンリンパ腫に分類します。非ホジキンリンパ腫は、悪性リンパ腫の90~95%を占め、50種類以上の病型があります。
原発が中枢神経系(中枢神経系原発悪性リンパ腫)からのものや、ほかの部位から転移して中枢神経系に転移したものまでさまざまです。中枢神経系原発悪性リンパ腫は、女性より男性の罹患率がやや上回っています。
年代別では60歳代で発症する方が少なくありません。HIV(エイズウイルス)感染者の2~12%が中枢神経系原発悪性リンパ腫を発症するといわれています。
主な症状は以下のものがあります。
- 精神症状(40%)
- 頭蓋内圧亢進症状(33%)=頭痛・吐き気
- けいれん発作(14%)
- 眼の症状(4%)=見えづらい・ぶどう膜炎
なかでも眼球内リンパ腫は、中枢神経系原発悪性リンパ腫の患者さんの15~20%に合併症として現れています。
悪性リンパ腫の治療法
治療は、がんの進行の速度や性質の違いで治療介入の緊急度を計り診療方針を決めます。緊急度は以下の3つの進行速度で分類します。
- 低悪性度群:年単位のタイプ
- 中等度悪性群:月単位のタイプ
- 高悪性度群:週単位のタイプ
悪性リンパ腫のステージ(病期)は、臨床症状・画像検査・骨髄検査の結果をみてステージ1~4に分類します。ステージ1と2は限局期とし、ステージ3と4は進行期と呼ばれます。
抗がん剤投与
悪性リンパ腫の治療の主なものは薬物療法(抗がん剤投与)です。抗がん剤を経口(内服)・静脈注射・点滴などで投与し、腫瘍の殺細胞や増殖の抑制を目的にしています。
病型により3~5種類の抗がん剤を組み合わせた多剤併用療法が一般的です。薬物治療は外来で行うことが可能です。
放射線治療
放射線治療は、高エネルギーのX線をがん細胞に照射し破壊し、がん細胞を死滅させたり腫瘍を縮小させたりする効果があります。
また、苦痛を一時的に和らげる目的で放射線治療を実施する場合もあります。単独で行うこともありますが、化学療法と併用する場合も少なくありません。
生物学的製剤を使用
生物学的製剤はバイオテクノロジーで製造され、特定の分子だけを標的として治療をする薬剤です。悪性リンパ腫の治療で用いられる生物学的製剤は、リツキシマブが主流です。
リツキシマブは、B細胞だけを攻撃するためB細胞性リンパ腫細胞の増殖を抑制する効果が従来の抗がん剤よりもあります。また、副作用も抗がん剤より少なく、抗がん剤で効果がなかったリンパ腫の抑制にも期待できます。
造血幹細胞移植
造血幹細胞移植は、主に骨髄から採取した造血幹細胞を移植する治療法です。造血幹細胞移植前に大量化学療法や全身放射線治療を行い、当日は造血幹細胞を静脈から点滴投与します。
移植の方法は2種類あり、患者さん本人から前もって採取しておき化学療法後に本人の身体に戻す自家移植と、ドナーから提供してもらった造血幹細胞を移植する同種移植があります。
移植前の血液は数ヶ月で新しい血液に交換されますが、交換期間は白血球が減少して感染しやすいため防護環境で過ごすことが重要です。
経過観察のみのケースも
低悪性度群に入る濾胞性リンパ腫は、進行が緩やかで何年も全身症状がでないことも少なくありません。初期に薬剤療法を行っても治療の利点がないので、定期的に経過を観察するのみになります。
ただし、経過観察中に進行が認められたり症状がでたりした場合は治療を開始します。
悪性リンパ腫の予後
悪性リンパ腫は化学療法の感受性が高いがんであるため、予後が良好なものが少なくありません。しかし、予後には患者さんのリスク因子や病気の進行度が大きく左右されます。
種類によって生存率は異なる
中等度悪性群や高悪性度群のリンパ腫は標準治療で治癒は可能です。ただし、低悪性群のリンパ腫はがんが消滅しても再発する可能性が高いことがわかっています。そのため、生存率は病型や進行速度で異なります。
ホジキンリンパ腫の予後
化学療法と放射線治療を行うことで、長期生存率は75~90%が望めるでしょう。治療後15年以上たつと腫瘍による死亡よりも、二次がん(放射線治療や治療薬の副作用)や心肺毒性の死亡率が上回ります。
そのため、治療中は放射線照射や総線量を確認しながらの治療が必要です。
非ホジキンリンパ腫の予後
非ホジキンリンパ腫の治療には化学療法や放射線治療に加え、抗体療法や外科療法などを併用する治療が行われます。非ホジキンリンパ腫のなかでも罹患率の高いB細胞リンパ腫の生存率は以下になります。
- 診断初期の5年生存率予想:50%
- 3年生存者の5年生存率:80%
- 5年生存者の5年生存率:90%
生存率を性別や年齢でみると、女性のほうが高く、年齢層が低くなるにつれ生存率が上昇しています。再発を招く要因には、喫煙や飲酒などの生活習慣病や併存する疾患が影響を与えるため、リスク因子の低い女性や若年層の生存率が高いと考えられます。
ステージ4でも治癒する可能性はある
悪性リンパ腫は化学療法が有効で治癒する可能性の高いがんです。再発しても2年以内のため早期に治療を開始できます。治癒の可能性が高い疾患では年々再発率は減少していきます。
悪性リンパ腫についてよくある質問
ここまで悪性リンパ腫の種類・治療方法・予後などを紹介しました。ここでは「悪性リンパ腫」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
悪性リンパ腫の原因は何ですか?
永井 恒志 医師
現在のところ悪性リンパ腫の明らかな原因として挙げられるものは判明していませんが、一因として挙げられるものにリンパ球の遺伝子の異常があります。また、ウイルス感染や免疫不全などが原因でリンパ球に異常が起こることもあります。
悪性リンパ腫の治療中に注意すべきことは?
永井 恒志 医師
治療には副作用があります。症状が重い場合には緩和する治療を行うことができますが、治療終了まで身体を守る免疫機能が低下するためウイルスや細菌感染に注意が必要です。普段と異なる症状や副作用がでた場合は速やかに担当の医師に相談してください。
編集部まとめ
悪性リンパ腫は、悪性腫瘍のなかでも治癒する可能性の高いがんです。
発症原因は1つに絞ることはできませんが、喫煙や過度の飲酒を改善することで再発のリスクを減少させることができます。
また、化学療法や放射線治療が有効で生存率が高いのが特徴ですが、がんの治療には副作用が伴うことを理解しておきましょう。
治療中は白血球が減少しているため、ウイルスや細菌感染のリスクが高くなります。食生活に気を使い、激しい運動を控えるなど注意点も確認しましょう。
悪性リンパ腫と関連する病気
「悪性リンパ腫」と関連する病気は2個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
悪性リンパ腫と合わせて3大血液がんといわれています。
悪性リンパ腫と関連する症状
「悪性リンパ腫」と関連している、似ている症状は5個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 腫れやしこり
- 発熱
- 寝汗
- 体重減少
- 発疹
上記の症状は、がんが全身に広がってから現れることも珍しくありません。また、悪性リンパ腫は初期症状がない場合も少なくないため、レントゲン検査をして初めて発見されることがあります。