「乳がんの治療法」はご存知ですか?ステージ別の治療法・治療費用も医師が解説!
乳がんの治療法とは?Medical DOC監修医が乳がんの治療法・ステージ別の治療法・治療期間・費用・治療しなかった場合の余命などを解説します。
監修医師:
山田 美紀(医師)
目次 -INDEX-
「乳がん」とは?
乳がんは乳房の組織にできる悪性腫瘍です。乳腺は乳管と小葉からできており、多くは乳管から発生します。がんが進行すると、がん細胞は周りの組織に浸潤し、血液やリンパ液の流れに乗って他の臓器に転移します。
乳がんの主な治療法
乳がんの治療は手術や放射線治療などの局所治療と薬による全身治療を組み合わせて行います。患者さんの状態や希望、乳がんのサブタイプや進行度によって治療法はさまざまです。乳がんの主な治療法についてご紹介します。
手術
手術は乳腺外科で入院して行います。乳がんの手術は大きく「乳房部分切除術」と「乳房全切除術」に分けられます。乳房全切除では、皮膚を残す「皮膚温存乳房全切除術」やさらに乳頭と乳輪を残す「乳頭温存乳房全切除術」を行う場合があります。乳房全切除の場合は、乳房再建を行う場合があります。また、乳房切除と同時にリンパ節に対する手術も行います。がんがリンパ流に乗って転移する場合に、最初に到達するリンパ節をセンチネルリンパ節と呼びます。リンパ節転移が疑われない場合は、センチネルリンパ節生検を行います。リンパ節転移がある場合は、がんの周囲にあるリンパ節を切除する、腋窩リンパ節郭清を行います。入院期間は、乳房部分切除術で4日間程度、乳房全切除で1週間程度です。乳房再建を行う場合は、さらに入院期間が長くなる場合があります。
放射線治療
放射線治療は放射線治療科に通院して行います。乳房部分切除術を行った場合は温存した乳房へ放射線治療を行います。また、リンパ節転移がある場合も放射線治療が必要になります。放射線治療は平日に連続して約3~5週間の通院が必要です。
内分泌療法
内分泌療法はホルモン受容体陽性乳がんに対して、再発リスクを下げるために行われます。乳腺科に3か月に1回通院し、5~10年間内服治療を行います。閉経前の患者さんには再発リスクによって、LH-RHアゴニストとういう注射薬を併せて使用することがあります。また、再発リスクが高い患者さんにはCDK4/6阻害剤という分子標的薬や内服の抗がん剤を併せて行うことがあります。転移再発乳がんに対してはフルベストラントという筋肉注射も使用することができます。ステージ4の場合は、効果がある限り、治療を継続します。
抗HER2療法
乳がんの中でもHER2陽性乳がんの場合は、抗HER2療法を行います。トラスツズマブ、ペルツズマブ、トラスツズマブエムタンシン、トラスツズマブデルクステカンなどの薬があります。抗HER2治療は3週間に1回、乳腺科に通院して点滴で投与します。手術の前後に化学療法(いわゆる抗がん剤)と併せて使用し、抗HER2薬は計1年間使用します。ステージ4の場合は、薬の効果が続く限り、治療を継続します。
化学療法
化学療法はいわゆる抗がん剤であり、全てのタイプの乳がんに効果があります。乳腺科に通院して治療を行います。手術ができる乳がんに対しては、1~3週ごとに4~6か月程度通院し、点滴治療を行います。代表的なものはアンスラサイクリン系抗がん剤とタキサン系抗がん剤です。HER2陽性乳がんでは抗HER2療法と併せて使用します。ホルモン受容体陰性HER2陰性(トリプルネガティブ)乳がんでは免疫チェックポイント阻害剤と併せて使用します。ステージ4の場合は、薬の効果が続く限り、治療を継続します。
PARP阻害剤
BRCA1またはBRCA2遺伝子変異が確認された場合は、PARP阻害剤のオラパリブが使用できます。アンスラサイクリン、タキサンの化学療法を使用したことがある患者さんが使用できます。再発リスクの高い患者さんや転移再発乳がんの場合に使用します。オラパリブは飲み薬で、乳腺科に通院して治療します。
乳がんのステージ別の治療法
乳がんのステージ別の治療の流れについてご紹介します。
乳がん・ステージ1の治療法
ステージ1はしこりの大きさが2㎝以下で、リンパ節転移がない段階の早期乳がんです。まず、乳腺外科に入院し、手術を行います。乳房部分切除術の場合は、退院後に放射線治療に通院します。再発予防目的にサブタイプにあわせて薬物治療も行います。HER2陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がんでは、手術の前に、抗HER2療法や化学療法などの薬物治療を行う場合があります。
乳がん・ステージ2の治療法
ステージ2はステージ1と比べて、しこりが大きい、または脇のリンパ節に転移がある状態です。ステージ1と同様に、乳腺外科に入院し、手術を行います。乳房部部分切除術の場合は、放射線治療に通院します。また、リンパ節に転移がある場合も放射線治療が必要になります。HER2陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がんでは抗HRE2療法や化学療法などの薬物療法を手術に先行して、行う場合があります。
乳がん・ステージ3の治療法
ステージ3はステージ2と比べてリンパ節転移があり、しこりの範囲も広がっている段階です。中でもⅢB期とⅢC期は局所進行乳がんと呼ばれ、手術を可能にするために、まず薬物療法を行います。手術が可能になった場合は乳腺外科に入院して手術を行います。退院後、温存乳房または胸壁と周囲のリンパ節に放射線治療を行います。手術後も再発予防のための薬物治療を継続して行います。手術が難しい場合は、薬物治療を継続します。局所のコントロールのために放射線治療を行うことがあります。
乳がん・ステージ4の治療法
ステージ4はしこりやリンパ節転移の状況にかかわらず、がんが他の臓器へ転移している状態です。この段階では、薬による全身治療を行います。がんの治癒を目指すのではなく、がんの進行を抑え、症状を和らげ、QOLの良い状態で長期の生存を目指します。1つの治療を行って効果があるうちは続け、効果がなくなったら別の治療に変更します。基本的には乳腺科に通院して治療を行います。
乳がんの治療期間
治療期間は乳がんのサブタイプや進行度(ステージ)よってさまざまです。どのタイプでも手術後10年間は再発がないかチェックするために通院します。乳がんの治療で入院が必要なのは手術のみです。手術の方法によって、数日~10日間程度入院します。ホルモン受容体陽性乳がんの場合は、内分泌療法を5~10年間行います。HER2陽性乳がんは手術前後の化学療法と1年間の抗HER2療法を行います。トリプルネガティブ乳がんでは4~6カ月の化学療法と1年間の免疫チェックポイント阻害薬の治療を行います。手術ができない局所進行乳がんやステージ4の乳がんでは治療効果がある限り、治療を継続します。
乳がんの治療費用
乳がんの標準治療はすべて保険適用です。治療費用は治療内容によって変わりますが、高額療養費制度を利用すれば月額一律の金額となります。窓口負担額は患者さんの年齢や収入によって異なります。この制度は月ごとに適用されるため、治療内容よりも治療期間が長くなるほど高額になります。
乳がんを治療しなかった場合の余命
乳がんの治療をしない場合の余命は乳がんのタイプや進行度に左右されるため、一概には言えません。治療をしないとがんは進行する一方であり、治療をする場合と比べて、明らかに余命が短くなります。がんが進行すると痛みなどの症状も出て、QOLが低下する可能性もあります。
「乳がんの治療」についてよくある質問
ここまで乳がんの治療などを紹介しました。ここでは「乳がんの治療」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
乳がんを手術しないで治す治療法について教えてください。
山田 美紀 医師
ラジオ波焼灼療法という方法があります。がんに電極の針をさして焼灼する治療法であり、手術よりも体への負担が少ないです。認定された医療機関でのみですが、しこりの大きさが1.5cm以下でリンパ節や他の臓器に転移がない患者さんに対して行うことがあります。
乳がんは手術内容によって費用が異なるのでしょうか?
山田 美紀 医師
手術内容によって費用は異なりますが、高額療養費制度に該当するため、患者さんが負担する費用は手術方法にかかわらず一律です。
編集部まとめ
乳がんの治療についてご紹介しました。同じ乳がんであっても、乳がんのタイプや進行度、患者さんの状態や希望によって治療はさまざまです。主治医とよく相談し、患者さんにとって最適な局所治療と全身治療を組み合わせて治療を行うことが大切です。
「乳がんの治療」と関連する病気
「乳がんの治療」と関連する病気は1個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
婦人科の病気
- 卵巣がん(遺伝性乳がん卵巣がん症候群の場合)
BRCA1またはBRCA2遺伝子変異のある乳がん患者さんは卵巣がんも発症するリスクが高まります。その場合は、婦人科とも連携して治療を行います。
「乳がんの治療」と関連する症状
「乳がんの治療」と関連している、似ている症状は4個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 乳房のしこり
- 血性乳頭分泌
- 乳頭乳輪のただれ
- 乳房の変形
乳がんの症状として最も多いのは乳房のしこりです。しこりや血性乳頭分泌は良性のしこりでも認める場合があります。症状があれば、早めに乳腺科を受診しましょう。