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「直腸がんの手術方法」はご存知ですか?術後の合併症についても解説!

 公開日:2024/04/23
「直腸がんの手術方法」はご存知ですか?術後の合併症についても解説!

食事の欧米化にともない、日本では大腸がんの発症が増えています。なかでも直腸がんは、排便など私たちの日常生活に関わってくる無視できない病気といえるでしょう。

そこで今回は、直腸がんの手術について外科治療の種類や合併症までをわかりやすく解説しました。

この記事を読めば、手術方法はもちろん手術後の後遺症についても理解することができます。これから直腸がんの手術を受ける方・受けた方は、ぜひ参考にしてください。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

直腸がんとは?

直腸は、肛門のすぐ上にある消化管の一部で、大腸を通ってきた便を蓄えておく大切な役割があります。
直腸がんは、直腸の組織内に悪性のがん細胞が認められる病気です。また、直腸がんの初期には症状がほとんどありません。ステージが進むにつれて、以下のような自覚症状が現れます。

  • 血便
  • 貧血
  • 排便習慣の変化
  • 腹痛
  • 体重減少

それぞれ解説しましょう。
「便に出血」を確認したら直腸がんを疑ってください。下痢や便秘など便通の異常となって現れる場合もあります。
ほかにも、腹部の不快感・膨満感・極端な疲労感・原因不明の体重減少などの症状が出たら、なるべく早く検査を受けてください。

直腸がんの手術について

直腸がんの手術には、大きく分けて以下の2種類があります。

  • 直腸切断術
  • 肛門括約筋温存切除術

直腸切断術は、がんのある直腸とともに肛門も切り取ってしまうため、結腸に人工肛門を作る必要があります。
人工肛門には、永久人工肛門一時的人工肛門があります。肛門ごと切除した場合、人工肛門を永久的に外すことはできません。
門括約筋温存切除術は、肛門括約筋の外側にある筋肉を残すことで排便機能を維持する方法です。
早期がんの場合は、肛門から腫瘍だけを取り除く局所切除が可能なので、排便障害は起こりません。
直腸がんが粘膜下層より深く浸潤している場合は、直腸ごと取り除く直腸切断術が必要になり、排便障害が起こります。

直腸がんの外科治療の種類

直腸は大腸の一部で、肛門の直前にあるほぼ真っすぐな器官です。
構造上、直腸S上部・上部直腸・下部直腸の3つからなります。解剖学的にも複雑なので、それぞれの部位に最適な方法で治療を行う必要があるでしょう。
直腸がんの手術には、以下のような種類があります。

  • 直腸局所切除術
  • 前方切除術
  • 直腸切断術
  • 括約筋間直腸切除術(ISR)
  • 腹腔鏡下手術

それぞれ、詳しくみていきましょう。

直腸局所切除術

肛門近くの直腸がんは、肛門の方から腫瘍だけを切除する局所切除術で治療が可能です。
開腹しない手術なので、痛みが軽減できる・傷跡も目立ちにくいというメリットが大きいでしょう。
肛門括約筋を切る方法と切らない方法がありますが、肛門側から切除できない場合は開腹手術になってしまうので注意してください。
 

前方切除術

前方切除術は、がん腫瘍に冒された直腸と転移の可能性があるリンパ節を切除し、肛門側の直腸とS状結腸を縫い合わせる手術です。
直腸の一部を切除した場合は、便を溜めたり押し出したりする力が損なわれるため、排便回数の増加など排便障害が起こりやすくなります。また、直腸切除の場合は、腸の長さが短くなるために後遺症が生じます。
 

直腸切断術

直腸切断術では、直腸・リンパ節・肛門を切除します。肛門がなくなるため、おへそ付近の左下腹部に人工肛門を作成します。
 

括約筋間直腸切除術(ISR)

肛門近くのがんでも肛門を極力温存する方法です。
肛門には内肛門括約筋と外肛門括約筋の2つの筋肉がありますが、外肛門括約筋を温存することによって肛門機能を保ちつつ、腫瘍との距離を確保したうえで切除します。
 

腹腔鏡下手術

ダヴィンチ手術を含む腹腔鏡下手術では、炭酸ガスで膨らました腹腔内のスペースを利用して手術を行います。
腹部にトロッカーと呼ばれるアクセスツールを挿入し、腹腔鏡と呼ばれる細長いカメラでがん細胞をモニター画面で確認しながら手術を進めます。
切除した腸管や腸間膜を取り除くため、おへそ部分に3〜5センチ程度の皮膚切開が必要ですが、従来の開腹手術より創が小さいため痛みも軽減されるでしょう。

ロボット支援下手術

ロボット支援による直腸切除術は、アメリカで開発されたダヴィンチと呼ばれる手術支援ロボットを使用して手術を行います。
ロボットアームを介して複雑に曲がるロボット鉗子の支援を受けながら腹腔鏡下直腸切除術が行えます。
実際の術者の手の動きが細かく再現されるうえ、手振れも補正されるため、人間の目や手だけによる手術より正確な操作が可能でしょう。

直腸がんの手術の合併症は?

直腸がん手術後の後遺症には、直腸がなくなってしまうことによる症状と自律神経の障害による症状の2つがあります。
直腸の拡張が骨盤神経から脳へ伝わることで私たちは便意を感じ、内肛門括約筋が締まることで排便が止められています。
この排便機能に関係する直腸がなくなるということは、一体どのような影響があるのでしょうか。以下に、詳しく解説します。

排尿困難

排尿困難は、骨盤の自律神経が傷つくために起こる合併症です。尿意を感じにくいため、自力で排尿しにくい状態を排尿困難といい、以下のような症状があります。

  • 尿が出きらず膀胱に溜まる
  • 残尿感がある
  • 尿失禁・尿漏れが起こる

直腸がんの手術においては、直腸の前方に位置する膀胱にも影響が出てしまいます。
尿漏れを起こしてしまうからと、尿パッドが手放せない方もいるでしょう。これを避けるためには、できるだけ骨盤内の自律神経を傷つけないように手術を行わなくてはなりません。

排便困難

直腸がんの手術では、すべての人に排便障害が起こるわけではありません。排便困難には、以下のような症状があります。

  • 排便回数が増加する
  • 1回の排便の量が減る
  • 残便感が残る
  • 突然に便意を催す
  • 便漏れ・便失禁が起こる

これらの症状は、直腸がなくなること・肛門括約筋が傷つくこと・自律神経の損傷の3つに起因しています。予測もつかない便意のため、外出できない方もいるので注意しましょう。

腸閉塞

直腸がんに限らず大腸がん全般にいえることですが、成長したがん組織が腸を完全に防いでしまうと腸閉塞を起こすことがあります。
腸閉塞になると、嘔吐・膨満感・腹痛などの症状が強く出るので注意してください。また、血流が阻害されると手術が必要になります。

縫合不全

腸管をつなぎ合わせる縫合がうまくいかず、縫い目から便やおならなど腸の内容物がお腹の中に漏れ出てしまう合併症です。
肛門に近い直腸がんの手術では、術後に縫合不全が起こりやすくなります。縫合不全によって腹膜炎を発症する可能性もあり、発熱・腹痛などの症状が出るので注意してください。

性機能障害

直腸周辺には排泄機能の神経が集中しているため、手術で骨盤内臓器の切除・性機能の神経の損傷があると性機能障害を生じることがあります。
直腸が骨盤内にあるため、男性では前立腺・精のう・膀胱、女性では腟・子宮・卵巣・膀胱の機能に深く関係していることが原因といえるでしょう。

直腸がんの手術についてよくある質問

ここまで、直腸がんの手術・術後の合併症などを紹介しました。ここでは、「直腸がんの手術」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

人工肛門は日常生活に支障がありますか?

甲斐沼孟医師甲斐沼 孟(医師)

人工肛門を使用しても、日常生活に大きな支障はありません。ただし、永久人工肛門を造設された方は、メンテナンスのため定期的な通院による検査が負担になるかもしれません。また、経済的な支出を支障ととらえる方もいます。そのような場合、申請すれば人工肛門の装具購入に補助が出ます。身体障がい者手帳を取得することで、日常生活用具の給付制度を活用してみてください。

外科治療(手術)が選択されるのはどのようなケースですか?

甲斐沼孟医師甲斐沼 孟(医師)

直腸がんの進行によっては、開腹手術や人工肛門が必要な外科治療が必要になるケースがあります。早期がんが直腸粘膜にある場合は、内視鏡による切除治療が選択されるでしょう。内視鏡下手術が難しい場合は、肛門からの切除が可能なこともあります。転移が見られる場合は、手術だけではなく化学療法や放射線療法を行うこともあります。直腸周辺には排尿・排便・性機能などの神経が集中しているため、なるべく傷つけない方法を検討してください。

編集部まとめ

今回は、直腸がんの手術と合併症などについて解説しました。直腸がんの5年生存率は全国平均約20%と高く、大腸がんは女性に多いがん死の原因となっています。

直腸がんの手術は、大きく切除すれば治りはよいのですが、体のダメージも大きくなり後遺症に苦しむことになるでしょう。切る範囲を小さくすると根治性に不安が残るかもしれません。

根治性を追求して治りを良くするのか、術後のQOL(生活の質)を優先するのか、手術するにもバランスが大切になってきます。

直腸がんの早期発見・早期治療のためには、検便(便潜血)や内視鏡を使った定期健診が欠かせません。運動不足・野菜不足・肥満・飲酒など生活習慣上のリスク要因を見直してください。

直腸がんと関連する病気

「直腸がん」と関連する病気は10個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する病気

カルチノイドは腫瘍の1種ですが、がんと比べて悪性の度合いは低いものが多いです。しかし、発見が遅れてしまった場合には、転移の可能性があります。定期的な検診での早期発見を心がけてください。

直腸がんと関連する症状

「直腸がん」と関連している、似ている症状は6個程あります。
各症状・原因・治療法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • 便中の出血
  • 便通の異常
  • 腹部不快感
  • 食欲の変化
  • 原因不明の体重減少
  • 極度の疲労感

また、40歳以上の人(特に女性)・家族性腺腫性ポリポーシスなどの遺伝的条件を持つ人は、直腸がんのリスク因子が高くなります。結腸直腸がん・ポリープ・乳がんなどの病歴を持つ人も注意してください。

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