「神経膠腫(悪性脳腫瘍の一種)の余命」はご存知ですか?原因や治療法も解説!
神経膠腫(グリオーマ)とはどんな病気なのか知っていますか?本記事では神経膠腫の治療や余命について以下の点を中心にご紹介します。
- ・神経膠腫(グリオーマ)とは?
- ・神経膠腫の原因と症状
- ・神経膠腫の余命
神経膠腫の余命について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
監修医師:
勝木 将人(医師)
目次 -INDEX-
神経膠腫(グリオーマ)とは?
神経膠腫(グリオーマ)は、脳や脊髄に存在する神経膠細胞から発生する腫瘍です。神経膠腫は、神経細胞や神経線維を支持し、栄養を与える神経膠細胞に異常が生じることで形成されます。神経膠腫には、星細胞系腫、乏突起神経膠細胞系腫、上衣細胞系腫、脈絡叢系腫瘍などの種類があり、脳腫瘍の約25%を占めます。腫瘍は浸潤性が高く、手術による完全な切除が困難なことが多いです。
また、神経膠腫は、病理学的に悪性度に応じてグレード1からグレード4まで分類されます。グレード1と2は低悪性度で、グレード3(退形成星細胞腫や退形成乏突起神経膠腫など)とグレード4(膠芽腫)は高悪性度とされ、これらを悪性神経膠腫といいます。特に膠芽腫は、悪性度が非常に高く、早期に脳の広範囲に腫瘍細胞が広がります。
神経膠腫の原因と症状
神経膠腫は、稀に遺伝的要因(遺伝性腫瘍症候群)が関連していますが、多くの場合は突然変異によるものです。環境因子の影響は少ないとされています。
神経膠腫の症状は、腫瘍の位置によって異なります。局所的な症状(巣症状)は、腫瘍が存在する脳の部位に応じた麻痺、失語、視野障害、脳神経障害などです。例えば、運動野や運動線維の影響を受けると、反対側の手足に麻痺が生じ、言語中枢が影響を受けると、失語症状が現れます。左前頭葉の腫瘍はうつ症状や認知症に似た症状を引き起こすこともあります。また、けいれんなどのてんかん発作も現れます。
一方、頭蓋内圧亢進症状は、腫瘍やその周囲の浮腫によって頭蓋骨内の圧力が高まることで生じます。これには頭痛、吐き気、嘔吐、視力低下などが含まれます。進行すると脳ヘルニアを引き起こし、意識低下や生命に関わる事態に至ることがあります。小脳に発生した腫瘍は、髄液の循環経路を塞ぎ、水頭症により意識障害を引き起こすことがあります。
したがって多くの神経膠腫は遺伝的要因なしに発生し、遺伝することはありませんが、稀に遺伝的異常が原因で発生することもあります。神経膠腫は他のがんよりまれな病気であり、その発症と進行は患者さんごとに異なります。
神経膠腫の診断・検査
神経膠腫の診断には、詳細な神経学的検査と画像診断が不可欠です。以下で解説していきます。
神経学的検査
神経膠腫の神経学的検査では、患者さんの運動機能、感覚機能の評価に加えて、認知機能や言語機能などの高次脳機能のチェックが行われます。神経学的検査は医師が直接行うだけでなく、必要に応じて言語聴覚士や臨床心理士が関与することもあります。患者さんの日常生活における機能的な変化や障害の程度を正確に把握し、適切な診断と治療計画の策定に役立てられます。
画像診断(CT・MRI)
神経膠腫の診断において、MRIやCTなどの画像診断が重要な役割を果たします。CT検査は、特に出血や石灰化を確認するのに適しています。一方、MRIは神経膠腫の特徴的な所見を捉えるのに適してます。MRIのT1強調画像で、神経膠腫は低信号(黒く見える)、T2強調画像やFLAIR画像では高信号(白く見える)で描出されます。特に、グレード3や4の悪性神経膠腫では、造影剤を用いることで腫瘍の境界が鮮明になり、周囲の広範な浮腫も確認できます。
しかし、患者さんが造影剤にアレルギーを持つ場合や喘息を持っている場合は、これを事前に医師に伝える必要があります。特にCT検査では、ヨードアレルギーがある場合、副作用のリスクが高まります。神経膠腫の疑いがある場合、画像診断は診断の精度を高め、適切な治療方針の決定に不可欠です。
病理検査
摘出手術や生検術で得られた腫瘍細胞を顕微鏡で観察する病理検査では、がんの種類や性質を特定し、治療方針の決定に不可欠な情報を提供します。診察、神経学的検査、CT、MRI、PET検査などで得られたデータに基づき、神経膠腫の可能性を推測しますが、確定診断には病理検査が必要です。
病理検査結果は、腫瘍の種類、悪性度、および適切な治療法を決定する上で決定的な役割を果たします。近年の分子生物学の進歩により、神経膠腫のより精密な遺伝子的特徴が明らかになっており、個別化医療への道を開いています。
神経膠腫の治療
神経膠腫の治療には、手術、放射線、化学療法が主に用いられます。以下で解説していきます。
外科治療(手術)
神経膠腫の外科治療(手術)は、神経症状の悪化を防ぎながら腫瘍を可能な限り摘出することを目指します。脳腫瘍は細かく分類され、手術前の画像診断だけでは神経膠腫かどうかの判断が困難な場合もあります。手術中に異なるタイプの脳腫瘍であることが判明することもあるため、術中迅速病理診断が可能な施設での手術が望ましいとされています。
また、脳の機能は部位によって異なるため、腫瘍の位置により手術方法が変わります。例えば、右前頭葉のような重要でない部位に発生した腫瘍は、神経症状の悪化なく、摘出可能な場合もあります。しかし、運動野や言語野など重要な機能を担う部位に腫瘍がある場合、摘出によって症状が悪化するリスクがあります。このような場合は、腫瘍の一部を摘出し、分子診断や病理診断を行った後、放射線治療や薬物療法を主体とする治療が行われます。
放射線治療
放射線療法の目的は、腫瘍細胞を放射線によって破壊し、同時に正常細胞へのダメージをできるだけ抑えることです。腫瘍細胞と正常細胞の放射線感受性の違いを利用して、腫瘍細胞を標的とします。放射線治療は手術後の創部が癒合した後に開始されます。放射線治療で期待できる効果は照射線量の増加に比例します。そのため、治療計画に沿った照射を完遂することが非常に重要です。放射線治療は、患者さんの状態や腫瘍の種類、位置に応じて細かく調整され、適切な治療効果を目指します。
薬物療法
神経膠腫の治療における薬物療法は、特にグレード3と4の神経膠腫に対して重要な役割を果たします。グレード3と4段階の神経膠腫では、手術後に放射線治療と並行して薬物療法が行われます。グレード2の場合、全摘出が可能であれば経過観察を行いますが、状況に応じて薬物療法を追加することもあります。乏突起膠腫は星細胞腫よりも薬物療法に反応しやすい特性を持っています。薬物療法は、患者の状態に応じて慎重に調整され、適切な治療成果を目指して行われます。
緩和ケア・支持療法
がん診断は、体の苦痛だけでなく、仕事や経済的な問題、将来への不安など多くの心理的負担を伴います。
緩和ケアは、がんによる身体的な苦痛や治療に伴う社会的孤立感などの心理的な苦痛を軽減するためのケアです。一方、支持療法はがんや治療に伴う副作用、合併症、後遺症を軽減するための予防、治療、ケアを指します。
緩和ケア・支持療法は、がん診断時から開始され、終末期だけでなく治療全体を通じて実施されます。患者さんはいつでもこれらのケアを受けられ、身体的または精神的な苦痛について医師と話すことが推奨されます。
欧米では、早期からの緩和医療の導入が推奨されており、日本でもその重要性が高まっています。療養中も脳神経外科医との連携が重要であり、家族の不安や治療に関する疑問に対応するためにも、緩和ケアチームとの緊密な協力が求められます。
神経膠腫の余命
神経膠腫の余命は患者さんの年齢、腫瘍の種類、治療によって異なります。以下で解説していきます。
グレード1
グレードIの神経膠腫は良性であり、適切な治療を受けることで生存期間中央値は約8〜10年に達し、5年生存率は約95%です。ただし、良性の神経膠腫も経過中に悪性化する可能性があり、定期的なフォローアップが重要です。神経膠腫の診断と治療は、患者さんの年齢、腫瘍の特性、健康状態を考慮して行われます。
グレード2
神経膠腫のグレード2に分類される腫瘍は低悪性度ですが、治療後の予後は患者さんによって大きく異なります。適切な治療を受けた場合の5年生存率は約70%で、平均生存期間は約5〜10年程度とされています。しかし、患者さんによっては更に長期にわたり再発なく生存することもあれば、逆に経過中に悪性度が高まることもあります。若年者、腫瘍の全摘出が可能な症例、症状が軽い患者さんでは、より良い経過を示します。
グレード3
グレード3の神経膠腫、特に退形成星細胞腫の場合、生存期間中央値は約3年で、5年生存率は約30〜40%とされています。ただし、病理組織の所見がグレード2に近い場合やグレード4に近い場合では、生存期間が大幅に異なる可能性があります。
グレード3の神経膠腫は複数の治療方法を試しても予後が不良なことが多く、WHO分類においても悪性度が高いとされています。そのため、患者さんの症状や腫瘍の特性に応じた包括的な治療アプローチが重要となります。患者さんの生活の質を考慮しつつ、適切な治療計画を立てることが求められます。
グレード4
神経膠芽腫(グレード4の神経膠腫)は、予後が厳しいとされています。平均生存期間は約1年半で、2年生存率は約30%以下、5年生存率は約10%以下です。しかし、全摘出が可能な例や、テモダール(テモゾロミド)による治療では、長期生存も報告されています。年齢が若い患者さんや自立度の高い患者さんは予後が良い傾向にあります。
また、分子マーカーとしてのIDH1/2変異の有無やMGMTのメチル化は、予後に関わる重要な因子です。グレード4の神経膠芽腫は、積極的な治療を行っても予後が不良なため、高齢者や全身状態が悪い患者さんに対しては、治療の選択を慎重に行う必要があります。患者さんの生活の質や希望に合わせた治療計画を立てることが重要です。
神経膠腫についてよくある質問
ここまで神経膠腫の症状を紹介しました。ここでは神経膠腫についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
神経膠腫のステージを教えてください。
勝木 将人 医師
神経膠腫の悪性度は、グレード1から4までの4段階で分類されます。グレード1は良性で、手術できれいに摘出できれば再発の可能性が非常に低いです。代表的なグレード1の神経上皮性腫瘍には、子どもの小脳や視神経に発生する毛様細胞腫があります。
グレード2〜4の神経膠腫は、乏突起膠腫、星細胞腫、膠芽腫に大別され、グレードが高くなるにつれて悪性度が増します。グレード2と3の神経膠腫は手術、放射線治療、化学療法などの組み合わせによって治療されますが、再発の可能性があります。
悪性度が高いグレード4の膠芽腫は、脳腫瘍の中でも特に急速に進行し、治療が非常に難しいことで知られています。膠芽腫は浸潤性が高く、再発が多いため、完治は困難であり、平均寿命は術後1〜2年とされています。
グレードによって、治療方針や予後が異なるため、正確な病理診断が治療計画の策定には不可欠です。悪性度が高い神経膠腫では、病状の進行や再発に対する治療だけでなく、緩和ケアの導入も重要になります。
神経膠腫の予防法はありますか?
勝木 将人 医師
現在のところ、神経膠腫の予防法は存在しません。神経膠腫の発生には、遺伝的要素が関与する場合もありますが、多くの症例によると、遺伝は主要な原因ではないとされています。また、特定の生活習慣や嗜好品が神経膠腫の発生に直接関係しているという明確な証拠は現在のところありません。若年期に頭部への放射線治療を受けた人では、神経膠腫の発生リスクが若干高まるとされています。
検診で神経膠腫の検査は行われていませんが、脳ドックなどのMRI検査によって無症状の段階で偶然発見されるケースもあります。何らかの神経学的な症状がある場合は、脳神経の病院を受診することをお勧めします。
まとめ
ここまで神経膠腫の余命についてお伝えしてきました。神経膠腫の余命についての要点をまとめると以下の通りです。
⚫︎まとめ
- ・神経膠腫(グリオーマ)は、脳や脊髄に存在する神経膠細胞から発生する腫瘍のこと。
- ・神経膠腫は、稀に遺伝関連によって発症することもあるが、多くの場合は突然変異で発症する。腫瘍の位置によって異なり、局所的な症状と頭蓋内圧亢進症状がある。
- ・神経膠腫の平均生存期間は、グレード1は「約8〜10年」、グレード2は「約5〜10年程度」、グレード3は「約3年」、グレード4は「約1年半」となっている。
神経膠腫と関連する病気
「神経膠腫」と関連する病気は4個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法などの詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
脳神経外科の病気
- 星細胞系腫瘍(アストロサイトーマ)
- 乏突起膠細胞系腫瘍(オリゴデンドログリオーマ)
- 上衣細胞系腫瘍
- 脈絡叢系腫瘍
具体的な症状や治療法については、担当の医師と相談しましょう。
神経膠腫と関連する症状
「神経膠腫の症状」と関連している、似ている症状は8個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 頭痛
- 悪心・嘔吐
- うっ血乳頭
- 片麻痺や感覚障害
- 言語障害
- 視野障害
- 高次脳機能障害
- 痙攣発作
これらの症状が持続する場合、または新たにあらわれた場合、医師の診察を受けることが大切です。