「甲状腺がんの前兆となる初期症状」はご存知ですか?【医師監修】
のどぼとけのすぐ下にある甲状腺は、10~20g程度の小さな臓器です。この部分ががんに罹患すると、甲状腺がんと診断されます。
一般的に30〜40代に多くみられるといわれていますが、種類によっては高齢者にも発症することがあり、油断は禁物です。
なお、その種類は1つだけではありません。また種類によって予後・生存率などが異なります。
本記事では甲状腺がんの初期症状を中心に解説するので、参考にしてください。
監修医師:
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)
目次 -INDEX-
甲状腺がんの初期症状
症状としてあげられるのは、主に以下の8つです。
- しこり
- 喉の違和感
- 声のかすれ(嗄声)
- 飲み込みにくさ
- 誤嚥
- 痛み
- 血痰
- 呼吸困難
甲状腺がんの初期症状は多くの場合、自覚症状がありません。症状が進むと次第に病巣部分が肥大化し、しこりとなってあらわれます。しかし、しこりが小さい場合も自覚症状はあまり感じられないかもしれません。
甲状腺全体が腫れ始めてようやく、前脛部分に違和感を覚え始めるでしょう。進行具合によって声のかすれ・飲み込みにくさなどの自覚症状が増え始めます。
特に大きな声を出していないのに何日も声がかすれた状態が続く場合には、病院の診察を受けたほうが良いでしょう。早期発見のポイントについては、後述するのでそちらを参考にしてください。
甲状腺がんの種類
甲状腺がんといっても1種類の病気のことを指しているのではありません。大きく分けると以下の4つに分類されます。
- 乳頭がん
- 濾胞(ろほう)がん
- 髄様(ずいよう)がん
- 未分化がん
ぞれぞれの種類について解説するので、参考にしてください。
乳頭がん
乳頭がんは日本国内において4つのなかでも約90%と、多くの割合を占めています。特に女性の罹患者が多く、女性10万人に対して年間約8人が罹患しているといわれるがんです。
年齢層は10〜80歳代まで幅広く、「若いから」「高齢だから」という理由で発症しやすいというわけではありません。
ただし予後については、若い人のほうが良好であることが多い傾向にあります。その一方で再発を繰り返すケースもあるため、油断はできません。
罹患するとリンパ節転移を起こす確率が高く、病巣の周囲に及ぶこともあります。しかし一般的に成長は遅いとされており、早期発見すれば寛解率は高まるでしょう。
濾胞(ろほう)がん
濾胞(ろほう)がんは、前述した乳頭がんに次いで罹患率が2番目に高いがんです。日本国内での罹患率は甲状腺がん全体の5%程度といわれています。
男女比でみた場合、1:2〜3と女性に多い傾向にありますが、年代別でみた場合には大差がありません。あらゆる年代で罹患する可能性があるといえるでしょう。
なお良性の場合は濾胞(ろほう)腺腫と呼ばれ、区別が難しいケースもあります。予後は良いとされていますが、転移を伴うと治りにくい傾向があるため油断できません。
髄様(ずいよう)がん
髄様(ずいよう)がんは甲状腺がん全体の1〜2%とされている発症・罹患率が低いがんです。しかしその一方で、乳頭・濾胞(ろほう)に比べて悪性度・転移する確率が高い特徴がみられます。
カルシトニンを分泌する傍濾胞細胞から発症し、罹患すると血中のCEA・カルシトニンの測定値が上昇するのが一般的です。この特徴から、術後の経過観察として腫瘍マーカーを行うこともあるでしょう。
なお遺伝性・突発性の2通りがあり、そのいずれかを確定するためにRET遺伝子を利用して診断することがあります。
ただし遺伝子検査は確定診断だけではなく、血縁者の遺伝情報もわかってしまうため、慎重に行わなければなりません。検査を受けるかどうかについて、遺伝カウンセリングなどの専門家とも相談したほうが良いでしょう。
未分化がん
未分化がんは前述した髄様(ずいよう)がん同様に、甲状腺がん全体の1〜2%程度の発症・罹患率が低いがんです。しかし急速に進行する傾向があり、予後も決して良いとはいえない特徴があります。
年代別では60歳以上に多くみられますが、男女比はほぼ1:1と男性の発症頻度が高いのも特徴です。
進行度の高さから全身へ転移する可能性も高く、1年生存率は5~20%程度とされています。4種類のなかでは治療が難しいといえるでしょう。
甲状腺がんの治療方法
甲状腺がんの治療方法は、その種類によって異なります。そのなかでも、幅広く行われているのが主に以下の3つです。
- 薬物療法
- 手術
- ヨード治療
それぞれの治療法について解説するので、参考にしてください。
薬物療法
主に以下の3通りがあります。
- 甲状腺刺激ホルモン抑制療法
- 分子標的薬
- 細胞障害性抗がん薬
甲状腺刺激ホルモンはホルモンの分泌を促す重要な役割を担っていますが、その一方でがん細胞を刺激して増加させてしまう作用もあわせ持っています。
手術後、甲状腺の不足を補うために活発に活動する傾向がありますが、再発・転移などを促す原因になるかもしれません。転移のリスクが高い場合には、分泌を抑えるために用いられます。
分子標的薬は、再発・転移した乳頭・濾胞(ろほう)がんにおいて、放射線性ヨウ素内用療法が困難な場合に検討される治療法です。ただし副作用を起こすリスクがあるため、病状などによっては行えない場合もあります。
細胞障害性抗がん薬とは化学療法のことです。一般的にはがん細胞の死滅・分裂停止を目的としていますが、甲状腺がんでは未分化がんの術後補助として行うことがあるでしょう。
手術
基本的には手術を行いますが、その術式は1つだけではありません。病状・進行度によっていずれかの術式があげられます。
- 葉切除術
- 甲状腺亜全摘術
- 甲状腺全摘術
葉切除術は、悪性と認められた甲状腺の葉を摘出する方法です。他臓器への転移が認められない濾胞(ろほう)がんの場合に行う可能性があります。
手術と並行してリンパ節生検を行い、腫瘍の有無などを調べることもあるでしょう。有無・状態などによって全摘などが追加される場合もあります。
甲状腺亜全摘術は、甲状腺の一部だけを残してほとんどを摘出する方法です。超低〜中リスクと判断された乳頭がん・遺伝性が認められない髄様(ずいよう)がんで行うことがあります。
甲状腺全摘術は「全」という文字が表しているとおり、甲状腺すべてを摘出する方法です。中〜高リスクの乳頭がん・遺伝性髄様(ずいよう)がん・未分化がんで行う可能性があります。
頸部リンパ節への転移が認められるまたは転移の可能性がある場合には、リンパ節郭清術が行われることもあるでしょう。
ヨード治療
放射性ヨウ素内用療法などと呼ばれており、乳頭・濾胞(ろほう)がんで用いられる方法です。
放射性ヨウ素カプセルI-131を内服し、カプセルから放出される放射線によって腫瘍を攻撃します。具体的には以下の3種類があり、その目的にあわせて内服薬の量が調整されるのが一般的です。
種類名 | 目的・内容 |
アブレーション | 全摘術後の再発・転移の予防 内服によって全摘後の甲状腺組織の除去を行う |
補助療法 | 全摘術後に残った小さな悪性腫瘍を取り除く 目に見えない小さな腫瘍を、内服によって除去する |
治療 | がんの残存・手術困難な場合に用いられる 内服薬の容量が大きく、肺・骨転移の治療目的として行われることが多い |
ただし、唾液腺の炎症・口腔内の乾燥・塩味の低下・涙腺障害といった副作用が起こるかもしれません。また女性については一時的に無月経、男性では3〜6ヶ月以内に精子が減少するなどの症状もあるので注意が必要です。
治療を行う際には担当・専門の医師から説明があるでしょう。副作用も含めて説明をよく聞いてください。
早期発見のポイントとは?
甲状腺がんは、初期の段階では目立った自覚症状がみられない特徴があります。
しかしその一方で、注意すべきポイントを知っていれば早期発見につながるかもしれません。その主なポイントとしてあげられるのは、以下の3つです。
- 声の変化
- 首の痛み
- 飲み込みにくさ
それぞれの注意点・ポイントについて解説するので、参考にしてください。
声の変化に注意する
初期症状として「嗄声(きせい)」があげられます。嗄声とは声がかすれることです。
見た目・触った感じでは違和感がないかもしれません。しかし風邪を引いているわけでもなく、大きな声などを出して喉に負担をかけたこともないのに長期にわたって声がかすれる場合は、早めに病院で診察を受けてください。
首の痛みに注意する
甲状腺がんは一般的に、痛みを感じることはほとんどありません。しかし高危険度がん・未分化がんの場合には、首の痛みを感じることもあるようです。
原因がわからない首の痛みを感じた場合は、病院で診察を受けたほうが良いでしょう。
飲み込みにくさに注意する
飲み込みにくさにも注意しておいたほうが良いかもしれません。しかし食べ物・飲み物が飲みにくくなったからといって、必ずしも甲状腺がんに罹患しているとは限らないので注意してください。
初期の段階では一般的に自覚症状がないとされており、ストレスなどが原因で飲み込みにくさを感じるケースもあります。
ただし甲状腺を含めたほかの病気が見つかる可能性もあるため、病院で診察を受けてみるのも良いかもしれません。
甲状腺がんの初期症状についてよくある質問
ここまで甲状腺がんの初期症状・治療法・早期発見のポイントなどを紹介しました。ここでは「甲状腺がんの初期症状」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
甲状腺がんの検査方法について教えてください
久高 将太医師
- 超音波
- 血液検査
- 細胞診(病理検査)
- CT・MRI
- シンチグラフィ
- 腫瘍マーカー
超音波では、甲状腺にできた腫瘍の大きさ・性質とあわせて転移の有無なども調べながら、良性・悪性の判断を行います。血液検査を行うのは、ホルモンを調べるためです。遊離サイロキシン・甲状腺刺激ホルモン・サイログロブリン・カルシトニンなどを中心に行います。細胞診はしこりの良性・悪性を調べることが目的です。超音波と並行して行い、病理組織を穿刺します。CT・MRIは、主にがんの広がり・転移などを調べるために行うのが一般的でしょう。シンチグラフィとは、放射性薬品を内服・注射し、体内で放出される放射線を画像にする検査です。甲状腺がんにおいては、甲状腺シンチグラフィと腫瘍シンチグラフィを行うでしょう。腫瘍マーカーは、がん診断の補助・経過確認などを行うための検査です。甲状腺がんの場合はCEA・サイログロブリン・カルシトニンが扱われることがあります。
甲状腺がんは転移しますか?
久高 将太医師
種類 | 転移先 | 転移の確立 |
乳頭がん | リンパ節・周辺臓器 | リンパ節への転移は低い 離れた臓器へ転移しやすい |
濾胞(ろほう)がん | 骨・肺など離れた臓器 血液の流れを利用 |
リンパ節への転移は低い 離れた臓器へ転移しやすい |
髄様(ずいよう)がん | リンパ節・肺・肝臓など | 高いとされている |
未分化がん | 甲状腺周辺(気管・食道など)・全身 | 高いとされている |
転移の確率については症状・状態によって異なるため、一概にはいえません。あくまでも目安であり、治療後も医師の診察が欠かせないといえるでしょう。
甲状腺がんがリンパ 節に転移するのはどのステージですか?
久高 将太医師
- 乳頭・濾胞(ろほう)がん:2期以上
- 髄様(ずいよう)がん:3期以上
- 未分化がん:4B期以上
同じ甲状腺がんでも種類によってステージは異なるので、覚えておくと良いでしょう。
編集部まとめ
甲状腺がんの初期症状について解説しました。結論からいうと、甲状腺がんにおける初期症状はほとんどありません。
症状の一例として嗄声(きせい)・しこりなどをあげましたが、これらの自覚症状がみられるのはまれでしょう。
しかし、何らかの違和感を覚えた場合は甲状腺を含めた病気に罹患している可能性があります。甲状腺がんも含めて、病院で診察を受けてみてください。
甲状腺がんと関連する病気
「甲状腺がん」と関連する病気は以下の通りです。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- 慢性甲状腺炎
甲状腺の肥大というだけでは甲状腺がんとは判断が難しいですが、慢性甲状腺炎を罹患している患者さんは悪性リンパ腫を発症しやすいといわれています。
そのため、甲状腺がんも含めて慎重に検査などを進めて診断を行います。
甲状腺がんと関連する症状
「甲状腺がん」と関連している、似ている症状として以下のようなものがあげられます。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 声のかすれ
- しこり
- 喉の違和感
ただし甲状腺がんに罹患しているからといって、必ずしも上記のような症状がみられるとは限りません。
無症状でありながら、健康診断などで罹患がわかることもあるので注意してください。