「多発性骨髄腫の診断基準」はご存知ですか?原因や症状も解説!【医師監修】
多発性骨髄腫は、骨髄内で異常なプラズマ細胞が増殖することによって引き起こされる血液のがんの一種です。
骨・腎臓・赤血球の数に影響を与え、さまざまな症状を引き起こすことがあります。しかし、初期の段階では自覚症状がなく、健康診断を受けた際に検査値の異常を指摘され病気が判明する場合もあります。
本記事では、多発性骨髄腫の診断基準・原因・主な症状・治療方法について詳しく解説します。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
多発性骨髄腫とは?
多発性骨髄腫は、骨髄内のプラズマ細胞と呼ばれる白血球の一種が異常に増殖し、正常な血液細胞の生成を妨げる血液のがんです。
プラズマ細胞は通常、感染に対抗するための抗体を生産する役割を果たしています。しかし、多発性骨髄腫ではプラズマ細胞が過剰に増殖してしまいます。
主に高齢者にみられ、40歳未満で発症することは稀です。また、性別では男性の方が女性よりも若干発症率が高いとされています。
多発性骨髄腫の症状として代表的なものは、骨の痛み・骨折・貧血・出血傾向・感染症への抵抗力の低下などです。また、異常なプラズマ細胞によって生成されるタンパク質が腎臓にダメージを与えることもあります。
診断は血液検査・尿検査・骨髄検査などを総合して行われ、異常なプラズマ細胞の存在や関連するタンパク質の量を調べることで確定されます。治療は、薬物療法・化学療法・放射線治療・幹細胞移植などが行われることが一般的です。
多発性骨髄腫は完治が難しい病気です。しかし、適切な治療によって症状のコントロール・生活の質の向上・生存期間を伸ばすことが期待できます。
患者さんと医師が密接に協力し、個々の状態に合った治療計画を立てることが重要です。
多発性骨髄腫の診断基準
多発性骨髄腫の診断を行うために、以下の4つの検査が重要とされています。
- 血液検査
- 尿検査
- 骨髄検査
- X線・CT・MRI検査
ここではそれぞれの検査について詳しく解説をします。
血液検査
多発性骨髄腫の診断で重要な役割を果たしているのが、血液検査です。
特に、血液中の異常なタンパク質(Mタンパク質)の存在や量を調べることで、病気の有無や進行度を評価できます。
また、血液検査を通じて貧血・腎機能障害・カルシウム値の異常など、多発性骨髄腫に関連する他の症状や合併症の有無も確認することが可能です。
尿検査
尿検査では、尿中に排出される異常なタンパク質(ベンスジョーンズ蛋白)を検出します。この異常なタンパク質は、異常なプラズマ細胞によって生成されるもので、多発性骨髄腫の診断に役立ちます。
骨髄検査
骨髄検査も多発性骨髄腫の検査として重要な検査です。
多発性骨髄腫の患者では、通常、骨髄内のプラズマ細胞が異常に増加しています。そのため、骨髄内のプラズマ細胞の割合を調べることで、多発性骨髄腫の診断が可能となります。
X線・CT・MRI検査
X線・CT・MRI検査などの画像診断検査も重要な検査方法です。
多発性骨髄腫では、骨が弱くなり骨折しやすくなることがあります。そのため、画像診断検査によって骨に発生した損傷や異常を検出することで、多発性骨髄腫の診断が可能となります。
多発性骨髄腫の原因
多発性骨髄腫の正確な原因は未だ完全には解明されていません。しかし、以下の要因がリスクを高めると考えられています。
- 遺伝的要因
- 環境要因
- 年齢・性別
- 免疫系の異常
多発性骨髄腫の発症リスクを高める要因として考えられているものの1つが遺伝的な要因です。
一部の研究では、同じ家系で多発性骨髄腫が発症するケースが報告されており、遺伝的な素因が病気のリスクを高める可能性が示唆されています。また、環境要因も多発性骨髄腫の原因として重要です。
例えば、農薬や化学物質への長期間の曝露・放射線への曝露もリスクを増加させるとされています。年齢や性別もリスクを高める要因として重要です。多発性骨髄腫は主に高齢者に発症することが多く、60歳以上の方に最も一般的に見られます。
また、男性の方が女性よりも若干リスクが高いとされています。最後に、多発性骨髄腫は免疫系の細胞であるプラズマ細胞に関連しているため、免疫系の異常もリスクを高める要因です。
例えば、HIV/AIDSなどの免疫系を弱める疾患を持っている方は、多発性骨髄腫のリスクが高まる可能性があります。
これらの要因がどのようにして多発性骨髄腫を引き起こすかは完全には解明されているわけではありません。しかし、これらのリスク要因を把握することは、病気の早期発見や予防のためにも重要です。
多発性骨髄腫の症状
多発性骨髄腫の代表的な症状は貧血・出血傾向・免疫機能の低下が挙げられます。ここでは、これらの症状について詳しく解説をします。
貧血・出血傾向
多発性骨髄腫の症状の1つは貧血・出血傾向です。
プラズマ細胞が骨髄内で異常に増殖すると、正常な血液細胞の生成が妨げられます。これにより、赤血球の数が減少し、貧血が引き起こされる場合があります。
貧血の症状として代表的なものは、疲労感・息切れ・めまい・頭痛などです。これらの症状が現れた場合には注意が必要です。また、多発性骨髄腫によって血小板の減少も生じる場合があります。
血小板の減少によって、小さな傷からの出血が止まりにくくなったり、皮膚に青あざができやすくなったりすることがあります。
免疫機能の低下
免疫機能の低下は多発性骨髄腫の代表的な症状の1つです。
多発性骨髄腫の患者さんでは、異常なプラズマ細胞が大量の異常な抗体を生成することがあります。これにより、正常な抗体の生成が妨げられ、免疫機能が低下します。免疫機能が低下すると、感染症にかかりやすくなるのです。
特に、肺炎や尿路感染症などの感染症を発症する可能性が高まるとされています。また、免疫機能の低下は、多発性骨髄腫の重大な合併症の1つである腎機能障害の原因にもなるため注意が必要です。免疫機能が低下すると、体内での異常な抗体の蓄積を引き起こし、腎臓にダメージを与えることがあります。
これにより腎機能障害が引き起こされる危険性が高まります。
多発性骨髄腫の治療方法
多発性骨髄腫の治療方法として、薬物療法・放射線治療・支持療法が代表的です。ここでは、これらの多発性骨髄腫の代表的な治療方法とともに、合併症を発症した場合の治療方法についても解説します。
薬物療法
多発性骨髄腫の治療の主軸となるのが薬物療法です。
薬物療法を行う場合、ステロイド剤・化学療法薬・標的治療薬などを用いることが一般的です。これらの薬剤は、異常なプラズマ細胞を直接攻撃したり、がん細胞の成長を妨げたりする効果があります。
そのため、病状の進行を抑制し症状を軽減させる効果が期待されます。
放射線治療
放射線治療も多発性骨髄腫の治療方法として一般的です。
放射線治療は特定の部位に痛みや骨折のリスクがある場合に用いられることが多いです。放射線を用いて異常なプラズマ細胞を破壊し、症状の軽減を図ります。
支持療法
多発性骨髄腫によって引き起こされる症状や合併症の管理を目的とした治療が支持療法です。
例えば、貧血がある場合は赤血球の輸血が行われることがあります。また、骨の強化や骨折の予防のためにビスホスホネートという薬剤が用いられることがあります。
合併症に対する治療
多発性骨髄腫は、腎機能障害や感染症などの合併症を引き起こす場合があるため注意が必要です。
腎機能障害がある場合は、腎臓の機能を改善するための治療が行われます。感染症のリスクを減らすために、予防的な抗生物質の投与が行われることもあります。
「多発性骨髄腫の診断基準」についてよくある質問
ここまで多発性骨髄腫の症状・検査法・治療法などについて紹介しました。ここでは「多発性骨髄腫の判断基準」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
多発性骨髄腫は検査ですぐにわかりますか?
甲斐沼 孟(医師)
特に初期の段階では症状が軽微であることが多く、診断が難しい場合もあります。多発性骨髄腫の検査には、患者さんの症状・血液検査・尿検査・骨髄検査・画像診断など、複数の検査結果を総合して行われます。1つの検査だけで即座に診断がつくわけではありません。そのため、診断までには時間を要する場合があるでしょう。
多発性骨髄腫は完治が可能ですか?
甲斐沼 孟(医師)
多発性骨髄腫は現在のところ完治が難しい病気とされています。しかし、多くの患者さんが治療を続けることで、生活の質を維持しながら生活することが可能になっています。
編集部まとめ
多発性骨髄腫は、骨髄内の形質細胞が異常増殖することによって引き起こされる血液のがんです。
進行が遅い病気ですが、骨・腎臓・血液などに影響を及ぼし、さまざまな症状を引き起こす可能性があります。
代表的な症状としては、貧血・出血傾向・免疫機能の低下などがあげられます。これらの症状に心当たりがある場合には、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
多発性骨髄腫は完治が難しいとされています。しかし、治療によって症状のコントロールや生活の質の向上が期待できます。
定期的な検査と医師との連携により病状の管理が可能です。患者さん自身が病気について理解し、積極的に治療に参加することが重要です。
「多発性骨髄腫」と関連する病気
「多発性骨髄腫」と関連する病気は3個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- 単クローン性ガンマグロブリン症
- 骨髄異形成症候群
- 慢性リンパ性白血病
単クローン性ガンマグロブリン症は、骨髄内で特定の抗体が過剰に産生される状態で、多発性骨髄腫の前段階となることがあります。骨髄異形成症候群は、骨髄内での血液細胞の成熟がうまくいかない病気で、多発性骨髄腫と同様に高齢者に多く見られます。慢性リンパ性白血病は、リンパ球と呼ばれる白血球の一種が異常増殖する病気です。慢性リンパ性白血病は、免疫機能の低下を引き起こすことがあります。
「多発性骨髄腫」と関連する症状
「多発性骨髄腫」と関連している、似ている症状は3個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 骨痛
- 貧血
- 高カルシウム血症
骨痛は、多発性骨髄腫によって骨が弱くなることで引き起こされる痛みです。貧血は、骨髄腫の細胞が正常な血液細胞の生成を妨げることで起こります。高カルシウム血症は、骨からカルシウムが血液中に過剰に放出される状態で、吐き気・嘔吐・便秘などの症状を引き起こすことがあります。これらの症状は多発性骨髄腫の進行を示している可能性があるため、早めの医療相談が重要です。