「若年性認知症」の初期症状やなりやすい人の特徴はご存知ですか?医師が解説!
若年性認知症とは?Medical DOC監修医が若年性認知症の症状や特徴・初期症状・原因・なりやすい人の特徴・余命・生存率・セルフチェック法などを解説します。
監修医師:
村上 友太(東京予防クリニック)
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、抗加齢医学専門医。日本認知症学会、日本内科学会などの各会員。
目次 -INDEX-
「若年性認知症」とは?
若年性認知症とは65歳未満で発症する認知症のことです。認知症は高齢になるにつれて有病率が高くなる病気であり、厚生労働省の報告では、本邦における認知症高齢者の数は2014年時点で約462万人に対して、若年性認知症の数は2009年時点で約37800人と少なく、2000人に1人に満たない程度です。また、若年性認知症の中でも有病率は年齢が65歳に近づくほど高く、若年性認知症の85%は50歳以上が占めます。
若年性認知症は発症頻度の低い病気ですが、勤務をしている現役世代に発症するため、発症により失職してしまうなど生活に与える影響は大きく、本人や家族に精神的にも経済的にも大きな負担が生じる病気です。若年性認知症の中には生活習慣の改善などにより発症を予防したり、早期の治療により認知機能の悪化を抑えたり、認知機能を改善できたりするものもあるため、適切な知識を身につけて発症の予防や早期の発見に努めましょう。
若年性認知症の代表的な症状や特徴
若年性認知症は65歳未満に発症した認知症の総称であり、原因には血管性認知症やアルツハイマー病、前頭側頭型認知症、自己免疫性脳炎など様々なものがあります。疾患ごとに症状が異なるため概説は困難ですが、若年性認知症で比較的よくみられる症状をご紹介します。
物忘れ、新しいことを覚えられない
物忘れは若年性認知症の多くを占めるアルツハイマー病によくみられる症状です。認知症でない方でも、約束の日時や場所を忘れるなど物事の詳細を忘れてしまうことは度々あるかと思いますが、約束をしたこと自体を忘れる、貴重品を何度も紛失する、以前と比べて明らかに物覚えが悪くなった場合には若年性認知症の可能性があります。
スケジュールの記載が可能なメモやアプリを使用し、予定ができたらすぐに記載し、予定の有無にかかわらず確認することを習慣化することなどで、ある程度の対応が可能な場合もありますが、日常生活に支障があるような物忘れがある場合や急激に物忘れが悪化した場合には脳神経内科や脳神経外科、認知症外来を受診しましょう。
性格の変化、異常な行動
血管性認知症や前頭側頭型認知症、辺縁系脳炎などでは、性格が変わったり、理解困難なこだわりが出現したり、怒りっぽくなったりすることがあります。これまでできていたことができなくなった、周囲の話を聞かなくなった、道に迷うようになったなど、本人の様子が変わってきた場合には脳神経内科を受診しましょう。
このような症状では、本人は異常である自覚が乏しいことが多く、自身では症状の説明が困難です。また、医療機関への受診を拒否することも少なくありません。状況をよく知る家族が付き添って受診をするようにしましょう。
ぼんやりしている
アルコール認知症やWernicke脳症、肝性脳症などでは、ぼんやりとして反応が鈍くなったり、動作が遅くなったりなどの症状がみられることがあります。特に普段から飲酒量の多い方で、反応が鈍い、ぼんやりしていることが増えた場合には内科または脳神経内科を受診しましょう。
若年性認知症の前兆となる初期症状
前述したように原因となる疾患により認知症の症状も異なるため、共通する初期症状はありませんが、若年性認知症の初期には記憶障害や処理能力の低下を自覚することが多いです。多くの方がまだ就業しており、仕事の処理速度が遅くなる、会議などの予定を忘れてしまうなど、認知症により仕事に支障をきたすことが多く、高齢者と比較して能力の低下を自覚しやすいです。気になる症状がある場合には、脳神経内科や脳神経外科、認知症外来を受診しましょう。
処理能力が落ちた、仕事が遅くなった
以前と比較して明らかに処理能力が落ちたり、仕事が遅くなったりした場合には、若年性認知症の初期症状である可能性があります。特に高学歴な方など、基礎的な記憶力や処理能力が高い方の場合には、認知機能が軽度低下していても認知機能が低下しているように見えない場合があります。数か月または数年以内と比較的短い期間に仕事能率が明らかに落ちるなど処理能力の低下がある場合には若年性認知症の疑いがあります。
おかしな言動や行動がある
簡単な仕事や日常生活動作はできていても、複雑な仕事ができなくなる、普段では考えられないおかしな言動や行動がある場合には若年性認知症の可能性があります。自覚症状に乏しかったり、仕事を理由に受診を拒否されたりすることもありますが、一度受診して相談するようにしてください。
ミスが多い、同じことを何度も確認する
業務内容の変更や新しい機器の導入などの際に、同僚と比較して明らかに、新しい業務に対してミスが多い、業務を覚えられずに何度も確認する場合には若年性認知症の可能性があります。新しい仕事以外はこれまで通り行うことができることも多く、受診を先延ばしにしてしまうことも少なくありませんん。しかし、周囲と自分が違うと感じた場合には、早めに受診することをお勧めします。
若年性認知症の主な原因
若年性認知症の多くは50歳以上に発症し、血管性認知症とアルツハイマー病がその半数以上をしめます。その他には前頭側頭型認知症やレビー小体型認知症など、加齢とともに発症しやすくなる疾患が代表的ですが、45歳以下を対象とした研究では自己免疫性脳炎やミトコンドリア疾患が原因として多く、年齢により原因と考えられる病気が大きく異なるため、注意が必要です。
血管性認知症
血管性認知症は脳梗塞や脳出血など脳血管障害を原因として発症する認知症です。脳の障害される部位により、PCや携帯電話が使えなくなる、計算ができなくなる、理解力や処理能力が悪くなるなど様々な症状が出現します。記憶障害が主体となることは比較的少なく、仕事の能率が下がったり、これまでできていたことができなくなったりすることが多いです。突然発症することもあれば、慢性的な脳虚血や繰り返す小出血などにより緩徐に認知機能が低下することもあります。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は記憶力の低下を主体とする進行性の認知症です。加齢とともに発症しやすい病気であり、高齢者の認知症としても代表的な病気です。65歳未満で発症する場合には遺伝子異常を伴っていることも少なくなく、血縁者に若年性認知症の方が複数いる場合には特に注意が必要です。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は非常識な行動をしたり、特定の動作にこだわってしまったりと、異常な行動がみられる認知症です。この病気では記憶力は比較的保たれますが、特定のルートでの散歩にこだわったり、怒りっぽくなったり、お店の商品を窃盗する、公共の場で放尿するなどのその時の欲求に従った非常識な行動をしたりと問題行動がみられます。話しにくさで発症し、経時的に失語症状が進行する進行性失語症を呈するタイプもあります。
頭部外傷後の認知症
交通事故などで強い頭部打撲をしたことがある人、ボクシングやラグビーなどの接触スポーツで比較的強い頭部打撲を繰り返している人では、受傷後以降に認知機能が低下することがあります。頭蓋内出血などがない場合でも、頭部への衝撃により脳神経が障害され(軸索損傷)、認知機能が低下することがあります。
若年性認知症になりやすい人の特徴
頭部打撲を繰り返すような接触スポーツをしている人
ボクシングやラグビーなどの接触スポーツをしている人、脳震盪になるような強い頭部打撲の経験がある人は認知症になりやすい可能性があります。頭蓋内出血がなくとも、頭部への衝撃で脳神経が障害され、認知機能が低下することがあります。
接触スポーツを避け、自転車やバイクを使用する際にはヘルメットを着用する、交通法規を守るなど強い頭部打撲をしないような生活を心がけましょう。
暴飲・暴食・運動不足などの生活習慣の悪い人
高血圧や糖尿病、高コレステロール血症などの生活習慣病は脳血管障害のリスクであり、血管性認知症のリスクとなります。また魚類やナッツ類、野菜などを中心とした食事である地中海食やDASH食は若年性認知症のリスクを低下させたとの報告もあり、肥満は認知症の発症率を上昇させたとの報告もあります。健康的な食事、適度な運動は若年性認知症の発症予防にも重要です。
若年性認知症の家族歴のある人
アルツハイマー型認知症や前頭側頭型認知症などの変性疾患では原因となる遺伝子異常がいくつか知られており、遺伝子異常がある場合には40代や50代と若年で認知症を発症することが多いことが知られています。血縁の方で若年性認知症の方がいる場合、特に複数人いる場合には注意が必要です。
若年性認知症の余命・生存率
若年性認知症の原因となる多くの病気は、その病気の進行が直接的な死因とならないことが多く、余命や生存率は一概に示すことが困難です。若年性認知症では社会的な責任、経済的な問題など多くの問題に直面することも多く、精神的にも大きな負担となるため、うつ病などの精神疾患を併発することも少なくありません。血管性認知症では脳梗塞や脳出血の後遺症(嚥下障害など)が関与したり、心筋梗塞などを併発したりと生存率を低くするようなリスクがあります。若年性認知症では、原因となる疾患ごとでも余命や生存率は異なり、また関連しうる合併症もさまざまであるため、余命や生存率の評価は困難です。
余命の評価は困難ですが、若年性アルツハイマー病などの若年性の変性認知症では進行が比較的早いことが多く、日常生活に介助が必要となり、多くの方が1年以内に施設に入所します。
受診・予防の目安となる「若年性認知症」のセルフチェック法
・これまでできていた仕事ができなくなった場合
・おかしな言動や行動がみられるようになった場合
・重要な予定を忘れてしまうなど、物忘れがひどくなった場合
「若年性認知症」についてよくある質問
ここまで若年性認知症について紹介しました。ここでは「若年性認知症」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
ストレスが原因で若年性認知症を発症することはありますか?
村上 友太(むらかみ ゆうた)医師
精神的なストレスや精神疾患と若年性認知症との関連に関しては報告がまちまちであり、現時点ではストレスが若年性認知症の原因となるとは言えません。一方でうつ病などの発症により認知症のような症状が出現することはあります。
編集部まとめ
若年性認知症は現役世代に発症し、身体的、精神的、経済的に大きな負担のかかる病気です。原因となる病気は様々ですが、自己免疫性脳炎やビタミン欠乏による脳症(Wernicke脳症)など、早期の診断・治療により認知機能の進行を抑える、認知機能を改善できる病気もあるため、認知機能の悪化がみられた場合には早期に脳神経内科に受診することが重要です。また、健康的な食事や適度な運動などの健康的な生活習慣は若年性認知症の発症を予防したり、遅らせたりすることが期待できるので、健康的な生活習慣の維持に努めることも重要です。
「若年性認知症」と関連する病気
「若年性認知症」と関連する病気は10個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
脳神経科の病気
- アルツハイマー型認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
- 血管性認知症/ビンスワンガー型白質脳症
- 自己免疫性脳炎
- Wernicke脳症
- アルコール性認知症
- ミトコンドリア脳筋症
- アミロイドアンギオパチー
- CADASIL/CARASIL
若年性認知症の多くは50歳以上に発症し、ほとんどは血管性認知症とアルツハイマー病です。一方で45歳以下の場合は自己免疫性脳炎やミトコンドリア疾患が多いと言われ、年齢によって原因疾患が異なるという特徴があります。
「若年性認知症」と関連する症状
「若年性認知症」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 処理能力の低下
- 計算ができなくなった
- 記憶力が低下した
- おかしな言動・行動が増えた
- 怒りっぽくなった
これらのような症状が気になる場合は、早めに医療機関へ受診することをお勧めいたします。