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「急性硬膜下血腫」の症状・原因・後遺症はご存知ですか?医師が徹底解説!

 公開日:2024/10/09
「急性硬膜下血腫」の症状・原因・後遺症はご存知ですか?医師が徹底解説!

急性硬膜下血腫とは?Medical DOC監修医が急性硬膜下血腫の症状・原因・後遺症・入院期間・余命・生存率・治療法なども解説します。

佐々木 弘光

監修医師
佐々木 弘光(医師)

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香川大学医学部卒業。現在、奈良県立医科大学脳神経外科に所属し、臨床と研究業務に従事している。脳神経外科学会専門医、日本脳神経血管内治療学会専門医、脳卒中学会専門医、の資格を有する。

「急性硬膜下血腫」とは?

急性硬膜下血腫とは、転落や転倒、時に交通事故などの外的な影響によって頭部へ強い衝撃が加わったために、脳を守る一番外側の膜である「硬膜」の下に出血が生じておきる病気です。ここでは急性硬膜下血腫の症状や原因、治療などについて解説していきます。

急性硬膜下血腫の代表的な症状

急性硬膜下血腫は、硬膜と呼ばれる膜の下と脳の表面との間にある血管が切れて出血することで生じます。主な症状は、出血による脳や硬膜への圧迫や圧力の高まりによって生じる「頭痛」や「嘔吐・吐き気」、「運動麻痺」などが挙げられます。さらに出血量がとても多い場合は、脳に急激かつ強い圧迫が加わり、「脳ヘルニア」と呼ばれる脳の変形を生じてしまいます。この「脳ヘルニア」になると、重篤な意識障害をきたし、命に関わるような非常に危険な状態に陥ります。
また主な原因は頭部への打撃によるもので、その場合は急性硬膜下血腫のみでなく、頭蓋骨の「骨折」を合併していたり、脳自体が直接損傷して出血する「脳挫傷」やくも膜と呼ばれる膜に存在する血管が切れて出血する「外傷性くも膜下出血」といった脳への損傷を合併していたりする場合もあります。そういった合併症がある場合には症状がより複雑化し、重篤な状態に陥る危険性も高まります。とにかく頭に外傷を受けた後に普段と様子がおかしい、ボーっとして朦朧状態である、といったことが見られる場合はより危険なサインです。直ちに脳神経外科や救急科への救急搬送が必要となります。また脳への打撃が高度であった場合は痙攣発作を生じる場合もあり、痙攣によって呼吸停止に陥る危険性もあります。従って重度の昏睡状態や痙攣などを起こしている場合は、急変して死亡する危険性が高いため、緊急の気道確保を行い人工呼吸器による呼吸の補助や痙攣を抑える薬剤の投与を行う場合もあります。

急性硬膜下血腫の主な原因

前述のように主な原因は頭部への外傷ですが、若年者と高齢者で外傷になる原因が異なります。まず高齢者では転んで頭を打つ、すなわち転倒による頭部外傷が多いことが特徴です。さらに高齢者の特徴として、遅れて悪化する危険性があることが挙げられます。つまり「怪我をした直後は会話可能で普段通りだったのに、数時間経過してから急激に状態が悪くなった」ということがあります。これは若年者と比較して、高齢者では脳内の出血が充満するスペースが相対的に広くなっており、脳を圧迫しうる出血になるのに時間がかかるためです。従って特に60歳以上の方で、打撲直後は何も症状がなかったという場合でも、打撲の仕方によっては念のため脳神経外科や救急科への受診を検討しても良いかもしれません。頭部CTなどの検査で微細な脳内の出血が発見される場合もあります。
一方で若年者では頭部に強い衝撃が加わる可能性のあるスポーツ、例えば柔道やボクシングといった格闘技や、ラグビーなどのコンタクトスポーツで、うまく受け身がとれなかった、まともに頭部に打撃をくらったということが原因になる場合もあります。従って、特に頭部外傷後にめまいや嘔吐、失神、記憶障害といった症状を認める場合は、早めに医療機関を受診した方が良いでしょう。また交通事故や高所転落などのより強いエネルギーを受けてしまうような外傷では、当然、急性硬膜下血腫やその他の合併症の発生リスクも高くなってしまいます。
また外傷以外では、特に高齢者などで抗血栓薬と呼ばれる血が止まりにくくなる薬を内服されている場合や、内科疾患(例えば肝硬変など)によって止血機能と呼ばれる身体の血を止める血液の力が弱まっている場合などには、ごく稀に誘因なく出血することもあります。

急性硬膜下血腫の後遺症

重症の急性硬膜下血腫では脳への圧迫が強く、脳ヘルニアに陥ってしまって脳全体の血流に影響を与える場合もあります。特にすでに重度の意識障害をきたしている状態では、素早く手術や点滴などによる治療が行われたとしても、意識が戻らずに寝たきりになる危険性が高くなります。また脳への圧迫のみならず、脳挫傷などの脳の細胞自体が壊れてしまうような外傷を併発している場合も、仮にCTで出血が完全消失した後も損傷部位に応じた手足の麻痺や感覚障害、視野障害、呂律困難、嚥下障害といった症状が後遺症となる可能性があります。またわかりにくい後遺症として、前頭葉や側頭葉などの理性や記憶、脳の機能の統合に関わる場所が損傷した場合、粗暴になるなどの性格変化や高次脳機能障害と呼ばれる認知や空間認識に関わる脳の複雑な処理ができなくなる障害が見られる場合もあります。そして後遺症の重症度に応じて入院期間やリハビリ期間も長期化していきます。最終的にリハビリによって社会生活にほぼ問題のない程度まで回復する場合もあれば、意識不明の状態のまま寝たきりになってしまう場合まで様々です。
また脳に損傷を負ってしまったことがきっかけで痙攣の発作が何度も起こり長期化する、もしくは外傷から少し経ってから痙攣が頻発するようになると、外傷性てんかんと呼ばれる後遺症になっている可能性があります。治療はてんかん発作を抑える薬剤を内服し、過度のストレスを避けることが重要になります。またてんかん発作の再発リスクがある状態での自動車運転は禁止されており、運転の再開可能な時期は主治医と相談しながら考える必要があります。
その他、後遺症とは少し違いますが、高齢者の場合、頭部外傷から数か月程度経過して、ゆっくりと出血が増えてくる、「慢性硬膜下血腫」という病気を生じる可能性もあります。この場合は遅れて歩きにくさや手足の麻痺、認知症のようなもの忘れ、トイレに間に合わないといった症状が出現してきます。脳神経外科や救急科を受診して、頭部CTなどで診断します。診断されれば頭蓋骨に穴をあけて、チューブを挿入して血腫を排出する手術を行います。

急性硬膜下血腫の治療法・入院期間

軽度の場合

軽度の急性硬膜下血腫とは、もともとの出血量が少なく、入院後の繰り返しのCTでも出血の量が増えてこなかった場合です。安静にし、出血を抑えるような点滴などをして、1週間程度の入院で退院することが可能です。もちろん脳挫傷などが併発していたり、少しでも後遺症が残ったりしそうな場合は入院期間とリハビリを長めにとることもあります。また若年者でスポーツに関連して急性硬膜下血腫を発症した場合、例え軽症であっても、もう一度頭部への打撃が生じてしまうと急激に状態が悪化する危険性があるため、競技への復帰が困難になる可能性があります。

重症の場合

重症の急性硬膜下血腫は、痙攣や重度の昏睡状態に陥っている場合、経時的に出血が拡大し、脳への圧迫が高度となり脳ヘルニアに至る危険性がある場合、重度の脳挫傷や外傷性くも膜下出血の合併がある場合などです。これらの場合は緊急手術を行う可能性が高いです。具体的には開頭血腫除去術といって、出血がたまっている側の頭蓋骨を医療用のドリルを用いて外し、硬膜の下の出血や合併している脳挫傷による脳の中の出血を除去し、止血を行います。さらに出血によって圧迫された脳が腫れてくる場合もあります。この場合は腫れてきた脳が正常な部分の脳を圧迫して脳ヘルニアになる危険性があるため、外減圧術という脳が腫れている側の骨を大きく外して、脳が腫れている圧力を外側に逃がす手術を行う場合もあります。また集中治療室に入院し、全身麻酔をかけて人工呼吸器による呼吸補助をはじめとした全身管理を行い、脳の圧力を監視してコントロールするような集中的な治療を行う場合もあります。

リハビリによる治療

リハビリは「リハビリテーション科」という診療科が主に担当し、医師や看護師のほかに理学療法士、作業療法士、言語療法士と呼ばれるリハビリに特化した役職の人も所属しています。そして救急科や脳神経外科と協力して入院治療を進めます。患者さんの状態が落ち着けば、本格的なリハビリが始まります。またリハビリ治療に特化した「回復期リハビリ病院(病棟)」というものがあり、後遺症が中等度から重度の場合はそのような機能のある病院(病棟)に移動(転院・転棟)して、さらに集中的なリハビリを行います。後遺症の程度によりますが、リハビリ期間については数か月から半年程度までおよぶ可能性もあり、その後も長期の福祉・介護施設やサービスの利用が必要となる場合もあります。
例えば運動麻痺を残した場合、歩行訓練や手先を使った作業訓練を行ったり、歩行を補助する装具や杖などを使用したりすることもあります。嚥下障害がある場合は、食べ物が肺や気管に入って窒息や誤嚥性肺炎と呼ばれる肺炎を引き起こす恐れがあるので、食事を柔らかくするなど、飲み込みの訓練を行います。家族は自宅や職場の階段や段差など歩行に障害となる環境がないか、またトイレやお風呂の環境なども確認しておきましょう。また後遺症の程度によっては障害者認定や介護認定の申請も重要です。認定が下りれば、利用できるサービスが広がります。
また記憶障害や空間認識力、認知機能、言語能力など、高次脳機能障害と呼ばれる機能に関連する後遺症が残った場合は、見た目ではわかりづらく、またそれぞれの症状にあったリハビリが必要となります。例えば記憶障害がある場合、メモや手帳などを利用したり、家族や職場の人が繰り返し教えてあげたり、といったことです。また空間認識や注意力が低下している場合は、認識しやすい位置に物を置いたり、作業を1つにして簡略化したり、といったことも大切です。いずれにせよ作業療法や言語療法というリハビリを通じて、自宅や施設でより良く生活するための手段を考える必要があります。

急性硬膜下血腫の寿命・生存率

前述のように、急性硬膜下血腫は若年者ではスポーツによる発症がありますが、60歳以上の高齢者による転倒・転落などの発症が近年、問題となっています。そして本邦の外傷ガイドラインによる統計では、発症時の意識混濁状態がより高度である場合や年齢が75歳以上である場合は、より生命予後や機能予後が悪くなる、すなわちより死亡しやすく、より後遺症が残る確率が高くなる、とされています。また60歳以上は、頭部外傷から数時間程度が経過し、遅れて悪化する場合が多いことも問題です。そして発見が遅れ、意識不明の状態になってしまった場合は、生存率や後遺症の発生率により悪い影響を与えてしまいます。従って、特に60歳以上の方では念のため脳神経外科や救急科へ受診することをお勧めします。

「急性硬膜下血腫」についてよくある質問

ここまで急性硬膜下血腫を紹介しました。ここでは「急性硬膜下血腫」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

急性硬膜下血腫の好発年齢を教えてください。

佐々木 弘光医師佐々木 弘光医師

以前までの交通事故などによる発生と比較して、近年では60歳以上の高齢者による転倒・転落などの発症が増加し、問題となっています。また若年者でも、頭部に強い衝撃が加わる可能性のあるスポーツによって生じる場合があります。さらにそもそも全年齢的には、交通事故や高所転落などのより強い頭部への外傷によって生じる場合もあります。

急性硬膜下血腫を発症してから、どれくらいで症状が現れますか?

佐々木 弘光医師佐々木 弘光医師

重症なものは直後から麻痺や意識障害などの症状が出現しますが、高齢者では受傷から数時間程度の時間差で、遅れて症状が出現する場合がありますので注意が必要です。いずれにせよ老若男女を問わず、何らかの形で頭部外傷を負った場合は1-2日程度の注意を要します。そして麻痺や嘔吐、意識障害など何らかの異常を認める場合は速やかな受診が必要です。

編集部まとめ

ここまで急性硬膜下血腫について解説してきました。これは転落や転倒、スポーツや時に交通事故などの外的な影響によって頭部へ強い衝撃が加わり生じる病気です。若年者のスポーツや事故による影響には当然注意が必要ですが、一方で高齢者の転落や転倒も大きな原因となっているため注意が必要です。頭を打ってしまってから少しでも不安に思う場合は、速やかな医療機関への受診をお勧めします。

「急性硬膜下血腫」と関連する病気

「急性硬膜下血腫」と関連する病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

脳神経科の病気

頭のけがによって強くダメージを受けると、上記のような疾患が考えられます。緊急性の高い病気が多いため注意が必要です。

「急性硬膜下血腫」と関連する症状

「急性硬膜下血腫」と関連している、似ている症状は9個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • 健忘
  • 失神
  • 意識障害
  • 手足の麻痺
  • 痙攣、てんかん
  • 高次脳機能障害
  • 頭痛
  • 嘔吐、吐き気

頭を強く打った後に上記のような症状を認める場合は速やかに医療機関を受診するようにしましょう。

参考文献

  • 頭部外傷治療・管理のガイドライン第4版(日本脳神経外科学会・日本脳神経外傷学会)

この記事の監修医師