「認知症の症状」はご存知ですか?初期症状・中期症状・末期症状も医師が解説!
認知症の症状とは?Medical DOC監修医が認知症の症状・予防法や何科へ受診すべきかなどを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。
監修医師:
中川 龍太郎(医療法人資生会 医員)
目次 -INDEX-
「認知症」とは?
認知症とは、脳疾患によって記憶や思考、見当識(現在の年月や時刻、自分がどこに居るかなど基本的な状況を把握すること)、理解、計算、学習、言語、判断などの能力:認知機能が損なわれる症候群のことを指します。さらにこれらの中核症状に加えて、周辺症状と呼ばれる「行動や心理的な症状」も見られます。具体的にどのような症状が出現するのか、これから解説いたします。
認知症の前兆となる初期段階の症状
記憶力・記銘力の低下
認知症の初期段階としては、認知症と診断される前の状態と、軽度認知症の状態が考えられます。このような場合に最も見られるのは記憶力・記銘力(新しいことを記憶する力)の低下です。簡単に言えば「もの忘れ」なのですが、その程度はさまざまです。物を置き忘れる、といったちょっとしたことから、最近聞いた話を繰り返すことができず覚えられなかったり、いつも同じ話を繰り返すといった症状が見られるようになります。そのため職場では複雑なことが覚えられず仕事ができなくなったり、新しい場所へ旅行することが困難になったりします。
自身やご家庭でできる対策はないので、このような兆候が見られたら医療機関を受診しましょう。専門家は精神科や心療内科、脳神経内科です。緊急性はありませんので日中に受診してください。
見当識障害
認知症の初期段階としては、見当識障害も見られることがあります。見当識とは、現在の年月や時刻、自分が今どこに居るかを把握することです。正常であれば、皆さん今の日付や現在地は基本的に答えられますが、これが困難になるのが見当識障害です。
時間の把握ができないため、約束の時間に合わせて行動することができなくなります。準備をする、長時間待つなどができなくなります。さらには日付や季節感覚も失われるため、自分の年齢が分からない、夏に冬の格好をするといったことが見られます。
他には場所の感覚が失われるために住み慣れた近所でも迷子になったり、距離感も無いため遠方まで歩いて行こうとしたりします。
もしこれらの症状がここ数日で急激に起こり、1日の中で症状の変動もある場合は、せん妄などの意識障害の可能性が考えられます。その際は早めに医療機関を受診しましょう。何か別の要因があって二次的に認知機能が低下していることがあり、その場合は原疾患を治療すれば認知機能も回復する可能性があります。
受診すべき診療科は脳神経内科、一般内科、精神科です。救急要請するほどではありませんが、できるだけ早い日程で受診してください。
取り繕い
認知症の初期段階には、取り繕い症状もよく知られています。特にアルツハイマー型認知症でよくみられる症状です。取り繕いとは、自分がうまくコミュニケーションが取れない際に、そのことを悟られないようにする行動のことを指します。
例えば、「年齢はいくつですか?」と質問されて答えられず、適当に笑ったり別の話をしてごまかしたり、周囲の人に回答を求めるような行動です。
これは早期発見の鍵となる症状であり、周囲の方が初期症状であると気づく必要があります。ご家庭ですぐにできる対応としては、気づいた時からできるだけ密にコミュニケーションを取ることです。と言うのも認知症診療は病院受診をしないと始まりませんが、取り繕っている患者さんの場合、どうしても拒否、抵抗される方が多いです。日頃からコミュニケーションをとってお互いに本音で話せるような関係性を築いておく必要があります。
病院受診の際は、精神科や心療内科、脳神経内科を受診してください。緊急性はありませんので日中に受診してください。
認知症の中期段階の症状
これから解説する中期、末期と考えられる認知症症状に対して、症状が認められたら早めの日程で病院受診してください。専門科は精神科や心療内科、脳神経内科です。緊急性はありませんので日中に受診してください。
失行
認知症中期(中等度認知機能障害)では失行が見られることがあります。失行とは、本来の運動機能レベルでは行えるはず(筋力低下や麻痺、関節の障害などがない状態)なのに、脳の障害により上手くできなくなった状態です。さまざまな種類の失行がありますが、代表的なものは着衣失行、観念失行があります。
着衣失行とはその名の通り、服を正しく着ることができなくなります。ズボンを頭から被ったり、裏表を逆にしたり、ボタンをとめられなかったり、といったものです。
また、観念執行とは少し複合的な動作ができなくなる状態のことを指します。具体的には、お風呂に入る時に、服は脱げるものの入浴方法がわからないというものです。
症状を根本的に解決する内科的な方法はありません。対応としては、できなくなった動作をリハビリテーションで反復して訓練する方法と、できなくなった行動を代償する方法(服が着れなくなったなら、服を着る順番を図で示す、服の袖や裾に番号をつけてわかりやすくするなど)があります。
視空間失認
認知症中期の症状としては視空間失認も考えられます。物体の形、空間的配置の認知力が低下してしまう状態です。具体的には、機械のスイッチ(リモコンや携帯電話)などの操作できなくなったり、時計の絵が描けない、など生活に明らかに支障が生じる状態です。
他には視覚で見えているはずのものを正しく認識できない、とも表現できます。例えば、じっとお茶を見ているにも関わらず「そのお茶を取って」と言われても、お茶と認識できない、というような状態です。こちらも根本的な内科的な解決策はなく、リハビリテーションを行うしかない状態です。
錐体外路障害
認知症中期の症状として、錐体外路障害も考えられます。錐体外路症状とは、筋肉の強剛、動作が緩やかになる、前傾姿勢になってしまう、足がスムーズに出ず小刻み歩行になってしまう、顔の筋肉が動きづらく表情が乏しくなる、というような症状のことを指します。特にアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症で見られます。これらの症状に対しても根本的な治療法はなく、むしろ抗認知症薬として広く使用されるアリセプトという薬剤はこの錐体外路障害を悪化させる可能性があります。
内服薬の調整の影響でこの症状が出ている可能性はありますので、主治医と相談することが重要です。
認知症の末期段階の症状
人格変化
認知症の末期(高度認知機能障害)において、人格変化が顕著に見られることがあります。人格変化とは、その人の本来の性格や行動パターンが変わってしまうことを指します。例えば、元々穏やかだった方が攻撃的になったり、逆に活発だった方が無関心や無表情になることがあります。
このような人格変化は、脳細胞の障害によって感情や行動の制御が難しくなるために起こります。特に前頭葉や側頭葉の損傷が進行すると、社会的な振る舞いや感情のコントロールが難しくなります。
また、認知症の進行により初期の症状で紹介した記憶力・記名力もさらに低下しており、過去の出来事や人々を認識できなくないため、家族や親しい人々に対しても従来と異なる反応を示すことがあります。
根本的に治療する方法は現在のところありません。対応としては、変化した性格や行動に対して家族やケアスタッフが適切に対応することが求められます。具体的には、攻撃的な行動を示す場合は、その原因を探るとともに、環境を整えて刺激を減らす、またはリラックスできる環境を提供するなどの方法が考えられます。
治療は、抗精神病薬や抗うつ薬を用いた薬物療法で、過剰な攻撃性を抑える、といった方法もあります。
言語機能の低下
認知症の末期(高度認知機能障害)では、言語機能の低下も代表的な症状です。言語機能の低下とは、言葉を理解する能力や、自ら言葉を発する能力が著しく損なわれる状態を指します。
理解の低下とは、 話しかけられても内容を理解できない、簡単な指示や質問にも反応しないなどの症状です。日常の会話が難しくなり、基本的なコミュニケーションも困難になることが多いです。
また発話の困難さ、つまり単語を思い出せない、言葉がまとまらない、無関係な言葉を連ねるなど、話すこと自体が難しくなります。また、完全に言葉を発することができなくなる場合もあります。
言語機能の低下は、脳のブローカ領域やウェルニッケ領域など、言語に関連する部位の損傷や変性によって引き起こされます。
言語機能の低下を根本的に治療する方法は現在のところありません。対応としては、非言語的なコミュニケーション方法(身振り、手振り、絵や写真を使うなど)を取り入れることで、患者とのコミュニケーションを維持しようとする努力が必要です。また、ケアスタッフや家族が患者の言葉を優しく、根気よく聞き取ることも大切です。
寝たきり、昏睡
認知症の末期では、身体機能もかなり低下して、寝たきりや昏睡状態になることがあります。これらの状態は、認知症の進行だけでなく、他の身体的な合併症や老化による影響も関与しています。寝たきりとは、日常生活の大部分をベッドや椅子で過ごす状態を指します。立ち上がる、歩く、座るといった基本的な動作ができず、自分の身体を動かすことができなくなります。筋力の低下、関節の硬直、平衡感覚の喪失などが原因として挙げられます。寝たきりの状態が長く続くと、筋肉の萎縮や褥瘡(じょくそう;いわゆる床ずれ)の発生リスクが高まります。また、昏睡状態とは、外部の刺激に対してほとんどまたは全く反応しない深い無意識の状態を指します。目を開けることができず、声をかけても反応が得られないことが多いです。
もちろん突然このような状態になれば早急に医療機関で精査が必要です。一方で長年の経過でこのような状態に至った場合は、根本的な解決は難しいでしょう。寝たきりの予防や改善のためには、定期的な体位変換や筋肉のマッサージ、適度な運動やリハビリテーションが有効です。昏睡状態になった場合は、適切な医療ケアや看護が必要となります。訪問診療・看護、介護など医療体制の充実が必要になります。
すぐに病院へ行くべき「認知症の症状」
ここまでは認知症の症状を紹介してきました。
以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。
認知機能低下に麻痺や筋力低下が伴う場合は、脳神経外科へ
これまで紹介したような認知機能低下の症状が2ヶ月程度で進行し、かつ麻痺や筋力低下、歩行障害などを伴うようになった場合を指します。この場合、慢性硬膜下血腫の可能性が考えられます。慢性硬膜下血腫とは、主に頭部をぶつけたことをきっかけに、脳から小さな出血がじわじわと続き、やがて脳を圧迫して認知症のような症状を起こす疾患です。高齢者に多く見られますが、これは高齢になるにつれて止血能力が落ちてしまい、些細な出血も止められなくなるためと考えられています。また内服薬で抗血栓薬という血をサラサラにする薬を飲んでいることも要因になります。
治療は手術によって血腫を除去する穿頭血腫除去術です。専門科は脳神経外科です。緊急性はありませんができるだけ早い治療が望まれますので早めに受診してください。
受診・予防の目安となる「認知症の症状」のセルフチェック法
- ・物忘れがある場合
- ・見当識障害がある場合
- ・取り繕い症状がある場合
認知症を予防する方法
積極的な運動
認知症を予防する方法として、多くの研究で報告・推奨されているのが定期的かつ積極的な運動習慣です。定期的な身体活動は認知症やアルツハイマー型認知症の発症を抑制すると報告されています。研究にもよりますが、積極的な運動習慣は、それがない人に比べて認知症のリスクが0.62倍に低下するとされています。
余暇活動
他の予防法として余暇活動、つまり趣味を見つけてそれに時間を使う、というものがあります。余暇活動の定義としては、知的要素(ゲーム、囲碁、麻雀、映画・演劇鑑賞など)、身体的要素(スポーツなど)、社会的要素(友人と会う、ボランティア、旅行など)が含まれます。これらの活動を通して、常に社会と関わりを持ちながら新しい刺激を受けることが、認知症やアルツハイマー型認知症の発症抑制効果につながるという報告が多いです。
動脈硬化対策
認知症にはアルツハイマー型認知症の他に、血管性認知症というものがあります。これは症状が出ない程度の小さな脳梗塞を繰り返すことによって、どこかで一気に認知機能低下が起こる病気です。この型の認知症を予防するには、大元の動脈硬化にアプローチする必要があります。高血圧や脂質異常症、糖尿病といった疾患を指摘されたことがある方は、放置せずに医師の診察のもと適切な治療を受けてください。
アルコールを控える
アルコール摂取は適量であれば認知機能低下の予防になるというのが通説でしたが、2017年の研究では、アルコールが適正量の摂取であったとしても、飲んでいない人に比べて認知症罹患リスクが上昇していることが分かりました。認知症予防を考えるのであれば、アルコール摂取は控える必要があります。
「認知症の症状」についてよくある質問
ここまで認知症の症状・予防法などを紹介しました。ここでは「認知症の症状」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
認知症の症状にはどんな問題行動がありますか?
中川 龍太郎(医師)
暴言、徘徊、介護抵抗などがあります。
認知症を疑う症状が現れた場合、周囲の人はどのように看護すれば良いでしょうか?
中川 龍太郎(医師)
安全な生活環境を整えることが重要です。例えば、滑りやすい場所には滑り止めを敷く、鋭利なものや危険な薬品は手の届かない場所に保管するなどの対策を取ります。また、簡単な日常のルーチンを維持することで、患者の不安を軽減することができます。
編集部まとめ
認知症の症状は一般的に不可逆性(一度なったり進行したら元に戻らないということ)で、本人にもコントロールできません。周囲の方々がまず受容した上で、安全な生活環境確保を考えていく必要があるかと思います。
「認知症の症状」と関連する病気
「認知症の症状」と関連する病気は4個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
精神科の病気
- アルツハイマー型認知症
- レビー小体型認知症
- 血管性認知症
脳神経科の病気
- 慢性硬膜下血腫
認知症や認知機能低下と関連する病気はこれらのものがあり、他にも紹介できていない疾患もあります。まずは認知機能低下の原因を探ることが重要ですので、予兆に気づいた場合は早めに医療機関を受診しましょう。
「認知症の症状」と関連する症状
「認知症の症状」と関連している、似ている症状は4個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
これまで紹介した症状以外に、これらの症状の場合も、認知症の可能性はあります。複数認める場合は一度医療機関を受診しましょう。