「赤血球の寿命」が短くなる原因はご存じですか?発症しやすい病気も医師が徹底解説!
公開日:2025/08/13

赤血球の寿命はどれくらい?Medical DOC監修医が赤血球の寿命が短くなる原因や症状・短くなると発症しやすい病気・疾患・予防法などを解説します。

監修医師:
今村 英利(タイムルクリニック)
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2009年新疆医科大学を卒業し、中国医師免許を取得。2019年に日本医師免許を取得。神戸大学大学院(腫瘍・血液内科学講座)にて血液悪性腫瘍の研究に従事。2019年に日本医師免許と医学博士号を取得。赤穂市民病院、亀田総合病院、新宿アイランド内科クリニック院長、在宅医療(訪問診療)などを歴任後、2024年9月タイムルクリニックに院長として着任。現在は、内科・皮膚科全般の疾患を幅広く診療している。
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赤血球とは?
赤血球は、身体の中で酸素を運ぶ役割をしています。赤血球は、鉄と結合したヘモグロビンを蓄えています。この鉄が酸素と結びつくため、赤血球は身体のすみずみまで酸素を運搬することができます。赤血球は、白血球や血小板と同様に、生きていくうえでとても大切な細胞です。しかし、何らかの原因で、正常より寿命が短くなってしまうこともあります。 今回の記事では、赤血球の寿命や役割、赤血球が減ってしまう理由などについて解説します。赤血球の寿命はどれくらい?
成熟した赤血球の寿命は120日です。赤血球は、鉄、ビタミンB12、葉酸などの栄養素によって骨髄の中で造血幹細胞から作られます。造血幹細胞は、血液細胞の元となる細胞です。赤血球への分化と増殖は、主に腎臓で産生されるエリスロポエチンなどのホルモンや、GATA−1、HIF-1などの転写因子が調整しています。造血幹細胞は赤芽球、網状赤血球と成長していき、その後骨髄の中から血液中へと出ていきます。網状赤血球は成長し、ヘモグロビンを十分に蓄え、最終的に赤血球になります。それまでに核やミトコンドリアなどを失い、酸素の運搬に特化した細胞になります。そして、成熟した赤血球は血液の中で寿命が尽きるまで酸素を身体の隅々に運ぶ役割を果たします。寿命を迎えた赤血球はどうなる?
血液の中で酸素の運搬を続けた赤血球は、次第に老化していきます。すると、脾臓や肝臓や骨髄のマクロファージという細胞に貪食され、破壊されます。破壊された赤血球から出たヘモグロビンは、ヘムオキシゲナーゼによってビリベルジン・鉄・一酸化炭素にさらに分解され、再利用されます。赤血球の寿命が短くなる原因
正常では120日ほど寿命がある赤血球ですが、以下のような場合には、赤血球の寿命が短くなります。溶血性貧血
溶血性貧血は、さまざまな原因によって赤血球が破壊されてしまう病気のことです。結果として、赤血球の寿命は短くなり、100日以下になってしまいます。溶血性貧血の原因の中では自己免疫の異常によるものが最も多く、その他には遺伝性のものなどがあります。溶血性貧血では、白目や皮膚が黄色くなる黄疸がみられます。また、脾臓が大きくなる脾腫が見られる場合もあります。 健康診断などで貧血や黄疸を指摘された際には、早めに血液内科を受診するようにすると良いでしょう。巨赤芽球性貧血
巨赤芽球(きょせきがきゅう)性貧血は、血液の中に異常な赤血球(巨赤芽球)が現れる貧血のことです。原因としてはビタミンB12または葉酸欠乏によるものが代表的です。DNA合成障害によって正常な造血ができず、多くは骨髄の中の赤芽球の段階で崩壊してしまいます。これは白血球や血小板などが作られる際にも当てはまるので、全ての血液細胞が減ってしまいます。赤血球に関しては、正常な赤血球が作られにくくなり、寿命も短くなります。慢性腎臓病
慢性腎臓病(CKD)患者さんでは、特に透析を行っている場合には、赤血球の寿命が短くなることが報告されています。原因はまだ詳細不明な点もあります。しかし、何らかの因子による(例えば慢性炎症に伴うTNF-αやIL-6など炎症性サイトカインの影響)、赤血球の膜の生成障害や、形状異常、機能低下、代謝の障害などが考えられています。脾臓の機能亢進
肝臓の機能が低下し、肝硬変という状態になると、脾臓が大きく腫れてきます。脾臓は、もともと血液中で古くなった赤血球や血小板を取り込み、破壊し、再利用に繋げるという役割があります。しかし、脾臓が大きくなり機能が亢進すると、赤血球の破壊も正常よりも早くなり、結果として赤血球の寿命は短くなってしまいます。 肝硬変ならびに脾臓の機能亢進による問題が生じている場合には、消化器内科が対応することが多いでしょう。慢性感染・慢性炎症
身体の中で炎症が長く続くような病気の場合にも、赤血球の破壊が進み、寿命が短くなる可能性があります。例えば、感染したウイルスや細菌による直接的な赤血球の破壊や、免疫反応によって溶血が起こるなどのメカニズムが考えられています。 また、関節リウマチなどの慢性炎症性疾患によって、赤血球の寿命が短くなることも報告されています。赤血球の寿命が短くなるとどんな症状が現れる?
赤血球の寿命が短いと、どのような症状が現れるのかについて解説していきます。貧血によって起こる症状や、赤血球の寿命が短くなる原因となっている病気そのものによる症状が現れる場合があります。めまいやふらつき、疲れやすさ
身体に酸素がうまく運ばれないことによる一般的な症状としては、めまいやふらつき、疲労感などがあります。健康診断などで貧血を指摘され、こうした症状がある場合には、内科や血液内科を受診しましょう。白目や皮膚が黄色くなる
溶血性貧血の場合、黄疸が認められます。黄疸は、ビリルビンという色素が血液の中で異常に高くなってしまうことが原因で、白目や身体の皮膚が黄色くなる症状が現れます。黄疸の原因として、肝機能障害や胆嚢結石なども挙げられます。 貧血と黄疸がある場合には、血液内科や消化器内科などの受診がすすめられます。お腹の不快感
巨赤芽球性貧血の中には、胃の粘膜萎縮と胃から分泌される内因子の欠如・低下によってビタミンB12の吸収が妨げられる悪性貧血があります。この悪性貧血の場合、胃炎の様な症状がみられることがあります。その一つとしては、みぞおちやお腹の不快感などがあります。舌の痛み
悪性貧血では、さまざまな症状が現れますが、その一つにHunter舌炎があります。舌が赤くなり、痛くなるといった症状がみられます。手足のしびれなどの神経症状
悪性貧血では、手足のしびれや知覚の異常、筋力低下などの神経症状が現れることがあります。これは、亜急性連合性脊髄変性症と呼ばれるものです。赤血球の寿命が短くなると発症しやすい病気・疾患
赤血球の寿命が短くなる原因として、さまざまな貧血があることについて解説しました。赤血球の寿命が短くなると、体内で慢性的な酸素不足を引き起こすため、心臓や脳をはじめとした重要臓器に負担がかかります。その結果、さまざまな重篤な病気を発症するリスクが高まります。ここでは、特に注意すべき疾患について解説します。高拍出性心不全
貧血状態では、赤血球による酸素運搬能力が低下します。すると心臓は普段よりも心拍数を上げて身体に送りだす血液の量を増やすことで、酸素不足を補おうとします。こうした状態が続くと、心臓に過度な負担がかかり、高拍出性心不全になってしまうことがあります。心不全の症状として、動悸や呼吸困難感、胸の痛み、身体のむくみなどがあります。 こうした症状がみられる場合には、循環器内科の受診をしましょう。虚血性心疾患
貧血は、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の危険因子となります。血液中の酸素濃度減少や、心拍出量の増加による心筋の酸素消費量増加などが関連しているとされています。強い胸の痛みや冷や汗が出るといった症状が見られたら、早めに循環器内科を受診しましょう。認知障害
貧血は、65歳以上の高齢者の認知機能低下と関連していることが知られています。 ヘモグロビンが少なくなってしまうことで脳細胞が慢性的に低酸素状態となります。すると、βアミロイド蛋白の沈着によってニューロンの炎症が引き起こされ、脳の機能が低下しているというメカニズムも考えられています。認知機能障害のリスクを下げるためにも、貧血を指摘されている場合は、放置せずにかかりつけ医などに相談するようにしましょう。赤血球の寿命が短くならないための予防法
赤血球の寿命を正常に保つために、ご自身で行うことができる方法を解説します。お酒を飲みすぎない
アルコール性肝機能障害の患者さんに巨赤芽球性貧血がみられることがあります。慢性的なアルコール摂取によって、葉酸がうまく利用できなくなってしまうことなども原因と考えられています。アルコール依存症にならないよう、お酒を飲む際には適切な量をたしなむよう気をつけましょう。バランスの良い食事をとる
葉酸やビタミンB12などを含むビタミンが不足しないように、バランスの良い食事を心がけましょう。葉酸は、海藻類や野菜、豆類、肉類や卵などに多く含まれています。ビタミンB12は魚介類や海藻類、豆類、肉類に含まれ、野菜や果物、きのこ、芋など植物性の食品には含まれていません。お肉やお魚、野菜などを適度に食べるようにしましょう。禁煙する
タバコの煙には、赤血球の膜を破壊してしまう有害物質が含まれています。そのため、禁煙が赤血球の寿命を短くすることの予防につながる可能性があります。喫煙は、発がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などのリスクも高めます。 健康のためにも、タバコは1日も早くやめることがすすめられます。「赤血球の寿命」についてよくある質問
ここまで赤血球の寿命について紹介しました。ここでは「赤血球の寿命」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
赤血球の平均寿命について教えてください。
今村 英利医師
赤血球が血液の中で生きられる平均期間は、120日程度です。
