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吉井怜、急性白血病「再発の恐怖を救った」母からの骨髄移植。絶望の中で命を優先した決断の背景

 公開日:2026/03/31
吉井怜、急性白血病「再発の恐怖を救った」母からの骨髄移植。絶望の中で命を優先した決断の背景

2000年に急性骨髄性白血病と診断され、寛解に至った吉井怜さん。しかし、再発リスクが高いタイプであると告げられ、骨髄移植という新たな選択を迫られます。抗がん剤治療、強力な前処置、そして母からの骨髄提供。命を優先する決断の裏には、大きな葛藤と家族の支えがありました。本稿では、化学療法から骨髄移植に至るまでの実際の治療経過や移植のメリットとリスク、治療成績の最新動向まで、森毅彦先生の解説とともに深掘りし、家族と共に闘った闘病生活の真相と、医学の進歩がもたらす希望に迫ります。

※2026年2月取材。

> 【画像あり】吉井怜の命を救った「骨髄移植」の全貌をイラスト解説

吉井さん

吉井怜(俳優)

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東京都出身。O型。14歳で芸能界デビュー。仮面ライダードライブシリーズなど、ドラマ、舞台、CMに多数出演。16年、俳優の山崎樹範と結婚。主な出演:舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」映画「見える子ちゃん」など多数出演。自身の闘病記「神様、何するの…」はドラマ化もされた。

先生

先生プロフィール
森毅彦(日本血液学会認定血液専門医・指導医)

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日本血液学会認定血液専門医・指導医、日本造血・免疫細胞療法学会造血細胞移植認定医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、日本感染症学会感染症専門医。

仕事と治療の間で揺れる心。将来への不安を乗り越えて決断した「骨髄移植」

仕事と治療の間で揺れる心。将来への不安を乗り越えて決断した「骨髄移植」

森先生森先生

吉井さんが実際に受けられた治療の内容を教えていただけますか。

吉井さん吉井さん

最初は抗がん剤による化学療法を行いました。半年ほど入院して、その間4回の抗がん剤の点滴を受けました。

森先生森先生

急性骨髄性白血病では、まず寛解導入療法を行い、白血病細胞をできる限り減らして完全寛解(検査で病気の兆候が確認できない状態)を目指します。その後、寛解後療法(地固め療法)で顕微鏡では見えないレベルで残存している白血病細胞を減らし、再発を防ぎます。寛解の確認は治療の終わりではなく、その後の方針を決める重要なステップとなります。

吉井さん吉井さん

想像していたより体は動きました。髪の毛は抜け、爪も変色しましたが、食欲はありました。主治医からは「寛解に入った」と説明を受け、白血病細胞の数値は落ち着いていると言われましたが、治療はまだ続くとも伝えられました。

森先生森先生

寛解というのは、白血病細胞が検査上ほぼ見えなくなった状態を指します。しかし、顕微鏡では見えないレベルで残っている可能性もあるため、その後の治療継続が重要になります。寛解後、主治医の先生からはどのようなお話がありましたか?

吉井さん吉井さん

寛解にはなったけれど、再発のリスクが比較的高いタイプだと説明を受けました。そのうえで「骨髄移植という選択肢があります」と言われました。

森先生森先生

染色体や遺伝子異常のタイプによっては、化学療法のみで経過を見るタイプもあります。一方で、再発リスクが高いと判断される場合には、骨髄移植(造血幹細胞移植の一種)を早期に検討します。吉井さんの場合も、そのリスクを評価した結果を踏まえて提案されたと考えられます。移植を提案されたときの率直なお気持ちはいかがでしたか?

吉井さん吉井さん

正直、受け入れられませんでした。やっと髪が伸びてきたのに、またゼロになるのか、と考えてしまいました。入院も長くなると聞き、仕事や将来への不安が大きかった記憶があります。

森先生森先生

一般的に、再発してからの骨髄移植は治療が難しくなることも多いため、再発リスクの高いタイプの白血病では、寛解の段階で骨髄移植を検討したほうが根治につながる可能性が高いとされます。

吉井さん吉井さん

その説明を受け、怖いけれど今やるしかないと思いました。そこでようやく、命を優先しようと決断できました。改めて、骨髄というのはどのような役割を持つ組織なのでしょうか?

森先生森先生

骨髄は、骨の内部にある組織で、赤血球・白血球・血小板という血球をつくる大切な組織で、血球を作るもとになる造血幹細胞が存在する場所です。この細胞は血球の種のような細胞で、赤血球・白血球・血小板へと分化して、血球を作り出すと同時に自らと同じ細胞を増やす自己複製能ももっています。さらに。急性骨髄性白血病では、造血幹細胞が分化の途中の段階で止まってしまうという異常が生じます。

吉井さん吉井さん

その異常をリセットするのが骨髄移植ということですね。

吉井怜を救った母からの贈り物。過酷な移植治療を支えた家族の絆と医学の進歩

森先生森先生

骨髄移植では、前処置という強力な抗がん剤を中心に、全身にあてる放射線治療も必要に応じて組み合わせて、白血病細胞を根絶することを目指します。その後で、健康なドナーから提供された造血幹細胞を体内に入れ、新たに正常な血球がつくられるようにする治療です。

吉井さん吉井さん

移植のメリットとデメリットについて具体的に教えていただけますか。

森先生森先生

最大のメリットは、白血病の根治に至る可能性が高まることです。一方で、感染症や臓器障害、そして「移植片対宿主病(GVHD)」と呼ばれる合併症が起こる可能性もあります。GVHDとは、移植されたドナーの免疫細胞が患者さんの体を「異物」と認識し、皮膚や腸、肝臓などを攻撃してしまう合併症です。

吉井さん吉井さん

GVHDという言葉は当時も聞きましたが、正直とても怖い印象でした。やはり、誰にでも起こり得るものなのでしょうか。

森先生森先生

GVHDのリスクは、現在は予防薬や管理方法が進歩したことで、頻度を減らし、重症なGVHDを防ぐ工夫がなされています。すべての方が発症するわけではありません。また、ドナーと患者さんのHLA(ヒト白血球抗原)という白血球の型が一致しているとその頻度は減ります。HLAは免疫に関わる体の重要な目印のようなもので、この型が一致していないと拒絶反応や重症のGVHDのリスクが高まります。しかし、最近では、HLA不一致でも安全に移植ができる移植技術も開発されております。

吉井さん吉井さん

家族なら必ず一致するわけではないのですか。

森先生森先生

兄弟姉妹でも一致する確率は4分の1です。家族であっても必ず適合するわけではありません。患者さんの年齢や体力、基礎疾患の有無などを総合的に評価し、移植が可能かどうかを判断します。前述のように移植前には移植前処置という通常よりもはるかに強い抗がん剤治療や、場合によっては全身放射線治療を行います。かなり体への負担が大きい治療になりますが、実際はいかがでしたか?

吉井さん吉井さん

移植前の大量の抗がん剤と放射線治療は、通常の化学療法とは比べものにならないほどつらいものでした。口の中がただれて食事もできず、全身が痛く、何も考えられないほどつらかった記憶があります。

森先生森先生

ドナーはどのように決まったのでしょうか?

吉井さん吉井さん

私が治療を受けている間に、家族全員がHLAの検査を受けてくれていました。幸い母と型が一致していることがわかり、医学的にも問題がないと判断され、ドナーになってくれました。提供後も、母は毎日会いに来てくれましたし、父も兄も元気づけに会いに来てくれました。そのような家族の存在が励みになっていました。

森先生森先生

骨髄提供は、全身麻酔をかけて骨盤の骨に何度も針を刺して骨髄液を採取します。数日間の入院が必要になります。現在は、骨髄液を採取する方法に加え、骨髄を刺激する顆粒球コロニー刺激因子という薬を投与して骨髄から血液中に造血幹細胞を追い出して、それを採取する末梢血幹細胞採取という方法も広く行われるようになりました。

吉井さん吉井さん

白血病の5年生存率についても教えていただけますか?

森先生森先生

急性骨髄性白血病の再発率は、遺伝子や染色体異常の種類によって大きく異なります。5年生存率に関しても、年齢やリスク分類で幅がありますが、全体で約50%前後と言われています。ただし、近年は、分子標的薬という薬の導入や支持療法の進歩により、治療成績は向上しています。

吉井さん吉井さん

当時よりも選択肢が広がっていると聞くと、少し安心します。医学が進んでいることには希望を感じますね。

森先生森先生

病気を経験した今、特に大切にしていることは何かありますか。

吉井さん吉井さん

日常のありがたさです。食事ができること、家族と話せることなど、当たり前のことがどれだけ幸せかを知りました。同じ病気や不安を抱える方には、一人で抱え込まず、信頼できる人に相談してほしいと伝えたいです。

森先生森先生

白血病は頻度の高い病気ではありませんが、高熱が続く、強い倦怠感、あざが増えるなど血球が減少した時にみられる複数の症状が重なった場合は医療機関を受診してほしいと思います。また、白血病に限らず、早期発見・早期治療が病気の予後を左右しますので、年1回の健康診断も非常に重要だと改めて知っていただきたいと思います。

編集後記

突然の高熱から始まった違和感が、急性骨髄性白血病という診断につながった吉井怜さん。前編では告知までの経緯と率直な心境、後編では抗がん剤治療から骨髄移植という大きな決断、そして家族の支えと医学の進歩について伺いました。白血病は決して頻度の高い病気ではありませんが、早期発見と適切な治療によって根治を目指せる時代になりつつあります。本稿が、体の異変に目を向けるきっかけとなり、同じ不安を抱える方にとって小さな希望となりましたら幸いです。

この記事の監修医師