目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 医科TOP
  3. コラム(医科)
  4. 「熱中症予防」で“水”と“塩”より重要なものをご存知ですか?【医師監修】

「熱中症予防」で“水”と“塩”より重要なものをご存知ですか?【医師監修】

 公開日:2025/09/14

夏場に毎年多くの方が注意を呼びかけられる「熱中症」。屋外だけでなく室内でも発症する可能性があり、重症化すると命に関わる危険もあります。今回、産業医として活動されている廣田先生に取材をおこない、熱中症の最新知見や予防策、症状が出たときの正しい対応法について伺いました。日常生活で気をつけるポイントを分かりやすくお届けします。

廣田 尚紀

監修医師
廣田 尚紀(医師)

プロフィールをもっと見る
糖尿病内科医・産業医として東京を中心に活動しながら、栄養学の研究を行っている。医学部卒業後は東京慈恵会医科大学、東京女子医科大学などの複数の病院で勤務、東京大学大学院研究員(研究分野は栄養疫学)などを経て現職。東邦大学医学部医学科卒業・東京女子医科大学大学院卒業。糖尿病専門医/認定内科医/総合内科専門医/博士(医学)/糖尿病認定医/日本医師会 認定産業医/成育医療研究センター共同研究員など。

「長時間の炎天下」を避けることがカギ

「長時間の炎天下」を避けることがカギ

編集部編集部

夏も終わりが近づいておりますが、まだまだ熱中症が心配な季節だと思います。予防するためには、やはり「水」と「塩」を摂ることが大事なのでしょうか?

廣田 尚紀先生廣田先生

確かに、水と食塩は熱中症予防において重要な要素です。ただ、それよりももっと大切なことがあります。それは、「暑さを避けること」、そして「暑さの中に連続していないこと」です。

編集部編集部

「暑さを避ける」というのが最も重要なのですね。それは具体的にどういうことなのでしょうか?

廣田 尚紀先生廣田先生

たとえば、炎天下のアスファルトの上に小石を置いて、できるだけ熱くしないようにする場面を想像してみてください。最も効果的な方法は、小石を暑くない場所に移動させることですよね。

編集部編集部

なるほど。小石をずっと暑い場所に置いておくのではなく、涼しいところに移すんですね。

廣田 尚紀先生廣田先生

そうです。その場所に置き続けなければならない場合でも、ときどき日陰や涼しいところに移動させて、温度を下げてから戻せばいいわけです。これは人間にも当てはまります。小石が熱くなりすぎた状態を熱中症だと考えれば、人間も暑さにさらされる時間を短くすることが重要です。

編集部編集部

長時間暑さの中にいるのではなく、適度にクールダウンする休憩が必要ということですね。

廣田 尚紀先生廣田先生

その通りです。しかも、暑さの影響は1日単位ではなく、数日にわたって蓄積するとも言われています。ですから、日常的に暑い環境にいる人や、連続して外出する予定がある人は、こまめに涼しい場所で休憩を取る方が良いでしょう。

編集部編集部

つまり、熱中症対策の基本は「暑さの中にできるだけいないこと」、そして「暑さの中にいるならば休憩をこまめにとること」ということですね。

廣田 尚紀先生廣田先生

はい。実際、WHOのガイドラインでも最も強調されているのは、「涼しい場所で過ごすこと」「熱を避けること」「体を冷やすこと」です。

水分補給は「補助的役割」でも欠かせない要素

水分補給は「補助的役割」でも欠かせない要素

編集部編集部

では、水と塩の役割はどのような位置づけになるのでしょうか?

廣田 尚紀先生廣田先生

それも先ほどの小石の例で説明できます。仮に、水が入った桶とひしゃくを持っていて、小石に水をかけたとしましょう。石の温度は一時的に下がりますが、すぐに水は蒸発して温度は戻ってしまいます。

編集部編集部

なるほど。この水の役割が、人間でいうところの「汗」なのですね。

廣田 尚紀先生廣田先生

その通りです。汗は主に水と食塩に含まれるナトリウムからできていて、体温を下げる効果は限定的です。つまり、体温を下げる補助的な手段にすぎません。もちろん、体温調節には不可欠ですが、あくまで「補助的な役割」なのです。

編集部編集部

「水と食塩を摂れば熱中症にならない」というわけではないのですね。

廣田 尚紀先生廣田先生

はい。水と食塩を摂れば汗をかく能力の維持には役立ちます。不足すれば熱中症になりやすくなりますが、それだけ摂っても完全には防げるわけでもありません。

編集部編集部

では、水は具体的にどのくらい摂取すればよいのでしょうか?

廣田 尚紀先生廣田先生

じつは、日本人にとって明確な基準はまだはっきりしていません。ただし行政の調査では、男性で1日あたり約2700mL、女性では約2300mL摂っているとされており、このあたりの量が一つの目安になると考えられています。

編集部編集部

水分摂取量の調節のために、参考になるものがあれば教えてください。

廣田 尚紀先生廣田先生

参考になるのは、尿の色と量です。尿の色が濃かったり、回数や量が減っていたりした場合、水分不足のサインです。日頃から自分の尿に注意しておくと、水分の調整にも役立ちますよ。

編集部編集部

水分の摂り方に注意点はありますか?

廣田 尚紀先生廣田先生

食事から取る水分も重要」ということです。日本人の食事は水分が多いのです。白ごはんや麺類など、水分を多く含む食品が多いため、1日の水分摂取量の約半分は食事から摂っています。

編集部編集部

ということは、食事を抜いてしまうと、その分水分も減ってしまうわけですね。

廣田 尚紀先生廣田先生

まさにその通りです。特に朝食を抜く方は注意が必要です。できればきちんと食べた方がいいですし、どうしても難しい場合はせめて水分を多めに摂ることをおすすめします。

汗をかいたときの「塩分補給」の考え方

汗をかいたときの「塩分補給」の考え方

編集部編集部

食塩についてはいかがでしょうか? 熱中症対策で塩分タブレットなどが勧められることもあります。

廣田 尚紀先生廣田先生

基本的に、日本人は1日に平均10gほどの食塩を摂取しています。生きていくために最低限必要な量は1.5g程度ですから、通常は不足することはないでしょう。

編集部編集部

では、追加で塩分を摂る必要はあまりないということでしょうか?

廣田 尚紀先生廣田先生

その通りです。熱中症予防として、特別に塩分を追加接種する必要はない場合が多いですね。ただし、大量に汗をかくような状況では、水だけを大量に摂取すると血液中のナトリウム濃度が薄まり「水中毒」、つまり低ナトリウム血症などになることがあります。また、食塩の中のナトリウムには水の吸収を速める効果もありますから、水分を急激に失っている場合には必要なこともあるでしょう。

編集部編集部

なるほど、場合によってはナトリウムも一緒に補う必要があるのですね。

廣田 尚紀先生廣田先生

はい。ですが、日常的にデスクワークをしていて、汗の量が多い訳でもなく、食事もきちんと摂れている人であれば、塩分タブレットやスポーツドリンクの必要性はそれほど高くない場合が多いでしょう。むしろ、食塩が多すぎると高血圧や脳梗塞・心筋梗塞などのリスクが上がる点には注意が必要です。

編集部編集部

まとめると、熱中症対策で一番大事なのは「高温を避けること」、次に「こまめな休憩」、そして「水と食塩の補助的な役割を理解すること」ということですね。

廣田 尚紀先生廣田先生

その通りです。水や食塩も大切ですが、まずは涼しい環境を確保することから始めてみてください。それが最も確実な熱中症予防になります。

編集部まとめ

廣田先生を取材して、熱中症のリスクは高齢者や子どもだけでなく、誰にでも起こりうることが改めて示されました。予防の基本は「水分補給」と「暑さを避ける工夫」。さらに、早めの休息や体調の小さな変化に気づくことが重要です。重症化を防ぐためには、我慢せずに医療機関を受診する姿勢も欠かせません。この記事を参考に、日常生活でできる予防習慣をぜひ取り入れてください。

参考文献:

1. Wallace RF, Kriebel D, Punnett L, et al. The effects of continuous hot weather training on risk of exertional heat illness. Med Sci Sports Exerc. 2005;37(1):84-90.

2. WHO「Public health advice on preventing health effects of heat」

3. Belasco R, Edwards T, Munoz AJ, Rayo V, Buono MJ. The Effect of Hydration on Urine Color Objectively Evaluated in CIE L*a*b* Color Space. Front Nutr. 2020;7:576974. Published 2020 Oct 26.

4. Perrier ET, Armstrong LE, Bottin JH, et al. Hydration for health hypothesis: a narrative review of supporting evidence. Eur J Nutr. 2021;60(3):1167-1180.

5. Sawka MN, Montain SJ. Fluid and electrolyte supplementation for exercise heat stress. Am J Clin Nutr. 2000;72(2 Suppl):564S-72S.

6. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」

この記事の監修医師