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ダンカン、妻の「乳がんステージ4」告知に絶望。平穏な日々を一変させた過酷な病とは

 公開日:2025/12/18
ダンカン、妻の「乳がんステージ4」告知に絶望。崩れ落ちた家族の“当たり前”の日常

お笑い芸人・ダンカンさんの奥様が39歳で初めて受けた乳がん検診。痛みも不調もなかったにもかかわらず、奥様に告げられたのはステージ4という過酷な現実でした。それでも奥様は、幼い子どもたちに不安を見せず、いつも通りの生活を守り続けます。8年間の闘病を家族はどう受け止めていたのか、発覚当時の状況や家族の心境を伺いながら、乳がんの初期症状の乏しさ、サブタイプと治療方針の関係など乳がんの基本について、日本乳癌学会認定乳腺専門医の日馬先生にわかりやすく解説していただきました。

※2025年11月取材。

> 【写真あり】ダンカン亡き妻が写る「乳がん」告知前の笑顔の家族写真

ダンカンさん

ダンカン(お笑い芸人)

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1959年1月3日生まれ、埼玉県出身。1983年にビートたけし率いる「たけし軍団」に加入。それを機に芸名を「ダンカン」に改め、お笑いタレントとして広く知られるようになる。テレビや映画、舞台など多方面にわたり存在感を示している。2014年6月には、最愛の妻を乳がんで亡くし深い悲しみを経験。グリーフケアを経て現在は家族との時間を何よりも大切にしながら、心の支えを胸に日々の活動を続けている。

虎太郎さん

虎太郎(俳優)

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1998年12月18日生まれ、東京都出身。父はダンカン。日本テレビ「踊る!さんま御殿!!」、テレビ東京「ドラマスペシャル『あまんじゃく 元外科医の殺し屋 最後の闘い』」、YOUTUBEドラマ「THE BAD LOSERS」、舞台「時を超えた愛の歌」などに出演。趣味は釣り 、写真を撮ること、ドライブ。特技は野球。

日馬先生

日馬弘貴(日本乳癌学会認定乳腺専門医)

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日本外科学会認定外科専門医、日本乳癌学会認定乳腺専門医、検診マンモグラフィ読影認定医(AS)、がん治療認定医。2010年、東京医科大学卒業、2012年、関西ろうさい病院外科レジデント、2015年、大阪大学大学院 入学、2019年、大阪大学大学院 博士号取得、2019年、大阪国際がんセンター 診療主任。2023年4月から東京医科大学乳腺科助教。正しい医療情報を、わかりやすく伝えることをモットーにしている。

ダンカン・虎太郎が語る、乳がん発覚のきっかけと家族の心境

ダンカンさん親子闘病対談前編

日馬先生日馬先生

まず、奥様が乳がんを発見されたきっかけについて教えていただけますか?

ダンカンさんダンカンさん

妻は47歳で亡くなりましたが、その約8年前、39歳頃に、虎太郎の友達のお母さん同士で「乳がん検診に行ってみよう」という話になったそうです。それがきっかけで乳がん検診を受け、乳がんが発覚しました。それまでは乳がん検診を受けたことはありませんでした。

日馬先生日馬先生

それ以前は検診を受けていらっしゃらなかったのですね。当時の状況について、虎太郎さんはどのように記憶されていますか?

虎太郎さん虎太郎さん

僕は小学校6年生になるまで、3年間はがんだということを知らされていませんでした。中学生になって、乳がんだったと聞かされました。母はとても頑張り屋で、弱音を吐くことはなく、本当にごく普通の生活を送っていました。

ダンカンさんダンカンさん

当時、子どもたちには乳がんのことは何も伝えず、できるだけ普通の暮らしを続けていました。乳がんが発覚しても痛みやつらさをあまり口にしないので、本人もできる限り気丈に振る舞っていたのだと思います。乳がんは、初期症状や自覚症状はあまり出ないものなのでしょうか?

日馬先生日馬先生

初期症状はほとんどありません。あったとしても、痛みを伴わないしこりが現れる程度です。気がついたら大きくなっていることもあります。ただ、乳がんは体の表面に近い場所にできるがんなので、比較的発見されやすいという特徴もあります。

ダンカンさんダンカンさん

妻がそれまで検診を受けていなかったことは、問題だったのでしょうか?

日馬先生日馬先生

いいえ、決して特別なことではありません。乳がん検診の推奨年齢は40歳からなので、39歳で初めて受けられたというのは、むしろ少し早めだったと言えます。検診ではマンモグラフィを使用し、国の推奨する間隔は2年に1回です。これは死亡率を下げることを目的とした間隔です。より詳しく調べたい場合には、マンモグラフィに超音波検査(エコー)を組み合わせることもあります。

ダンカンさんダンカンさん

診断の結果は、ステージ4の乳がんでした。実は、後々になって妻の母も乳がんだったことがわかり、遺伝性かもしれないという話も出ました。ただ、その点について詳しい遺伝子の検査などは受けませんでした。

日馬先生日馬先生

診断されたときのお気持ちは、いかがでしたか?

ダンカンさんダンカンさん

正直に言うと、当時の自分は乳がんに対して無知でした。そこまで大変な病気だとは思っていなかったのです。医学に対する知識もなく、最初は病気の深刻さがよくわかっていませんでした。改めて、乳がんという病気について教えていただけますか?

ステージ4まで進行していた乳がんの原因と奥様が受けた治療とは

ダンカンさんダンカンさん

改めて、乳がんという病気について教えていただけますか?

日馬先生日馬先生

乳がんで大事になるのは、ステージ分類とサブタイプと呼ばれる分類です。このステージとサブタイプが、治療方針を決めるうえで非常に重要です。サブタイプには大きく分けて3つあり、簡単に言えば「何を栄養源にしてがんが増殖しているか」を示す指標です。

虎太郎さん虎太郎さん

具体的にはどのような種類があるのでしょうか?

日馬先生日馬先生

まず1つ目は、女性ホルモン(主にエストロゲン)の影響を受けて増殖するタイプで、これが全体の約7割を占めます。2つ目は、がん細胞自体が自分で増殖シグナルを出してどんどん増えていく、HER2(ハーツー)陽性乳がんで、およそ2割です。3つ目は、女性ホルモン受容体もHER2も持たないトリプルネガティブと呼ばれるタイプで、全体の1割程度です。

虎太郎さん虎太郎さん

乳がんは、どのような年代の方に多いのでしょうか?

日馬先生日馬先生

発症のピークは40代後半と60代で、ちょうど閉経期に入る頃の年代です。また、女性100人に対して男性1人程度の割合で、男性にも発症することがあります。遺伝性の乳がんは全体の10%程度とされていますが、遺伝性ではなくても家族歴がある場合には発症リスクが約2倍になるという報告もあります。

ダンカンさんダンカンさん

乳がんになりやすい人の特徴というのはあるのでしょうか?

日馬先生日馬先生

なりやすいということはありませんが、女性ホルモンの影響を受ける期間が長いと乳がんのリスクが上がります。生活習慣の欧米化に伴い、初経が早くなり閉経が遅くなったことや、女性のライフスタイルの変化により、妊娠、出産が減っていることも1つの原因です。また、閉経後については脂肪が多いと乳がんのリスクが上がります。全国的に乳がんの患者さんは増加しており、特に閉経後は、脂肪の量が多い方のほうがリスクは高くなります。奥様はどのような治療を受けられたのでしょうか?

ダンカンさんダンカンさん

妻は、まず抗がん剤治療から始めました。髪の毛が抜けたり、食べても味がしなかったり、固形物が食べにくくなったりといった症状がありました。顔色が黒っぽくなっていたことも覚えています。その後、乳房切除をすることになりました。本人としては乳房切除にあまりこだわりはなかったようですが、僕が妻に気をつかって片方のみ切除することを決めてしまいました。

日馬先生日馬先生

乳がんの治療は、ステージ4かその前かで全く方針が変わります。ステージ1〜3までは治癒を目指す治療が基本ですが、ステージ4の場合は、がんと付き合いながら生活の質を保つことを目的とした治療になります。

虎太郎さん虎太郎さん

治療方法は、先ほどのお話にあったサブタイプによってどう変わるのでしょうか?

日馬先生日馬先生

早期乳がんについての話になりますが、女性ホルモンが原因となる乳がんでは、先に手術を行うことが多くなります。一方、HER2陽性とトリプルネガティブの乳がんは、増殖の勢いが強いことが多く、治療戦略としては先に抗がん剤治療を行ってから手術をすることがほとんどです。乳がんの場合、初期から画像には見えない微小転移を起こすとされていて、手術も重要ではありますが、ほかのがんに比べると重要性はやや低く、微小転移を抑制する薬物療法が非常に重要になります。

ダンカンさんダンカンさん

手術には部分切除と全切除がありますが、治療成績に差はあるのでしょうか?

日馬先生日馬先生

部分切除と全切除で、生存率などの治療成績は全く一緒です。ただし、部分切除の場合は放射線治療をセットで行うことが前提になります。どちらを選択するかは、がんの状態や患者さんのご希望、生活背景なども踏まえて一緒に相談しながら決めていきます。

ダンカンさんダンカンさん

今振り返ると、「もっと早く検診を受けていれば」「もっと医学的な知識があれば」と思うこともあります。それでも、妻は最後まで前向きに、家族のために頑張ってくれました。

虎太郎さん虎太郎さん

母の姿を通して、病気と向き合うことの大切さを学びましたし、早期発見がどれだけ重要かということも痛感しています。

日馬先生日馬先生

乳がんは、早期に発見できれば完治が十分に期待できるがんです。定期的に検診を受けること、自分の体の変化に気づくことがとても大切です。しこりや皮膚の変化など、少しでも気になることがあれば、早めに医療機関を受診していただきたいと思います。家族歴がある方は特に注意が必要です。早期発見・早期治療によって、その後も健康な生活を送ることが十分可能です。

ダンカンさんダンカンさん

妻の経験が、多くの方の早期発見につながることを願っています。検診を受けることの大切さを、ぜひ多くの方に知っていただきたいと思います。


編集部後記

奥様の乳がん発覚から告知、そして子どもたちに弱さを見せず日常を守り続けた姿は、乳がんが「ある日突然、自分や家族にも起こりうる病気」であることを改めて教えてくれます。痛みも症状も乏しい初期だからこそ、検診と早期発見の意義を自分ごととして考えるきっかけにしていただければと思います。本稿が読者の皆様にとって、ご自身と家族の健康を見つめ直す一助となりましたら幸いです。

この記事の監修医師