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米良美一「くも膜下出血」後遺症で2度も死の淵に。奇跡の復帰までの壮絶闘病とは

 公開日:2025/10/31
米良美一「くも膜下出血」後遺症で2度も死の淵に。奇跡の復帰までの壮絶闘病とは

くも膜下出血の緊急手術から約3週間後、歌手の米良美一さんは再び命の危機に直面しました。脳脊髄液の流れが滞る水頭症を発症し意識を失ったのです。再手術とリハビリを経て、奇跡的に後遺症なく回復した米良さんは、現在もステージで歌声を響かせています。今回は米良さんの体験をもとに日本脳神経外科学会専門医の嘉山孝正先生に水頭症や脳血管疾患の後遺症、早期発見の重要性について詳しく伺いました。

> 【初公開】米良美一「くも膜下出血」から復帰。激闘を乗り越えた姿

米良さん

米良美一(歌手)

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先天性骨形成不全症という難病と闘いながらも、幼少時より歌の世界で才能を光らせる。音楽で生きることを決意し、洗足学園音楽大学を卒業。1997年映画「もののけ姫」の主題歌を歌い、現在も幅広い年齢層から支持を得て不動の人気を博している。2015年にくも膜下出血を発症し一時は復帰ができないことも懸念されたが、ステージに立ちたいという一途な気持ちでリハビリをおこない奇跡的に復帰を果たした。

米良さん

嘉山孝正(日本脳神経外科学会専門医)

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神奈川県立湘南高等学校卒業。東北大学医学部卒業。ドイツ連邦共和国ユストゥス・リービッヒ大学脳神経外科(Prof.H.W.Pia)留学。国立がん研究センター・名誉総長。日本脳神経外科学会 第6、7期 理事長・名誉会員。第39回日本脳卒中の外科学会会長、中央社会保険医療協議会委員(中医協委員2期4年)。現在も国立大学医学部長会議・相談役、TMG医療政策特別顧問、栄戸学園名誉顧問、戸塚共立いずみ野病院名誉院長など多岐にわたって活躍している。

米良美一「くも膜下出血」後遺症で2度も死の淵に。奇跡の復帰までの壮絶闘病とは

嘉山先生嘉山先生

2015年12月にくも膜下出血の手術をおこなわれた後は、どのような経過をたどったのでしょうか?

米良さん米良さん

最初の手術の後、まだ自分では物事の判断ができない状態でした。医療チームの皆さんにすべてをお任せしていましたが、後に水頭症を発症し、その時は意識が低下していたと聞いています。水頭症に対する手術の決断は母がしてくれました。そもそも水頭症とは、どのような病気なのでしょうか?

嘉山先生嘉山先生

水頭症とは、脳や脊髄のまわりを流れる脳脊髄液の循環や吸収がうまくいかなくなる病気です。脳脊髄液が脳内にたまることで脳が圧迫され、意識障害や歩行障害、認知機能の低下などが起こります。

米良さん米良さん

くも膜下出血のあとに起こることがあるのですね。

嘉山先生嘉山先生

はい。出血が原因で脳脊髄液の通り道が塞がれると水頭症を発症します。水頭症には大きく2つのタイプがあり、血液や炎症で通り道が閉じてしまうタイプを非交通性水頭症、通り道はあるのに吸収がうまくいかないタイプを交通性水頭症と呼びます。米良さんのように急激な意識障害を伴う場合は、非交通性水頭症であることが多いですね。

米良さん米良さん

水頭症の一般的な治療方法について教えてください。

嘉山先生嘉山先生

治療にはVPシャント手術と呼ばれる方法がよくおこなわれます。これは、脳にたまった脳脊髄液を細いチューブでお腹に流すことで圧を下げる方法です。体内で自然に吸収されるため、脳の状態を安定させることができます。

米良さん米良さん

私はおそらくVPシャント手術を受けましたが、ほかにも治療方法はあるのでしょうか?

嘉山先生嘉山先生

ほかには、腰の部分から脳脊髄液をお腹に流すLPシャント手術(腰椎腹腔シャント手術)や脳室から心臓の右心房に流すVAシャント手術(脳室心房シャント手術)があります。患者さんの年齢や全身状態、感染リスクなどを総合的に考えて最適な治療方法を選択します。水頭症の手術後の経過はいかがでしたか?

米良さん米良さん

手術後しばらくして少しずつ意識が戻り、体を動かせるようになりました。長い間寝たきりだったので、筋力が落ちて動くのが大変でした。私は生まれつき先天性骨形成不全症があるので、転倒には特に注意しながらリハビリに取り組みました。

嘉山先生嘉山先生

リハビリはどのように進めたのですか?

米良さん米良さん

最初はベッドの上で少しずつ手足を動かすところから始まり、焦らず、できることを一つずつ積み重ねるように意識していました。これまでの人生でも入院や骨折を何度も経験してきたので、リハビリには慣れていた方だと思っています。

嘉山先生嘉山先生

米良さんの非常に前向きな姿勢が回復を後押ししたのではないかと思います。くも膜下出血の後遺症は、脳のどの部分にダメージを受けたかによって異なります。麻痺や言語障害、記憶障害、高次脳機能障害などが残ることもありますが、本人の意欲と努力が回復のカギになります。

米良さん米良さん

医療従事者の皆様のおかげで麻痺や言語障害は残らずに回復することができました。リハビリを通じて、家族や周囲の支えがどれほど大きな力になるかを実感しました。脳の病気の発症、再発を予防する方法はあるのでしょうか?

嘉山先生嘉山先生

定期的な脳ドックを受けておくことをおすすめします。脳ドックはMRI検査やMRA検査を用いて脳や脳血管を詳しく調べる検査で、くも膜下出血の原因となる未破裂の脳動脈瘤を早期に発見することができます。20代であれば5年に1回、40代以降であれば2〜3年に1回が理想です。

米良さん米良さん

私の母も50代でくも膜下出血を発症しており、親族にも同じ病気の人が多い家系です。私はくも膜下出血の発症をきっかけに定期的に検査を受けるようになりましたが、病気を知らないまま過ごすことはとても怖いと感じました。

嘉山先生嘉山先生

その意識がとても大切です。くも膜下出血の多くは脳動脈瘤の破裂が原因です。破裂してからでは手遅れになってしまうことも多いため、早期の検査が命を守ります。MRI検査で異常が見つかれば、必要に応じて予防的な処置をおこなうことも可能です。

米良さん米良さん

くも膜下出血を経験して、できないことを嘆くより、できることを大切にすることの意味を強く感じました。支えてくれた家族や医療従事者の皆さん、そして応援してくれた人たちに感謝を伝えたいと思いました。同時に、今回の闘病体験を多くの方に伝えることも私の使命であると感じました。もしも今、苦しんでいる人がいたら自分も乗り越えられると思ってもらえたら嬉しいです。

嘉山先生嘉山先生

米良さんの言葉は多くの方に勇気を与えると思います。くも膜下出血や水頭症は、誰にでも起こり得る病気です。突然の頭痛や視覚の異常など、少しでも違和感を感じた場合はためらわず受診してください。早期発見と早期治療が命を守る第一歩です。

編集部まとめ

くも膜下出血や水頭症は突然命を脅かすだけでなく、長期的なリハビリを要する病気です。しかし、米良さんのように前向きに取り組むことで再び日常を取り戻せる可能性もあり、早期発見・早期治療ができれば防げる場合もあるため、定期的な検査の大切さを改めて感じました。本稿が読者の皆様にとって、受診や検査を前向きに考えるきっかけとなりましたら幸いです。

この記事の監修医師