見栄晴「咽頭がんステージ4」からの生還。命を懸けた100日間の壮絶闘病とは(1/2ページ)

「自分はがんになるはずがない」と考えていた見栄晴さんが診断されたのは、下咽頭がんのステージ4でした。20歳の頃から続けてきた飲酒と喫煙習慣の影響で、長く抱えていた喉の違和感が命に関わる病気へとつながっていました。診断から復帰までのちょうど100日間、声を守るために手術ではなく抗がん剤と放射線を選択し、副作用と闘いました。今回は、咽頭がんの種類や治療方法、原因、早期発見の重要性について、日本頭頸部外科学会 頭頸部がん専門医・指導医の朝蔭孝宏医師と見栄晴さんにお話していただきました。

見栄晴(俳優)
1966年11月13日東京都生まれ。15歳の時にANB(現テレビ朝日)の人気番組「欽ちゃんのどこまでやるの!?」の新企画オーディションを受け、多数のライバルがいる中で最終オーディションまで残り、最終的には“じゃんけん”で見事「萩本見栄晴(萩本欽一の息子)」役に合格。同番組のレギュラーとして一躍有名になる。その後も「見栄晴」の芸名でバラエティ、ドラマで幅広く活動している。早くに父親を亡くし、飲食店を開業した母の手一つで育ち、可愛がってもらった常連客たちの影響から、熱烈な競馬の愛好家でもある。

監修医師:
朝蔭 孝宏(日本頭頸部外科学会 頭頸部がん専門医)
日本頭頸部外科学会 頭頸部がん専門医・指導医。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会耳鼻咽喉科専門医・指導医。日本気管食道科学会気管食道科専門医。日本がん治療認定医機構がん治療認定医。東京科学大学医学部頭頸部外科教授。日本でもまだ少ない頭頸部がん治療を専門とし、患者さんへの負担が少ない低侵襲治療の研究を推し進める傍ら、20時間以上にも及ぶ頭蓋底手術を多数手がける。頭頸部領域のさまざまな腫瘍性疾患に対して、最適・最高の医療を提供することを目指している。
喉の違和感が「咽頭がん」だった。酒とタバコが招いた生死の分岐点

朝蔭先生
現在の体調はいかがですか?
見栄晴さん
昨年3月末に放射線と抗がん剤の治療を終えました。今は再発や転移もなく、放射線治療の後遺症がいくつか残っているだけです。先生からは3ヵ月に一度の受診でいいと言われていますが、私は安心のために1ヵ月半に一度の受診を続けています。
朝蔭先生
無事に治療が終わり、定期受診もされているとのことで経過は良好なのですね。治療後の検査は受けられましたか?
見栄晴さん
PET検査は1回、CT検査は3~4回受けました。診察では内視鏡を使い、今後は食道への重複がんの有無を調べるために胃カメラ検査も予定しています。治療が終わった直後は不安も大きかったのですが、現在は検査そのものの辛さは感じなくなりました。
朝蔭先生
経過も順調とのことで安心しました。咽頭がんが発覚したきっかけについてお聞きしてもよろしいでしょうか?
見栄晴さん
20歳の頃から毎日欠かさずお酒とタバコを嗜んでおり、がんと診断される2年ほど前から喉に違和感を覚えるようになりました。飲み込む時に引っかかりを感じていましたが、市販のスプレーでごまかし、がんが発覚する数ヵ月前には首の腫れをはっきり感じるようになりました。電子タバコを始めた時期とも重なり、電子タバコが体に合わないのかもしれないと思っていたのですが、耳鼻咽喉科を受診したところ「がんの可能性があるから早めに大きな病院を受診してください」と言われ、昨年1月上旬に下咽頭がんのステージ4と診断されました。
朝蔭先生
2年間ほど喉に違和感があったのですね。診断された時のお気持ちはいかがでしたか?
見栄晴さん
大きな病院を紹介され、生体組織診断で確定診断がつきましたが、内視鏡検査の段階で「おそらくがんである」と言われていたため、すぐに治療の話に進みました。選択肢は手術もしくは抗がん剤と放射線の併用療法でしたが、声を失いたくなかったので、手術ではなく抗がん剤と放射線による治療を選びました。
朝蔭先生
進行が著しい場合には、内視鏡検査の際にがんであることが強く疑われる場合もあります。多くの方は治療方法の選択で悩まれますが、見栄晴さんは声を失いたくないという目的が明確だったこともあり、すぐに治療に進むことができたのですね。
見栄晴さん
はい。診断を受けた後の1週間ですぐにさまざまな検査をおこないました。改めて、咽頭がんについてお伺いしてもよろしいですか?
朝蔭先生
咽頭がんは上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんに分けられます。上咽頭は鼻の奥にあるため内視鏡を使わないと肉眼で見ることはできません。中咽頭は口を開けた時に見える部分で、その下にあるのが下咽頭です。体の構造的に下咽頭は食道の入り口に隣接しており、症状が出にくく発見されにくいがんとして知られています。
見栄晴さん
確かに我慢できないほどの症状ではなかったですし、目にみえる症状ではなかったので、長い期間放置してしまっていました。一般的に咽頭がんはどのような検査がおこなわれるのですか?
朝蔭先生
咽頭がんの検査は、主に内視鏡検査や触診、CT検査、MRI検査、超音波検査、PET検査などが用いられます。特に内視鏡検査は早期のがんを発見するうえで非常に有効です。また、がんが疑われる場合は組織を採取して詳しく調べる生体組織診断もおこなわれます。
見栄晴さん
私も診断前と診断後の1週間でほぼ全ての検査を受けました。私が患った下咽頭がんはどのような特徴がありますか?
朝蔭先生
好発年齢は60〜70代で、原因として最も多いのは飲酒です。喫煙もリスクにはなりますが、下咽頭がんは特にアルコールとの関連が強いことが分かっています。初期症状としては、喉の違和感や飲み込みにくさで進行すると痛みを伴うようになります。首のリンパ節が腫れて、そこで初めて気づくような場合もあります。最近では胃カメラ検査で下咽頭を通過する際に発見される例も増えてきました。
見栄晴さん
タバコよりもお酒がリスクになるのですね。初期症状に関しても私が感じていた症状と完全に一致しているので早めに受診すべきだったのかと反省しています。
朝蔭先生
見栄晴さんのように長年お酒を飲まれていた方は、下咽頭がんや食道がんのリスクが上がります。特にお酒を飲むと顔が赤くなるフラッシャーの方は要注意と言われています。日本人の約40%がこの体質を持ち、多くの研究でがんとの関連が明らかになっています。また、世界保健機関(WHO)もアルコールは少量でもリスクがあり、飲まないことに越したことはないと報告しています。
見栄晴さん
私自身、がん家系ではなく親族にもがんを発症した人はいないのですが、咽頭がんに家族歴は関係ないのでしょうか?
朝蔭先生
咽頭がんに家族歴は関係ありません。咽頭がんに限らず、がん全体で見ると、男性であれば3人に2人、女性は2人に1人が発症する時代ですので誰にとっても予防や早期発見は重要です。
見栄晴さん
家族歴がなかったので自分はがんにならないと思っていたのですが、やはり日々の飲酒と喫煙が原因だと感じています。
朝蔭先生
特に下咽頭はお酒の通り道になりますので、飲酒をする方は咽頭がんのリスクがあると知っておいていただきたいと思います。全く飲酒をしないということは難しいと思いますので、定期的な検査で早期発見のタイミングを逃さないことが重要だと思います。
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